俺たちのアングラアカデミア   作:鬼甘タルト

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初めて感想というものをいただいちゃいました。
想像以上にうれしい。


No.3 おかねもちがなかまになった

「おまえぇぇぇぇ!! た、大変だっだなぁぁ!!」

 

 

 話を一通り聞いた目立は、豪快に泣いていた、さっきから何度も鼻をかんでハンカチをぐっしょぐしょにしている。

 感情移入してくれるのは結構だが、それにしても泣きすぎだ。

 

 全てを話して、俺は少しすっきりとした気持だった。

 目立が真剣に相槌を打ちながら聞いてくれたことも正直嬉しかった。

 

 

「ズビビ……。つまり、オジサンのカタキの暗条を探すためにファイトクラブに出場しているわけだな」

「そういうことだ」

 

 

 あの後おじさんがいたファイトクラブはあの後すぐに無くなった。しかし裏の運営団体はすぐに別のクラブを立ち上げるらしい。

 俺が入ったアイアンケージが暗条に関係のあるクラブかはわからないが、まずは裏の世界に入り込まないことには始まらない。

 

 今の俺は本名を隠して参加している、言うなれば「ゲストファイター」だ。しかし一部のトップ選手は運営団体と直接契約して報酬を受け取る「ホストファイター」になれる。

 

 ホストファイターにまでなれば裏団体とのコネクションも広がり、情報が集まってくるだろう。

 俺の当面の目標は試合に勝ちあがり、このホストファイターを目指すことだった。

 

 

「初戦に勝てたのは幸先が良かった。この調子で連勝できればいいんだが」

「たしかに。『初参戦から負けなし』って肩書が付けば、すぐにでも声がかかるかもなぁ」

 

 

 この方法、もしかしたら的外れなのかもしれない。

 今の団体で地位を得ても、暗条の情報にはつながらないのかもしれない。

 暗条はもう裏社会にはいないのかもしれない。死んだかもしれない。

 

 だが、俺が思いつく方法はこれしかない。

 だからやるしかないんだ。

 

 

 

「しかし、ムカつくよな! "ファイター売りの暗条"だろ? マジで人身売買的なことやってたんだな~」

「……………………え?」

 

 ……今、こいつなんて言った?

 

「でもアイアンケージ選んだのは正解だったんじゃないか? 系統的には"マスカレード"とか"ヘルリング"とかと同じはずだから……。暗条も関わってそうだよな」

「ますか……何?」

「ホスト側になったらまず顔合わせがありそうなもんだから、やっぱあそこで勝ち上がるのが――」

「ちょっと待て!」

 

 

 俺は一度目立の言葉を遮る。

 

 ……こいつ暗条を知ってるのか?

 そしてやたらと地下格闘事情に詳しい。

 

 

「……まず、暗条を知ってるのか?」

「"ファイター売りの暗条"だろ?」

「そんな"マッチ売りの少女"みたいな二つ名は知らない」

「たまたまそういうウワサ聞いたことあったんだよ。一部の選手をヤバい奴に売り飛ばしてるって」

 

 

 目立は想像以上に情報を持っていた。

 

 選手の身柄を売り飛ばす奴がいること。

 アイアンケージはそいつらがやっている系列のクラブだということ。

 ホストファイターになればかなりその存在に近づけること。

 

 

「これ以上は俺も地下の知り合いに聞いて回らないと――」

「目立君」

「うわびっくりした」

 

 

 俺は近づいて目立の手を掴む。

 こいつは役に立つ。

 俺が一番不安だった情報収集の部分が、こいつで解消される。

 

 

「まぁ同じアングラ仲間同士、仲良くしようじゃないか」

「あぁ、うん。よろしくな!」

 

 

 利用できるものは、なんでも使うべきだ。

 

 キーンコーン カーンコーン

 

 休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、俺たちは地下に来ていた。

 

 

「よぉ! フラッシュの坊ちゃん! 今日も賭けていくだろ」

「横のはこの間の新人か? 良かったな気に入られて」

 

 

 わかったことは、目立は地下でも人気者だということだ。

 

 目立はここでは"フラッシュ"と呼ばれているようで、さっきからすれ違う仮面の人たちに声をかけられている。

 こいつが昔から地下に通っていたことがよくわかる。

 

 ちなみに、俺たち二人も当然仮面をつけている。

 俺は試合の時と同じXと書かれた黒いマスク、目立はのっぺりとした白いマスクだ。

 

 目立は白いスーツ姿で、やたらと様になっている。

 

 

「お前、知り合い多いんだな」

「まぁね~。みんなホントの顔も名前も知らないけど」

 

 

 中央のステージに人影はなく、今は試合中ではないようだ。

 

 

 俺たちは今日、試合ではなくスポンサー契約の手続きのためにここに来ている。

 

 地下(ここ)におけるスポンサー契約は選手側のメリットが大きく、実はスポンサー側にあまり利益が出ない。

 選手は金銭的な支援がもらえるだけでなく、「スポンサーがついている」という事実だけで実力がある程度信用され試合に呼ばれやすい。

 

 一方スポンサー側は一応ファイトマネーの一部がもらえたり、社名を衣装に入れて宣伝もできる。しかし地下で非合法で行われている試合なので、宣伝効果はそこまで高くならない。マネーの配当も支援金との差し引きで大きな金額にならず、結果、利益は少ない。

