「上手いこと釣れたかい?ジョージさんョ」
「ほお、こちらの動きを読んでいたか。ガキのくせに生意気だな」
「その減らず口、ルパン二世にソックリだ。キサマがルパン三世だな?小僧…」
ジョージが睨み、権六は親の二世と姿を重ね、ヤツにしてやられた記憶が蘇り怒りがふつふつと湧いてくる。一方ルパンと次元は不敵に笑い、フランケンはルパンの背に隠れた。
「ムスメよ…。くだらんことで俺の手を煩わせるな。さっさとコッチへ来い」
「…!」
フランケンに向かって手を伸ばすジョージ。すると、それからかばう様にルパンが彼女の前に出た。
「嬢ちゃん、コイツの言うことなんざ聞く必要ねぇぜ」
「全くだ。こんな小物の言いなりになっちまったら、外の世界もへったくれもねえぞ」
「ルパン…、次元…!」
「ハハハ、こりゃ感動モノだな。博士、ウチの部下もやられてるんだ。アンタの娘もいるが、目を瞑ってもらうぜ…」
権六が部下に向かって射撃の合図を出そうとし、後ろで待機していた部下たちがジョージと権六の前に出、銃口を3人に向ける。
「オイ!待て…」
「おおっと、待った!!取引といこうじゃねえの、権六…」
「オット、命乞いは聞けねぇな。ガキとはいえ、ルパン二世の倅ともあろうヤツがこれとは、見苦しいぜ?」
「バッキャロー。ンなみっともないマネできるか、っつーの!お前の今後のコトでもあるんだゼ…!」
「ああ…?」
ジョージが慌てて待ったをかけるが、それを遮るようにルパンも権六に待ったをかける。ルパンも次元も銃を構えるどころか、棒立ちで居続けているあたり、取引とやらがハッタリではないのだろう。そう感じ取った権六は射撃に待ったをかける。
そして、ジョージの反応を見たルパンは、待ってました、と一気に笑みを深くした。
「なぁに、簡単な話サ…。兵器の取引先を、ジョージ博士から俺に乗り換えねえか、ってコトよ」
「何をバカな!!権六、ヤツらからムスメを取り返せ!!そしてそのままヤツらを撃ち殺せ!!」
「続けろ、ガキ」
ジョージの言葉を無視し、ルパンに話を続けさせる。
「早い話が、ジョージ博士にゃ、もう新兵器を開発するコトはできねえ…。なんたって、今まで兵器を造ってきたモノホンの天才が、こっちにはいるんだからよ…」
「ちょっとルパン、私はもう造る気…モゴッ」
「いいから、少し黙ってろチビ」
ルパンの言葉に訂正と抗議を入れようと口を開くフランケンだったが、次元に口を押えられ、物理的に黙らされる。ルパンはチラと彼女に振り向き、任せとけ、とウィンクで返した。
「どういうことだ?」
「ヤメロ!!」
「オイオイ、察しが悪いなぁ。それでも俺の親父とタメはって…っと、それは置いといて…。よーするに、今までジョージが造ったと思っていた兵器は、実はその娘が全て手掛けていて、ジョージはほぼ製造には関与せず、ただ兵器の販売をしていただけにすぎないんだヨ…」
「キ…サマ…!」
「裏で何者かが制作に大きく関わっているとは思っていたが、まさか娘…それもこんなガキだったとはな」
怒りの表情を露にし、ルパンを強く睨みつける。その背後にいる自分の娘も同時に睨みつけているようで、自身に向いた怒りの感情を感じ取ったフランケンはビクりと肩を震わせた。
「成程、今後そういった兵器開発は自分たちが担うため、博士と手を切れ、か」
「そ…!言いたいコトは分かったようだな、権六…。で、どうする?」
「フッ、フフフフ…!」
肩を揺らし、ハハハハと大きく笑い声をあげる権六。そこにはかつての宿敵のルパン二世に対する恨みや怒りは無く、この状況を楽しんでいるようでもあった。
「あまり大人を舐めるなよ、と言いたいトコロだが…。博士の様子を見るに、そうやらお前の言うとおりらしいな、小僧。親父から習ったのか?」
「独学サ…」
ルパンとの取引の好色を示す権六に、ジョージは焦りを見せる。
「権六!何をしている!早く撃て!!」
「…ジョージ博士、アンタにゃ悪いが、今日ここで手を切らせてもらうぜ」
