Blue Archive Evolution 青春を抱く双翼の星   作:ゲーマーN

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C-1-1-6 暴かれる真実

 ――アビドス高等学校・生徒会室*1

 

 トリニティ組の4人と共に校舎まで戻ったアビドス生徒会の面々は、全員で回収した書類を確認していた。その内容に目を通していたセリカが、突然、バンッ! と机を叩いて立ち上がる。衝撃で書類がひらひらと舞い上がるが、それにも構わず、興奮した様子で声を張り上げた。

 

「なっ、なにこれ!? いったいどうなってるのっ!?」

 

「……!!」

 

「現金輸送車の集金記録にはアビドスで595万円集金したと記されてる。私たちの学校に来たあのトラックで間違いない」

 

 シロコは書類の束から1枚を抜き取り、その上部に記された金額を指し示す。それは、確かにアビドス高等学校が返済した利息の金額と一致していた。集金記録の入手経路を考えれば、シロコの指摘通り、これはアビドスの借金返済記録と見て間違いないだろう。

 

「……でも、そのあとすぐにカタカタヘルメット団に対して『任務補助金500万円提供』って記録がある」

 

「ということは……それって……」

 

「私たちのお金を受け取ったあとに、ヘルメット団のアジトに直行して任務補助金を渡してたってことだよね!?」

 

 ノノミとアヤネも困惑した表情で書類に目を通す。セリカは興奮を抑えきれず、さらに捲し立てるように大声を上げた。

 

「ヘルメット団の背後にいるのは、まさか……カイザーローン?」

 

「ふーん。ちょっと弱いけど……これはこれで、紛れもない違法行為の証拠だね」

 

「ただ、これだけじゃ決定打には欠けるね。連邦生徒会に通報したところで、せいぜい『違法行為を行った可能性がある』と注意喚起されるだけ。すぐに犯人が捕まるわけじゃない」

 

「むしろ、今の段階でカイザーローンを告発しても、逆にあなたたちが名誉棄損で訴えられる可能性が高いわね。最悪の場合、強盗の容疑で逮捕されるかもしれない……」

 

 無銘生徒会の3人も冷静に情報を分析する。ハルは書類に記載された内容と自分たちの経験を照らし合わせ、どこか隙を突ける部分がないかを考えていたが、彼女たちの中で最も頭の回転が早いサナが、現状の結論を導き出す。即ち、今の手札ではアビドス生徒会に打つ手はない、と。

 

「ど、どういうことでしょう!? 理解できません! 学校が破産したら、貸し付けたお金も回収できないでしょうに……どうしてそのようなことを……?」

 

「ふーむ……」

 

「この件、銀行単独の仕業じゃなさそうだね。カイザーコーポレーション本社の息がかかってるとしか思えない……」

 

「……はい。そう見るのが妥当ですね」

 

 行く手に立ちはだかる『壁』。事態は、自分たちが考えていたよりも深刻かもしれない。

 

 ◇ ◇ ◇*2

 

「みなさん、色々とありがとうございました」

 

「うん、私たちも目的を達成できた」

 

 別れの時が来た。校門前で、アビドス生徒会一同はトリニティの友人たちと向き合っている。

 

「変なことに巻き込んでごめんなさい、みなさん」

 

「あ、あはは……」

 

「今度遊びに行くから、その時はよろしくー」

 

「はいっ、もちろんです」

 

 笑顔で挨拶を交わすホシノとヒフミ。その光景は、ごく普通の女子高生たちのようで……2人のみならず、周囲の生徒たちもどこか嬉しそうに微笑んでいた。

 

「それと、アビドスさんの現在の状況についても……」

 

「まー、ティーパーティーはもう知ってると思うけどねー」

 

「は、はいっ!?」

 

「……そうね。この程度ならスクワッドが本気で調べればすぐに掴めるもの。そうでしょ、アズサちゃん?」

 

「……否定はしない。サオリたちなら、これくらいの情報は既に把握しているはずだ」

 

