「すご…。50年は先を行ってる技術だと自負してたのに…。こんなアナログな方法で…」
「配線数本引っこ抜かれるだけで壊れちまうたぁ。こりゃ確かに、繊細だな」
「ヌフフフ、さぁて…アトは脱出するだけ…ン!」
倒れたはずのジョージが動いたような気がして、視線を再びジョージに移すルパン。すると、背中が盛り上がったと思ったら、上着を引き裂いて背面の装甲が展開された。その中から全身黒いタイツを身に着けたジョージが這い出てくる。
「ハァ、ハァ…。わ、忘れたか…。ここを爆破するためのスイッチは、まだ私が握っているのだぞ…」
「ハッ、笑わせんな。そんなモン、お宝よりも最優先に盗るに決まってるだろう。なあ、ルパン?」
そう次元が得意げに返し、ルパンの方を見ると、どうも冷や汗を流し、青い顔をしていた。
「おい、ルパン…。まさかテメエ…!!」
「イ、イケネ…忘れてた…」
「アホか!お前は!忘れてたで済む問題じゃねえだろうが!!」
「しょうがねえだろ!多分ハイテクナントカスーツの下に隠してたんだって!!」
次元が唾を飛ばしながらルパンを攻め、それにルパンが反論する。それを言い終わるのと同時に、ジョージは腰当たりの隠しポケットから、上部に赤いボタンのついた円柱状のものを取り出した。どうやらそれが、ここを爆破させるためのスイッチらしい。
3人に見せつけるようにスイッチを持っている方の腕を前へやると、下衆じみた笑い声をあげながら、3人に言う。
「ククク…。これを押されたら、貴様らも下敷きだぞぅ…?おぉっと!その物騒なものは捨ててもらおうか」
「…次元、お前の早撃ちでなんとかなんねえか?」
「任せろ、と言いてぇが…。チと無理だな、距離がありすぎる。俺が撃っても、さすがにヤツがスイッチを押す方が早え」
「…しょうがねえなあ」
そう言うと、ルパンと次元は各々の銃をジョージの方へ投げ捨てる。それにジョージは機嫌を良くし、フランケンは本当に捨てるのかと驚き、2人を交互に見た。
「よぉし、それでいい。フランケン、キサマもだ。着ているアシストスーツを脱いでもらおうか」
「…まあ、そうくるでしょうねえ」
「…それ、脱げって言われて脱げるモンなのか?」
「えぇ、脱げますよ。ホラ」
白衣を足元に脱ぎ捨て、両手を多き広げると、ウイィン、と背面の装甲が展開され、そこから昆虫が脱皮するかのように、フランケンが姿を現した。
中身がなくなったスーツはガシャン、と音を立ててバラバラに散らばり、内部に取り付けられていた様々な装備が露となった。
「ほぉ、私のスーツと違って、色々と仕込まれているようだな。なんだ、そのチューブは…。溶解液でも噴射するのか?」
「…?お父さんのスーツにもついている、動力炉を冷やすための特殊冷却水ですよ」
「ハッ。自分の着ていた愉快なパジャマの中身も分かんねえのかよ」
次元が小声で突っ込むと、ジョージがスイッチを突き出して次元をけん制した。
「フン。まぁしかし、人を殺したくないだの何だの言っておいて、そんなスーツを作り上げるんだ。血は争えない、ってやつだな」
「…何が言いたいんですか」
「まったく、自分の得意分野以外では随分と察しが悪いな。教えてやろう。結局、キサマもフランクと同じということだ」
「…お爺ちゃんが、なんだというんです」
ジョージは勝ち誇った表情で、最期に聞かせてやる、と言わんばかりにフランクと彼女について語り始めた。
「フランクもなぁ、世のため人のためと言って、色々と開発したんだ。その中には、兵器に応用されたものもある」
ルパンはフランクが祖父に持ってきた品を思い出していた。確かに、使い方を誤れば人を簡単に殺しかねないものもいくつかあった。
「そこのクソガキはフランクの事を多少知っているようだがな、若き日のヤツは知らんだろう?ヤツは、作りたい、という一心で、様々な兵器を造りあげたそうだ。善か悪かどうか、なんてものは、全く気にも留めなかったらしいぞ」
ジョージは軽蔑したような表情でフランケンの方を向くと、状況は多少違えど、お前と同じくな、と更に続けた。
「それらを売った金で、フランクは莫大な富を築いた。で、マヌケにもその後に気づいたらしいぞ。自分が気まぐれで造ったものが、大量の人間を殺してる、ということにな!」
