俺たちのアングラアカデミア   作:鬼甘タルト

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お話を書くのって難しいですね。先駆者たちを尊敬します。
おかしな文章や矛盾点が合ったら教えていただけると嬉しいです。


No.4 第二試合:Gスムーズ

『対戦相手はこの男! ファイトコード"G"! なめらかフェンサーG(ゴーイング)スムーズ!!』

 

 

 

「むむ!! 君は新入君だね! 私はG(ゴーイング)スムーズ! よろしく!」

「あぁ、よろしく」

 

 

 対戦相手はフェンシングのような防具をまとった、ガタイのいい男だ。

 腰に手を当てて胸を張り、スイ~っと床を滑るように近づいてくる。

 そういう"個性"か?

 

 

「初戦は圧勝だったそうじゃないか! やるね!」

「どうも?」

「でも! 私も負けないよ! お互い頑張ろう!!」

 

 

 地下の人間にしてはさわやかなヤツだ。

 自信に満ちている感じがする。

 

 

「お互いの"異能"を存分に発揮しようじゃないか!」

「"異能"……?」

「……あぁ、失敬! "個性"だね!」

 

 

 訂正。

 やっぱり地下らしい変わり者だ。

 

 

 

 

 

『それではX(クロス)フィスト VS G(ゴーイング)スムーズ! ……はじめぇ!!』

 

 

 

 

 

 合図と同時に、Gスムーズは背中に隠していた刀身の細い剣を構えて迫ってきた。

 こいつこんなムッキムキのガタイなのに、あんなほっそいタイプの武器使ってくるのか!

 

 

「手加減は無し!!」

 

 

 やはり床を滑って移動する"個性"のようで、突っ立ったままのような姿勢で向かってくる。

 そして細い剣を使った突きが主体の攻撃。

 

 俺はひとまず回避に専念することにした。

 

 相手の攻撃は手数が多く動きも機敏だが、避けるだけならどうにかなる。

 反撃の意識はいったん捨て、相手の動きをよく見て回避を繰り返す。

 

 

 相手が剣を突く。それを見てかわす。

 突く。かわす。

 突く。かわす。

 

 

「逃げてばかりじゃ試合にならないぞ!!」

 

 

 そういいつつ攻撃の手は休めない。

 たまに攻撃が服や皮膚をかする。しかしダメージはないので気にしない。

 

 目が慣れてきた。

 そろそろタイミングが合わせられそうだ。

 

 俺の"個性"はとにかく発動のタイミングが難しい。

 自分のパンチを強化する使い方はまだしも、相手の攻撃に合わせて使うのは失敗する可能性もある。

 そして剣を相手に失敗したら大ケガにつながる。だから慎重にタイミングを計っていた。

 

 タイミングさえ合えば、武器を使った相手はむしろ有利な相手と言えるだろう。

 多くの武器は俺の"個性"で反撃可能で、さらに壊したり手放させたりすることも可能だ。

 

 

 つまり。結局こいつも。

 俺の得意な相手だ。

 

 

「ここだ」

 

 

 相手が繰り出した突きに対して、俺はジャブを合わせる。そしてジャストタイミングで「衝撃反転」を発動する。

 ……成功だ。

 

 拳と剣がぶつかり合った瞬間、剣の方だけに衝撃が集まる。俺の拳は突き刺されることなく、無傷だ。

 そして相手の剣の刀身が根元からぽっきりと折れ、横の方に飛んで行った。

 

 相手の剣を折った。武器を使う相手に対して、その武器を奪うことはあまりにも効果的な対策だ。

 頼りにしていた武器を失えば戦い方を根本から変える必要があるし、何よりその不利な状況変化に対応しなくてはいけなくなる。

 つまり、スキが生まれる。

 

 俺が素手で地下格闘にエントリーした理由でもあるが、やはりその身一つで戦う方が総合的に見て勝率が上がるように思える。

 多くのクラブでは観客に被害が出る恐れがあるため、飛び道具の使用は禁止になっている。そしてステージもそれほど広いわけではないから、リーチの有利も覆されやすい。

 

 とにかくこのスキを活かしてさっさと勝負を――

 

 

「フンっ!!」

「っ?!! がはっ!」

 

 

 

 衝撃。

 揺れる視界。

 

 

 

 気が付けば俺は倒れていた。

 

 

 

 何が起きた?