 衝撃を受けたように目を大きく見開くヒフミ。同じトリニティ自治区出身のサナや同級生のアズサまでもホシノの推測を認めている事実に、彼女は動揺を隠せなかった。

 規模の大小はあれど、どの学園にも諜報活動を担う部署は存在するもの。トリニティほどの規模ともなれば、むしろ情報を掴めていない方が不自然だろう。しかし、学園の暗部を知りもしないヒフミからすれば、周りの反応は驚愕の一言に尽きた。

 

「そ、そんな……知っているのに、みなさんのことを……」

 

「うん、ヒフミちゃんは純真で良い子だねー。でも世の中、そんなに甘くないからさ」

 

「……」

 

「ヒフミちゃんの気持ちはありがたいけど、そっちに知らせたところで、これといった打開策が出るわけじゃないし。かえって私たちがパニクることになりそうな気がするんだよねー」

 

「そ、そうですか……?」

 

 言葉を失ったヒフミに対して、ホシノは優しく、しかしどこか冷静な口調で説明を続ける。

 

「ほら、今のアビドスって廃校寸前じゃん? トリニティとかゲヘナみたいなマンモス校からのアクションをコントロールできる力がないんだよー。言ってる意味、わかるよね?」

 

「……サポートするという名目で悪さをされても、それを阻止できない……ってことですよね」

 

 それこそ、今のアビドスを傀儡政権として悪事に加担させられる可能性も考えられる。ヒフミもその危険性に思い至ったのだろう。考え込むように頭を抱え、しばらく悩む素振りを見せた。

 

「……そうですね、その可能性もなくはありません。あうう……政治って難しいです」

 

「でも……ホシノ先輩、悲観的に考えすぎなのではないでしょうか? 本当に助けてくれるかもしれませんし……」

 

「うへ~私は他人の好意を素直に受け取れない、汚れたおじさんになっちゃってねー。それに、」

 

 ホシノは一度そこで言葉を区切ると、ほんの少しだけ険しい表情を覗かせた。

 

「その『万が一』ってことをスルーしたから、アビドスはこの有様になっちゃったんだよー」

 

 沈黙。それは、これまでアビドスの生徒たちが見て見ぬ振りをしてきた現実と正面から向き合ったからこそ、生まれたものだった。そこへ追い打ちをかけるように、サナが口を開く。

 

「私も同意見ね。……どうしても、あのイナゴ共が素直に助け舟を出すとは到底思えないのよ」

 

「……イナゴ、ですか?」

 

「多くの人はトリニティの生徒と聞いてお淑やかな『名門校のお嬢様』を想像するんだろうけど、本当に典型そのままな人間なんていないのよ。たとえ真っ当なお嬢様だったとしてもね」

 

「いない……?」

 

「いないわ。断言できる。もしいたとすれば、それは――単なる演技よ。そういう毒蟲の巣窟なのよ、トリニティの上層部はね」

 

 仮にも自分の古巣に対してこれほど辛辣な言葉を浴びせるサナに、周りの生徒たちはただただ黙り込むしかなかった。彼女の声音からは、並々ならぬ強い嫌悪と怒りの念が滲み出ており、その感情の深さに圧倒されるばかりだった。

 

「……確かに、トリニティとして協力するのは難しいだろう」

 

 その沈黙を破るように、アズサが徐ろに口を開いた。

 

「でも、アリウスとしてなら私たちも協力できる」

 

「……アズサちゃん?」

 

「アリウス……? まさか、アズサちゃんはあの学園の……!」

 

 真剣な表情で話すアズサに対し、ホシノはアズサが口にした『アリウス』の名に反応を示す。

 

「小鳥遊ホシノ。私たちは……アリウスはあなたたちに対する恩を忘れはしない」

 

 アズサは、ホシノと無銘生徒会の3人に視線を送る。その目は、あまりにも真っ直ぐで。負い目があるとは言い難いが、後ろめたい部分があるホシノは思わず視線を逸らしてしまう。

 一方、彼女たちの会話に心当たりがない他のアビドス生たちは、困惑気味に首を傾げていた。

 

「……うへ、おじさんはお金で雇われただけなんだけどねー」

 

「それでも私たちは救われた」

 

「……」

 

