俺たちのアングラアカデミア   作:鬼甘タルト

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初投稿です。
お手柔らかにお願いします。


No.1 第一試合:Bロック

 

 

 

 これはヒーローを目指す話じゃない。

 

 

 

 

 

 

『さぁ! お次の試合はルーキーが登場だ!』

 

 

 薄暗い地下空間に声が響き渡る。それに応えるように歓声が沸く。

 

 

『ファイトコードは"X"! 死ぬのは盛り上げてからにしてくれよ! "X(クロス)フィスト"!』

 

 

 震える足に力を入れる。

 

 登録名を呼ばれた俺は大きく"X"と書かれた仮面をつけ、この空間で唯一明るくライトアップされたステージに入る。ステージと言っても鉄の柵に囲まれた、いわば大きな鳥かごだ。

 周りはぐるっと仮面をつけた観客に囲まれ、様々な大声に包まれる。「がんばれよ」とか「くたばれ」とか「殺せ」とか。

 まったく嫌になる。

 なんて物騒な場所なんだ。

 

 

『対戦相手は三戦連勝中! ファイトコード"B"の大男! やっちまえ"B(ビッグ)ロック"!!』

 

 

 俺の後に入ってきた男は、まさしく岩石だった。身長は2mをゆうに超えていて、全身の岩のような肌にプロレスラーのような派手なパンツだけといった格好だ。パンツのおしりのところに"B"と書いてある。

 岩男は人気があるようで歓声に包まれていて、それに応えてポージングを取っているようだ。サービス精神が人気の秘訣か。

 

 

「ようチビ助」

 

 岩男が話しかけてくる。顔まで岩で分かりづらいがニヤついた表情に見えた。

 お前から見たら大半の人間がチビだろうな。

 

「よう、よろしくな」

「ハッハッハ! 落ち着いてるな! 面白い」

「緊張が一周回っただけだよ」

 

 実際かなり緊張している。というよりも、怖い。

 

 

 目の前の大男が怖い。

 今からこいつと殴り合うのが怖い。

 殴られるのが怖い。

 殴るのも怖い。

 

 

 しかし、覚悟は決めてきた。

 

「お前もオレ様が初戦の相手とは、運がなかったな。地下格闘場において、オレ様の『岩肌』は強すぎる。だが殺しはしないから安心しろ」

「それはありがたい、でも一応頑張るよ」

「あぁそうしろ! 負けてもオレ様を恨むなよ? "個性"ってやつは神が与えたギフトだ! 恨むなら神を恨むんだな」

「……たしかに、そうだな」

 

 俺は叔父の姿を思い出しながら、答えた。

 

「お前も、負けたら神を恨めよ」

 

 

 

『急所アリ! 凶器アリ! もちろん"個性"アリ! 何でもアリのファイトクラブ、"アイアンケージ"!!

本日の第四試合、Bロック VS Xフィスト! ……はじめぇ!!』

 

 

 

「生意気言うじゃねぇか! チビが!!」

 

 ゴングの音と同時に、岩男の大ぶりな右腕が襲い掛かってくる。動きは遅いが威力はとてつもないだろう。

 そのパンチのモーションをしっかりと見ながら、俺は仮面の中で口角を上げる。

 

 

 やはり、俺の得意な相手だ。

 

 

 俺は軽い左のジャブを攻撃に合わせる。

 スピードだけの、本当に軽いパンチだ。それが大きな岩の腕にぶつかる、その瞬間。

 

 

 Bロックの腕が弾かれた。

 

 

 俺の左の拳だけがその場に残り、岩の腕は弾かれ相手は体勢を崩す。

 よく見ると岩肌が少し崩れている。初発の不意打ちは、期待通以上のダメージを与えてくれたみたいだ。

 

「っ……! てめぇ、何しやがった!」

 

 Bロックは右腕を抑えながら叫ぶ。何が起こったのか理解できないようだ。

 まあそれもそうだろう。

 

「割とマジで悪いと思ってるよ。相性最悪だ」

 

 俺は前へステップし、距離を詰める。

 岩男は防御しない。逆に腹を主張するようなポージングを取り、拳を迎え入れる。

 腕で防御なんかしなくても、ただ立っているだけでほとんどの攻撃を身体で弾いてきたのだろう。

 

「じゃっ、文句は神にな」

 

 

 俺は岩男の腹に向かって、全力の右ストレートを繰り出した。

 

 

 岩のような肌が、砕けた。

 

 

 試合開始十秒後、岩男がダウンした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 言っておくが、これは俺が一番ムカつく奴を思い切りぶん殴るまでの物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……反町。……おい反町! 反町拳護(そりまちけんご)くん!」

「……うるさい」

「起きてんじゃんかよ」

「寝ようとしてんだよ話しかけんな」

 

 手放していた意識は、隣から聞こえてくる大声戻ったてきた。

 授業の合間、自分の席で昼寝をしていた俺を邪魔した金髪は同級生の……たしか目立光(めだちひかる)だ。顔がいいからクラスでは人気者だが、ノリが軽くて俺が苦手なタイプだ。

 あまりちゃんと話したことはない。

 

「ちょっと話があるんだけどさ」

 

 さわやかな笑顔で楽しそうに話しかけてくる。

 しかし、まだまだ寝足りない俺には鬱陶しいことこの上なかった。

 

