ルパンファミリーのフランケン   作:無悪岩

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ジョージが部屋を出ていくのを確認した後、棚の影からルパンと次元は姿を現し、うずくっている少女に急いで駆け寄った。成人男性の蹴りを数発モロに喰らったのだ、無事なハズがない。

 

 

「おい、お前!大丈夫か!?」

 

「シロートがあんま触れるな!ルパン。最悪骨が折れて、ソイツが内蔵に傷をつけてる、なんてことも…」

 

「ウッ、わ、悪ィ…」

 

 倒れている少女の肩をに手を置いて揺さぶるルパンを次元が制止する。

 まだ学生の身でありながら、戦場をいくつか経験してきた次元が言うのだ。ルパンは、はっ、と少女の肩から手を放す。これが原因で悪化すればたまったものではない。

 

 だが、少女は何事も無かったかのようにムクリ、と体を起こした。

 それに驚きながらも心配する2人をよそに、Tシャツの下からズルリ、とクッションのようなものを取り出すと、ぷしゅう、と空気の抜ける音がして、みるみるうちにしぼんでいった。

 

 

「携帯型瞬間膨張衝撃吸収用クッション…。紐を引くだけで、一瞬で膨らみ、あの程度の衝撃であれば、ほとんど吸収してくれます。…使い捨てなのが欠点ですが」

 

「そんなモン着けてんなら言えよなお前~~」

 

「やれやれ、まるでセールスのそれだな。ま、それだけ余裕なら、どこも外傷は無ェだろ…」

 

 

 ルパンの肩からガックリと力が抜け、まるで秘密道具の説明まで聞かされた次元が呆れた、と帽子に手をかける。

 

 

「ところでよぉ、お前…さっきアイツに色々と喋らせてくれて助かったゼ…。おかげで色々調べる手間が省けた」

 

「喋らせた、か…。ケリ入れられた時は流石に焦ったが、そんな玩具ハラに仕込んでるとは思わなかったぜ。おいチビ、お前中々やるじゃねえか」

 

「ですから!そのチビ、っていうのヤメロ!!」

 

 

 ルパンと次元が頭をもみくちゃに乱暴に撫でながら褒めるが、やはりチビ呼びで少女は憤慨した。

 

 

「おっと、悪ぃ悪ぃ。で?お前の名前は?」

 

「…フランケン」

 

「お、おいおい…。そりゃ、お前の親父が言ってたヤツだろ。お前の本当の名前だって」

 

「…フランケン・シュタインハート。それが私の名前です。ご察しの通り、フランケンシュタインの怪物が由来だそうです。…あまり気に入った名前ではないので、チビとこれ以外であれば好きに呼んでください」

 

 

フランケン。この名から2人に連想させたのは、『フランケンシュタインの怪物』。家名のシュタインハートも含め、あのジョージという男は相当性格が悪いようだ。ルパンは静かに、怒りに燃えていた。

 

 

「自分が作った、とでも言いてえのかよ…」

 

「おいガキ。お袋…母親はどうした?いくら親父がアレでも、母親は…」

 

 

 フランケンを気遣う様に少し優し気な声色で次元が話しかける。

 

 

「お父さんが言うには、研究の実験により死亡した、と聞かされています」

 

「…そうか、すまねえ」

 

 

 マズいことを聞いた。

 気まずそうにフランケンに謝罪するが、気にしていない、と彼女は次元に返す。

 少し重くなった空気の中、普段はめったに見せない真剣な表情をしたルパンが、重々しく口を開いた。

 

 

「…3つ聞きてえ。お前の爺さん、本当にフランク・シュタインハートなのか?」

 

「ルパン、そろそろ行かねえとマズいぞ。ここがブッ飛ンじまう」

 

「悪ぃ次元、これだけは知っておきてぇんだ」

 

 

 次元とフランケンを交互に見つめ、訴えるような目に負けた次元は、なるだけ早くしろヨ、と近くの椅子に腰を掛けた。

 

 

「で、どうなんだ?」

 

「はい。ずいぶん前に亡くなりましたが、かつてはその世界に名を轟かせていたとお父さんから聞かされました。…私は知りませんでしたが」

 

 

 寂し気に目線を下へ移すフランケンに、ルパンは嘘を言っているように感じられなかった。

 

 

「次に、あのジョージ…お前の親父は、本当にフランクの息子なのか?

