Blue Archive Evolution 青春を抱く双翼の星 作:ゲーマーN
――ブラックマーケット・外縁部
「はあはあ……」
「……流石にここまで追ってくる気配はないね」
「はい……逃げ切れたのでしょうか?」
大通りに飛び出した少女たちは、オートマタたちを振り切るべく必死に走り続けていた。……ようやく撒くことができたのだろうか? 周囲に敵の気配は感じられない。だが、あれだけの戦力を動員してきた以上、そう簡単に諦めるとは思えないが……。
「ひぃん……もうクタクタだよぉ……」
「ユメ先輩、まだ合流地点まで距離があります。今は無理をせず、少しずつ進みましょう」
全員で頷き合い、再び歩き出す。確かに敵の姿は見当たらないものの、それが此方を油断させるための罠である可能性も否定できない。慎重に慎重を重ねながら、5人の少女はブラックマーケットの外へと続く道を進んでいく。
「――さてと、このまま大通りを進むとして。先にアヤネちゃんに連絡しますか?」
「うん、お願い。繋がりにくかったら、ハルの方にも連絡してみて。そろそろハルたちの方も片付いてる頃だと思うしねー」
「はい、分かりました」
ノノミは通信機を取り出し、先生の護衛として待機しているアヤネに呼びかける――が、うんともすんとも反応がない。まるで通信機自体が壊れてしまったかのように。
まさか、と嫌な予感を覚えつつ、今度はハルへ連絡を入れるが……結果は変わらない。通信機から聞こえてくるのは砂嵐のようなノイズ音のみ。電波障害か? それとも何者かによって妨害されているのか? いずれにせよ、味方と通信が取れない状況に変わりはなかった。
「……繋がりません」
「電波障害? このタイミングで?」
「はい。ハル先輩にも連絡をしてみたのですが、応答がなくて」
「まさか……妨害電波?」
有り得ない話ではない。仮にもブラックマーケットを管理している治安機関だ。こうした事態を想定し、街中に電波障害を発生させる機材を設置していても不思議ではない。元より、彼女たちアビドス生徒会が外部と連絡を取るのは難しい状況だったというわけだ。
ブロロロ……!
「今度はなに……!?」
「えっ……? ま、まさか……」*1
ブラックマーケットの外へと続く道から聞こえてくる複数のエンジン音。それは次第に大きくなり……やがて、複数の装甲車両が少女たちの前方を塞ぐように停車した。そして、その中からは案の定と言うべきか、先程までと同じようなオートマタたちが次々と降りてきた。
「マーケットガード……!?」
「さっきまでの奴らとは別働隊みたいだね……」
「この数は……ヒフミさんが怯えていたのも無理はありません……」
「でも、ここは突破するしかないわよ!」
数の差は圧倒的だ。それでも、彼女たちは戦う覚悟を固め、自らの固有武器を構えた。あと少しでブラックマーケットから脱出できる。こんなところで捕まるわけにはいかない。必ずアビドスに帰るのだという強い意志で心を奮い立たせる。
一方のオートマタたちも、ターゲットを捕縛すべく行動を開始する。車両から降り立ったオートマタたちは、それぞれの武装を構え、5人の覆面を包囲するように展開を始めた。
「覆面水着団だ!」
「捕らえろ、逃がすな!」
大人しく包囲されるほど彼女たちも甘くはない。それぞれが武器を手に一斉にオートマタへと突撃する。
見事な連携で、彼女たちは少しずつではあるが着実にオートマタを撃破していく。一人一人はそれほど強力ではないが、圧倒的な数の差が油断を許さない状況だった。
「さて、歓迎の挨拶なら返してあげないとね? みんな! 私たちが耐えてる間に、攻撃して!」
「うん!」
「はい!」
「やってやるわ……!」
一気呵成の勢いで攻勢に転じる覆面水着団。包囲陣を突破すべく、彼女たちは持てる力の全てを注いで反撃を開始する。この戦闘に長々と時間を割く余裕はない。これ以上敵が増える前に、一刻も早くブラックマーケットから脱出しなければならない。
「……まずい、突破されるぞ!」
「何としても止めろ! これ以上の損害は許容できない!!」
徐々にではあるが包囲網に穴が空きつつある状況を見て、警備部隊のオートマタたちは明らかに焦りを見せた。このまま逃げ切られれば、彼らの面目は丸つぶれだ。被害を最小限に抑えつつ、何としてでも捕獲しなくてはならない――その使命感に突き動かせるように銃撃を続ける。
だが、気持ちであれば覆面水着団も負けてはいない。どれほど不利な状況であろうとも、決して諦めたりはしない。不屈の精神と決意、そして覚悟が彼女たちを支えていた。
「よし……抜けたわよ!」
「みんな、このまま外まで――」
ブォォォォ……!!
