ジョージがモニターとボタンを交互に叩いたりスライドさせると、探査機はその動きに合わせたかのように編隊を組み替えたり、上下に浮き沈みして高さを変えたりしている。
一通りの使い方は理解したのか、やがて探査機を一斉に散らばせると、モニターを凝視する。
「ほぉ~、腕の操作盤で、あのラジコンを操ってんのかぁ~」
「思ったよりも簡単に攻略できそうだな。なら、話は早い…」
コンテナの中に潜み、双眼鏡を使ってジョージの様子を観察するルパン。腕の操作盤で操っていることが分かったため、まずはそれを破壊することにした。
ジョージは真っ向から倒すのは当然難しく、やはり死角からの不意打ちでダメージを稼ぐしかないとルパンは考えていた。だが、探査機のせいでそれが不可能になってしまえば、元も子もない。
さて、行動に移るか、と腰を上げると同時に、後方から風を感じ、振り返ってみると。
「おぉっと、イキナリ見つかっちまったか…。優秀なラジコンだことで…」
「避けてください!!設計段階だと、コイツには小型のマシンガンを…」
ゆっくりと立ち上がったルパンに、フランケンが叫ぶ。次元が下部に注目してみると、本当にそこには彼女がイチから作ったのだろうか。見たことも無い超小型のマシンガンが装備されていた。
ヤベッ、とルパンが咄嗟に回避しようと身を低くすると同時に、探査機のマシンガンから弾が発射された。
「ワ・ワ・ワ…!ホントに付いてらぁ!!こりゃヤベェ!」
「チッ…このぉ!!」
まだ子どもだというのに、超人じみた動きで弾を避けるルパン。相棒のピンチに流石に慌てたのか少し反応が遅れ、それでも1発で探査機をリボルバーで撃ち抜き破壊する次元。
なんとか窮地を脱したと安堵するが、さすがにこの騒ぎで居場所がジョージにバレてしまい、全ての探査機が恐ろしい速度で集合した。
「おいチビ、こいつにゃ弱点はないのか!」
「強風と悪天候!そこまで気を回すと、量産できるほどにコストを抑えられないんです!」
「そーいう弱点じゃねーっつーの!!」
3人が漫才のようなやりとりをし、ルパンが突っ込むと同時に探査機のマシンガンが一斉に火を噴いた。
「じゃあアレです!空中での姿勢制御技術がまだ確立しておらず、射撃の制度が死ぬほど甘い点です!!」
「弱点っちゃあ弱点だな!!だがそーいう弱点でもねえ!!」
バラバラにならず、固まって逃げ回るが、デタラメに倉庫内を走り回るだけで、何も状況を打開できない。くそう、と顔をゆがませながら策を練るルパンだが、フランケンの先ほどの言葉を思い出すと、光明を見出した。
「嬢ちゃん!このラジコンの弱点は、悪天候だっつったな!?」
「はい!それと強風!あと姿勢制御!!」
「それはいいっての!次元、上だ!!」
「上ぇ!?それがどうした…」
ルパンに上だ、と言われて次元は天井を見上げて目を凝らす。すると、何かを見つけたようで、ニヤリと不敵に笑った。
「成程、狙いは…スプリンクラーか!!」
「ここは兵器を出荷する積み荷場だ!火でも点いたら大損だろ!撃てるか!?次元!!」
「誰にモノ言ってやがる!ハズしゃ…しねえ!!」
そう狙いを定め、真上と、その隣のスプリンクラー目掛けて引き金を引く。弾は…見事に着弾し、スプリンクラーの破壊に成功する。
天井から水がざあざあと降り注ぎ、それを大量に浴びた探査機はあっという間にバチバチと電気を漏らしながらショートし、墜落した。
さすがに全てとはいかなかったが、それでも数は半分以下に減っていた。この調子なら、探査機の全滅も容易だろう。残った探査機はジョージが遠隔で捜査しているのか、その場で静止している。
「よし、この調子だ!残りもサッサと片付けて…」
目途は立った。アトはどうにかこれを繰り返して探査機を全滅させる…。そう思った矢先。
「調子に乗るなよ!!クソガキ共が!!!!」
「ぐが…ッ!?」
「ルパン!?クソッタレが!」
コンテナを体当たりで吹き飛ばし、ジョージがルパンを捕らえた。次元がリボルバーをジョージに向け、発砲しようとするが、それよりも早く操作盤を操作し、探査機のマシンガン発射操作を完了させる。
「うおおおっ!クソッ、いくらなんでも反則のしすぎじゃねえのか、それ!!」
「次元!ルパン!!」
運良くマシンガンの射程外にいたフランケンは無事だったが、次元の右腕に弾がカスり、流血する。なんとか荷物の後ろへと転がり込み、銃弾の雨から身を隠す。
「ち、ちくしょ…!離しやがれ…!」