 

「えぇ。本人が言うからそうなのでしょう」

 

「…そうか。…最後に。お前はこれからどうしたいんだ?」

 

「…!」

 

「ケッ、まぁ~たこれか…」

 

 ルパンの質問に、わずかに動揺の色を見せる。それを2人が見逃すわけがなく、ルパンはニヤリ、と笑みを浮かべ、次元はヤレヤレ、と帽子を深くかぶった。

 

 

「どう、とは…」

 

「今さらしらばっくれンじゃねえよぉ。さっき、親父に色々言われた時、お前の顔スゴかったぜ~~?なあ次元」

 

「ああ。こぉ~~んな顔してたな」

 

「そうそう!こぉ~~んな!」

 

 

 次元とルパンは自分の眉間に皴を寄せたり、目を吊り上げて、ガニ股でじりじりとフランケンに近寄る。ルパンの質問で動揺していた彼女は2人の奇行に更に動揺し、冷や汗を流して後ずさりした。

 

 

「う…な、なにが言いたいのかさっぱりです!」

 

 

「つまりよぉ」

 

 

 ルパンは足元にいたマイクロ偵察ロボをひょい、と持ち上げると、レンズを指さしてフランケンの方へ向けた。

 

 

「お前、外に出て自由になりてえんじゃねえのか?」

 

「…なぜ、そう思うんです?」

 

「簡単な事だって」

 

 

 何とか冷静さを保とうとする彼女に、ルパンは静かに語りかける。

 

 

「俺やジジイを呼びたいんなら、も~ちっと他に方法があるだろ。8歳でこんなモン作っちまうお前が、こ~んなゴリ押し戦法しか思いつかないワケがねえ」

 

「…」

 

 

 ルパンの推理を、フランケンは静かに聞いている。その間、次元はリボルバーの弾倉を開いて、弾丸が装填されているかチェックしていた。

 

 

「つまりコレは、俺達を呼ぶためにわざわざ作ったモノじゃねえ。ず~っと前に作ってたんだろ。…外の世界がどんなモンか、見るために」

 

「…どうしてそこまで分かるんです?」

 

「カン、ってやつさ。後はあのクソ親父の言葉と…カマかけたんだヨ。お前はこういうのに、騙され慣れてなさそうだかンなぁ~」

 

 

 頭の後ろで手を組み、ヌフフフと笑うルパンに困惑した笑みを浮かべるフランケン。

 やがて観念したように、自分の身の上と心情を話し始めた。

 

 

「…えぇ、ルパン。貴方の言う通りです。私は生まれてこの方、外の世界をこの目で見たことがありません。ずぅっと、この部屋で過ごしました。そんな私が、外の世界へ興味を持つのは、必然ではないでしょうか」

 

「なら出ちまえばいいじゃねえか。ジョージとかいうクソ野郎なんざ、お前1人でどうとでもできちまうだろ」

 

 

 もっともな疑問をフランケンに投げる次元。確かに、これほどの技術や資材があれば、彼女であれば脱出は容易く見えるが。

 

 

「…きっと、そこじゃねえんだ、次元」

 

「…何?」

 

 

 それをルパンがきっぱりと否定した。

 そうだろ?と視線をフランケンに戻すと、再び話し始める。

 

 

「お父さんが私を縛り付けているのは、罪の意識…。私の作ってしまった…いいえ、お爺ちゃんが生涯を通して隠しておきたかった発明品…。私はそれを再現し、間接的ではありますが、多くの人を殺めた…」

 

「『お爺ちゃん』、だあ?するってえと、お前がイチから作ったんじゃねえってワケか?」

 

「中には私が設計の段階から作ったものや、未完成だったものや意図して不完全だったものを、私が完成させたものまで様々です」

 

「待ちやがれ、そもそもお前の爺さん…フランクはまだ生きてんのか?」

 

「いいえ、私が生まれてすぐに亡くなったそうです」

 

「なら、なんでジョージはその設計図を元に自分で作るんじゃなく、なんだってお前に造らせてんだ?」

 

「多分、その設計図は全て紛失、あるいは爺さんが捨てっちまったんだろうよ…」

 

「ルパン…?」

 

 

