Blue Archive Evolution 青春を抱く双翼の星 作:ゲーマーN
――アビドス市街地*1
『敵発見、攻撃を始めています!』
「東と西から挟み撃ちにしろ! 所詮は残党だ、数で押し潰せ!!」
『はいっ!』
アビドス市街地の北、大通りを抜けた先のエリアで、PMC理事は戦場の指揮を行っていた。彼の傍には、カイザー製の超強化外骨格『ゴリアテ量産型』が20機ほど待機している。急いで最終調整を終わらせ、今回の襲撃に間に合わせたカイザーPMC側の切り札だ。
部下からの報告を受けた理事は、吐き捨てるように指示を飛ばす。数で押し潰せ――命令自体は極めてシンプルだが、カイザーPMCの軍事力をもってすれば、この程度の策で十分だった。
『……!? 東側に、少数ですが兵力を確認!』
「む、東側……!?」
しかし、その命令が実行される前に、新たな報告が舞い込んできた。東側――つまり、現在交戦中のアビドス生徒会と便利屋以外の第三勢力が、この戦場に介入してきたことを意味している。
理事は驚きを隠せない。こんな廃れた自地区を巡る争いに、一体誰が干渉してきたというのか?
『数は3人……あ、あれは……!?』
困惑するのも束の間。理事に報告する部下の声は震えていた。その理由は明白――彼らの前に立ち塞がる3人の少女のうち1人が、あまりに恐ろしい存在だったからにほかならない。そう、彼女たちは――
◇ ◇ ◇*2
「……はぁ」
『カイザーPMCの戦車群を確認。100両以上の規模です、委員長』
「分かった、準備して」
ゲヘナ学園の風紀委員長、空崎ヒナ。彼女は自らの端末に送られてきた情報を確認すると、即座に行動を開始した。
先日の一件で、1年生の頃からの友人に大きな借りを作ったヒナは、それを返すべくイオリとチナツの2人を伴いアビドスを訪れた。100両を超える戦車の大群に対して、たった3人で立ち向かうなど自殺行為そのものだが、その程度の戦力差に臆するような彼女たちではない。
「どうして私もここにいるんだ……」
「(イオリはともかく何故私まで……)」
『せっかく委員長が反省文の代わりに、ということにしてくれたんですから、愚痴はそこまでにしましょうね?』
アビドスにあまり良い思い出のないイオリは気乗りしない様子を見せ、チナツも内心で愚痴を零す。しかし、風紀委員会の一員である以上、やるべきことは果たさなければならない。そもそも、アビドスに借りを作る原因になったのは彼女たち自身なのだから。
とはいえ、正論だけで人は動かせない。やる気のない部下を奮い立たせるのも上司の務め――ヒナは、イオリとチナツに発破をかけるべく行動を起こした。
「イオリ、撃ち漏らしはあなたが片付けなさい」
「えっ!? い、いや、委員長! 流石にそれは……!」
「私が卒業すれば、次の風紀委員長はあなたよ。この程度は1人でこなしてもらわないとね」
「……! わ、分かった! 覚悟しろ、悪党どもめ! 風紀委員会の力を見せてやる!」
ヒナの激励は効果覿面だった。先ほどまでの態度は一変し、イオリの瞳には闘志が宿る。心から尊敬するヒナに次期風紀委員長として期待を寄せられたことが、彼女の内に秘めた炎を激しく燃え上がらせたのだ。固有武器の
「チナツ。あなたも次の行政官候補として、今のうちに現場をよく見ておきなさい」
「……は、はい! ヒナ委員長!」
続けて発破をかけられたチナツもまた力強く頷いた。自らの固有武器である
ヒナは2人の反応を満足げに見つめ――そして、ゲヘナの風紀委員長として号令を発した。
「ここで全軍止める、誰一人としてここから先には通さない」
「行こう」
大きく翼を広げ、ヒナは空へと舞い上がる。天使、悪魔、鳥人――有翼人種特有の飛行能力。この『飛行』という行為は、謂わば空を全力疾走するようなものであり、そもそもの身体の作りからして長々と続けられるものではない。
だが、ここに例外が存在する。キヴォトス全体でも最高峰の実力者である彼女にとって、その程度は苦にもならない。空崎ヒナの飛行は、まさしく天を翔けるが如きものだった。
「戦闘突入。極力早く終わらせる」
固有武器『終幕:デストロイヤー』。ヒナ自身の身の丈ほどもある
それが開戦の合図だった。戦車群の先頭に位置する部隊が一斉に砲撃を開始するも、彼らの攻撃は全て余裕をもって回避される。大空を自由に舞う悪魔は、その翼を翻し、ビルの谷間を駆けながら地上をも力で支配する。
ドドドドドドドッ!!