 

 

 

『あぁっと! Gスムーズの武器を折ったかと思えば、強烈なタックルが炸裂したぁ!!』

 

 

 

 必死に状況を整理する。

 俺はステージの鉄柵まで吹っ飛ばされていた。

 

 俺が剣を折った()()、Gスムーズは"個性"を使った予備動作無しのタックルをしてきたのだ。

 鉄柵に打ち付けられた背中と、みぞおちが痛む。おそらくはタックルの時に肘をみぞおちに合わせてきたのだろう。

 脳も揺れていて、吐きそうな悪寒を感じる。

 

 

「くっ……そ……」

「ハッハッハ!! 油断をしたのはキミの方だったね!」

 

 

 Gスムーズが笑っている。あいつも狙っていたんだ。

 俺が絶対的有利な瞬間。相手がひるむと思い込んでいた瞬間を逆に突かれた。

 

 でもなぜだ。なぜそんなことができた。

 まるで剣を折られることが分かっていたような動きにしか思えない。

 

 

「『衝撃反転』か。すばらしい"異能"じゃないか!」

「お……まえ……!」

「そう! 私は意外と慎重派! 君の"異能"はリサーチ済みさ。当然、ここまでの流れを予想することは難しくなかったよ!」

 

 

 俺の"個性"を知っていたのか……! うかつだった。

 俺はまだ一戦しかしていない新人。まさか俺のことを知っているとは予想できなかった。

 

 俺は呼吸を整える。大丈夫だ、まだ戦える。

 むしろここが勝負どころだ。

 

 俺がまだ立ち上がっていない今こそ、相手にとっては追撃のチャンスだ。そこを「衝撃反転」で返り討ちにする。

 相手にはもう武器がない。

 素手の打撃なら反転で返せば、少なくないダメージを与えられる。

 

 ここだ。

 集中しろX(クロス)フィスト!

 

 

「さて。繰り返すが、私は慎重派」

 

 

 Gスムーズが背中に手をやる。すると隠し持っていた細い刀剣を取り出した。

 そして反対の手で握ったままだった剣の()()の部分に、その刀身を挿し込んだ。

 こいつ……

 

 

「付け替え式の……刀身……」

「そう! 私は用意がいいんだ! 君相手にむやみに素手で殴ったりはしない!」

 

 

『これはGスムーズ用意周到! 刀身が復活だ!!』

 

 

 ……強い。

 腕っぷしの強さではない。それは俺も負けていない。でもそれだけでは勝てない。

 

 勝利へのイメージだ。

 

 相手のイメージの方が、より洗練されている。何をすれば勝てるのかが思い描けている。そしてそれを着実に実行していく。

 おそらく経験の差だ。

 相手は地下(ここ)か別の場所かはわからないが、戦闘経験をきちんと積んでいるんだろう。だから、俺よりも勝つために必要な行動が見えている。

 

 俺は冷たい柵につかまりながら立ち上がった。Gスムーズは攻めてこない。

 俺が今、追撃を最大限に警戒しているからこそだろう。俺のタイミングをずらして一撃いれるつもりだ。

 

 

 ……負けない。

 怖くない。

 勝てる。

 

 自分を鼓舞しろ。勝てると思いこめ。勝利のイメージさえできればチャンスはあるはずだ。

 俺は仮面の中で無理やり笑顔を作った。

 

 

「やってやるよ……!」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「やられちゃうよ~」

 

 

 目立光は、落ち着かない様子で観客席から試合を観ていた。

 

 試合の流れは完全にG(ゴーイング)スムーズのものに見える。序盤こそX(クロス)フィストが剣裁きをすべてかわして見せ、有利かに思えた。

 しかし意表を突かれてタックルを食らってからは、明らかな苦戦の色がうかがえる。

 

 その後も攻防は続いているが、互いに有効打には至っていない。

 

