Blue Archive Evolution 青春を抱く双翼の星   作:ゲーマーN

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C-1-2-10 ブラックマーケット突破戦(3)

 ――ブラックマーケット・外縁部*1

 

『くっ、一度撤退だ! 兵力の再調整に入れ!』

 

「は、はいっ!!」

 

『覚えておけ、この代償は高くつくぞ……!』

 

 それからしばらくして、アビドス、便利屋68、そしてカイザーグループの戦いは終結した。

 カイザーグループのオートマタはほとんどが機能を停止し、装甲車両は全滅。ゴリアテも両腕と頭部を失い、完全に沈黙している。一方で、アビドス生徒会と便利屋68のメンバーは、多少のかすり傷こそ負ったものの、全員がほぼ無傷の状態だった。

 盛大に卓袱台を返される形となった理事は、負け惜しみを吐き捨てながら撤退していく。

 

「敵兵力、退却していきます……」

 

「ふぅ……」

 

「……ん」

 

「……」

 

 シロコが額の汗を拭い、ノノミは深く息をついた。戦闘の緊張から解放された2人は、便利屋68の4人に目を向ける。彼女たちもまた、一つの戦いを終えて気が抜けたのか、武器を下ろし、雑談を交わしていた。

 

「いや~、あれこそまさに本物の三流悪党のセリフって感じだね。『覚えておけー』なんて、実際に初めて聞いたよ」

 

「想定通り、大体上手く行った。風紀委員会相手でも通用すると良いけど……」

 

 一先ず安全は確保できた。あとはアビドスまで不正の証拠を持ち帰り、それを大々的に公表すれば、カイザーグループに大打撃を与えることができるだろう。連邦生徒会としても、無視できない大事件となるに違いない。

 違法金利、反社会勢力への資金提供、その他にも多数の犯罪行為が明るみに出ることになる。アビドスだけでなく、カイザーグループそのものへの牽制にも繫がるはずだ。

 

「……とりあえず、これであとは帰るだけってことよね?」

 

「うへ~、必要な証拠は全部手に入れたもんねー」

 

「よし、それじゃあアビドスに帰ろう」

 

「……皆さん、そう単純な話ではないみたいなんです」

 

 セリカ、ホシノ、シロコが帰還を提案するも、アヤネがすぐに待ったをかけた。カイザーグループの兵力が撤退したことで、アビドス生徒会は確かに全滅の危機を免れた。しかし――

 

「どうやらブラックマーケットの外にも相当な戦力が展開されているみたいです。主にオートマタのようですが……」

 

「……ん。アビドスまでは距離がある。せめて(アシ)さえあれば、何とかなるかもしれないけど……」

 

「っ……」

 

「……厄介ですね」

 

 シロコの言う通り、ブラックマーケットからアビドスまでは距離がある。車でもなければ移動に時間がかかるし、カイザーの警備部隊もまだ残っている。突破するのは容易ではない。

 それでも、ここで諦めるわけにはいかない。彼女たちには守るべき故郷と学校があるのだから。

 

「――それは私たちが何とかするわ」

 

「アルちゃん……? それってどういう……」

 

「ここから少し離れたところに私たちの車が停めてあるわ。防弾仕様だし、かなりの速度が出るから強行突破には打って付けよ。今から案内するから、急いで乗りなさい」

 

「うへ……」

 

「確かにそれなら……!」

 

 アルの申し出は、まさに渡りに船だった。カイザーグループの包囲網を突破する機動力は、今のアビドスには用意できない。加えて、アルたちは信頼に足る人間だ。彼女たちの提案を拒む理由はなかった。

 

「前にも言ったでしょう? 信頼には信頼で報いる、それが私たち便利屋68のモットーよ!」

 

「っ……ありがとう、アルちゃん!」

 

「皆さん、このご恩は必ず!」

 

「礼はいいから、早く行くわよ! カイザーの連中もすぐに態勢を立て直すわ!」

 

「うへ~、急がないとだね~」

 

「……ん。行こう」

 

 アルの先導に従い、アビドスの生徒たちと先生は車を停めた地点まで急ぎ足で向かう。カイザーグループの脅威が迫る中、彼女たちは車を目指して走り出した。

 

 ◇ ◇ ◇*2

 

 道路沿いには複数の装甲車両と、何人ものオートマタが立ち並んでいる。ここ以外にもアビドス自治区へと繋がる全ての道に部隊が配備されており、アビドス生徒会と便利屋68のメンバーを捜索している。包囲網は着実に狭まりつつあり、完成すれば彼女たちに逃げる術はないだろう。

 ――ブロロロロッ!! 突如、1台のリムジンが道路を猛スピードで駆け抜ける。進路上のオートマタたちは轢かれまいと、一斉に左右へと飛び退いた。

 

 ダダダダダダダダッ! ダダダダダダダダッ!