「ナニ!!?あんなガキのホラに乗せられたのか!?ムササビ権六とあろう者が!!」
「博士、往生際が悪いぜ。そもそもアンタは、ここを爆破することや、そのアトのアジトなんかを俺に教えなかったしな…。信頼カンケーの破綻、ってヤツだ。そうなっても、しょうがねえだろうがよ」
「待て!確かにヤツの言う通り、ここの商品は娘が造ったモノもある。しかし、同時に私の造ったモノも存在している!それに、娘に造れて親の私に造れないと思うのか!?」
そう言うと、懐から拳銃を取り出し、ジョージに照準を定め、脅す。ジョージは額に汗を浮かべ、必死に権六を説得するしか他になかった。
対し権六は、必死に取り繕うジョージに何の価値も感じられなくなっていた。ルパンについているジョージの娘が本当の開発者であれば、いつでもガキどもを出し抜き、娘を手に入れられると考えていたからだ。それはルパン達も重々承知だ。
(さて、ここまでは順調…。アトはジョージが何してくるか、だが…。嬢ちゃんには悪いが、まだ手札は切らせてもらうぜ)
「ま、それはいいとしてよ…。問題はコイツだ」
「なッ…!その写真は…!」
ルパンがジョージの部屋から頂戴してきた写真を懐から出し、権六らにも見えるよう頭上に掲げると、ジョージはより一層焦りを露にした。
「この母親と赤ん坊が写ってる写真。これは多分嬢ちゃんが生まれた時に撮ったヤツだろうな。と、すれば写ってる女のヒトは母ちゃんだろう。で、その反対にいる人物…。破り取られているから分かんねえが、恐らくは父親だろうな」
「それがなんだ!事故で私が写っている部分が焼け焦げてしまっただけだ!」
必死にジョージが言い繕うが、説得力はない。だが、ルパンはその言葉にピクリと眉を動かした。
「ヘェ~、するってぇとここの部分に、父親のお前が写ってたんだァ」
「そう言っているだろう!お前の戯言に付き合…」
「俺もこの写真を見たことがあんだけんどもよ、この写真には、嬢ちゃんとその母ちゃん、そして、フランク博士のスリーショットだったゼ…?」
「…!?」
「写ったお前が間違えるなんておかしいし、そもそもウソつく必要もねえよなあ?おおっと、カメラマンだった、って方便はもう無しだぜ」
しまった、と言葉に詰まるジョージと、詰める場面はここだ、と確信するルパン。フランケンの様子を気にする暇は、ない。
「お、お前こそウソをつくな!そんなことをお前が知る由も無いだろう!」
「それがあるんだなぁこれが…。俺の祖父、アルセーヌ・ルパンと、フランク・シュタインハートは旧知の仲でな…。よくジジイを訪ねてきては、妙なモンを置いて帰ってたもんだぜ」
幼少期、ルパンは祖父から盗術を叩き込まれる際に、特殊な道具の使い方もレクチャーされた。その大半が、フランクが作った妙な道具だった。
「持つ角度で棒やスプリングになる縄や、万札に見せかけたネズミ捕り…。TNTの爆破にも耐えるスーツケース…。色んなモンを本人から見せられたさ。で、ある時に孫ができた、つって俺にもその写真を見せてきた…って流れよ」
今、カンペキに思い出したぜ、と不敵に笑うルパンと、悔しそうにルパンを睨むジョージ。だが、それがどうしたと言わんばかりにいぶかしげな表情でルパンを見ていた次元とフランケンだったが、次元がそれを問いただした。
「ルパン、推理ごっこはもういい。サッサと本題に入れ」
「そう急かすなって。マ、これで権六もよぉ~く分かっただろ?コイツは少なくとも、フランク博士の息子じゃねえ。それどころか、この嬢ちゃんの父親ですらない可能性も浮上してきたんだぜ。…ン?」
この写真はもう必要ない、と懐に再び仕舞おうとするルパンだったが、写真の裏に目をやり、何かを発見した。が、それは何なのか言わず、次元らは特に言及せず、権六やジョージに至っては、ルパンが何かを発見したことに気づけなかった。
「ジョージ。お前の正体は、博士とその娘夫婦の3人を殺し、研究の成果と財産を奪い取った、強盗殺人犯っつー、ただの…悪党だ」
「…!」
「お父さんが、お父さんじゃ、ない…」
