短かくてラクチンなので。
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生まれて初めて喋った言葉は、「ネジ」でした。その次が「ナット」で、3つ目が「ボルト」。意味不明でしょ。
これぜ~んぶマッドな科学者のお父さんのせいなんです。
ご先祖様の威厳を取り戻すことと、兵器開発の任を政府に極秘裏に任されたはいいものの、結果が実らず見放されたことを、再び返り咲いて見返してやるコト。この2つを成し遂げるために、まだよちよち歩きどころか、ハイハイすらままならない頃から私に仕込み始めた結果がコレですよ。
まぁホントは、私に色々造らせてそれを裏社会の組織へ販売して資金を稼ぎ、それを元手に成り上がる。っていうよくある小悪党のやることなんですケド。
こういうのって自分で成し遂げた方が万倍いいのに、どうやらお父さんはこれを成し遂げるほどの実力がないと諦めたか、あるいは私を育成し、道具として利用した方がラクだと思ったのか。他に思想があったかもしれませんが、とにかくお父さんによる、超スパルタ英才教育が始まったわけなんです。
おかげさまで、この超天才科学者の私が生まれたワケなんですけども…。
お母さんですか?ええ、もちろんお父さんに猛抗議でしたよ。まだロクに喋れもしない子どもにこんなこと教えても無駄だーって。で、口論の末にカッとお父さんが、お母さんの心臓をピストルでズドン!らしいですよ。さすがに覚えていませんがね。
え?何年も前の事なのに、なんでこんなにハッキリ覚えてるか、ですか。
実はですね、私…瞬間記憶能力、ってヤツを持ってるらしくて…。えぇ、見たモノを一瞬で覚えて、それをズゥーッと忘れない、ってヤツですよ。彼らにそれを指摘されるまで、これはみんな持ってる当たり前のコトだと思ってたんですが…。お父さんは多分、これに気づいていたんでしょうね。
おっと、話が逸れました…。
お父さんの教育はすさまじかったです。しかしそのおかげもあってか、弱冠8歳のチビを裏社会でも十分通用するほどの科学者に育て上げました。ま、私の瞬間記憶あってこそでしょうがネ…。フフフ…。
おかげでご先祖様の威厳とやらも無事取り戻し、政府の信頼とやらは得ることができませんでしたが、表の世界で生きていけない方々を集められるほどの実力を得て、万々歳ってワケですよ。
私以外はね。
私はずっと暗闇の中で兵器を造り続け、生きてきました。暗闇の世界しか知らなかったらよかったものの、知ってしまったんです。外の世界を。外の世界には、私の興味を惹くモノが、山のようにあると!
…そして、自分の造っていたものが、何千何万もの善良な人間の命を脅かしていることも。
私は心に決めました。こんなことをしている場合ではないと、
しかし、お父さんがそれを許すとは思えません。きっと私は、外の世界を知らずに、この狭くて暗い世界で、一生人殺しの兵器を造り続けるんだ。そう絶望せざるをえませんでした。
そんな折、お父さんの部下らしき人が言ってたんです。
伝説の大怪盗、アルセーヌ・ルパンの孫が、【ルパン三世】が現れた、と。
まだ子どもの身にも関わらず、なんとかという自称革命家のテロリストから兵器を盗っただの、それに打ち勝っただの…。
真実とはとうてい思えませんが、そこは藁にも縋る思いで、どうにかお父さんたちの目を搔い潜り、ルパン三世にあるものを送ったんです。
助けを乞う手紙?暗号?…違いますよ。
私が送ったのは、挑戦状です。
『かのアルセーヌ・ルパンの名を騙るのであれば、それ相応の実力を我に見せるべし。我が持つ国をも揺るがしかねない兵器と、その設計図。盗めるものなら盗んでみせよ』
…ものすご~く幼稚な内容なんですけどね、はい。
え?ルパンですか。なんとですねえ。
ちゃあ~んと来てくれましたよ。
それも、最っ高にカッコよく。
颯爽とね。
◇◆◇◆◇
「お前か…?この俺にくだらねえ挑戦状を送り付けたのは」
暗闇に包まれたとある一室にて。そこには何に使うのか分からないが、大量の大小様々な部品がそこかしらに散らばっており、足の踏み場もない。
「あなたですか…?かの大怪盗の孫というのは」
そんな部屋で対峙する人間が2人。
片方は10歳ほどの少女であり、食事をまともにとっていないのか、少々やせ細っており、顔はやつれているように見える。髪の毛も栄養失調からか、ほとんど白髪になっており、手入れもロクにしていないのだろう。ボサボサで、雑に切ったのか長さも全く均等ではない。着ているものも、サイズの全くあってない安物のTシャツにジーパンというお粗末な恰好で、その上からブカブカな白衣を羽織っていた。