 フランケンの話を遮り、次元が問う。こんな子どもが人を殺めるほどの発明を作れるとは思わなかったが、自身の祖父の発明の設計図を見て作製しているとも思わなかった。

 というか、そもそも設計図なんてものがあるのなら、こんな子どもに造らせるのはおかしい。普通に考えて、非常に非効率であり、フランケンの作った兵器らを自分の手柄にしているワケがわからない。

 湧き出してくる疑問に、フランケンではなく代わりにルパンが答えた。

 

 

「こっからは俺の推理じゃなく、想像でしかないんだがよ…。ジョージはフランクの遺した設計図を元に、大量の兵器を作製し、荒稼ぎしようとした。が、それらは既に棄却済。ジョージの目論見は外れたが…こいつは覚えてたんだろうな、その設計図を」

 

「覚えてた、だあ?オイ、仮にコイツがその設計図とやらを見たことがあったとしても、赤ん坊だったんだろう?そんなモン普通覚えてねえだろう」

 

「それが次元、覚えてるんだよ」

 

「何ぃ?」

 

「【瞬間記憶能力】…または完全記憶能力。こいつには、それが備わってるんだ」

 

「確か…見聞きしたこと全部を一瞬で覚えて決して忘れない…ってヤツか」

 

「そ…。人間誰しも、一度見たもの聞いたものは、脳が記憶している。それが赤ん坊の頃でもな。だが、それら全部を覚えたままでいるのは不可能。だがその能力を持ってるんならハナシは別だ」

 

 

 フランケンの様子をチラ見する。静かに聞いているところを見ると、どうやら間違ってはいないらしい。

 

 

「まあ流石に赤ん坊の頃まではハッキリと覚えておらず、徐々にそれらを思い出して、その設計図を父親の言う通りに書き写し、フランクが後世に遺したくなかった兵器たちを、無理やり作らされていた。そんなトコだろ?」

 

 

 ルパンの推理にフランケンは無言でうなずいた。当たらずとも遠からず、といったところのようだ。

 

 

「成程、それで合点がいったぜ。チビ、テメエはまだ今より小せえ頃…。善悪の区別もつかねえ頃に、フランクの遺した危ないモンを作った。それを知らなかったコトとはいえ、今になって罪の意識に苛まれてる…ってコトかよ」

 

「…はい。その瞬間記憶能力、とやらは初耳ですが…」

 

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしつつ、肯定する。2人からすれば、この程度の事で外の世界を諦めることなんざできっこないが、彼女からすれば、とてつもなく重いのだろう。それは表情からも痛いほど伝わってきた。特にルパンは、己の生きる道を他人に握られている、という点では、どこか共感できるものがあったのだろう。次元もルパンほどではないが、それを感じていた。

 

 

「で、もう一度聞くぜ。…お前はどうしたいんだ?言っとくが、くだらねえ建前なんざ話すんじゃねえぜ」

 

「…」

 

「…本心を聞かせろよ」

 

「わ、わたし、は…」

 

「…」

 

「わたし、は…!」

 

 

 たどたどしく言葉に詰まりながらも、ゆっくりと言葉を発そうとする。その間ルパンと次元は何も言わず、フランケンが言い終わるのを待つ。

 

 

「私は、見たい…!この目で!外の世界を…!この体で、風を感じたい!」

 

「終わりたくない!こんな狭い部屋で、生涯を終えるなんざ、まっぴらです!!」

 

「山登りもしたい!海水浴もしたい!!美味しいものもたくさん食べたい…!!それの何が悪いんです!私はまだ、両手で数えられるほどしか生きていない!!」

 

 

 溜まりに溜まった感情が、一気に爆発する。

 

 

「ルパン!次元!私も一緒に連れていってください!!もう、もう…!こんなことは…!!」

 

 

 目から大粒の涙を流し、2人に縋りつくように懇願する。それは、彼女の魂からの叫びだった。

 ルパンと次元は顔を見合わせ、ルパンはニヤリ、と笑みを深くし、次元はヤレヤレ、と呆れながらも口角を上げる。

 

 

「んじゃま、いっちょ家出と洒落込もうじゃねえの。ちょーっと早めの反抗期、ってヤツだなあ。ヌフフフ!」

 

「やれやれ、仕方ねえ。だったらこんな部屋とは、サッサとおサラバといこうぜ」

 

 

 快諾した2人に、希望の光を見出したかのように表情をぱあっ、と明るくするフランケン。それでもとめどなく溢れてくる涙をぬぐい、ルパンらの元へ駆け寄った。

 

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