「あなたは確かに、2年前、私たちを救ってくれた」

 

 アズサが珍しく興奮気味に続ける。彼女の脳裏に蘇るのは、2年前、まだトリニティの生徒になる前の記憶。当時1年生のホシノたちが命懸けで自分たちを救い出してくれた光景だった。

 

「私はそれを忘れない。……だからホシノ、もしも困った時は声をかけてほしい。それがどんな頼みであれ、私たちは必ず力になる」

 

「……うへ~、なんか照れくさいな~」

 

 ホシノは困ったように苦笑いしながら頬を軽く掻いた。けれども、彼女の瞳は僅かに微笑みを含んでおり、ほんのり嬉しそうに細められていた。

 

「ま、この件に関してはもう少し私たちだけで調べてみるよー。すぐに結論を出すのも早すぎると思うしねー」

 

「……分かった。でも、サオリには伝えておく。きっと、力になってくれるから」

 

「……うん。ありがとう、アズサちゃん」

 

 目を閉じて小さく微笑むと、ホシノは改めてヒフミとアズサに向き直る。

 

「いやぁー、みんな、今日はお世話になったね」

 

「……はい。本当に……一日で色んな出来事がありましたね」

 

「そうだね、すごく楽しかった」

 

「……楽しかったのはシロコ先輩だけじゃないの?」

 

「あ、あははは……私も楽しかったです」

 

 ヒフミが笑顔で答える。今日、彼女たちはアビドスの生徒たちと一緒に様々な経験をして、たくさんの思い出を作った。それは確かに大切な時間で……きっと何年経っても、たとえ大人になっても、色褪せない宝物になるのだろう。

 一つだけ気がかりなのは、執拗にアビドスを襲い続けるカタカタヘルメット団の裏に、カイザーグループ……黒い噂が絶えない大企業の影がちらついていること。

 

「……これからも大変だとは思いますが、頑張ってくださいね。応援してます。それでは……みなさん、またお会いしましょう」

 

「うん、また会おう」

 

 ヒフミとアズサは手を振りながら校門から去って行く。最後に一度だけ振り返り、自分たちを見送る新しい友人たちに目を向けたあと、2人の姿は完全に見えなくなった。

 

「……ところで、お2人は一緒に行かなくていいんですか?」

 

「ええ、行かないわ。……ミカはどうするの?」

 

「私も残るよ。そうしたほうがいいよね、ハルちゃん?」

 

「うん。これからのことを考えると、今は少しでも人手が欲しいからね」

 

 無銘生徒会の3人の首元で、0、Ⅰ、Ⅱをそれぞれ模したバッジがキラリと光を反射する。

 

「わかりました。では今日はゆっくり休んで、明日改めて集まりましょう」

 

「解散~」

 

 ホシノの号令でアビドス高等学校の生徒たちは解散し、校舎へと向かって歩き出した。しかし、無銘生徒会の3人だけは、しばらくその場に留まって動かなかった。*3

 

「ここまでは順調……いや、順当に歩みを進めてきた。『全ては虚しいものである』……足掻くことは無意味。今も眠り続けるセイアなら、そんな風に言うかもしれないね」

 

「あの子は悲観主義が過ぎるのよ。少し悪い未来(ゆめ)を見たくらいで……」

 

 吐き捨てるように言い放たれたサナの一言に、ハルは困ったような苦笑いを浮かべる。

 

「……まあまあ。セイアの気持ちは私も分かるからさ」

 

「ハル……」

 

「サナも覚えてるでしょ? 昔の私がどれだけ……この力に追い詰められていたか」

 

 3人の脳裏を過るのは、忘れもしない、限界を迎えた幼少のハルが口にした、彼女の本音。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「もううんざり! どうあっても消えるだけ、最後は恐怖しか残らない! 未来なんて、絶望と憎悪の物語だ! そんなもの、見ていて楽しいはずがない……!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 百人百様、全ての生徒の力を自らの身に再現するハルの異能。その中には、本人の意志に関係なく自動(強制)で発動する能力も含まれている。その一つが、百合園(ゆりぞの)セイアの『未来予知』の異能だ。