「ひぃぃん……」
「っ……流石にアレは無理ですね」
包囲網を突破した……と思ったのも束の間。今まで以上に大きなエンジン音とともに、大型の装甲車両が2台、行く手を遮るように現れた。しかも、それだけでは終わらない。両腕に三連銃身のガトリングガンを搭載した巨大兵器《ゴリアテ》までもが待ち構えている。
おそらく、あの装甲車両の中にはさらに多数のオートマタが待機しているのだろう。加えて、後方からも敵が迫っている。覆面の下で、大粒の汗が頬を伝い落ちた。
「……絶体絶命?」
「包囲されちゃったかー……」
「……」
状況は最悪。文字通り万事休す。前にも後ろにも進めない、四面楚歌の状態だ。決して敵の戦力を過小評価していたつもりはなかったが、ここまでの数で攻めてくるとは想定外だった。結局、甘く見ていたのは自分たちの方だったのかもしれない。
ブォッ! その時、不意に彼女たちの前に1人のロボットの姿が投影される。赤いネクタイを首に巻いたスーツ姿の大柄なロボットが、堂々とした態度で口を開く。
『侵入者とは聞いていたが……アビドスだったとは』*2
「な、なによこいつ……」
「(あいつは……)」
『まさか、こんな真似をするとは思っていなかったが……まあいい』
スーツを着た大柄なロボット。大仰な口調と仕草から、高い地位にある者だと察せられる。自分こそが上位者であると暗に示すような、支配者然とした態度を隠そうともしない。アビドス生徒会の中でただ一人、ホシノだけはそのロボットに見覚えがあった。
それは、生徒会長の座を継いで間もない頃のこと。例によって、黒服から交渉を持ちかけられた際の出来事だった。
◇ ◇ ◇
「それでは、今後は次の生徒会長であるあなたが借金を返していく、ということでよろしいのでしょうか? それとも……私の提案を受け入れますか? 小鳥遊ホシノさん?」
◇ ◇ ◇
「(あの時の……)」
黒服の傍らに控えていたカイザーグループのロボット。以前は一言も発することがなかったが、間違いない。忘れるはずもない。特徴的な身なりが、記憶の片隅を強烈に刺激している。
『勝手に人の私有地に入り、暴れたことによるこれらの被害額。先日の1億も含め、君たちの学校の借金に加えるべきか?』
「アビドス? なんのことかさっぱり分からないね~。私たちは覆面水着団……アビドスなんて学校は知らないなー」
『……そうか、あくまでシラを切るつもりか』
自分の名前は覆面水着団のコーラル。アビドスなどとは何の関係もない覆面だと、僅かに冷や汗を滲ませながらも言い張る。ここで弱みを見せてしまえば、付け込まれる隙を与えてしまう。スーツ姿のロボットは、そんな少女の涙ぐましい努力を嘲笑うように続ける。
「便利屋……? な、何を言ってるの?」
「……あなたは、誰ですか?」
『……まさか私のことを知らないとは。アビドス、君たちならよく知っている相手だと思うがね』
半ば以上呆れを含んだ声音で、彼は自らの正体を明かす。
『私は、カイザーコーポレーションの理事を務めている者だ。そして君たち、アビドス高等学校が借金をしている相手でもある』
「!!」
「……嘘っ!?」
「アビドスが、借金をしている相手……」
『正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ。……ああ、今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている』