 

 轢き逃げ上等の突進を避けつつ、オートマタたちは銃弾の雨を浴びせた。しかし、防弾仕様の特別製車体には通常の銃器では全く歯が立たず、放たれた弾丸は火花を散らして弾かれてしまう。リムジンはそのまま速度を緩めることなく、アビドスへと続く道を突き進んでいく。

 無論、オートマタたちも黙って見過ごすつもりはない。即座に追撃態勢を整えるが――リムジンの後方からバラ撒かれた大量の爆弾によって、まとめて吹き飛ばされる。

 

「うわぁ、さいこー☆」

 

「カヨコちゃん……すっご~い!」

 

「まさか、あんな簡単に突破できてしまうなんて……」

 

「……少し、驚いた」

 

「この感じ、なんだか久しぶりだね。よし、このまま飛ばしてアビドスに向かうよ」

 

 運転手はカヨコ。便利屋68の課長を務める彼女は、卓越したドライビングテクニックと状況判断能力でリムジンのハンドルを自在に操り、立ちはだかるオートマタを蹴散らしつつ、アビドス自治区への最短経路を迷わず進んでいく。

 何台もの装甲車両を相手にしているというのに、その勢いはまるで衰えを知らない。カヨコの手にかかれば、この程度の包囲網など障害ですらなかった。

 

『先生、まだです!』

 

「アロナ……?」

 

『後方から車両が接近……! この反応は……カイザーPMCの新型車両です!』

 

「……っ!? カヨコ、後ろから新手が来てる!」

 

 後方から迫る2台の車両。フロント部分にはカイザーPMCのロゴマーク――タコをモチーフとした三角形のシンボルが描かれている。車体上部に備え付けられた4門の発射装置が火を吹き、白煙を引くミサイルが次々とリムジンへ襲いかかる。

 カヨコは即座に反応し、右へ、左へ。リムジンの車幅ギリギリの機動で回避を続けるが、そのぶん加速は鈍る。追いついた1台が、間髪入れずにガトリングガンを撃ち込んでくる。

 

 ズドドドドドドドッ!!

 

「うわっ……!」

 

「うわあ!?」

 

「ま、まずいわよ!」

 

「これはまた、とんでもないモノを持ち出してきたねー」

 

 リムジンの車体に次々と穴が穿たれ、小さな爆発が弾ける。顧客の信用を得ようと見栄を張るアルの悪癖で、無駄に高い金を注ぎ込んだだけあって、通常の車両とは比べ物にならないほど頑丈な装甲だが、流石にガトリングガンが相手では無事とはいかず、徐々に損傷が広がっていく。

 

「とにかく振り切るしかない……! みんな、しっかり掴まって――」

 

 ガシャーン!!

 

「がっ……!?」

 

 その時、運転席の防弾ガラスが砕け散り、無数の弾丸が車内に飛び込んできた。カヨコの運転を妨害し、車両の制御を奪うために放たれたものだ。いかに生徒たちの頑丈な身体といえども、ガトリングガンの直撃には耐えられない。

 だが、このまま車を停めるわけにはいかない。カヨコは強く歯を食いしばり、なおもハンドルを握り続ける。

 

「カ、カヨコ!?」

 

「カヨコちゃん!?」

 

「ち、血が……!」

 

「だ、大丈夫……掠り傷だよ……」

 

 口ではそう言うものの、カヨコの状態は明らかに深刻だった。口元からは血が滴り、頬には弾丸が掠めた切り傷が生々しく残る。それでも彼女はハンドルを決して離さず、2台の車両の追跡を振り切ろうとアクセルを限界まで踏み込む。

 

「っ……しつこい!」

 

 敵車両は執拗に追撃を仕掛ける。何度も何度も弾丸を浴びせ、カヨコの運転するリムジンを逃がすまいと追いすがる。このままでは装甲が破られ、追い付かれるのも時間の問題だった。

 だが、カヨコは諦めない。ここで車を停めてしまえば、全てが終わる。アビドスの生徒たちも、シャーレの先生も、自分たちも――誰一人として助からない。ならば、何としてでも振り切るしかない。そう強く胸に刻み――

 

「後方からもう1台車両が接近中! 装甲車以外にも戦車やヘリまで……!」

 

「そ、そんな……」

 

「カヨコ……もう停車しなさい! 早く手当てをしないと……!」

 

「いいからしっかり掴まってて……! 仕事は最後までこなすのがプロフェッショナルだよ」

 

「カ、カヨコ……」

 