無数の銃弾――否、紫黒の閃光が降り注ぐ。一撃必殺ではないとはいえ、その威力は絶大。光線と見紛うばかりの連続射撃が市街地を満たす戦車群を舐めるように薙ぎ払っていく。巨大な光剣を振り抜くが如く、デストロイヤーの一振りで複数の戦車を両断する。
勿論、敵も黙ってはいない。軍用ヘリの側面に備え付けられたミサイルランチャーが火を噴き、大量のミサイルが放たれる。それらはまるで流星群のようにヒナに迫るが――
「……数に物を言わせただけね」
一対の黒い翼を羽ばたかせながら、空を縦横無尽に飛び回る。その飛行速度は時速200kmを優に超え、卓越した身のこなしと相まって追い縋るミサイルを次々と振り切っていく。勢いのまま、軍用ヘリの1機に突撃し――
「はぁっ!」
――紫電一閃。
ドゴォオオンッ! 墜落した軍用ヘリの残骸が周囲の戦車を押し潰し、衝撃で車体が歪んだ数台の戦車がスクラップに姿を変える。砲身も折れ曲がり、固定砲台の役割も果たせないだろう。
ドドドドドドドッ!!
ヒナの弾幕が絶え間なく地上の戦車を襲う。反撃とばかりに敵も砲撃を繰り返すが、その全ては避けられ、或いは防がれる。あらゆる攻撃を意にも介さず、圧倒的な力で全ての敵を蹂躙する彼女の姿は、これ以上ないほどに《暴君》の異名に相応しいものだった。
即ち――空崎ヒナとは絶対的強者であり、決して敵に回すことが許されない生きた天災であることを、戦場そのものが証明していた。
「やれやれ、数だけの見掛け倒しだな……さて、こっちもさっさと片付けるか」
イオリは固有武器『クラックショット』で、幸運にも災厄から逃れた敵勢力を狙い撃つ。
ダァン! ダァン! スコープも付いていないシンプルな形状の
100両を超える戦車群を相手取り、たった3人の少女たちが戦況を優勢に傾けつつあった。
◇ ◇ ◇*3
同時刻、市街地の西にて。薔薇と髑髏、背景に逆三角形。そして、それらを囲うように経典の一節が記された校章――アリウス分校の生徒の証である腕章を巻いたガスマスクの少女たち。いかにも特殊部隊然とした彼女たちは、今か今かと命令を待ちながら緊張感を漂わせていた。
「準備は?」
「……問題無し」
「は、はい! 終わりました、チェックもできてますし、色々と確認も……」
「(スッ、スッ……)」
「……アツコ様も大丈夫と……」
「……よし、問題は無さそうだな」
隊の指揮を取るのは、ティーパーティー直属の特殊部隊『アリウススクワッド』のリーダー、錠前サオリ。スクワッドとは軍事用語で『分隊』を指す。同じ部隊に属する4人の仲間から報告を受け、サオリは小さく頷いた。
「総員、予定通りに行動を開始する。これから我々は戦場に突入してアビドスの勢力を援護する」
「……了解」
「わ、分かりました!」
「うん、行こう」
「……は、はい」
敵はあのカイザーPMC。決して油断できる相手ではない。しかし、彼女たちの表情には不安の色は微塵もない。極めてシビアで危険を孕む作戦だが、自分たちの失敗が恩人の故郷の命運を左右しかねないと考えれば、自然と身が引き締まる思いだった。
「アリウススクワッド、作戦開始!」
サオリの号令とともに、アリウススクワッドのメンバーが戦場へ踏み込んでいく。
「爆弾の設置は?」
「既に設置済み。これから5分後に、起爆装置を起動する」
「チームⅡとチームⅢは?」
「ビ、ビルの上で待機中です……侵攻に合わせて、ターゲットに攻撃する予定ですね」
「起爆と同時に攻撃開始。ミサキとチームⅡは戦車部隊を、ヒヨリはチームⅢとヘリの方を頼む」
「了解」
「は、はい! 分かりました! ヘ、ヘリですね……!」
