Blue Archive Evolution 青春を抱く双翼の星 作:ゲーマーN
――アビドス市街地*1
レールガン――弾体を電磁気力により加速して撃ち出す装置だ。火薬を使用する従来の銃器が直接弾頭を加速するのとは異なり、大電流によって生じた高熱でプラズマ化した導体が、射出体を押し出すことで発射されるという仕組みとなっている。
通常兵器とは一線を画す性能を誇る電磁投射砲の砲口が、無銘生徒会に属する3人――ハル、ミカ、サナへと何の躊躇いもなく向けられる。
ドカアアァァァァン!!
轟音。超高速の弾体が放たれ、周囲に眩い閃光が広がる。それは、並の生徒では回避も防御も迎撃も不可能な必殺の一撃。直撃すれば、命に関わるような重大な損傷は避けられない。
だが、その圧倒的な威力と破壊範囲を誇るレールキャノンの一撃は――
「あつっ!」
――正面から防がれる。仲間たちの前に飛び出したミカは両腕を真っ直ぐ前に突き出し、その隔絶した身体能力で音速の砲弾を受け止める。砲弾を掴み取った手からは白煙が上がり、砲撃の勢いに押されて足元の地面が数メートル後方まで直線上に抉られる。
そんな彼女の両脇を駆け抜ける2人の少女たち。迫りくる脅威を迎撃すべく、ウリディンムは第二の武装を解き放つ。
ズドドドドドドドッ!!
「――神秘再現! コード『IRON HORUS』!!」
合計6門の砲身を束ねたガトリングガンが、圧倒的な弾幕を以てハルとサナを飲み込む。砲身の回転によって火花が散り、膨大な量の弾丸の雨が少女たちを襲い続ける。それでも彼女たちは止まらない。猛烈な速度で掃射される銃弾の全てを先行するハルがユメの盾で防ぎ止める。
射程範囲内まで戦車との距離を詰めたサナは上空に跳び上がると、
「決めて、サナ!」
「残念だけど、それとは戦い慣れてるのよ!」
初動は遅く、けれどすぐに最高速に達したサナの
捉えるより先に、車体左右のミサイルポッドから放たれた無数のミサイルが、滞空するサナに殺到した。それらは
「……っ、これで仕留めたかったけど……流石にそう上手くはいかないみたいね」
対特記戦力用――アコの発言は誇張でも何でもない。無論、サナの最高火力に耐えられるほど頑丈に作られていないが、中途半端な火力で傷を付けられるほど甘くはない。ここがアビドスでさえなければ、そこまで苦戦する相手ではないのだが……。
ゲヘナほど生徒数が多くない上に、借金が原因で財政にも余裕のないアビドスでは、公共施設の復興すらもままならない。高火力攻撃の大半が使用禁止という縛りプレイを強いられていた。
ブロロロロッ!!
