Blue Archive Evolution 青春を抱く双翼の星   作:ゲーマーN

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C-1-2-11 明日を掴むために

 ――アビドス高等学校・生徒会室*1

 

 その後は特に妨害に遭うこともなく、カヨコの運転するリムジンは無事に目的地へ到着した。無理して運転を続けたカヨコは現在保健室で休んでおり、他の生徒たちは生徒会室に集まって作戦会議を開いている。

 それは便利屋68の社員たちも例外ではなく、むしろ仲間を傷つけられた彼女たちは、普段の面白集団ぶりからは想像もつかないような真剣な表情で作戦会議に臨んでいた。

 

「カヨコは大丈夫?」

 

「大丈夫です。数日もすれば、いつも通りにピンピンしているはずです」

 

「ガトリングを食らったんだもん、歩けるほうがおかしいって。ゆっくり休ませてあげよー」

 

「ええ、そうね。――まったく、本当に無茶をしちゃって」

 

 ノノミとホシノの言葉に頷きつつ、アルは保健室で眠るカヨコに思いを巡らせた。あの傷は決して軽いものではないが、それでも最後まで諦めることなく力の限りを尽くし、自分たちをアビドス高等学校まで送り届けてくれた。

 怪我を顧みず戦った彼女への感謝とともに、アルは気を引き締め直す。カイザーPMCには、この落とし前をきっちり付けてもらわなければならない。

 

「大変なことになるところでした。カヨコさんがいなかったら……」

 

「うんうん。カヨコさんのおかげで不正の証拠を持ち帰ることができました。便利屋の皆さんもありがとうございます☆」

 

「……そうね。正直、あんたたちのおかげで助かったわ。だから便利屋……全部終わったら、その時は一緒にラーメンでも食べに行くわよ。4人分、私たちが奢ってあげるからね」

 

「ふっふっふ……もちろん大盛りだよ! と~っても美味しいラーメン、楽しみにしててね!」

 

「くふふっ。ありがとー、バイトちゃん♪」

 

 アビドスの生徒たちから口々に感謝の言葉を贈られた便利屋68の3人は、どこか照れくさそうに頬を赤らめている。ここまで素直に感謝された経験があまりないため、むず痒くもあり、何ともくすぐったい気分を味わっていた。

 とはいえ、彼女たちの心の奥底では、それとは別の――もっと激しい感情の炎が灯っていたが。

 

「それにしても、私たちの大切な仲間を傷付けた罪は重いよ? だからもうこれは……」

 

 あはっ、と笑っていたムツキの顔が、まるで仮面を剥がすように一変する。先ほどまでの無邪気な笑顔は跡形もなく消え去り、見る者全ての背筋を凍らせる凶相へと。ムツキだけではない。便利屋の他の2人もまた、表情の変化こそ違えど、その目に宿る怒りの炎は同じだった。

 

「ぶっ殺すしかないよねっ!!!」

 

 情け無用をモットーに掲げる便利屋68だが、その内側では固く深い絆で結ばれている。友達や仲間を傷付けた者は決して許さない――それこそが、彼女たちの在り方だった。

 つい罪悪感に悩まされがちで悪人になりきれないアルとは違い、躊躇いなく悪事を働き、トラブルを楽しむムツキも、今回ばかりは大切な仲間を傷付けられた怒りに駆られていた。今の彼女たちの瞳には一切の迷いがなく、確かな敵意がカイザーPMCへと向けられている。

 

「『覚えておけ、この代償は高くつくぞ……!』……私には、あの元雇い主の言葉がただの負け惜しみだとは思えないわ。間違いなく、アビドスに攻め入ってくるはずよ」

 

「そうですね。不正の証拠を公開される前に、アビドスに攻撃を仕掛けて掌中に収めようという考えも十分にあり得ると思います」

 

 カイザーグループがこのまま引き下がるとは考えにくい。理事も『兵力の再調整に入れ』と指示していた以上、アビドスを潰すための戦力を整えていると見てまず間違いないだろう。

 勿論、これはあくまで予測に過ぎないが――現状を鑑みれば、楽観視などできようはずもない。次の戦いに備え、対策を講じる必要がある。となれば、取るべき行動はひとつ。こちらも相応の戦力を揃え、迎え撃つしかない。

 

「でも、今の私たちだけじゃ勝てない。誰か協力者を……」

 

「便利屋は?」

 