ハハハハ、と顔を手で覆い高笑いするジョージ。目線も彼らから外れるが、指の隙間から様子をうかがっており、手を出せない。
なおも、ジョージはべらべらと喋り続ける。
「娘の方は詳しくは知らんが、フランケン。お前はフランクの血を濃く受け継いでいるようだからなぁ。お前も将来、こうなるのが簡単に予測できるぞ!今は私が悪に見えるようだがなぁ!お前もいずれこうなるかもなぁ!!」
フハハハと更に高笑いを激しくするジョージ。ルパンと次元は隙を伺っているのか、何も言いはしなかったが、何が起こっても大丈夫なように構えていた。一方フランケンは棒立ちで、拳を強く握りすぎているのか、小さく震えている。
「先ほどの話を聞いて、お前の名は私が付けたと思っているか?フランクが付けたのかも知れんぞ?なんせあの悪魔の科学者だ。孫娘に怪物の名を付けても不思議ではないだろう…?フッ、ハハハハ…!」
「お前ぇ…!!」
好き勝手言いやがって…とルパンが歯噛みしていると、フランケンがジョージに取って掛かりそうになる。
なんとか彼女を制止しようとするが。
突如、ジョージの後方から銃声が轟き、ジョージの左胸に風穴が開いた。
「ハ…ハハ…?な、なんだ…コレは…?」
何が起こったのかと、ルパンはジョージの奥の方に目をやると、そこには這いずってここまで来たのだろう。ムササビ権六が最後の力を振り絞って、銃を構えていた。銃口からは煙が上っており、どうやらジョージを撃ったのは彼らしい。
「借りは返したぜ…ジョー…ジ…」
そう言うと権六はがくり、と完全に力尽きた。
ジョージは撃たれた自分の左胸から流れ出てくる血を、信じられないといった表情で見つめ、仰向けに倒れた。
(サンキュー、権六。ここまで思い通りに動いてくれてよ…)
権六とジョージを仲間割れするまで誘導したのはよかったが、手の内が読めないジョージの意識外から仕留めるためには、どうしても自分たち以外の力が必要だった。案の定、というわけではないが、ジョージは凄まじいテクノロジーの兵器を身に着け、ルパン達に襲い掛かってきた。
ルパンは逃げ回っているフリをしながら、権六がジョージの死角になるような位置まで誘導した上で、権六にジョージを撃たせる絶好の機会を作った。
ここまで全てがアドリブだと次元とフランケンは思っているが、実は全てルパンの掌の上だったのだ。
「…オイ、チビ。気持ちは分かるが、感傷に浸るのは後にしろよ。今はここから、逃げるのが最優先だぜ」
「そう、ですね…。そうしましょう…」
ルパンは権六の最期を見届ける。次元はフランケンを彼なりの気遣いをするが、フランケンの返事は弱々しく、大丈夫かよ、とより一層次元は心配した。
各々の銃を回収した2人と、脱ぎ捨てた白衣を手に取り再び着なおすフランケン。脱出に使う予定だったトラックは先のドタバタに巻き込まれたらしく、横転しており、他に走れそうな車が無いかとルパンは辺りを見回すが、コンテナに潰されていたり煙を吐いていたりと、走れるものはないようだ。
歩きかあ、とルパンがげんなりしていると。
「クッ、フフヒヒヒィハハハハ!!!!」
いきなりジョージが狂ったような笑い声をあげ、3人はジョージの方へ振り向いた。
「ハハハハハハ!!!オレ1人で死んでたまるものか!!キサマらも…道連れだあ!!!!」
「よせぇ!!」
ルパンが制止の声を投げかけるが、ジョージは一切を無視し、爆破のスイッチを押した。
瞬間、辺りで大小様々な爆発起き、まるで地下全体が震えているようだ。天井が破れ、巨大な岩までが落下してくる。
「ジョージ!あぁっ、クソッ!」
高笑いを続けるジョージだったが、彼の丁度真上に岩が落下し、そのまま彼を圧し潰した。
「おい、こりゃ本格的にマズいぜ!なんかねえのかルパン!」
「あるワケねえだろ!!こうなったらなんとか走って…」
「2人とも、待ってください!」
なんとか自力で脱出しようとするルパンと次元を止め、コンテナを指さすフランケン。
「悪い嬢ちゃん、今それどころじゃあ…ン!こりゃあ、もしかして…」
「車か!でかしたぞ、チビ!!」
爆発かフランクが暴れたせいか知らないが、コンテナからは車が顔を覗かせていた。しかも、見たことのない車種だ。