 

 それなのにスポンサー契約が行われるのは、金持ちの道楽というほかにない。

 

 利益度外視で、自分のお気に入りの選手を「自分のものだ」と主張したいということだ。

 契約した選手が勝ち進めば嬉しい。自慢できる。

 そういう話だ。

 

 

「というわけで俺、フラッシュがこのX(クロス)フィスト君と専属契約します!」

「はいはい分かったからネ、ここにサインしてくれればいいからネ」

「おっけー!」

「おい、ちょっとは内容に目を通せよ」

 

 

 殺風景な事務室のような部屋で、俺たちはスーツの男と向かい合って机越しに座っていた。

 契約は基本的には俺と目立の間で成り立つから、ここではそれを形式上報告するだけだ。

 

 あまりにも即決即記入の目立に釘は刺したが、あまり大したことは書かれていないはずだ。

 

 

「それにしても、こんな新人と契約するとはネ」

「試合観てびびっと来たんすよね~」

「ふぅん」

 

 

 スーツでキツネ頭の男は、目をさらに細めて俺たちを見た。

 

 

「……もしかして、お知り合いですかネ?」

「……っ!」

「コラあなた! プライベートの詮索はご法度ですよ!」

 

 

 俺はどきりとしたが、目立は動じずに返した。キツネ頭は「失礼失礼」と言ってそれ以上聞いては来なかった。

 目立は変わらずへらへらと笑っていた。

 

 さすが、肝が据わっている。

 こいつの脳みそはちょっと普通とは作りが違うのだろうか。

 

 

「そういえば運営さん。今日の試合まだなの?」

「それが片方の選手と連絡とれなくてネ。困ってるよ」

「へぇ~」

「……」

 

 

 嫌な予感がする。

 やめろ。

 当たるな。 

 

 

「あぁ、丁度いいネ。お前出なよ」

 

 

 悪い予感的中。

 

 

 新入りファイターの俺には当然拒否権はなく、急遽試合に出ることが決まった。

 あれよあれよという間に準備と会場へのアナウンスまで済んでしまい、俺は目立と一緒に控室に入った。

 

 

「くそっ! なんでこうなるんだ!」

「どしたの? いいじゃん早くいっぱい勝たないとなんだからさ」

「俺は心の準備が必要なタイプなんだよ……!」

 

 

 例えば、俺は「このカレー辛いですよ」とあらかじめ知らされていればかなり辛くても耐えて食べられる。

 だが甘口だと思って口に入れたカレーが激辛だった場合、俺は吐き出し、涙を流し、もうそれ以上食べ進められないだろう。

 

 何だこの例え。

 とにかく俺はしっかり時間をかけて心の準備をしたいタイプなのだ。

 

 

「それなのに……くそぉ」

「俺ココ初めて入った! ロッカールームみたいになってんのね」

「……」

 

 

 目立は楽し気に部屋をうろつき始めた。

 気にしないことにする。

 

 とにかく集中だ。切り替えだ。

 早く気持ちをファイターの"X(クロス)フィスト"に切り替えないと。

 俺はベンチに座り、精神統一をはかる。

 

 

 ……しかし試合のことを考えれば考えるほど、悪いイメージが湧いてきてしまう。

 

 殴られるイメージ。

 蹴られるイメージ。

 ケガをするイメージ。

 負けるイメージ。

 

 まずい。焦燥感から余計にネガティブな思考に寄っていってしまう。

 

 怖い。

 怖い。

 ……怖い。

 

 

 

「なぁ、これ何かわかる?」

「……」

 

 

 いつの間にか目の前にいた目立が、自分の手を見せてきた。

 

 親指だけ折り曲げ、他の四本を伸ばした手……。

 

 

「……よん?」

「ブッブー! 正解は"片手ダブルピース"でした!」

「知らない単語を問題にするな。なんだ片手ダブルピースって」

「あっ、えっと。四本の指をピース二つに見立てて――」

「いやそれはわかる。なんで急にそんなもんを見せつけてきたんだよ」

 

 

 本当に何を考えているのかわからないやつだ。こいつは。

 

 

「試合後の決めポーズとかにどうかなと思って! 今日やる?」

「やらない」

「なんで?!」

「バカだと思われちゃうだろ」

「あ~バカだと思われちゃうかぁ」

 

 

 そう言うと何が楽しいのか、目立は笑った。するわけないだろそんなポーズ。

 見てる人も(あの人なんで"4"ってやってるんだろう)ってなっちゃうだろ。

 

 すると目立は仮面を外し、笑顔で言った。

 

 

「どう? まだ緊張してる?」

「……」

 

 

 俺は立ち上がって、出入り口の方に歩き出した。

 もう試合の時間だ。

 

 

「……緊張のほぐし方が変化球すぎるだろ」

「それ褒めてる?」

「褒めてるよ。いいからもう観客席行っとけ」

「あーい」

 

 

 俺は少し目立の評価を改めた。

 そういえばこいつは人気者だ。それなりの理由があるということだろう。

 

 目立は、良いバカだ。

 

 

 

 

 

『さて皆様! 大変長らくお待たせしました! 試合をすっぽかしたアホの代わりに登場するのは期待の新人! X(クロス)フィストぉぉぉ!!!!』

 

 

 

「俺も良いとこ見せねぇとな」

 

 

 

 

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