Blue Archive Evolution 青春を抱く双翼の星 作:ゲーマーN
――アビドス市街地*1
「社長! ムツキ! ハルカ! 早く隠れよう! 奴らが来た!」
「奴らって?」
「うちの風紀の連中だよ! ここまで追ってくるなんて!」
便利屋68のメンバーは、突然の襲撃により混乱に陥っていた。その中でいち早く状況を把握したカヨコは、仲間たちに情報を共有する。しかしその矢先、カヨコを狙い撃つかのように、轟音とともに砲弾が上空から降り注いだ。
ズゴゴゴゴゴーーー!!
「危ない……!」
咄嗟にカヨコの前に飛び出したユメが、砲弾の雨を正面から防ぎ止める。自らの内より溢れ出る神秘を練り込んだ鋼鉄の盾は、彼女の自慢の後輩であるホシノには及ばないものの、砲撃の一発や二発程度であれば、余裕で防ぎ切れるほどの防御力を誇っている。
「大丈夫?」
「あ、うん……ありがとう……」
無事にカヨコを守りきれたのを確認すると、ユメはほっと安堵の息を吐いた。
「な、何っ!? ゲヘナの風紀委員会が便利屋を捕まえに来たってこと!?」
『まだわかりません……しかし私たちに友好的とは判断しかねます』
「確かに。砲撃範囲内には私たちもいた」
無論、自分たちを狙ったわけではないだろうが、あの混戦の中では区別などつくはずもない。巻き込んでも構わない、という程度の認識で行われた砲撃だったのだろう。少なくとも、自治区の管理者であるアビドス生徒会への配慮は微塵も見られなかった。
「そんな……」
「突然、攻撃なんて……! ここはアビドスよ!」
「アヤネちゃん、ホシノ先輩とはまだ連絡がつきませんか?」
『……はい。普段なら、ここまで連絡取れないことはないはずなのに……』
先ほどから何度もモモトークで呼びかけているものの、ホシノからの応答は一向にない。それどころか、既読すらつかない始末だ。モモトークの返事が遅れることはたまにあるが、それでもここまで反応がないのは初めての出来事だった。
「相手は風紀委員会……他校の公認武力集団や、便利屋のような部活とは性質が違います。一歩間違えれば、政治的な紛争の火種になるかもしれません……」
「じゃあどうしろっていうの? 便利屋の奴らをこのまま風紀委員会に引き渡せっていうわけ?」
「それは、で、ですが……それにしても彼女たちと戦うわけには……」
セリカの問いに、ノノミは何かを言おうと口を開いたが……結局、言葉は出てこなかった。彼女とて便利屋を売ろうなどとは思ってはいない。だが、相手がゲヘナ風紀委員会ともなれば、下手に動けば余計に状況を悪化させかねない。
「――安心なさい。そこの馬鹿共は私たちの獲物よ」
「え?」
困窮する二組の前に一歩進み出たサナは、鋭い目つきで風紀委員会を睨みつける。仮にも治安維持組織がこんな暴挙に出るなど、到底許されることではない。政治的紛争? そんな柵など自分たちには関係ないと、ハルとミカも彼女たちへの怒りを露わにしていた。
「サナの言うとおりだよ。……まったく、人様の土地で随分と好き放題するものだよね」
「あははっ、ヒナちゃんは大変だよね。こんな、余計な仕事を増やすような奴らなんかを率いないといけないなんて……ホント、考えるだけでゾッとしちゃうよ」
ゾクッと、アビドス生徒会と便利屋の面々の背筋に寒気が走る。自分たちに向けられた言葉ではないはずなのに、冷たい怒気を帯びた言葉の数々を聞くだけで、彼女たちが本気で怒っているのがひしひしと伝わってくる。
今目の前にいる3人が普段知る彼女たちと同一人物とはとても思えない。それほどまでに、今の彼女たちが纏う雰囲気はまるで別人のようだった。
◇ ◇ ◇
「迫撃砲、防がれました」
「ふん。歩兵、第2小隊まで突入」
ゲヘナ学園2年生。規則違反者へ情け容赦なく銃弾を撃ち込みにいく風紀委員会の切り込み隊長、
「……イオリ、あの方たちはどうします?」
「ん? ああ、向こう側の生徒? なんだって……アビドス?」
風紀委員会の期待の新人、
「そんなの当然、公務の執行を妨害する輩は全員敵だ」
「ならば、大人しくしていてもらいたいものですね……しかし、こちらの事情を説明するのが先かと……」
「説明? 必要か、それ?」
イオリは肩を軽くすくめ、傲岸不遜に言い放つ。その態度に、チナツはため息で返した。
「うちの厄介者どもを取っ捕まえるための労力が惜しい。もし邪魔するなら、部外者とはいえ問答無用でまとめて叩きのめす」
そう宣言するイオリの顔には、一切の迷いも不安も見られない。しかし、チナツは漠然とした不安を感じていた。本当にこのままアビドスの生徒たちと戦ってもいいのだろうか?
