Blue Archive Evolution 青春を抱く双翼の星 作:ゲーマーN
――ブラックマーケット*1
連邦生徒会の管理が及ばないエリアの一つ。学園数個分に匹敵する規模を誇り、専用の金融機関や治安機関まで備えている。様々な企業が違法な事柄を巡って利権争いを繰り広げ、毎日莫大な金銭と商品が動く。表の社会では決して見ることのできない違法な物品も取引されている。
公の治安機関の目が届かない土地でも――否、目が届かない土地だからこそ。そこを警備するマーケットガードの練度は非常に高く、装備も充実している。裏の治安機関の名は伊達ではない。
「撃てぇッ!!」
「くそっ! なんだこいつら!?」
「相手はたった3人だ!」
銀行強盗が入ったとの通報を受け、現場に急行したマーケットガードたちは、たった3人の覆面に手も足も出ず翻弄されていた。オートマタたちは銃器を構えて引き金を引き絞り、銃弾を撃ち放つが、それらが少女たちに届くことはない。
目に見える何かに命中したわけでもないのに、まるで空中に縫い留められたかのように全ての弾丸がピタリと止まり、次の瞬間には力なくポロポロと地面に落ちていく。
「相変わらず便利よね、No.0の足切りバリア……」
Ⅰの覆面少女――サナが『足切りバリア』と称したのは、0の覆面少女――ハルが本気になると使い出す神秘の防壁だ。超高圧縮された神秘の膜は、一定以下の威力の攻撃を完全に無効化してしまう。この防御膜を突破するには、それこそ有力校の最高戦力に匹敵する出力の神秘か、超高火力の兵器、或いはキヴォトスの《外》に由来する何かが必要不可欠となってくる。
少なくとも、大して神秘を内包していないオートマタたちが突破できるようなものではない。
「……まあ、この程度なら防がなくても痛くも痒くもないんだけど」
ダッ! とサナが地面を蹴った。瞬間移動と見紛うほどの速度で距離を詰めるサナの動きに反応できず、マーケットガードのオートマタたちはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「消え……」
「た?」
刹那、敵陣の中央に現れたサナが横薙ぎに
それだけではない。ドドドドドドドッ!! 同時に激しい銃声が鳴り響き、サナの
「がっ、はっ……!」
「ごふっ!!」
体の各部から煙を噴き上げ、そのまま倒れ伏すオートマタたち。仲間の惨状を目の当たりにした残りのオートマタたちは思わず怯んでしまう。それでもすぐに銃を構え直すところは、さすが訓練されたプロフェッショナルと言える。だが、咄嗟のことで照準が定まらず、サナに向けて引き金を引くことができない。
対して、残りの敵もこのまま殲滅してしまおうと、サナは
タァン!
サナの頭部を狙った死角からの一発。確実に視界の外から放たれた弾丸だったが、彼女は軽く首を傾げるだけで躱してみせた。目標を外れた弾丸はまた別のオートマタの頭部に命中する。
MGを手放し、第二の固有武器である
「ねえ、その程度で私に勝てると思ったの? 手に取るように”視える”のよ、私たちにはね」
テトラガーデン社が開発した最先端の戦術サポートシステム『P.L.A.N.A』。これは、通信機能など従来の戦術サポートシステムにも搭載されている機能を全て備えた上で、特別な機能が追加されている。それが、使用者同士の感覚を共有し、高度な連携を可能にする『戦術リンク』だ。
戦術リンク機能を使用するには、個々の神秘に合わせた調整が必須であり、現在は各学園自治区の生徒会や治安維持組織など、財政に余裕のある限られた範囲でのみ使用されている。
文字通り、仲間の目を通して戦況を把握できるため、今のように死角からの不意打ちにも対応できたり、何の打ち合わせをせずとも、一方の攻撃で敵の体勢が崩れたところにもう一方が追撃を加える、といった阿吽の呼吸での連携も可能となる。
そして今、その戦術リンクはハルとミカと接続状態にある。2人の感覚を通して、サナは敵の位置や動きを正確に把握しており、ハルとミカも、サナの視界を通じて敵の動きを認識していた。
「ハルちゃん、チャンスだよ!」
「うん、行こう!!」
サナが切り開いた敵陣の隙間に、すかさずハルとミカが躍り込む。全方位を敵に囲まれた状態になったものの、彼女たちの表情には一切の緊張がない。