片方は中学生ほどの少年で、緑のジャケットを羽織り、ワルサーP38という父親から譲り受けた銃を彼女に向けている。
「質問してんのは俺だゼ…!ったく、こぉ~んなくっだらねえモン、俺だけじゃなくジジイのところへも送りやがってよぉ…。おかげで煽りに煽られまくって、行かねえワケにはいかなくなっちまったじゃねえか」
「それが狙いでしたので。あなたはまだしも、あなたのお祖父さんのお家を調べるのは苦労しましたよ」
「するってぇと、お前が俺をここへ招いた張本人ってワケかぁ~。しかも、自力で俺とジジイの居場所を調べ上げたってか。こ~んな監禁部屋でよぉ」
少年が闇に慣れてきた目で辺りを軽く見回すが、部屋には窓は当然無く、娯楽になるようなものの一切が見当たらない。部屋の中には、当たりに散らばっている部品や何かの設計図らしきものが書かれた紙。他には棚がいくつかあるが、その全てに工具か何かの薬品がぎっしりと収められていた。
(こんなチビにはとても似合った部屋じゃねえな、こりゃ)
視線の先に手錠や足かせ等の高速具が映る。ここで彼女が何をされているのか、だいたいの察しがついてしまった。少年は内心悪態をつくと、再び少女に目を向ける。
「えぇ、とても、とてつもなく苦労しましたよ。疑われないよう細心の注意を払いつつ、お父さんたちからあなたたちの話を引き出し、かつ居場所を割り出すのは…」
「…どうやって調べ上げた」
「これですよ」
少女がそう言うと、彼女の足元にある部品がモゾモゾと動き、小型犬ほどの大きさの何かがはい出てきた。
「な、なんだあ?そりゃあ」
「マイクロ偵察ロボ。なんとかバレずに、これを外の世界へ放ちました。撮った映像は、無線でこの部屋まで転送。これであなたがたのお家を調べました。オマケに4脚なので、悪路や坂道もなんのその…。あとはコレから発信機と盗聴器を無数にバラ撒いて、時間と労力をかけにかけて、ようやくあなた方へたどり着いたんです」
「な、なんだあそりゃ。ほっとんどゴリ押しじゃんかよお!」
彼女の技術力の高さと執念に驚いていると、少年は再び問われた。
「で、あなたがかの大怪盗の孫、というのは本当なんですか?」
「本当もなにも、ここにこーやって来てンのが何よりの証拠だろーがよぉー!まったく、嫌んなっちまうゼ!」
「すみません。気に障りましたか。いかんせん、イメージとかけ離れていたものでして」
本気ではないにせよ、少し怒鳴っただけなのに、真摯に謝罪の言葉を吐いた。どうにもやりにくい。傍から見れば、年下の女の子を虐める悪ガキだ。
少年にはそのような趣味はないので、憤慨しつつも銃を降ろし、懐へ仕舞った。
「おや、よいのですか。ルパン三世さん?暫定敵の私に銃を降ろして」
「敵ってんなら、なんでこんな書き方をした」
そうルパン三世と呼ばれた少年は、送り付けられた挑戦状広げ、少女に見せつける。
「俺への挑戦ってんなら、この『国をも揺るがしかねない』って書き方が気に喰わねえ。オマケに、俺個人じゃなく、わざわざジジイにも根回しした点だ。まるで俺が盗みに来なくても、最悪ジジイが来るだろう、みてえに思ってたんじゃねえのか」
淡々と推理を披露するルパン。暗闇で分かりづらかったが、彼女の表情は変わらないものの、冷や汗が少しだけ流れているのを、ルパンは見逃さなかった。
どうやら、自分の推理は間違っていないらしい。
「なによりいっちばん気に喰わねえのが、このまま兵器から何からを盗んだら,
まるで俺が国を脅かす最悪の兵器を盗みに来た義賊、みてえになっちまうじゃねえか!」
「…そこなんですか?」
「そうそこ!いいか、俺は誰かに言われたり、依頼されたから泥棒してんじゃねえの!俺は俺のワクワクのために泥棒してんだよ!」
以前、ルパンは自分の進む道を決める時が来た。
祖父のように泥棒稼業を継ぎ、裏の世界で生きるか。父とそのメイドが言うように泥棒をやめ、カタギとして表の世界で生きるか、
究極の2択を迫られた時、ルパンはそのどちらも選ばなかった。
【自分のワクワクに従う】
己の心に従い、誰にも縛られないということ。誰よりも自由であること。それをルパンの信条の1つとしていた。
今、目の前にいる少女は、恐らく自分のそれと対極の位置にいる。なんとなくだが、ルパンはそれを察していた。
「で、本当のところどうなんだヨ」
「…さすが、アルセーヌ・ルパンの孫ですね」
「それやめろよォ」
観念したように肩をすくめると、少女は本当の目的を喋り始めた。