 アルが必死に説得するが、カヨコは聞く耳を持たず、なおもアクセルを踏み続ける。後先を考えない衝動的な行動には頭を抱えることも多いが、それでも彼女は今の仲間たちと過ごす日々を大切にしていた。かけがえのない仲間たちを、大切な居場所を……絶対に失うわけにはいかない。

 傷は深いものの、命に関わるほどではない。カヨコは痛みに堪えながら、必死の思いでハンドルを握り続ける。

 

「あ……。――もう1台の車両は、カイザーの車両ではありません! あの戦車は……!!」

 

「あれは……!?」

 

「……トリニティのクルセイダー巡航戦車です! いったいどうして……」

 

 後方につくカイザーの新型車両に並んだクルセイダー巡航戦車は、横からの体当たりで敵車両を車線の外に押し出す。押し出された車両は縁石に引っ掛かり、体勢を崩した車体は道を外れて勢いよく横転し、そのまましばらく滑走した後、横倒しのまま動かなくなった。

 もう1台がガトリングガンを撃ち込んでくるが、クルセイダー巡航戦車は自慢の装甲で弾丸を跳ね返し、互いに激しくぶつかり合う。

 

『あ、あぅ……わ、私たちです……』

 

「あっ! ヒフ――」

 

『ち、違います! 私はヒフミではなく、ファウストです!』

 

『同じくメフィスト(アズサ)アディ(セリカ)、暗号は通信の基本だ。正体がバレるから名前は言わないこと』

 

「え……? 今、暗号って必要……?」

 

『当たり前だ!! セキュリティの徹底は基本! 返事は?』

 

「あ、うん……」

 

 アズ――もといメフィストの勢いに押され、思わず素直に返事をしてしまうセリカ。

 今回の戦いに関係のないはずのファウスト(ヒフミ)メフィスト(アズサ)が、トリニティが保有する巡航戦車で駆けつけたのか。その理由は彼女たちにも分からない。ただ、ひとつだけ確かなのは――あのクルセイダー巡航戦車は間違いなく自分たちの味方であるということだった。

 夜の暗闇に差し込んだ二筋の希望の光に、アビドスの生徒たちは思わず顔をほころばせる。

 

「わあ、ファウスト(ヒフミ)さん! メフィスト(アズサ)さん! お久しぶりです!」

 

『その、このクルセイダーちゃんは、トリニティの備品ですが……と、トリニティ総合学園とは一切関係ありません! 一緒に来た皆さんにも、そう伝えておきましたので……』

 

『――もう1台も私たちが相手をする! そのまま行ってくれ!』

 

 激しい攻防を繰り広げる2台の車両の上を、カイザーPMCのヘリが通り抜ける。上空から、機関銃による攻撃を――

 ドガァァァンッ!!! 突如、爆発が巻き起こり、ヘリは黒煙を上げて墜落していった。どこからともなく放たれたミサイルが直撃したのだ。発射地点には、RL(ロケットランチャー)と思しき大型の銃器を構える黒い制服の少女が、静かに佇んでいた。

 

『す、すみません、これくらいしかお役に立てず……』

 

「ううん、すごく助かった」

 

「はい! ありがとうございます、ファウスト(ヒフミ)ちゃん! メフィスト(アズサ)ちゃん!」

 

『あはは……えっと、みなさん、が、頑張ってください!』

 

 ブツッ……! 通信が途切れるや否や、ファウスト(ヒフミ)メフィスト(アズサ)の操縦する巡航戦車は、激しく火花を散らしながらカイザーの新型車両との交戦へと戻っていく。その隙を逃さず、カヨコはアクセルを踏み込んだ。リムジンのエンジンが低くうなり、暗闇を切り裂くように加速する。カイザーPMCの追跡網はみるみる遠ざかり――そして、ついに完全に振り切った。

 

「任務完了。もう少しだけカイザーPMCの追っ手を片付けてから、一度退却します」

 

 リムジンを見送った黒い制服の少女――風紀委員会との戦いでもアビドス生徒会に助太刀した彼女は、耳の通信機に手を当てながら、淡々とした口調でオペレーターに現場の状況を報告する。

 

「――アビドス生徒会。本当の戦いは、ここからですよ」

*1
【推奨BGM:Barrier】ブルーアーカイブより

*2
【推奨BGM:Get Over The Barrier! −Roaring Version−】英雄伝説 零の軌跡より




TIPS:
防弾リムジン。
例の1億で購入したミレニアム製の最新の防弾リムジン。元ネタは『英雄伝説 零の軌跡』よりクロスベル中央銀行の総裁『ディーター・クロイス』の保有する防弾リムジン。
課長繋がりで鬼方カヨコが運転手を務める。【校境】の方の後書きでも書きましたが、アビドス2章で最も書きたかったシーンがこれ。
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