後退していたウリディンムが急速前進、正面から対峙する3人に突撃する。同時に放たれたレールキャノンの一撃はしかし、ハルの盾によって完全に防がれる。そして、本命の突進は――
「――ここから先は進ませないよ!」
再び前に出たミカがその身を以て防ぎ止める。口さがない者からはゴリラなどと称される理外の膂力により、超大型戦車たるウリディンムの突進を力尽くで押し止める。超大型戦車と華奢な少女の押し合いは、信じ難いことに拮抗するどころか徐々に戦車の側が押し込まれる。
「う、くうぅっ!!」
「それなら――『セイントプレデター』!!」
ギギッ……と踏ん張る足が地面を踏みしめ、戦車の突進の勢いを完全に押し返す。その間に体勢を立て直したハルは、また別の生徒の固有武器を再現する。その名も『セイントプレデター』。本来は半使い捨て式の携帯式対空ミサイルだが、固有武器本来の使用者の改造により、対地射撃・装填のほか、大量の子弾が散布される多弾頭ミサイルを発射する機能が追加されている。
上空で無数の子弾に分裂したミサイル群が車体へ次々と降り注ぐ。だが、その爆撃の雨を前にしても、ウリディンムの動きは止まらない。備え付けの対空機銃が大半のミサイルを撃ち落とし、打ち漏らしたものは堅牢な装甲で難なく弾き返す。
しかし、ミサイルの迎撃にリソースを割いたことで戦車の機動が鈍る。その隙をサナは見逃さない。一点集中――『フルーティーミックス』から放たれた閃光が主砲の砲身を撃ち貫く。
「これで一つ。取り敢えず、厄介な主砲は潰せたわね」
「けど、これでやっと一手。戦車の装甲もだけど、ここが市街地なのが厄介すぎる」
「うん、そこだよね。別に倒せないってわけじゃないけど……」
「あれを倒せるほどの火力となると、周りにも少なくない被害が出るからね」
「……彼女のコトだから、その辺りの事情も戦術に組み込んでそうね。少なくとも、足止めには十分過ぎるわ」
このまま膠着状態を続けるわけにもいかない。戦車を破壊すれば問題は解決するが……当然、それだけの破壊力ともなれば、余波で周囲に甚大な被害を及ぼす。多少の損害は仕方ないが、可能な限り建物などに被害を出したくない。極めて慎重な立ち回りが求められる。
どうしたものかと頭を悩ませる3人に――
ズドドドドドドドッ!!
「っ、『Eye of Horus』!!」
再び、ガトリングガンの苛烈な弾幕が襲いかかる。ロケット弾の命中で主砲――大口径電磁投射砲の砲身は歪んだものの、それ以外の部分は目立った損傷もない。安心と信頼のミレニアム製。最先端技術の結晶たる超兵器は、並大抵の攻撃では止まらない。
尤も、それは無銘生徒会の3人も同じ……否、それ以上だった。先頭を行くハルは銃弾の集中豪雨から仲間を守る傘となり、ミカとサナはお揃いの銃でガトリングガンを正確に狙い撃つ。
「行くわよ、ミカ!」
「うん、一気に行こっか!」
左右の斜向かいから同時に放たれる姉妹の銃撃。それはウリディンムの装甲を砕き、ガトリングガンの砲身を凹ませていく。弾幕が途切れた隙を狙って2人は接近。砲身に両側から万力のように蹴りを入れ――
「「――ストライクヘヴン!!」」
――捻り切る。砲身が歪み、銃としてまともに機能しなくなったガトリングは最早ただの飾りでしかない。最後に弾丸を数発撃ち込むと、2人はハルの元へと素早く退避する。
「これで副砲も破壊できた、残るは車体左右のミサイルポッドだけね」
「じゃ、私が正面から抑え込むからさ☆ ミサイルの対処はお願いしてもいいかな?」
「ええ、任せて頂戴! このまま一気に戦いを終わらせるわ!」
「私は右のポッドを、サナは左の方をお願い!」
「言われなくてもそのつもりよ!」
それぞれの役割を確認した3人は同時に駆け出した。ミカは戦車の正面に躍り出てその進撃を力で抑え込み、ハルとサナは左右から回り込むようにしてミサイルポッドの破壊を狙う。
ダダダダダダダダッ!! ダダダダダダダダッ!!
銃火が左右から弾ける。装甲が抉れ、損傷を受け、白煙を上げながら爆発が続く。その勢いで戦車が少しずつ後退し、ついに――
戦車が、その巨体を地に伏せる。装甲は剥がれ落ち、主砲の電磁投射砲は砲身がひしゃげ、副砲のガトリングガンも完全に破壊されている。それでも戦車は動く……まだ動くが、それはもはや戦闘態勢にはない。車体から黒煙を噴き上げる戦車を前に、3人は一息つく。
「ここはもう終わりかな?」
「うん、そうだね。けどまだ戦いは終わってない。さ、早いところ先生たちを助けに行こう!」
「人数なら向こうが圧倒的に有利だし……ここは確かに、先生たちに加勢するべきね」
これで終わりではない。今、3人が破壊した戦車は風紀委員会が目標を達成するまでの足止めに過ぎないのだ。本命であるシャーレの先生を守り抜くには、四方から迫りくる風紀委員会による包囲網を突破しなければならない。
そして――その機会は、すぐに訪れた。
ドガアアァァン!!