フランケンは即座にボンネットを開き、中をざっと見た後にすぐに閉め、燃料も十分だということを確認すると、ルパンに向かって叫んだ。
「ルパン!走れます!!私では足が短くてペダルに届きません!!」
「マジか!!でかしたぜ、嬢ちゃん!!」
「地獄に仏たあ、このことだな!」
いいや、九死に一生か?と次元が呟き、助手席に座る。ルパンは運転席に飛び乗るように座ると、クラッチとブレーキを踏み、エンジンキーを回す。
グオォン!!と今までに聞いたことのない力強いエンジン音が轟き、2人はこれでいけるぜ、とひとまず安堵した。
さぁ脱出だ!そう意気込むが、フランケンが車に乗らず、ジョージを圧し潰した岩の方をじっと見ていた。
「チビ!なにしてやがる!!サッサと乗れ!!」
「…あっ、あぁ…はい!」
次元に急かされて、後部座席に急いで乗り込む。シートベルトはついていないようで、次元の座っている座席を両手でしっかりと掴んだ。アシストスーツはもう脱いであるので、肩を潰される心配はしなくていいな、と次元が冗談を言った。
「ほんじゃま、お2人さん!まくるぞぉ~~!!」
ルパンはアクセルを思い切り踏んだ。想像より遥かに馬力があったらしく、Gで座席に体が埋まりかけた。
一行は権六のトラックが入ってきた道を逆走する。ここからならば、きっと外へ出られるはずだ。
「ひょ~~!コイツぁすげえ!」
「これなら何とかなりそうだぜ…!」
帽子が飛ばないように手で押さえ、ルパンは圧倒的な馬力とスピードに感動すらしている。落石で一部道がふさがれていたり、普通ならば通ることのできないほどの悪路と化していたが、この車ならば問題なく通れるようだ。
「ぐっ!軍用に設計した…ありとあらゆる悪路に対応できる車です…!お"う"っ!ルパン!!!もう少しちゃんと運転してください!!!!」
「しょ~がねえだろ~~!!悪路ってどころのハナシじゃねえだからよぉ~~!!」
「ル、ルパン!光だ!!出口が見えてきたぞ!!」
落石をなんとか避け、アクセル全開で出口へと走らせる。後ろでひときわ大きな爆発が起こり、ルパンはミラーで、次元とフランケンは振り向いて直接確認した。
「おい!ルパン!!爆発が迫ってきやがる!ヤベェぞこれは!!」
「だーって言ってもよぉー!どうするってんだよ!!」
「スピード上げて!もっとアクセル踏んでください!!」
「もうとっくにこれ以上踏めるかぁー!ってぐらい踏んでるっつーの!!」
アクセルを踏む足に力が籠り、早く早くと念じた。爆炎はドンドン距離を詰め、3人に迫ってくる。熱さと焦りから汗が一気に噴き出し、爆発の影響か、落石がより一層勢いを増した。そして。
「抜けたぁ~~~!!」
「はっ、ははは!危機一髪、だな!!」
3人は命からがら脱出に成功した。抜け出した出入り口からは、迫っていた爆炎が吹き出してきた。フランケンは後ろを振り返ると、地下へと続く出入り口は崖の下に作られていたようで、爆発の影響でガラガラと内部で落石が続き、振動はまだ収まらない。
しばらく彼女は半ば放心状態でそこを見つめていると、やがて完全に出入り口が落石で塞がり、振動も収まった。
「…見てみろよ、これが外の世界だぜ。お嬢ちゃん。映像越しに見るのと、実際に肉眼で見てみるのとじゃあ、全然違うだろ…?」
「…えぇ、そうですね…。草木の香りが風によって運ばれているんでしょうか。嗅いだことのない、自然の匂い…。とても良い香りです」
「外デビューの感想が自然の匂いかよ、独特だな」
未成年だというのに煙草を吸う次元。まぁそう言うなっての、とルパンが肘で小突く。対しフランケンはやがて視線を崩落した出入り口に向け、目を細めてじぃっと見つめている。
「おい、どうしたチビ。忘れものでもあったか?」
「…お父さんの、最期の言葉…」
「あぁ?」
車を降りて、フラフラと歩き始める彼女の様子を見て、次元は声をかけたが、帰ったきた言葉は。
「私も、お父さんやお爺ちゃんのようになるかも、って。もし、それが本当だとしたら…。私は本当の意味で、怪物になってしまうかもしれません…。そう、なる前に…」
ぎゅっと拳を作り、目頭に涙がたまる。泣くまいとなんとかルパンらの方へ振り向き、震える唇でゆっくりと自分の思いを告げた。
「私は、あそこで…お、お父さんと共に…死んだ方が…良かったのかも…」