「待った!」
その疑念が正しかったと証明するように、1人の人物が、毅然と彼女たちの前に姿を現した。*2
「え……!? あ、あなたは……シャーレのハクノ先生!?」
「ん? シャーレ? なんだそれ?」
「連邦捜査部『シャーレ』……連邦生徒会長が失踪する以前に立ち上げた超法規的機関です」
連邦生徒会――キヴォトスの全行政を担い、学園都市の運営に従事する中央組織。その直轄機関に喧嘩を売ることが何を意味するのか、それを理解していないほどイオリも愚かではない。警戒の表情はそのままに、固有武器『クラックショット』の銃口を下げる。
「久しぶり、チナツ」
「まさかこんなところでまたお目にかかるとは……戦闘を開始する前に気付けたのは不幸中の幸いです。先生がそちらにいらっしゃるのならば、私たちに勝ち目はありませんでしたから……」
「な、なに!? どういうことだ!?」
「文字通りの意味ですよ。今の戦力では、先生の指揮する戦力を相手取るなど到底不可能です」
チナツはイオリにそう説明しながらも、意識の大半をハクノに集中させていた。連邦生徒会長が彼を特別に指名した理由を、彼女は以前の事件で痛感していた。圧倒的な戦術眼と判断力、そして戦況を一変させる卓越した指揮能力――彼がいる限り、生半可な戦力差など意味を成さない。
『アビドス生徒会の奥空アヤネです。ゲヘナの風紀委員会とお見受けしますが、これはいったいどういうことでしょうか?』
「それは……」
『それは私から答えさせていただきます』
『通信……?』
返答に窮したチナツの言葉を遮るように、突如第三者の声が通信に割り込んできた。アヤネが怪訝な表情を浮かべていると、ドローンから1人の少女の姿が投影される。
「アコちゃん……?」
「アコ行政官……?」
『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、
大胆にも横乳が露出した服装に、手枷やカウベルといった変た……独創的なアクセサリーの数々を身に着けた彼女は、自らをゲヘナの行政官と名乗った。その自己紹介にアビドス生徒会が警戒を強める一方で、イオリとチナツの2人は直属の上司の登場に戸惑いを露わにする。
「アコちゃん……その……」
『イオリ。反省文のテンプレートは私の机の、左の引き出しにあります。ご存知ですよね?』
途端にイオリの体がピタリと硬直する。何か言い訳をしようとしていたようだったが、結局は大人しく口を閉ざした。アコはその様子を確認すると、仕切り直すように軽く咳払いをしてから、改めてアビドス生徒会の面々へと視線を向けた。
アコが何を言うのか、アビドス生徒会一同は息を詰めて待ち構えていた。そして、彼女の口から発せられた言葉は――
――キヴォトス・某所*3
「これはこれは。お待ちしておりましたよ、暁のホル……いや、ホシノさんでしたね。これは失礼」
同時刻。黒服に身を包んだ異形の男が、目の前の少女へと告げる。不機嫌を隠そうともしないその少女――小鳥遊ホシノは、不気味な男に鋭い視線を向けた。
「いやいや、キヴォトスにはまだ馴染めていなくて。どうぞ、こちらへ、ホシノさん」
「……黒服の人、今度は何の用なのさ?」
「ふふ、状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」
丁寧かつ達観したような口調で語り続ける黒服だったが――
「……S計画」
「――」
ホシノが口にしたその言葉に、黒服は一瞬固まった。もし彼が普通の人間であれば、その表情は凍りついていたに違いない。しかし、異形の怪人たる彼は自らの感情を一切表に出さなかった。
「それにアリウスも……!! お前たちのどこに信じられる要素がある!!!」
「まあまあ、落ち着いてください」
「……!?」
「……お気に入りの映画の台詞がありましてね。今回はそれを引用してみましょう」
トサッと椅子に腰を下ろし、肘を机に立て、両手を口元で組むと、黒服は意味深に続ける。
「あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴ください。ククッ、クックックックッ……」
不穏な空気が漂い始める。黒服が提示する提案――それは、新たな波乱の予感をもたらす不吉な幕開けだった。斯くして、アビドス高等学校を巡る一連の問題は次の局面へと突き進んでいく。
TIPS:
風紀委員会。
ゲヘナ学園の委員会の一つ。銃弾飛び交うキヴォトス内でも特に治安が悪いゲヘナ学園の秩序維持を一手に担っており、同学園の生徒会である万魔殿よりも遥かに恐れられている。
れっきとした治安維持組織……のはずだが、アニメ版の「一般市民を平然と巻き込む範囲砲撃」という描写を見るに、彼女たちも無法者気質を備えていると思われる。
……仮に、地主の■■■■■■■■に戦闘行為の許可を取っていたとしても、無関係の一般市民を巻き込むのは流石に擁護のしようが……。