「……なんだよ」

「いや、ここじゃちょっと」

「なんでだよ今言えよここで言えよ顔面ぐちゃぐちゃにするぞ」

「え怖! 喧嘩腰過ぎない?」

 

 昨日の試合はダメージこそなかったが、アドレナリンが出まくったのか帰宅後もまったく眠れなかった。ゆえに寝不足だ。

 用はさっさと済ませて睡眠時間を稼ぎたいので、話し始めるように促す。

 すると目立は少し小声になり、こう言った。

 

「昨日の試合のことなんだけど――」

「お前ちょっと来い」

「っ!? ちょっと! 痛い痛いえどこいくのちょっと!」

 

 俺は目立を引っ張って教室の外に出る、確かどっかに空き教室があったはずだ。

 

 

 

 

 空き教室を見つけた俺は、引っ張ってきた目立をそのまま教室の中に投げ入れる。

 

「やめてよ! 暴力反対!」

「さて、話の続きを聞こうか」

 

 俺は積んであった椅子を適当に取って座った。思わず焦ってしまったが、まずはこいつにしゃべらせてみるべきだ。

 仮面をつけていたし、まだ俺が出場したことがバレたとは限らない。

 

 目立は立ち上がり、こちらをまっすぐ見つめ……勢いよく話し始める。

 

「昨日の試合観たよ! "アイアンケージ"の試合! あのX(クロス)フィストって反町だろ? 超強かったな!」

 

 

 ……全部バレてるぅ……

 

 

「俺の父ちゃん社長で金持ちでさ、ああいうグレーな娯楽にも連れてってくれるんだけどハマっちゃって。推しファイターでも作りたいなーと思ってたら同級生出てくるからさ! こりゃ応援するしかないっ! みたいな!」

「なんなんだお前ホント……」

 

 楽しそうに語る様子からは裏を感じない。本気で「昨日マジ嬉しかった!」みたいな話がしたかったようだ。

 高校生があんなとこ行くなよ……

 

「高校生があんなとこ行くなよ……」

「心の声が漏れてるぞ。てかお前もだろ」

「グレーって言ったけど思いっきりブラックだろ、あんなとこ」

「えーそうなの? 楽しいのにな」

「軽いな」

「お金も増やせるのにな」

「お前賭けもやってんのか?」

「もちろん!」

 

 地下の娯楽を満喫してやがる……。

 きっと小さいころからああいう娯楽が身近だったんだろうが、どういう教育をしているんだ。

 あんなところは普通に生きている人間は行くべきでないし、少なくとも俺は楽しそうだから試合に参加したわけではない。

 時には死人も出るし、ヒーローや警察が来たらその場で捕まる可能性もある。参加するにしても観戦するにしてもリスクは大きい。

 

 だが、それでもファイトクラブが無くならないのはそれだけの需要があるということだろう。

 

「お前、誰にも言うなよ。バレたら俺たち同罪なんだからな」

「分かってるよ! 運命共同体ってやつ? なんか熱いな!」

「なんだこいつ楽しそうにしやがって……」

 

 俺は頭を抱えた。こいつポロっとバラさないだろうな。

 俺を困らせてやろうという意思はまるで感じないが、「ごめん、うっかりクラスの全員にしゃべっちった☆」などという未来はありありと想像できる。

 記憶が飛ぶまでぶん殴るべきか?

 

「それでそれで! どういう"個性"か教えてくれよ! もう、気になって気になって仕方なかったんだ!」

「あー、まぁタネが分かればどうってことないけどな。『衝撃反転』だよ」

「ショーゲキハンテン……」

 

 

 俺の"個性"「衝撃反転」は名前の通り、衝撃の方向を反転させることができる。

 発動は一瞬だからタイミングがシビアだとか、使用が難しい部分もある。しかし、物理的な殴り合いではかなり使い勝手のいい力だと言えるだろう。

 

 

「なるほど、だから最初の一撃はBロックの方がダメージを食らってたのか」

「そういうこと」

「……ん? でも、あのトドメの一撃はお前からのパンチだったよな? "個性"を使わずにあの威力か?」

「いや、あの時も使ってる」

 

 作用・反作用というやつだ。

 

 例えば拳で壁を殴った時、もちろん壁には力が加わる。その時、同時に拳の方にも壁と同じだけの力が返ってくる。

 俺はこの跳ね返ってくる力を利用している。

 

 自分から打ったパンチでも拳の方に返ってくる衝撃を反転させて、単純計算で威力を倍にすることができる。

 さらに言えば、この方法だと何を殴っても拳の方に衝撃は来ない。つまり拳を傷つける心配がなく、岩でもコンクリートでも躊躇なくパンチができる。

 

 つまるところ、恵まれた"個性"だという話だ。

 

「へーいいな。まさに格闘向きの"個性"だな」

「まあな」

「なるほど。その"個性"を使って、地下でひと稼ぎしようってことだな!」

 

「それは、違う」

 

 

 少し冷たい言い方になってしまっただろうか。目立は不思議そうな顔をしてこちらを見る。

 

 話してもいいのか? 今日初めてまともにしゃべったようなやつに。

 

 迷ったが、話すことにした。

 本当は、ずっと誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

 

 

 

「ぶん殴りたいヤツがいるんだ」

 

 

 

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