「ふふっ、答えは言わずとも、分かってるでしょう? 私たちも手を貸してあげるわ」

 

「ん、ありがと」

 

「はい、このご恩は必ず!」

 

 セリカの問いに対し、アルは迷うことなく即答した。彼女たちが一緒に戦ってくれるのなら、これほど心強いことはない。その実力はアビドス生徒会の生徒たちもよく知っている。

 それでも、依然として彼我の数の差は大きい。いくら実力者揃いの便利屋が味方に付いてくれたとしても、それだけでは圧倒的な戦力差を埋めるのは難しい。

 

「当然、無銘生徒会(私たち)も協力するわ」

 

「サナの言う通りだよ。みんな、後方の守りは自分たちに任せてほしい」

 

「お姉様!!」

 

「ハル先輩にミカ先輩も! 皆さんもご無事だったんですね!」

 

「あははっ☆ うん、もちろんだよ。ちゃんと目的の書類も持ち帰ってきたから、安心してね」

 

 アビドス生徒会とは別に、不正の証拠となる書類を盗み出していた無銘生徒会の3人も無事に合流した。これで今夜の作戦に参加した生徒たちが一堂に会する形になった。並の集団であれば、十分に対処できるだけの実力者揃いだが――味方の数が多いに越したことはない。確かに各々の能力を考えれば、現状の戦力でも対抗できるだろうが……あと、もう一押しが欲しいところだ。

 

「……みんな、私も心当たりに声をかけておいたよ」

 

「心当たり、ですか……? えっと……先生、それはどういった……?」

 

 不思議そうに首を傾げるアヤネに、ハクノは真剣な眼差しではっきりと告げる。それはアビドスの生徒たちが知る限り、最強の援軍であり――そして、確実に力を貸してくれる相手だった。

 

 

 

 ――ゲヘナ学園・正門*2

 

 ――時は、少しだけ遡る。アビドスの生徒たちと別れたハクノは、証拠を確保した後の展開を視野に入れ、事前に協力を取り付けるべくゲヘナ学園へと足を運んでいた。

 ゲヘナ学園はアビドス以上に治安が悪く、在籍する生徒たちも血の気が多い。ろくに身を守る術もない者が単身乗り込むなど自殺行為にも等しいが――ハクノは臆することなく堂々と正門をくぐり、見覚えのある生徒へと声をかけた。

 

「はぁ? ゲヘナの風紀委員長に、そんな容易く会えるとでも思ってるのか?」

 

 しかし、その生徒――銀鏡イオリはハクノの頼みを冷たく一蹴し、取り付く島もなく門前払いしようとする。

 確かに、ハクノは風紀委員会に好意的に思われるような行動を取った覚えはない。むしろ、この間の件で公務の執行を妨害した敵と見なされている可能性すらある。反省文を書く羽目になったイオリの苛立ちは察するに余りあるが……それでも、このまま引き下がるわけにはいかない。

 

「そうだな、じゃあ土下座して私の足でも舐めたら――」

 

 とイオリが言いかけたその時、ハクノは僅かな躊躇も見せずに膝をついた。そのまま器用に靴紐を解き、靴下を脱がせ――

 

「ひゃんっ!?」

 

 足裏に舌を這わせた。驚いて反射的に足を引こうとするが、肌を伝う感触に戸惑い、動揺が重なり、思うように力が入らない。加えて、異様な状況に頭が追いつかず、無理矢理押し退けることもできなかった。

 

「ちょっ、なにしてんだ!? 大人としてのプライドとか、人としての迷いとかは無いのか!?」

 

「元々はあったけど……今は余裕が無いんだ。そんなものは捨ててきたよ」

 

「おかしい! ヘンタイ! 歪んでる!」

 

 自分で『私の足を舐めろ』と言ったにも拘らず、イオリは顔を真っ赤にして本気で慌てふためいている。まさか、大人がここまでの醜態を晒すとは思いもしなかったのだろう。遠回しに面会を拒絶したつもりでいたイオリにとって、彼の行動はあまりにも予想外で、常識外れだった。

 

「ちょっと、いい加減に離して! こんなヘンタイの大人に――」

 

「何だか楽しそうね?」

 

「えっ!? ヒ、ヒナ委員長……!?」

 

 羞恥と困惑で頭がいっぱいだったイオリは、突然背後から声をかけられ、思わず素っ頓狂な声を上げる。振り返れば、そこには誰よりも尊敬する《風紀委員長》空崎ヒナの姿が――。