「キサマは随分勝手に人様の過去を暴いてくれたな…!親から教わらなかったのか!?躾と学がなっていないようだ…!!」
スーツを纏ったジョージに組み敷かれたルパンは襟を掴まれると、そのまま後ろの荷物に叩きつけられるように雑に投げ捨てられた。
背中を強打し、肺の中の空気が抜けていく。四つん這いになり、咳き込むルパンの首根っこを再びジョージが掴むと、もう一度反対側の荷物に向かって投げつけた。
「ルパン!チィ…!」
ルパンを気に掛け近寄ろうとするが、こちらの動きに反応するのか、物陰から少しでも身が出た瞬間に探査機のマシンガンが一斉に発射される。おかげで、次元は一切の身動きが取れなくなっていた。
フランケンは一体どうしたらいいのか分からず、青い顔をしてルパンと次元の2人を交互に見る。すると、2度も投げられダメージを大きく受けたルパンがふらふらと立ち上がり、フランケンに向けて叫んだ。
「…逃げろ!嬢ちゃん!!」
「ルパン…!?」
「ここまで来れば、お前1人でも逃げ切れるだろ?お前が泣くほど望んだ外の世界が、すぐそこまできてんだ。逃すテはねえだろ…」
「くだらんことを吹き込むなァ!」
「ルパン!!」
ジョージは逃げろと叫ぶルパンの首を掴み、軽々と持ち上げる。巨大なスーツの手はルパンの首をしっかりと掴んで離さないため、流石のルパンも抜け出すことはできなさそうだった。
「ルパンの言う通りだぜ!お前がいても足手まといだ!サッサと逃げちまえ!!」
「次元…!」
「オット、逃げようと思うなよ。このガキの首が簡単に砕け散ることになるぞ?」
「俺もルパンもこういうのには慣れてる!お前が逃げてから、俺達もトンズラする!だから早く行け!!」
「わ、私は…」
どうする、どうする。こんな時にどうすればいい。自分は天才なんだろう、こういう時こそ真価を発揮する時じゃないのか。
いくら思案しても、良案は浮かんでこない。それどころか、こうやって足踏みしているだけでも状況はドンドン悪化する。あまりにも絶望的で、今すぐ大声を上げて泣き出したい気分だった。
「じ、嬢ちゃん…!」
そんな彼女に向けて、ルパンは何とか声を絞り出し、こちらを向くようにフランケンに呼びかける。
ルパンと目が合い何かを言おうとしていたが、首を絞められていいるため、これ以上は何も言えないようだ。
「わたし、は…」
つい数時間前、初めて会ったばかりのことを思い出す。大人でも子どもでもない、妙な雰囲気を漂わせたこの少年。出会って間もない自分を同情か何かは分からないが、外の世界へ連れ出す、と言ってくれた。その瞬間を、なぜか今思い出していた。
「私は…逃げ、ません…」
「んなっ!おい!」
「フッ、所詮ガキはガキ。大人に敵うわけがないだろう…」
ゆっくりとジョージに近づき、逃げないとの宣言を聞いたジョージと次元は、てっきり彼女が諦めてしまったと思った。彼女の真意に気づけたのは、たった1人。
「どいつもこいつも…勝手に決めやがって…私の事をなんだと思ってるんですか…!」
「あ?何を言っている。サッサとこっちへ…」
「私がやるべきコトは、決まってるでしょう!ルパン!!次元!!」
彼女が大きく吠え、ジョージに向かってダッシュする。ルパンはかつて、自身が三世を名乗ることを決意したあの日の自分と、彼女を重ねていた。
走りながら、ジョージが操作盤を露にした時と同じように白衣の袖をまくり、ツマミを思い切り回す。白衣は着たままだったが、ビリビリと邪魔なTシャツとジーパンを手で破り捨てた。その下に潜んでいた、真っ黒なインナータイツとプロテクターが姿を現す。
ルパンは首を掴まれたままで苦しそうにしているが、フランケンが吹っ切れたのを見て、ニヤリと笑う。
「私がやるべきコト…。私が今!したいことはぁぁぁああああ!!!」
フランケンは全力ダッシュで、ジョージの元へ走り向かうと。
「お前にイッパツ、本気でブチ込んでやるコトだあああああ!!!!」
「!!?」
無防備な腹に向かって、全力でタックルをお見舞いした。
随分と重そうな見た目をしているスーツを着込んでいたが、フランケンのスーツのパワーも相当なもののようで、タックルをモロに喰らったジョージは何度か大きな音を立ててバウンドしつつ、10数メートルは軽く吹き飛ばされた。
「ゲホッ…お、お前なあ…!俺も危うく巻き添え喰らうところだったっつーの!」
タックルを喰らう瞬間にルパンを掴む手は離されており、何とかルパンはジョージから逃れることに成功したようだ。しかしその粗っぽさからルパンは抗議するが、フランケンはその一切を聞き入れることなく、次元の方へと振り返ると。