アビドス生徒会の面々は、覆面の下で驚愕の表情を浮かべたまま言葉を失った。覆面水着団という設定を押し通そうとしていたが、目の前にカイザーコーポレーションの理事がいるという現実には、流石に動揺を隠せなかった。
ホシノの心臓は早鐘のように激しく打ち、冷や汗が背中を伝って流れ落ちる。もしここで捕縛されれば、アビドス高等学校の未来は完全に閉ざされる。必死に目だけで逃走経路を探るが、どこにも逃げ道は見当たらない。カイザーの理事は冷ややかな眼差しを彼女たちに突き刺す。
『……感心だな、君たちの方から捕まりに来てくれるとは。手間が省けて助かるというものだ。数百両もの戦車、数百名もの選ばれし兵士たち。数百トンもの火薬に弾薬。たった5人しかいない君たちが、逃げ切れるなどと本気で思っていたのか?』
「……っ!!」
『もはや借金など関係ない。ここで君たちを捕まえてしまえば、アビドスの生徒会はもう存在しないも同然。公的な部活も、委員会も、生徒会も、自治区も、生徒すらも無いアビドスは、学園都市の学校として自立・存続が不可能だと判断……アビドス高等学校は廃校になるというわけだ』
アビドス高等学校の生徒は5人。アビドスの最後の生徒であることに違いはない。厳密には、ユメは卒業生であり、本当の意味で最後の1人であるアヤネは別にいるのだが、まだ1年生の彼女にできることは限られている。理事の口にした「廃校」という運命は、単なる脅しではなく、確実に現実になろうとしていた。
『だが安心しろ。アビドスの主人である我がカイザーコーポレーションが、あの学校を引き受けてやろう。そうだな、新しい学校の名前は《カイザー職業訓練学校》にでもしようか』
「!!」
「そんな未来が来るわけないでしょ! こっちにはあんたたちの不正の証拠があるのよ!!」
『……くくくっ、何を言ってるのやら』
諦めずに反論するセリカだが、カイザーの理事は冷笑で返すばかり。証拠など存在しないと高を括っているのか。それとも、たとえあったとしても問題にならないと考えているのか。いずれにせよ、自らの優位を疑う素振りは微塵もなかった。
『不正の証拠だと? 面白いことを言うじゃないか、今すぐにでも連邦生徒会に通報してみたらどうだ? 君たちはこの状況について、今まで何度も連邦生徒会に嘆願してきたのだろう? それで、一度でも動いてくれたことがあったか?』
「……」
『無かったはずだ。何せ連邦生徒会は今、動けないからな』
事実だった。現在、連邦生徒会は連邦生徒会長の捜索にかかり切りであり、各学園の問題にまで関与できる余裕はない。そのことは、アビドス生徒会の生徒たちも理解していた。加えて、連邦生徒会内部には獅子身中の虫が潜んでいることも――。
黙り込む少女たちを見て、カイザーの理事は追い打ちをかけるように、情け容赦なく言い放つ。
『連邦生徒会でなくてもいい。今までどこか他の学園が、君たちのことを助けてくれたことはあったか? ……そろそろわかっただろう? 誰一人、君たちに手を差し伸べる者はいない』
誰も言葉を発せず、沈黙が支配する。再び理事が彼女たちの努力を嘲笑った――その時……。
ドカアアァァァァン!!
「!?」
突如として、目の前に立ち塞がる装甲車両の1台が爆発する。思わぬ事態に驚愕するカイザーの理事と警備部隊のオートマタたち。しかし、それはただの始まりにすぎなかった。
『なっ!? き、北の方で大きな爆発を確認!』
『合流予定のブラボー小隊が巻き込まれて――!!』
「何!?」
ドカアアァァァァン!!