「…あのなぁチビ。あんなヤツの…ルパン?」
ルパンはフランケンの目の前まで近寄ると、右肩に手を置いて、優しく語りかけた。
「お前は俺や次元に似てるよ。血筋や環境のせいで、自分の将来を他人に、勝手に決められる。冗談じゃねえってほどに、窮屈だよな」
でもなぁ、と肩に置いたルパンの手に力が少しだけ籠った。
「そんなの、どーってことねえよ。お前はお前、お前のじい様は、お前のじい様。他人と同じ生き方なんざ、意識したってできっこねえよ。…俺だってそうさ、ジジイや親父と同じ泥棒だけんどもよ、俺は俺の心に従って泥棒ヤってんだ」
左肩にも手が置かれ、ルパンに両肩を優しく掴まれる。
「よーするに、お前は自分の心のままに、生きていいんだ。じゃねえと、この先まだまだ続く人生、楽しみが半分になっちまうぜ?」
「それでも…私がこの先兵器を造らないと保証はできません…。だったら、今のうちに…」
ルパンが説得するも、耳を貸さないフランケン。ルパンから目を逸らし、俯いた彼女の表情は暗いままだった。
それにルパンは彼女の肩を揺らし、だったらと言葉を続けた。
「だったら、俺が盗んでやるよ。お前の造った恐ろしい兵器だろーが何だろーが、お前がべそかく前に、俺達が盗んでやる!なぁ、次元?」
「…!」
「ま、そういうこった。結局俺のハジキとお前の玩具、どっちが上かまだハッキリさせてねぇからな。そん時にでも、決着着けてやるさ」
「ルパン…次元…」
「それと、お前は怪物なんかじゃねえよ」
そう言うとルパンは懐から、破られた写真を取り出し、フランケンに手渡した。これは?と疑問に思う彼女に、ルパンはウラを見てみろよ、とジェスチャーで教える。何があるんだ、と写真の裏を見たフランケンは、目を大きく見開いた。
「『私は誓う。我が孫娘、フラン・シュタインハートのために、私の全てを捨てよう。これが私の贖罪だ』。…これは、お爺ちゃんの…?というか、フランって」
「お前さんの本当の名前さ」
彼女が写真から顔を上げ、ルパンを見つめると、質問に即座に答えた。
「フランケン、だなんてフザけた名前をジョージのヤローがつけたのは、お前の心を折るつもりだったんだろう。自分の手から離れても、所詮自分は怪物の子なんだ、ってな」
それとこいつも、と言い、懐から手のひらサイズの銀色の懐中時計を取り出し、彼女に手渡した。
「…これは?」
「これが俺の狙ってたお宝サ…。どうやらこりゃあ、お前が持ってた方がいいらしい」
見てみろよ、と彼女の手の中の時計を指さす。
「針が止まってんだろ?恐らくだが、こりゃあお前が生まれた時間で止めてんじゃねえか?」
博士もイキなことするよなあ、これがお宝なんて。俺のじい様なんてよぉ、と腕を組んでがっくりとうなだれていると、次元が鼻で笑った。
「にしても、自分の名前を取って孫につけるなんざ、中々シャレの効いた爺さんじゃねえか。なぁルパン?」
「今それを俺に言うか?フツー」
口をイの形にして、次元を軽く睨むルパンと、悪い悪いと言いつつも、全く悪びれずに車から足を投げ出して椅子に深く座り、煙草をフカす次元。
お前なぁ、とルパンは肩をいからせて大股で次元に詰め寄った時、フランケン、もといフランが火が付いたようにわんわん泣き出した。
「わっ…わ゛たしぃ…!今まで…!何度も生まれてくるんじゃなかった…てぇ…思ってて…!でも、死にたくなんかないし…!でも、私のせいで不幸になった人もいるしぃ・・!でも、でも…!」
しゃくり上げながらも、心の底に仕舞った想いを必死に言葉にしようとするフラン。だが、やがて言葉に詰まると下を向いて両手で顔を覆い、これ以上は何も言えないようだ。
ルパンと次元は急に泣き出した彼女に少し慌てたが、顔を見合わすと、再びルパンが彼女の方へと寄った。
「ウチの家訓でよ。女には優しくしろってんだ。…俺でよかったら、胸貸すぜ」
「ルパン…!うわああぁぁ!!私…!わぁぁぁぁ!!」
涙と鼻水で自分の服が濡れるのも構わずに、泣きじゃくるフランに優しく胸を貸すルパン。次元も帽子を深くかぶり直すと、フゥ、と煙を吐いた。
優しく吹いた風が木々を揺らし、ざわざわと音を立てる。彼らの仕事は当初とは違う形ではあったが、無事終わりを迎えた。