搔い摘んで言えば、こういうことらしい。
・父親曰く、私が1歳かそこらで小銃を分解するのを目撃。そこから私の天性の才に気づき、幼少の私に自分の持てる技術と知識を全て詰め込むことにした。
・私は物心ついた時には父親に監禁され、事情も何もかも伝えられず兵器の開発、作成に大きく関わった。また設計段階ではあるが、中には核兵器を超えるものもある。
・外の世界のすばらしさを知り、それと自分のやってきたことに酷く罪悪感を覚え、これ以上父親の命に従ってはなるまいと強く誓った。が、自分に歯向かう力も無く。故に第3者に破壊、もしくは窃盗してほしかった。
・そこでルパンの名を聞き、挑戦と称して泥棒の依頼を送り付けた。
「…ってぇイキサツか。ったく、どこの親父もひでぇコトするモンだなぁ。子どもはテメエの所有物じゃねえっつーの全く…」
ヤンナッチャウゼーマッタク!と早口でまくし立てるルパン。挑戦状の内容と、彼女に対する父親の仕打ちで、かなりアタマにキているようだ。
すると、ガチャリとドアノブが回され、部屋の扉が開いた。
ビクっ、と少女が咄嗟に身構えるが、ルパンの方は少し見向きをするだけで、すぐ視線を少女の方へと戻す。
「おう次元、終わったか?」
「ああ、仕込みは終わったぜ。ここの施設、大きさの割にゃ職員らは数人しかいねえみてえで、すぐ済んだぞ。…ところでルパン、なんだあこの部屋は」
部屋に入ってきたのは帽子を深くかぶった、ルパンと同い年ほどの少年だろうか。マグナムを手にしていなければ、一見ただの中学生に見えたが、彼から感じるオーラのようなものは、この研究施設に何度か出入りしている男たちからも感じたことがあった。
次元と呼ばれた彼もまたプロか。彼女はそう内心焦らずにはいられなかった。
部屋の内装と、それに似合わない女子に次元は警戒の色を強めるが、ルパンがそれを手で諫めた。
「オマケに、このチビは誰だ。お前が『この部屋が気になるなあ』、なんてブラブラ探索なんざするもんだから、ブザマにも見つかっちまったじゃねえか」
「まま、そう言うなよ。カノジョは、この仕事の依頼主サマ、だゼ…?」
「なに?こんなチビがか!」
「チビで悪うござんしたね」
次元に散々チビと言われ、ぷぅと頬を膨らまし年相応な反応を見せた彼女に、2人は警戒を解いた。
「ところで、この方は…」
「ああ、俺の相棒の次元大介」
「そういうテメエは何モンだ、チビ」
「そーいやあーお前さんの名前を聞いてなかったなぁ、なんつーんだ、おチビさんよ」
「いい加減、そのチビって言うのやめてくれませんか」
ますます頬を膨らませ、自分は怒っているんだぞ、とアピールするが、2人はニヤけた笑みを深くするばかりで、てんで効果は無く。
そんな2人に、はあ、とため息をついて名乗ろうとすると、扉の向こうから慌ただしくこちらへ走ってくる足音が聞こえた。
「ヤベっ、隠れるぞ次元」
咄嗟に棚の影へ2人が隠れると同時に、扉が大きな音を立てて勢いよく開かれた。
そこには、眉間にしわを寄せ、怒りの形相を浮かべた30~40代前半の男が、若干息を切らせながら立っていた。
「お父さん?」
(お父さん、だぁ?するってぇと、コイツがこの子の親父か。なぁ~るほど、いかにもヒデェことしそうなツラしてやがるぜ)
「これを見ろ」
お父さんと呼ばれた男は無言で彼女との距離を詰め、机の上にA5サイズほどの紙を投げた。
「予告状…貴殿の持つ数々の兵器は、宝の持ち腐れである。よって、それらと共にお宝を頂に参上す…ルパン三世…」
「近頃台頭してきた、アルセーヌ・ルパンとかいうコソ泥の孫だ。ちょうどお前と年代も近いらしいぞ」
「…それと私に何が関係してるんですか?」
「しらばっくれるな…!」
男は怒りを露にすると、少女の顔面に思い切り拳を叩き込んだ。
「がッ…!」
殴り飛ばされ、受け身も当然取れず床に叩きつけられる。背中を強く打ち肺の空気が抜けたのか、数秒の間息苦しそうにしていた。
そんな様子を見てルパンは飛び出しそうになるが、歯が砕けそうになるほど食いしばってこらえていた。次元の方も良い気はしていないらしく、万が一に備えて目を細くし、男に狙いを定めているようだった。
「どうせお前が招いたんだろう!この!この!!どいつもこいつも!私を何だと思っているんだ!!」
突然ヒステリーを起こしたかのように、倒れている彼女の腹を2、3度と蹴りこみ悪態をつく。次元が止めに入ろうとするが、ルパンはそれを制した。
(おいルパン!なんで止めやがる!あのチビ死んじまうぞ!)