轟音を立てて、戦車が爆発を起こす。爆炎が晴れると、そこに立っていたのは――
◇ ◇ ◇*2
「ウリディンム、特記戦力により破壊されました!」
「第1中隊、全滅です! 退却し、再整備に入ります!」
「第3中隊、これ以上の続行は不可能! 補給のため、一時撤退します!」
『なるほど……』
各部隊からの報告を受け、アコは小さく頷いた。風紀委員会の切り札であるウリディンムを失ったのは大きな痛手だが、それでも戦力はまだ十分に残っている。
シャーレの先生の周囲では、三方向それぞれで激しい戦闘が続いていた。絶え間なく響く銃声と爆音が戦場を包み、撤退を余儀なくされる風紀委員の部隊。対して、アビドス陣営は一歩も退かない。戦場に点在する遮蔽物を活かし、先生の指揮により進軍を徹底的に封じ込めていた。
『だいたい把握できました。シャーレの力、必要となるであろう兵力……素晴らしいですね、予想を遥かに上回っています。決して甘く見ていたわけではないのですが、もっと慎重に進めるべきだったかもしれません』
特記戦力の3人さえ排除すれば、シャーレの先生確保は容易い――そう踏んでいた。だが実際には、その逆。風紀委員会の切り札は無力化され、戦況は一気にアビドス側へ傾きつつある。
このままでは特記戦力3人が前線に合流し、風紀委員会が敗北する可能性が高い。それでも、アコの表情に焦りはない。なぜなら、彼女たちにはまだ多くの戦力が残されているからだ。
『それでも、決して無敵というわけではありません。弱点も見えましたし……おおよその戦況は読めました。この辺りをもう少し押していけば……折れるのは、時間の問題ですね』
ここで勝負をかける――アコはそう判断し、大きく息を吸い込むと号令を下した。
『第8中隊。後方待機をやめて、突入してください。並びにウリディンムⅡを前線に投入。特記戦力を足止めします』
アコの指示を受け、風紀委員会の部隊は新たな戦力を次々と展開する。
◇ ◇ ◇
一方、アビドス陣営は――
『風紀委員会、第三陣を展開してきました!』
「はあ……はあ……まだいるの!?」
「この状況でさらに投入……!?」
「た、大したことないわよ! まだまだ戦えるんだから!」
アヤネの報告を聞き、セリカとカヨコは驚愕する。風紀委員会が投入した戦力は、こちらの予想を大きく超えていた。このままでは先生を守り切れないかもしれない――。
そんな2人の不安を振り払うかのように、アルが声を上げる。その声には力強さが込められていたものの、不安を押し隠そうとする張り詰めた響きが混じっている。彼女もまた、敵の追加戦力に動揺を隠しきれずにいるのだろう。
「それはそうだとしても……これはもう、アコの権限で動かせる兵力を超えてる。ということはこの襲撃、アコの独断じゃなくて、まさか……」
「……風紀委員長が?」
「えっ、ヒナが来るの!? 無理無理無理!? 逃げるわよ、早く!!!」
「いや、そうは言ってない……落ち着いて、社長……」
白目を剥き、ヒナとの接触を拒絶するアルを見て、カヨコは困ったようにため息をついた。余裕がないのはわかるが、もう少し冷静になってほしい――それが正直な気持ちだ。もし本当にあのヒナが来ているのならば、とっくにアビドスの生徒たちは完全に制圧されているはずだ。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
『ふふっ、これ以上は流石に……委員長に知られてしまったら、イオリと仲良く反省文ですね……さあ、では……三度目の正直と行きましょうか。風紀委員会、攻撃を――』
その言葉が終わることはなかった。
ザザッ――!