「
そう叫ぶと、首元と胸のプロテクターが変形し、ジョージと同じようなフルフェイスのマスクとなった。デザインはジョージのそれと少々異なり、全体的に丸みを帯びている。更に、アニメコミックのような眼をしており、どうやら中のフランケンの目の動きに合わせて動いているようだ。
肩や胸、腰に集中して装備されていた装甲が開き、全身を覆う様に展開し、装着される。ジョージと違い、余りもののパーツで造られてるためか、彼よりかなり武骨なシルエットをしていた。
「お、おいチビ!なんでこっちへ来やがる!?」
フランケンは素早く次元の方へと走る。当然探査機は動く彼女に反応し、マシンガンの銃口を向けた。
「避けろ!!」
次元の言葉よりも先にマシンガンが一斉に火を噴き、彼女はその餌食となる…。ハズだった。
「…ああ、そういやあ。部品は違えど、ヤツと同じスーツだっつってたな…!」
そこには、銃弾をものともせず、綺麗な姿勢で走り寄ってくるフランケンの姿があった。しかし、銃も持たない彼女がそうやって探査機を仕留めるのか、と次元が疑問に思うと、スプリンクラーでショートしている探査機を掴む。彼女のスーツの握力が強すぎたのか、探査機のパーツが湾曲し、さらに破損した。
「メカチビ!!思い切りやっちまえ!」
「そおおおりゃあああぁぁぁ!!!」
手にした探査機を思い切り、銃撃を続ける探査機へと向けて、思い切り投げつけた。飛び回る探査機の内1機に見事命中し、爆散する。フランケンがハデに動いたおかげで、標的が次元から外れる。
今だ!リボルバーを構え、弾丸を探査機にブチ込む。ひとつ、ふたつ、みっつと破壊され、あっという間に残りの探査機も全滅した。
「いやはや…そんなひみつどうぐ着てんなら、いつでも親父の元から逃げられたんじゃねえか?」
「無理ですよ。これ、意外と繊細で壊れやすいんです。っていうか、さっきメカチビって言いましたよね?チビに加えてメカも付けましたよね?」
「わ、悪かった。オイそれ着て寄ってくんな!」
次元に再びチビと、それも頭にメカを付けられ、頭に血が上ったままのフランケンは次元にじりじりと近寄った。
イテテ、と首をさすりながら2人を眺めていると、後ろでウイイン、と機械音が聞こえた。まだ、決着はついていないようだ。
「ぬ、ぬがあああ!!!キサマらああ!!」
どこか破損しているのか、バチバチと電気を漏らしつつも、覆いかぶさる荷物等を吹き飛ばしながら、勢いよく立ち上がるジョージ。
3人は集合し、ジョージの動きを伺う様に構える。
「あのスーツの弱点は、次元が言っていた通り関節部分です。背面の装甲は前面より薄くなっていますが、それでも銃程度では傷を作るのが精いっぱいです」
「ナルホド。だがヤツもそれは重々承知のハズだろ?どうするつもりだ」
「私がなんとかしてお父さんを押えます。そしてその隙に…」
「なあ嬢ちゃん、ご講義もいいんだけっどもさぁ…」
「?なんです、ルパン」
フランケンがジョージの攻略法を2人に言い、なんとかしてジョージを取り押さえ、その隙に攻撃しろと作戦を練るが、ルパンが何かを取り出し、彼らに見せた。
「これ、ジョージがお前に吹っ飛ばされる瞬間に、チョ~ット頂戴してきたんだけども、これでヤツァどうなる?」
ルパンが手にしていたのは、太い配線だった。破損でもすればマズいのだろうか、それは丁寧にカバーで保護されている。それを数本。
「…!?これ、まさか…!!」
「そ…!脇ががら空きだったもんでよお、そこからお宝を頂くついでに、ナ…!」
「ば、バカな!!」
ルパンはジョージがフランケンに吹き飛ばされる寸前に、目線が自分からフランケンに移るのを見逃さなかった。
隠し持っていた細く頑丈なワイヤーを巧みに使い、懐に仕舞われていたお宝と、ついでに脇の下から侵入させ、適当な部分に引っ掛ける。その後フランケンがジョージを吹き飛ばし、その反動で引っ掛かっていた配線が数本抜け、お宝と共にルパンの手元に納まったのだ。
「この、クソガキ…!いつの間に…!?」
「これが、ドロボウの勝ち方さ…」
「キサマァァア…!ぐ、うぎゃああああ!!」
ルパンが勝利を宣言すると同時に、バチバチとより一層電気が大量に漏れ、ジョージは感電してしまう。
ボウン、と黒い煙を装甲の隙間から吐き出すと、力なく前のめりに倒れた。
ルパンは不敵な笑みを浮かべると、フランケンの方を向き、ウィンクしてみせた。