 イオリの心臓が跳ね上がる。ひょっとして、今のやり取りを見られていた……!? 頭が真っ白になりながら、慌てて言い訳をしようとするが――

 

「……自分の望みのために膝をつく姿なら、これまで何度も見てきた。でも、生徒のために跪く大人を見たのは初めて。頭を上げてちょうだい、先生。言ってみて、私に何をしてほしい?」

 

「いや、その、委員長……先生は跪いているんじゃなくて、その、足を、舐め……」

 

「……?」

 

 最初、脳が処理を拒否して目の前の光景を正しく認識できなかったヒナも、やがて言葉の意味を理解し始める。目の前の大人がイオリに跪き、その足を舐めているという現実を――。混乱した目がぐるぐると回り、頬が次第に熱く紅潮していく。

 ようやく事態を飲み込んだヒナが、色白の顔を真っ赤に染め上げ、思わず悲鳴のような声を上げたのは……それから数秒後のことだった。

 

「!!!!????」

 

 

 

 ――トリニティ・テラス

 

「なるほど、ご説明ありがとうございます。ヒフミさんが仰っていることはよく分かりました」

 

 トリニティ総合学園の生徒会に当たる政治機関『ティーパーティー』。各派閥から選出された代表者である3名の生徒会長と、そこに付き従う複数の行政官で構成される組織であり、各生徒会長が一定期間ごとに最高意思決定者となる『ホスト』の役回りを交代する形式で運営している。

 現ホスト代行の桐藤ナギサは、同じく生徒会長の錠前サオリと共に、それぞれが特に目をかけているヒフミとアズサから報告を受けていた。

 

「……このまま聞き逃すわけにはいかなそうですね。カイザーPMC、カイザーローン、カイザーコンストラクション……それらの企業の存在が、我が校の生徒たちに良くない影響を及ぼしそうなことは確かです」

 

「では、ご協力をいただけ――」

 

「但し、例の条約も目前に迫っていますし、今は下手に動くわけにはいきません」

 

 ヒフミの言葉を制するように、ナギサは冷静に告げた。その瞳には一切の揺らぎがなく、表情や態度から感情を窺い知ることはできない。トリニティの生徒会長として、何よりも優先すべきはトリニティの生徒と校益。故に、彼女の判断に私情を挟む余地はない。

 だが右腕にして、2年間もの付き合いとなるサオリには誤魔化しは通じない。友人の内心を見透かしたサオリは、誰にも気付かれないように小さな溜め息をひとつ漏らし、静かに口を開いた。

 

「ならば、私たちが行こう」

 

「サオリさん?」

 

「他ならないアズサからの頼みだ。……何よりも、アビドスの小鳥遊ホシノには返しきれない恩がある。縁は巡り巡るもの……ほんの少しでも、その恩に報いる機会があるなら応えたい」

 

「サオリ……!」

 

 アズサ同様に左袖にアリウスのエンブレムを付けているサオリは、それに触れながら力強く言い放った。たとえ己の立場を危うくすることになろうとも、恩を仇で返すような真似だけはしたくない。彼女もまた、七聖徒――アリウス戦役の英雄たちに深い恩義を抱いていた。

 その想いを汲み取ったナギサも、もはや余計な口出しはしなかった。代わりに、2人の申し出に対する答えを告げる。

 

「そうですね……今回はちょっとした例外ということで、なにか考えた方が良さそうです」

 

 ナギサの微笑みからは、生徒会長としての冷静さとトリニティの生徒としての気品や優雅さが同時に感じ取れる。彼女はいつも通りに微笑みながら、紅茶の注がれたティーカップを口に運び、誰に向けたわけでもない独り言のように呟いた。

 

「それにきっと……いえ、間違いなく、『シャーレの先生』には借りを作っておいた方が良さそうですからね……」

 

 

 

 ――無銘生徒会・本部

 

「……ふぅ、アビドスに送り込める戦力はこれが精々かしらね」

 

 襟元にローマ数字のⅢを模した記章を付けている少女。無銘生徒会の幹部役員の中でも、《電子女帝》の異名で知られるNo.Ⅲは、傍らに控える従者の淹れたコーヒーを啜りながら、アビドスに派遣する戦力の編成と調整を行っていた。

 