 とにかくGスムーズがステージを滑りまわり、剣を突きだす。それがたまにXフィストにかすり、浅い傷をつけていく。

 一方、Xフィストも何度か攻撃を命中させている。おそらく"個性"を発動させたものだろう。しかし大きなダメージにはなっていない。Gスムーズは後ろ方向に滑ることによって、衝撃を逃がしているのだ。

 

 剣もあれから二回ほど"個性"で折ることに成功しているが、そのたびに逆にカウンターをもらうか、距離を取られていた。そして刀身をまた付け替えられ、振り出しに戻る。

 

 いまだに大きなダメージはお互いに無い。一撃で勝負を決めることが可能な攻撃力を持っていることは両者とも同じ。

 しかし、明らかにGスムーズに余裕があるように見える。このままの攻防が続けばスタミナ差で自分が勝つことを確信しているんだろう。

 

 

「頑張れ……負けるな反町……!!」

 

 

 目立はいままで気軽にファイトクラブ観戦を楽しんできた。しかし今日ほどハラハラとした気持ちで見守る試合はなかった。

 なにせ、今日は友人が出ている試合だ。

 

 これまで見てきた戦いは目立にとって、単なる見世物に過ぎなかった。どちらが勝っても負けても、ケガをしても倒れても、観ていて楽しい舞台だった。

 所詮は自分とは住む世界の違う、ファイターたちの殴り合いだ。

 

 しかし、反町拳護と知り合ってしまった。

 

 努力していることを知った。隙あらばパワーグリップを握って鍛えていた。相当筋力トレーニングを積んできた身体なのだろう。

 怖がっていることを知った。彼はまっとうに殴り合いを恐れている。というか、人よりも怖がりな部類になるだろう。

 戦う理由があることを知った。大事な人の敵討ち、自分の納得のための道を進んでいる。

 

 彼は自分と同じ、一人の高校生なんだ。

 

 そう思ってしまったから、やたらと感情移入してしまう。

 細い剣先が皮膚をかすめた時、ヒヤッとする。浅く斬り付けられ血が流れるところを見て、痛そうだと心配になる。彼が肩で息をして辛そうなところを見て、目立自身も辛い表情になる。

 

 友達が負けるところは見たくない。

 ただ祈ることしかできないもどかしさを感じながら、目立は試合から目をそらさない。

 

 

 ――その瞬間、|Xフィストが跳んだ。

 

 

「えっ……えぇぇ!!」

 

 

 高く、高く。

 

 大人四人分はあろう、鉄の檻のてっぺんに届くほどの跳躍。

 

 目立はそれを見た途端、予想外の行動にわくわくした。

 何を狙っているんだろうか。何かの作戦だろうか。予想が付かない。楽しみ……いやそれよりも……

 

 

「それ、着地ダイジョウブぅぅぅ?!」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「大丈夫だ、上手くいく」

 

 

 俺はGスムーズの剣を避けながら、この状況を打破する策を思いついていた。

 このまま戦えば、いずれあいつの剣が先に勝負を決めるだろう。流れを変えなくちゃだめだ。

 

 ピンチの時、俺はおじさんを思い出す。俺が見たおじさんの唯一の試合。あの光景にヒントを得て思いついた。

 しかしリスクも大きい、失敗すれば自滅の作戦だ。だが、やるしかない。俺は覚悟を決めた。

 

 

「君、体力も限界だろう! そろそろ勝負を――」

「今ぁっ!!」

 

 

 ――その瞬間、俺は自分の右足に"個性"を発動した。

 

 

 俺の"個性"「衝撃反転」は、自分の身体か触れている物体を対象に発動できる。

 そしてタイミングは難しいが、どの衝撃を反転するかは自由に決めることができる。

 

 今俺はジャンプする瞬間、地面に伝わるはずの衝撃を足に「反転」させた。こうすることで俺は二倍の跳躍力を得る。

 

 この使い方は正直、あまり練習してこなかった。理由は単純にして地味、膝に負担がかかるからだ。おじさんはこの使い方を習得していたが、身体が出来上がっていない子供のうちに使うのは良くないと止められていた。

 さらにバランスもとりづらく、変な方向に跳んで行ってしまう可能性もあった。

 

 しかし、成功した。

 

 

 

『なんとXフィスト、いきなり跳びあがったぁぁ?!』

 

 

 