 毎夜、最悪の未来を夢で見ては、ハルは恐怖と絶望に押し潰されそうになっていた。もしも、サナとミカの2人に出会っていなければ、自ら死を選んでいたか、或いは……いずれにせよ、ろくでもない結末を迎えていただろう。それだけは断言できた。

 

「『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』」

 

「キヴォトスの『七つの古則』、その五つ目だったわね」

 

「他の古則もそうだけど、相変わらず難しい言い回しだよね」

 

「あはは……そうだね。ただ、一つの解釈としては、この問いを『楽園の存在証明に対するパラドックス』として見ることができるんだ」

 

 首を傾げるミカに対し、ハルはにっこりと微笑みながら丁寧に説明を始める。

 

「もし楽園というものが存在するのならば、そこに辿り着いた者は、至上の満足と喜びを抱くが故に、永遠に楽園の外に出ることはない。もし楽園の外に出たとすれば、つまりそこは真の悦楽を得られるような『本当の楽園』ではなかったということ。であれば、楽園に到達した者が、楽園の外で観測されることはない。存在を補足されうるはずがない」

 

 その口調には一切の迷いがなく、まるで準備していた原稿を読み上げているかのように流暢だった。ミカはハルの言いたいことを理解したのか……それとも理解を放棄したのか。ともかく、そのまま黙って耳を傾けていた。ハルもまた、それを承知の上で、なお古則の説明を続ける。

 

「存在しない者の真実を証明することはできるのか? つまり……この五つ目の古則は、初めから証明することができない『悪魔の証明』なんだよ」

 

 悪魔の証明。証明することが不可能か非常に困難な事象を悪魔に例えたもの。

 古くは、中世ヨーロッパのローマ法の下での法学者らが、土地や物品等の所有権が誰に帰属するのか過去に遡って証明することの困難さを、比喩的に表現した言葉。

 この古則は「証明することができないことを証明せよ」という悪魔の証明になっている。

 

「エデン……経典に出てくる楽園(パラダイス)。どこにも存在せず、探すことも能わぬ場所」

 

 楽園は、人間にとっての理想郷。その認識が故に、多くの人間がそれに辿り着きたいと願う。だがそれは、決して叶うことがない夢物語だ。楽園に辿り着いた者の存在は決して観測されることはなく……その存在は、永遠に空想の中だけに留まるのだから。

 

「けどそれは本当に存在しないのかな? 夢想家たちが描く、ただの虚像に過ぎないのかな?」

 

 ――それでも、と。言葉を紡ぐ。存在しないはずの楽園を、探し求めるように。そこには絶対に存在するであろう楽園を、その目で確かめるように……ハルは語り続ける。

 

「自分は……私は何度でも声を上げるよ。絶対に諦めない。不快で、不愉快で、忌まわしく、眉を顰めるような……悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような……それでいて、ただただ後味だけが苦い……そんな世界を認めはしない。それが、私……『この道』を選んだ、私たちの義務だ」

 

 青空を視る。その蒼穹の瞳には、透き通るような強い決意の光が宿っている。

 彼女は、自分の選択に後悔はない。それを不幸だと嘆くことも、悲劇の主人公を演じるつもりもない。だがそれでも……今もなお、この胸の中に渦巻く激しい熱情は収まることを知らない。

 

「さあ、仕事を始めようか。ここからが、無銘生徒会(私たち)の大仕事の始まりだよ」

 

*1
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*2
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*3
【推奨BGM:Midnight Trip】ブルーアーカイブより




TIPS:
蒼井ハル。
拙作『ブルーアーカイブ 校境なき生徒会』の主人公。《万の魔人》と称されるほどの能力に反して、キヴォトスでも随一の多さのバットエンドルートを有している生徒の一人。
9割以上の並行世界では初等部の頃に自ら■■■■■■■、それ以外でも作中の台詞から分かるように『憐憫の獣』ルートに入る世界線も存在している。また、正史沿いに事が進めば、エデン条約編で聖園ミカ一人を人類とする『愛欲の獣』ルートに突入する可能性もある。
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