アコの指示を遮るように通信が割り込む。唐突なノイズに一瞬戸惑いを見せたアコだったが、すぐに通信相手の声が聞こえてきた。その声の主は――
『アコ』
『……え? ひ、ひ、ヒナ委員長!?』*3
「委員長?」
「あ、あの通話相手が……? 委員長ってことは、風紀委員会のトップ……?」
『い、い、委員長がどうしてこんな時間に……?』
ゲヘナ学園3年生。自由と混沌を掲げるゲヘナ学園において、風紀・治安を司る風紀委員会を束ねる委員長。名実ともにゲヘナ最強の名を恣にする生徒――空崎ヒナ。その声を聞いたアコは狼狽えるが、ヒナは動揺を無視して淡々と問いかける。
『アコ、今どこ?』
『わ、私ですか? 私は……そ、その……えっと……げ、ゲヘナ近郊の市内の辺りです! 風紀委員のメンバーとパトロールを……』
「思いっきり嘘じゃん!」
「やっぱり、行政官の独断行動だったみたいですね……」
通信を傍受しているアビドス側の生徒にも、会話の内容ははっきりと聞こえていた。ヒナの問いかけに対して、言葉を詰まらせながらも答えるアコの姿は、先ほどまでの自信に満ちた指揮官とはまるで別人のように弱々しい。まるで親に叱られる子供のようだ。
『そ、それより委員長はどうしてこんな時間に……出張中だったのでは?』
『さっき帰ってきた』
『そ、そうでしたか……! その、私、今すぐ迅速に処理しなくてはいけない用事がありまして……後ほどまたご連絡いたします! い、今はちょっと立て込んでいまして……!』
一刻も早く会話を切り上げようとするアコ。だが、その慌ただしい言動に不審を抱いたヒナが、冷静ながらもわずかに語気を強める。それだけで、アコは追い詰められたかのように焦り、取り繕うような言葉を並び立てる。
『立て込んでる……? パトロール中なのに珍しい、何かあったの?』
『え? そ、その……それは……』
「『他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないようなことが?』」
ヒナの声が二重に聞こえた。その事実にアコは驚き、反射的に周囲を見渡すが、周りには誰の姿もない。そして、胸騒ぎを覚えながら通信装置のモニターに目を戻すと――
『……え?』
そこには――ハル、サナ、ミカの3人を従えた空崎ヒナが、何時の間にか映り込んでいた。
『……えっ?』
「っ!?」
「え、あれっ!?」
「!?」
「ヒナちゃん!?」
「い、い、い、委員長!? い、一体いつから!?」
「!!」
『……え、ええええっ!?』
有り得ない事態にアコは愕然とする。当然、現地にいる生徒たちもまた騒然とした声を上げ、場は一気にざわつき始める。誰もが状況を理解しきれない混乱の只中にあってなお、ヒナは冷徹な眼差しを崩すことなく、静かに問い詰めた。
「……アコ。この状況、きちんと説明してもらう」
――斯くして、シャーレの先生を巡る戦いにゲヘナの《暴君》空崎ヒナが参戦するのだった。
TIPS:
ウリディンム。ミレニアム製のA級大型戦車。
元ネタは、『メソポタミア神話』より『ティアマトが生み出した11の怪物』の一柱である『ウリディンム』と、『英雄伝説 空の軌跡SC』に登場するボスの1体『オルグイユ』。
TIPS:
ストライクヘヴン。
元ネタは『英雄伝説 碧の軌跡』より主人公『ロイド・バニングス』と『ワジ・ヘミスフィア』のコンビクラフト『ストライクヘヴン』。