サナを挟んで背中合わせになった2人は、それぞれの固有武器を目前の敵に対して構える。
ミカは
「「――サザンクロス!!」」
流星の如く。放たれる弾丸の一発一発が迫撃砲並みの破壊力を誇る必殺の攻撃がオートマタたちを襲う。その威力は凄まじく、防御用に展開された盾や遮蔽物をいとも簡単に貫通していく。
全方位を満遍なく薙ぎ払う銃弾の星雨は確実にマーケットガードの戦力を削っていく。サザンクロス。南十字星の名を冠するこの
「――こちら第3部隊! アレはまだ出せないのか!」
『現在、移動中!』
「急げ! 長くは保たないぞ!」
僅か10秒足らずの間に、たった3人で二個小隊規模の戦力を殲滅してみせた。今の戦力では、どう足掻いても彼女たちの鎮圧は不可能だと判断したマーケットガードは、状況を打開するために増援を要請すべく無線で連絡を入れる。
しかし、その間にも3人による攻撃は止まらない。足元に落とした
ドドドドドドドッ!! 背後から降り注ぐ赤紫の弾幕の中をハルとミカが駆け抜ける。味方の行動を完全に把握し、同士討ちの危険を極限まで減らした彼女たちの連携は、まさしく一騎当千と称するに相応しいものだった。サナの高い射撃精度と2人の状況判断能力、そして戦術リンクによる完璧な連携。何より、彼女たちが互いに寄せる信頼と友情があればこそ成せる業だ。
10、20、30……3人の少女たちによって、オートマタは瞬く間に数を減らされていく。
「まだ到着しないのか!?」
『こちら司令室! 合流まであと5秒!』
ズドォン!! 大地が震え、交差点の四方を囲むように巨大な影が立ち塞がる。全高5メートル以上はあろうかという巨体を誇る人形兵器。その名もゴリアテ、カイザーグループ製の超強化外骨格だ。
最高純度の素材で組成した装甲とアクチュエーターを搭載した最新兵器。12860馬力を超える出力を持ち、その巨大な体躯に見合わない高い機動力を備えている。
「たったそれっぽっちの人数で、いつまで保つかな!」
ドカドカと大きな足音を響かせながら、一機のゴリアテが猛然と3人に迫る。5メートルを超える巨体とは思えない俊敏な動きで距離を詰めたゴリアテは、目の前の犯罪者を押し潰さんと巨大な豪腕を振りかぶる。
並の生徒であれば、一撃で病院送りにされるような脅威を前にしても、彼女たちは怯む様子を見せない。むしろ、顔を覆う覆面の下では不敵な笑みを浮かべていた。
ドガァン!!
ゴリアテの振り抜いた右ストレートが交差点の中心で炸裂した。周囲一帯に凄まじい衝撃波と轟音を撒き散らし、地面を陥没させる。確実に何かを潰した手応えを感じ、ゴリアテのパイロットはニヤリと口角を上げた。
だが、その笑みもすぐに凍り付くことになる。子供如きの体躯では到底止められるはずのないゴリアテの拳を、少女の1人――ハルが片手で受け止めていたからだ。
「なッ……!?」
「そうそう、それを待ってたんだよ。チャート通りに事を進めるには数が多すぎたからね」
「何を言って……!?」
「――神秘再現。コード名『終幕:デストロイヤー』。まずは、一機……!」
自らの固有武器『κιβωτός θεωρία』に大量の神秘を注ぎ込む。青い光に包まれた
破壊者の名を冠するMGの銃口をゴリアテに突きつけ、引き金を引く。発射された銃弾は特殊合金製の強靭な装甲を容易に食い破り、内部の中枢回路をズタズタに破壊し尽くす。
「行くよ、2人とも!」
「うん!」
「ええ!」
3人同時に地面を蹴り、それぞれ別のゴリアテに突撃する。サナは第3の固有武器『Matutinus Puella』を抜き、ハルは固有武器を本来の姿に戻す。同型のトリニティ製
ダダダダダダダダッ! 三者一様の銃撃がゴリアテの装甲を穿ち、命中した部分をボコボコに凹ませていく。とても
「いっ!」
「せー!」
「のー!」
「「「でっ!!!」」」
信じ難いことに数十トンもの重量があるゴリアテを、少女たちの蹴りが数メートルほど上空に打ち上げる。黒鉄の巨体が天高く舞い上がり、重力に従って自由落下を始めた。体勢を崩し、空中で無防備な姿を晒すゴリアテに、サナとミカの
「お姉ちゃん!」
「ええ、行くわよ!」