『東の方でも確認! 合流予定だったマイク小隊も、大量のC4の爆発で……!!』
「何が起きている!? アビドスの連中は、ここにいる5人で全員のはず……!!」
各地で次々と爆発が起こり、理事の顔には狼狽の色が浮かんでいた。アビドス高等学校の生徒は5人で間違いないはずだ。ならば、この爆発は一体何者が引き起こしたというのか。その場にいる者たちが混乱する中、不意に鋭い声が空気を切り裂いた。
「全く……大人しく聞いていれば、何を戯れ言ばかり言ってるのかしら……」
「うへ……」
「……こ、この声は!」
全員が声のした方へ顔を向けると、そこには見覚えのある4つの影が立っていた。*3
「手を伸ばす者が1人もいない? 冗談もそこまでにしなさい。ここに4人もいるわよ!」
「じゃーん! やっほ~☆」
「……」
「お、お邪魔します!」
「アルちゃん……!」
「……もうっ。遅いわよ、便利屋!!」
便利屋68の4人。ほんの数秒前まで気配すらなかった彼女たちが、カイザーグループ傘下のオートマタたちを鋭く狙い定めていた。アビドス生徒会の面々は、驚き、喜び、興奮など、様々な反応を見せつつも、彼女たちが駆けつけてくれたことに安堵していた。
「ふふっ、ふふふふふ……準備はできています、アル様。仕込んだ爆弾もまだまだたくさんありますので……」
「……埋めておいた爆弾で、敵の増援を遮断。その間に敵の指揮官を無力化させて、指揮系統を崩壊させる。これで敵対勢力の連携を一気に瓦解させる……本来なら、風紀委員会相手に使うはずの戦術だったけど。ま、予行演習ってことにしておこうか」
何時の間に仕込んでいたのか。予め地面に仕掛けられていた爆弾が、カイザーグループのオートマタの行動を制限していた。まるで、この状況を事前に予測していたかのように、的確に戦力を削り取っていく。
「目を開けなさい。小悪党のあなたたちに今から、真のアウトローの戦い方を見せてあげるわ」
スッと、視線を
「ハルカ」
「はいっ!」
ドカアアァァァァン!!
ドドドドドドドドォォン!!
ドカアアアァァァァァァァン!!
「ぐあああぁぁっ!?」
ブラックマーケット全体に轟くような爆音とともに、周囲の警備部隊のオートマタが一斉に吹き飛んだ。装甲車両も例外ではなく、爆発の衝撃で装甲がひび割れ、車体は大きく歪んでいる。中にいた者たちも、無事では済まないだろう。
「わあ☆ すごいタイミングですね!」
「……狙ってたみたいだね」
「ふふっ、そんなつもりは無かったのだけれど。ちなみに、来たのは私たちだけではないわよ」
「え……」
アルの左右から、覆面を被った2人の人物が姿を現す。片方は0の覆面を被った少女、もう片方はTの覆面を被った大人。彼らの姿を目にしたアビドス生徒会の5人は、驚愕に目を見開いた。
「……遅れました!」
「これで、覆面水着団集合だね」
「アヤネちゃん!?」
「先生も……!」
『貴様ら、飼い犬の分際でよくも……っ!』
一転攻勢――勝利目前まで追い詰めていた理事たちは、便利屋68の乱入により形勢を覆されてしまった。飼い犬に手を噛まれた理事は怒りに満ちた形相で便利屋を睨みつけるが、当の彼女たちは意に介する様子もなく言葉を続けた。
「うるさいわね、そんなの知ったこっちゃないわよ! あなたなんかより彼女たちの方が、一緒に仕事がしやすかった! それだけの話!」
「あはっ。雇い主を裏切ることくらい、悪党としては当然でしょ! そんなことも予想できなかったの?」
「さ、流石です! い、一生ついていきます! アル様!!」
凶悪な笑みで胸を張るムツキと、興奮気味に声を上げるハルカ。ただ一人、カヨコだけは「……はあ」とため息をついたものの、すぐに気を取り直して銃口をカイザーの戦力へ向ける。
「便利屋のみんな……」
「そうだね、確かに悪党としては正解」
「……どうやら、これで形勢逆転のようですね」
「覚悟しなさいっ! ギタギタのパーにしてやるわ!」
ドカアアァァン!! 何度目かの爆発が響き渡ると同時に、理事の怒気を帯びた叫びが周囲に木霊する。
『くっ、この期に及んで無意味な抵抗を……! よくも……!!』
「さあ、今こそ協業の時よ! 合わせられるわよね、覆面水着団!? そこの三下たちに、私たち真のハードボイルドの力を見せつけてやるわ!」
アルの呼びかけに応え、全員が武器を構える。そして――
「じゃ、派手に行こっか~!」
これまでアビドスを苦しめてきたカイザーグループとの戦いが、ついに幕を開けた。
TIPS:
便利屋68。
この世界では
アビドス生徒会と便利屋68、双方が互いに向ける好感度が原作以上に高くなっています。