(落ち着けって!まだ情報がほしい!あの子にゃ悪ィが、もうちょい踏ん張ってもらう!)
ヒソヒソと小声でやりとりし、次元もしぶしぶ納得すると、姿勢を低くし直した。幸い男にはバレていないようだ。
すると少女はうずくまったままルパンの方へ眼を向け、その後すぐ目線を男に移した。どうやら、助けをを求めている眼ではないようだ。
「いいか!私は何者だ!?」
「じ…ジョージ・シュタインハート…かの歴史の闇に葬られた天才、フランク・シュタインハートの1人息子で、私の父親…」
(シュタインハート…?)
息を整えながら、彼女がぜぇぜぇと苦しそうに喋る。影で観察していたルパンは彼らの家名に覚えがあるのか、眉をひそめた。
「そうだ…。で?」
「…決して表舞台に出なかったフランクの意思を継ぎ、歴史に名を遺すことで父の無念を晴らし、何も知らない愚か者たちに、父の威光を示すこと…」
淡々と自身の祖父とその父親の出自を語る。が、それは不自然で、ルパンたちはもちろん、男…ジョージも違和感を覚え、彼女に再び詰め寄った。
「というのは表向きの理由。この革命軍をまとめ上げるためのでっちあげ。本当の目的は、ここ日本を拠点に国内外を問わず裏社会の連中に武器兵器を売りつけ、市場を独占し巨額の富を手に入れる事…。もっとも、自身にあったのは新壁の開発ではなく、商売の才能だけのようでしたが」
「何を今さらそんなこと言っている?それと、最後の部分はヨ・ケ・イ…だ!」
少女の髪を無理やり掴んで顔を上げさせる。先ほど殴られたせいで、鼻から夥しい量の血が流れていた。
そこに追加でもう1発拳が飛んでくる。
ぐっ、と少女が苦しそうな声をあげるが、ジョージはおかまいなしに掴んでいた髪ごと少女の顔を床に叩きつけた。
「私はやがて、この裏社会の全てを手に入れる男だ…。それまでは、この私のためにせいぜい働いてもらうぞ…フランケン」
フランケン。その名に少女は力強く舌打ちをし、手に力が入りつい握り拳を作ってしまう。
ジョージはそれを気に入らなかったのか、再び少女の腹に蹴りを入れ、部屋を後にしようとする。
ドアノブに手をかけたところで、ああそうだ、と少女の方へ体を向けた。
「丁度良い機会だ。今夜中に拠点を移すぞ」
「…!な、なぜですか?」
「色々と嗅ぎまわっている連中が増えてきてな。オマケにこんなガキにまで予告状を出されるほどだ。ここまで割れた拠点を捨てない方がマヌケだろう」
「ち、地下の倉庫にあるものはどうするんです?」
「全て爆破させ、隠滅させる。あんなもの、お前がいればいくらでも作れるだろう。資金も十分だ、今まで以上に働いてもらうからな」
「…私はもう、そんなものは造りたく…!」
少女の悲痛な叫びは、ルパンと次元に響くものがあった。2人とも、親が示した道を歩むことを強いられ、次元に至っては中学生の身でありながら戦場へ駆り出される始末。
この少女と自分たちはどこか似ている。
この2人が彼女に味方するには、十分すぎる理由だった。
床に落ちる少女の涙を見て、ルパンのワルサーを握る手に力が籠る。
「生憎、もうお前は戻れないぞ。お前の作ったものは、既に数えきれないほどの人間を殺したのだろうからな」
「…~~~!!!」
「私とお前は一蓮托生。最も、栄光の光を浴びるのは、父親の私だけ。お前はこの暗く狭い部屋で、私のために一生人殺しの商品を作り上げるのだからな」
ハハハハと高笑いしながら、部屋を去るジョージ。
下唇を噛み、言葉にならない叫び声をあげる。悔しくてたまらないのだろう。ルパンには彼女の気持ちが痛いほど分かった。