ジョージは黙ってルパンの推理を聞いていたが、正体を当てられて動揺したのか、ちゃんとそこにあるか確認するかのように、咄嗟に左胸に手を当てた。
(ソコか…)
ルパンは目を細め、狙いを定めた。目当てのモノは、ジョージの左胸、恐らく上着の内ポケットにある。
実質、ジョージにお宝の場所を吐かせたようなもの。ここまで長々と推理を披露した甲斐があった、というものだ。
「だが、目的のものを手に入れたお前には、大きな誤算があった。博士の遺産とやらが、カネなんかじゃなく、兵器の図面だった、ってことだな」
ジョージは低く唸りながら、左胸に当てた手に力が入る。
「当時のお前はシロウトだったのか、イヤ、今もそうか…?とにかく、その図面を読み取ることができなかった。それを売ることもできたが、お前が次に目を付けたのが、まだ赤ん坊の嬢ちゃんだ。時間はかかるが、博士の血を引く嬢ちゃんならば、もしかしたらこの兵器を造れるようになるかもしれない。そう考えて、嬢ちゃんを引き取ったんだろう?」
「そして、その赤ん坊はやがて、記憶と図面を頼りに何も知らずいくつもの兵器を造り、何の繋がりも無い男の財を築き上げた、というワケですか」
ショックを受けていたハズのフランケンがいきなり口を開き、経緯を最後まで話した。ルパンが大丈夫か、と声をかけようとしたが、フランケンは下唇を噛み、怒りで造った拳がふるふると揺れている。
「なんとまあマヌケな…。これで間接的に人を殺しただの何だの悔いていたワケですか、そうですか…。そうか、だからフランケンだったんですね…。怪物を作り上げる、という意味でこの名前を…。ああ、納得ですよ。クソッ…」
後ろでブツブツと呟くフランケンに、流石に悪いことをしたなと後ろめたい気持ちになるルパンだったが、それもいずれ分かることだ、スマナイと心の中で詫びる。それよりも、先にこの状況を乗り切り、兵器とお宝を頂いて脱出すべきだと考えていた。
フランケンから目を離し、ジョージの方へ目をやると、さっきまでとは打って変わって、顔は俯き、両手は力なくだらり、と垂れ下がっていた。
「マ、長くなったけんどもよぉ…。俺の推理は当たらずしも遠からず、ってとこか?これでジョージから俺らに乗り換える気になったかい?権六ョ…!」
「ああ。そうさせてもらうぜ。悪いな、ジョー…」
「どいつも、こいつも…!」
ルパンの推理を一通り聞いた権六はジョージと手を切り、ルパンらに乗り換えようとする旨を伝えようとするが、ジョージの怒りに満ちた呟きに遮られる。
「私を…こけにしおって…!分かったようなクチをきくなよ!ルパン三世!そいつらは死んで当然の人間だ!興味本位で兵器を造るようなイカれたジジイと、その血を引く娘!それに惹かれる哀れな男!未来の悪の芽を、私は予め摘んだだけにすぎない!むしろ感謝してほしいぐらいなものだ!!」
目を血走らせ、唾を飛ばしながら激昂するジョージ。完全にやりすぎた、とルパンは焦り、次元はお前なあ、と視線でルパンに訴える。その怒声にハッと意識を戻すフランケン。
いきなりのことだったので、権六は一瞬ひるむが、すぐに銃を向け直した。
「博士、スマナイが大人しくしてもらおう。オイ、お前ら、博士を拘束するんだ」
「権六、キサマもだ…!初めて会った時から、私を見下していただろう!目で分かる…!いつもそうだ…。悪の道に走る、力ある者が正当化され、私のような正しい弱者が正当化されない…。許されるわけがないだろう…!」
そうジョージが言うと、後ろで控えていた権六の部下が取り押さえる間に、ジョージの上半身が謎の機械音とともに、ボコボコと肥大し始めた。
「なっ、なんだぁ?」
「う、撃てぇ!!」
驚くルパンと、危険を感じ取った権六は部下にジョージを撃ち殺せと命じる。
ガガガガ、とマシンガンと拳銃の音が響き、射線上にいたルパンと次元はコンテナの影へ急いで隠れる。フランケンは大丈夫なのか、とルパンは彼女の方へ目をやると、まさかアレはと呆然とジョージの方を見ており、急いで手を引いてコンテナの影へと引き寄せた。