淡々と、確実に作戦を遂行する。市街地各所への爆薬の設置は既に完了し、あとは起爆装置を作動させるのみ。正面から大量の戦車を殲滅できるのは、ごく限られた例外に過ぎない。ハルやヒナのような規格外の戦闘力を持たない彼女たちは、綿密な策を講じ、少しずつ敵戦力を削ぎ落としていく。合理を以て、堅実に戦う――それが、弱者である彼女たちの戦い方だった。
「チームⅠとチームⅤは……」
「歩兵の対処、だよね?」
「ああ。市街地に無差別攻撃をかけているカイザーPMC兵を掃討してくれ」
「うん、分かった」
「……ア、アツコ様。私もお供しますね……」
刑部ステラ――スクワッドの中で唯一のトリニティ出身者にして、アツコの護衛としてシスターフッドから派遣された少女。傍目には、護衛や従者ではなく姉妹のようにも映るだろう。
一見すると儚げな印象を受けるが、彼女たちもまたアリウススクワッドの一員。その実力は折り紙付きだ。特にステラは、単純な戦闘能力こそ突出してはいないものの、罠や搦め手の扱いに関してはリーダーのサオリすら一目置くほどの腕前を誇っている。
「えっと、リーダーは……?」
「私は他に用事がある。それが終わり次第チームVに合流予定だ」
ヒヨリの疑問にサオリはそう返す。詳しい説明はないが、彼女たちの知る限り、サオリが理由もなく単独行動を取ることはない。きっと何か考えがあるのだろうと、それ以上は追求せず、素直に指示に従うことにした。
「では、散開」
それだけ言い残すと、サオリはアツコたちに背を向け一人きりで歩き出す。仲間たちの視線を感じながら、そのまま市街地の奥へと消えていった。
◇ ◇ ◇
「残存戦力50%を切りました!」
アビドス高等学校に味方する各勢力の生徒たちの反撃により、カイザーPMCが展開した戦力は凄まじい勢いで削られていた。手元の端末に表示される各部隊の状況には、
「……どうするんだろうな、これ」
「もう無理だろ。残りの戦力だけではどうにも……」
また一つ、部隊の反応が
彼らの指揮官――カイザーPMCの理事は、撤退命令を出さなかった。拳を握り締め、たかが子供にここまで好き放題されている事実に、怒りを打ち震わせる。
「……あ、はい。理事、本部から連絡が……」
「無視だ! 繋がなくてよい!!」
「では、なんと伝えますか?」
「理事、現場から増援要請です!」
「何!?」
「第3、第5部隊が全滅!」
「ぬあ!?」
「残りの戦力30%!」
絶え間なく寄せられる報告に、理事は愕然とした表情を浮かべて声を荒げる。このまま押し切られれば、自分の立場が危ういのは火を見るより明らかだ。焦りが彼の思考を狭めていく。ここで終わるわけにはいかない――その一心で、必死に考えを巡らせる。
「どうしますか、理事」
「どうなっているんですか!?」
「早く決断を!」
「ご指示を!」
「このままだと……!」
「ぐうう……」
その間にも戦況は刻一刻と変化していく。次第に苛立ちを募らせる理事だったが……ふと、何かが切れる音がした。人間で言えば、堪忍袋の緒が切れる音という表現が正しいだろうか。
バキッと端末を握り潰した理事は、俯いていた顔をゆっくりと上げていく。部下たちが冷や汗をかきながら顔を見合わせ、戦々恐々としている中、地獄の底から響くような低い声で告げた。
「……いいだろう。貴様たちだけはこの手で倒す。『ストームブリンガー』を出せ!」
「し、しかし! あれはまだ調整中で、今使用するのは危険過ぎます!」
「構わん!」
理事は提言した部下の顔面を思い切り殴り飛ばした。衝撃を受けた部下は地べたに崩れ落ち、頭部の外装が歪み、僅かに火花を散らす。そちらへ一瞥もくれず、怒りを込めて言い放った。
「私が出る!」
TIPS:
刑部ステラ。
環星党さんのブルアカ二次創作『ブルーアーカイブ 双翼のレクイエム』の登場人物。
今作では、ティーパーティー直属の特殊部隊『アリウススクワッド』の一員。秤アツコの護衛役としてシスターフッドから派遣されている。