「本来ならもっと戦力を割きたいところだけど、王女の封印の監視を疎かにはできないわ。デカグラマトンの預言者への対処も考えれば、これが限界ね。まあ、私たちにとってはただの保険に過ぎないけど……これで、アビドスが目標を達成する確率は格段に上がるはずよ」

 

 同時並行で複数の案件を処理しながらも、世間話のように淡々と言葉を紡ぐ。その恐るべき情報処理能力と思考速度は常人からすれば異次元のレベルであり、それ故に、無銘生徒会の誰もが信頼を置くブレインこそが、彼女という人物だった。

 現在も、カイザーグループの不正の証拠公開に向けた準備を着々と進めており、あとは現地の3人からの報告を待つばかりだった。

 

「……それにしても、このタイミングでケテルが動き出すのは想定外だったわ」

 

「はい。予定通りであれば、私もアビドスに向かう手筈でしたが……」

 

 ローマ数字のⅣが刺繍された仕事着に身を包む少女、役員No.Ⅳも主の言葉に頷いた。無銘生徒会が警戒している脅威の1つが動いたとの報告が入ったのは、まさに彼女がアビドスに向かおうとしていたところだった。

 だが、その直前で監視を担当する面々から報告が入り、急遽予定を変更。現在は迎撃のための準備を整えている。完了次第、件の脅威を撃ち倒すべく、No.Ⅳも現地に急行する予定だ。

 

「私の予想が正しければ……これも対価の1つでしょうね」

 

「?」

 

「No.Ⅳ、あなたはこのまま準備を続けなさい。私は少し野暮用ができたから席を外すわ」

 

「イエス、マム」

 

 腹心のNo.Ⅳに指示を出すと、No.Ⅲはすぐさま席を立った。廊下を進みつつ、スマートフォン型の端末を取り出し、コールを始める。

 その相手は――

 

 

 

 ――アビドス高等学校・校門前

 

「ん、準備完了」

 

「補給も十分、おやつもたっぷり入れておきました!」

 

「こっちも準備できたよー」

 

「うん! 私も準備万端だよ、ホシノちゃん!」

 

「睡眠もしっかり取ったし、お腹もいっぱい! どっからでもかかってきなさい!」

 

「私の方も、アビドスの古い地図を全て最新化しておきました!」

 

 翌朝、新旧アビドス生徒会の6人と、カヨコを除く便利屋68の3人、そしてハクノはアビドスの校門前に集まっていた。ハル、ミカ、サナは無銘生徒会の仲間との打ち合わせのため不在であり、カヨコは今も保健室で休んでいる。

 既に戦闘準備は万全――あとは、襲撃してくるであろうカイザーPMCを迎え撃つのみ。全員の表情に緩みはなく、その顔には決意と気力が漲っている。

 

「……ふふっ。さあ、私と一緒に地獄の底まで付いてくる覚悟はできたかしら?」

 

「くふふっ……!」

 

「じ、地獄の底までお供します!」

 

 アルの挑発的な言葉に、ムツキとハルカが笑いながら応じる。そのやり取りは一見すると余裕があるように見えるかもしれないが――その実、3人の表情には一片の油断も慢心もない。

 アビドス――友人たちの大切な居場所を守るためならば。たとえ相手が誰であろうとも容赦はしない。そんな覚悟が、3人の佇まいから滲み出ていた。

 

 ピーピーピー!

 

 アラーム音が鳴り響き、アヤネが自身の端末を取り出す。それは市街地を囲むように配置された複数のドローンから得られた映像であり、襲撃者たちが周囲に展開し始めている様子が映し出されていた。

 それを確認した生徒たちは同時に頷き合い、各々の武器を構える。そして――

 

「――みんな、行こうか」

 

「はい! アビドス防衛作戦……! 開始です!!」

 

 アビドス自治区の未来を賭けた最後の戦いが、今、ここに幕を開けた。

*1
【推奨BGM:古の鼓動】英雄伝説 零の軌跡より

*2
【推奨BGM:明日を掴むために】英雄伝説 閃の軌跡より




TIPS:
錠前サオリ。
パテル分派の首長候補であった聖園サナ、聖園ミカ、蒼井ハルの三名全員が高等部に進学しなかったために、生徒会長の座に相応しい生徒を選出できず権力闘争から脱落したパテル分派と入れ替えになる形で生徒会長の1人に選出されたアリウス分派の首長。
2年生の身でありながら、多くの生徒たちから支持を集めている信望の厚い人物である。
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