「おいチビ!!ありゃあなんだ!」
「アレはマズいです…!多分完成したヤツです!!もしそうなら、銃なんて効きません!!」
銃声がやみ、どうなったのかと覗くルパンと次元。硝煙が巻き上がっており、どうも視認しずらいが、ジョージがいた場所には、彼よりも一回りほど大きな人影が見えた。
「MONSTER、起動…!」
「なんだぁ、ありゃあ…」
ジャキン、と音を立て、首元からジョージの顔をスッポリと覆うフルフェイスの真っ黒な仮面が装着される。
流線形なフォルムで、鼻と口は造形されていないが、目のあった部分にはひし形のライトのようなものがついている。一目で見た印象としては、コミックのワルモノが一番近いだろうか。ルパンは呑気にそんなことを考えていた。
「これが…私の…力だああああ!!!!」
そう叫ぶと、腕を思い切り振り回し、権六を部下の方へと吹き飛ばした。部下たちは飛んできた権六から逃れられず、ドミノのように崩れ倒れた。
まだ意識のある部下と、それよりも後方にいて難を逃れた部下たちは、所持している火器をジョージにぶつけるが、ノーダメージに終わってしまう。
ルパンと次元はその光景に信じられない、と呆気に取られていると、フランケンが一気に捲し立てる。
「さっき見せたでしょう!?私の介護用アシストスーツ!これはお父さんに隠して作ったジャンク品から成る粗悪品!お父さんのは誰に造らせたのかは知りませんが、ちゃんとした部品から成る正規品!!介護用だとか、アシストだとか、その範疇を多分遥かに超えています!」
言っていることは半分ほど聞き流していたが、彼女の様子からアレはとんでもない兵器だ、ということはよく分かった。
「よぉし、よく分かったぜ嬢ちゃん」
「で?あれはどうすりゃスクラップにできるんだ?」
「逃げましょう!アレは…は?」
にも関わらず、ルパンと次元の2人は戦う気マンマンらしい。特にルパンは、狙いのモノがジョージの懐に仕舞われているので、逃げるなんてもっての外だ。
「しっかしよく伸びる上着だなあ。アレなら懐にあるお宝も無事だろうぜ。あの上着も嬢ちゃん製か?」
「んなのんきな事言ってる場合じゃないぜ、ルパン。相手はロボだ。…狙うは間接だな。先人の知恵だ」
権六らが一瞬でヤラれてしまったにも関わらず、まだまだ余裕を見せるルパンに、冷静にジョージを倒す術を探す次元。この2人の肝は何でできているんだ、と更に困惑するフランケン。
さあどうしたものか、と物陰から再びジョージの動きを観察していると、おもむろに空のコンテナを器用につかむと、片手で持ち上げると。
「…あらら、こりゃマズいぞ」
ルパンらに目掛けて、投げ飛ばした。
「チビ!!これはお前の設計通りなのか!!?」
「ええ!!コンテナ程度であれば、軽々と振り回せますよ!他にも…」
「ご丁寧な解説は後だ!!逃げろォ!!」
ドォン、と大きな音を立ててコンテナがぶつかり、破片が辺りに散らばる。やがて視界が晴れ、ジョージは3人の姿を探すが、死体も何もそこにはなく、どこかへ逃げたらしい。
「その程度でこの私から逃げられると思うな…!フランケン、貴様は一生、私に尽くすための怪物となるのだ」
アイライトが怪しく光り、辺りを見回すと、ジョージの装着しているマスク内部に、コンテナの中身と登録されている兵器が投影される。
右腕の袖をまくると、そこには当然機械の腕…ではなくスーツの装甲が見える。前腕部を2回トントン、と軽くたたくと、装甲が展開され、何かのボタンやモニターが出現した。
「なるほど、これはこう、で…。こうか。ククク…。こんなものを造れるなんてな。全く、怪物というより悪魔だよ」
モニターをスライドさせると、少し離れたコンテナから、プロペラで飛行する、無数の集めの座布団のような形をした、小さなヘリのような飛行物体が編隊を組みながら飛び出してきた。
「これが次世代型の飛行無人探査機か、スバらしい…。せいぜい抗って見せろ、クソガキ共めが…!」