天に流星、地に暗黒。天上より光が降り注ぎ、地上から闇が立ち昇る。聖書に曰く、大天使聖と黎明の子の兄弟は天上界にて熾烈な戦いを繰り広げたという。伝承を再現するかのように金色の流星と暗黒の奔流が互いに衝突する。
光と闇の間、力の渦に飲み込まれていくゴリアテたち。その堅牢な装甲はガラス細工のようにひび割れ、無残に崩れていく。
「「――ヘル・アンド・ヘブン!!」」
やがて、天から降り注いだ光が地上を遍く照らし出すと、闇も光も消え去り、そこには3機のゴリアテの残骸だけが残されていた。轟音と土煙を上げて地面に叩きつけられたゴリアテは、もはやピクリとも動かない。完全に沈黙していた。
事ここに至り、マーケットガードも覆面少女たちの正体に思い至る。流星と暗黒、この二つの事象を操る者などキヴォトス広しと言えどもあの姉妹しかいない。
「《星の魔女》に……《黎の魔王》……!」
「だとすれば、残りの1人は……《万の魔人》か!?」
「無銘生徒会の最高幹部がなんでここに!?」
魔人、魔女、魔王。不倶戴天の敵、無銘生徒会の最上級幹部。その内の上位三柱が一堂に介している。しかも、覆面水着団などという性質の悪い冗談のような銀行強盗団の一員として。
一体、何の目的で……!? 状況を理解するために思考をフル回転させるが、頭の中は混乱するばかりだった。なぜ彼女たちがここにいるのか、どんな意図があるのか、見当もつかない。唯一つ確かなのは、目の前の敵が自分たちとはまったく次元が違う存在であるということ。
「知ってるのなら、もっと早く気付くべきだったわね」
「今更、気付いても遅いけどね」
「あははっ、バイバイ☆」
3人の少女たちが同時に一歩、また一歩とマーケットガードに歩み寄る。その一歩ごとに、彼らの中では”死”の足音が聞こえてきた。ついに耐えきれなくなったオートマタたちは恐怖に突き動かされ、一目散に逃げ出そうとする。
しかし――
「知らなかった……? 《魔王》からは、逃げられないのよ」
タタタタタタタタタッ!! サナが逃走しようとするオートマタを
ドガァン! ズダダダァン!! ゴリアテとオートマタの集団は、たった3人の少女によって完全に制圧されたのだった。
◇ ◇ ◇*2
「はひー、息苦しい。もう脱いでいいよね?」
一方その頃、3人の足止めもあり、ヒフミとアズサ、アビドス生徒会の生徒たちは無事に安全地帯まで辿り着いていた。セリカを皮切りに、次々と覆面を脱いでいく少女たち。額の汗を手で拭ったあと、セリカは大きく息を吐き出した。
「先輩たち、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫大丈夫。あの3人をどうにかできる相手なんて、そうそういないよ」
不安そうな声を漏らすヒフミを落ち着かせるように、ホシノは優しく声を掛けた。彼女たちの実力を知る友人として、絶対的な信頼を胸に後輩たちへ言葉を投げかける。
「さ、行こう」
「こっち、急いで」
「あの、シロコ先輩……覆面脱がないの? 邪魔じゃない?」
セリカがシロコの被る覆面を指差しながら問いかける。その言葉通り、シロコだけは未だに覆面を被ったままだった。後輩の疑問に対し、ホシノが冗談半分といった様子で答える。
「天職を感じちゃったと言うか、もう魂の一部みたいなものになっちゃって、脱ぎたくないんじゃなーい?」
「シロコ先輩はアビドスに来て正解だわ……他の学校だったら、ものすごいことをやらかしてたかも……」
「そ、そうかな……」
ホシノとセリカの言葉を聞いたシロコは、覆面を脱ぎ、なんとも言えない表情を覗かせる。その裏では、アビドスの生徒会室で今の今まで覆面を被っていたアヤネが、顔を真っ赤に染めながら無言で覆面を脱ぎ捨てていた。
TIPS:
P.L.A.N.A。
正式名称は『Player’s Link And Navigate Assistant』。
使用者同士の感覚の共有により高度な連携を可能とする次世代の戦術サポートシステム。
【校境なき生徒会】の世界では『Evolution編』の時間軸に開発されるものだが、この世界ではある事情から開発時期が大幅に前倒しになっている。
元ネタは、『英雄伝説 閃の軌跡』より第5世代戦術オーブメント『ARCUS』と、『ブルーアーカイブ』の登場人物の1人より『プラナ』。