 俺は高く、高く跳びあがり、ステージを見下ろしていた。Gスムーズが子供みたいに小さく見える。

 この高さ。

 この光景。

 

 

「こっわぁ……!」

 

 

 だが怖がっている暇はない。この光景は覚悟していた。

 何より()()()()()

 

 俺は呼吸を整える。"個性"の連続使用は難しく、まだまだ不安定だ。これで不発だったらまぬけもいいところだ。

 集中しろ。大丈夫。

 

 

 

 

 跳躍が最高点に達し、ふわりとした浮遊感をが体を包む。

 そして始まる、自由落下。

 

 

 

 

 身体が地球に引っ張られる感覚。落ちていく。落ちていく。

 

 

 

 地面がどんどん近づく。

 

 

 さらに近づく。

 

 近づ――

 

 

「どぉらぁっ!!!!」

 

 

 着地の瞬間、思い切り地面を殴る。同時に"個性"を発動。

 

 落下の速度、俺の体重、パンチの威力、すべてが合わさった衝撃を「反転」する。当然、俺の拳に加わる衝撃を、地面の方へ。

 普通の拳では出せない、過去最高の威力。それを地面にぶつけた。

 

 当然、石でできた床だろうと無事では済まない。

 

 

「何ぃ!!」

 

 

 地面が割れる、崩れる。衝撃は広がり、ステージ全体の床にひびが入り砕けた。

 Gスムーズは俺のジャンプからの攻撃を警戒して避けるため距離を取っていたが、その足元もボロボロと崩れる。

 

 対して俺は発動に成功したから無傷。拳も身体もノーダメージだ。

 成功した。

 

 

「ふぅ……。ちょこまかうっとおしかったんだよ、お前」

「君、まさか」

「お前の"滑る移動"、このガタガタな地面でも使えるのか?」

 

 

 俺は呼吸を整えながら、時間稼ぎも含めて語り掛ける。どうやらさすがのこいつも、床を割られるとは思っていなかったようだ。

 初めて相手の動揺を引き出した。

 

 

「じゃっ、終わらせるか」

 

 

 もう"個性"は使える。俺は割れた地面の上を走り、距離を詰める。

 

 

「まだ負けては……いなぁい!!」

 

 

 Gスムーズはやはり地面を滑ることはできないようだ。しかし回避をあきらめ、突きを繰り出す。

 この反撃は予想通り。なので身をかがめて避ける。

 

 できている。勝利のイメージが。

 

 俺は拳を構える。決着は目前。

 

 

(必殺技とかさ、まだないの? 絶対あった方が人気出るよ!)

 

 

 ふと、目立の声が頭をよぎる。

 いつだかそんなことを言ってきたことがあった。

 

 実は自分のパンチには名前を付けてある。俺だって男の子だ。

 こんな大衆の前で自分の考えた技名を発表するなんて恥ずかしい。が、あいつの言うことは一理ある。

 

 ここは恥を忍んで、大声で、技名を叫んで殴ってやろう。

 

 

 

 

 

 

「……2X(ダブルクロス)、ショット!!」

 

 

 

 

 

 

 俺は思い切りGスムーズの顔面を殴った。

 ガタイのいい身体が、吹っ飛んでいく。

 

 

 

『き……決まったぁ!! Gスムーズ、立ち上がれない! 勝者はXフィストぉ!!』

 

 

 歓声が聞こえる。

 周りを見渡すと、白いスーツ姿の仮面を見つけた。こちらに向かって大きく手を振っているので、軽く振って返す。

 

 今日は疲れた。身体もボロボロだ。

 ファイトマネーのいくらかは、治療代に消えていくだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ見て! あの顔見たことない?」

 

 

 ふと、客席から女性の声が聞こえた。意識を失ったGスムーズの方を指さしている。

 見るとGスムーズの頭を殴ったせいで仮面が半分壊れ、素顔が一部見えてしまっていた。

 有名人なのか?

 

 

「たしかヒーローだよ!」

「え~私知らない。なんて名前?」

「えぇっと……うーんと……」

 

 

 俺も気になってそれとなく聞き耳を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

「忘れた! たぶんどこかのマイナーヒーロー!」

 

 

 

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