Blue Archive Evolution 青春を抱く双翼の星   作:ゲーマーN

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C-1-1-8 嵐の前の騒がしさ

 ――アビドス高等学校・生徒会室*1

 

 ハクノが教室に入ると、ホシノがノノミの膝枕で横になっていた。ホシノはまだ寝ぼけた様子で、普段ののんびりした口調よりもさらにリラックスした感じで挨拶をしてきた。

 

「おはよー、先生」

 

「先生、おはようございます。今日は早いですね?」

 

「おはよう。うん、今日は早起きしてね」

 

 ノノミに笑顔で挨拶を返しながら、ハクノはホシノに視線を移した。ホシノは小さなあくびを漏らし、寝返りを打つようにもぞもぞと動いている。その姿を見て、ハクノは微笑みを抑えきれず、思わず「ふふ」と静かに笑い声を漏らした。

 

「先生、どしたの?」

 

「あ、いや……今日はまた、随分とリラックスしてるなぁって思ってね」

 

「うへ~ノノミちゃんの膝枕は柔らかくてサイコーなんだよー。私だけの特等席だもんねー」

 

 そう言って、ホシノはノノミの膝の上に頭をぐりぐりと擦りつける。ノノミもそれに嫌がる素振りを見せるどころか、むしろ聖母のような微笑みでホシノの頭を優しく撫でている。

 まるで本物の姉妹のように自然で温かい触れ合いを見せる2人を、ハクノはどこか微笑ましい気持ちで眺めていた。

 

「先生もいかがです? はい、どうぞ~☆」

 

「ダメだよー。ここは私の場所なんだから、先生はあっちの座り心地悪そうな椅子にでも座ってねー」

 

「私の膝は先輩専用じゃないですよう……」

 

 ノノミがハクノに声をかけるも、ホシノはその膝から離れようとしない。ノノミは複雑そうな表情を浮かべながらも、幸せそうにしているホシノの姿を見て、自然と唇をほころばせる。

 それから、ノノミは視線を正面に戻し……

 

「今度、誰もいない時にしましょうね、先生」

 

 と、ぼそっと呟いた。魅力的なお誘いに思わず頷きそうになるハクノだったが、すぐにハッと我に返り、慌てて首を左右に振った。その様子を視界の端で見ていたホシノは、まどろみから覚めるように気怠げに体を起こす。

 

「よいしょっと。ふあぁ~、みんな朝早くから元気だなあ」

 

「のんびりできるのは久しぶりですから……今はみんな、やりたいことをやってるんでしょうね」

 

 ホシノとノノミがそんな言葉を交わす。カタカタヘルメット団の問題、そして今月の借金返済に一段落がつき、アビドス生徒会は久しぶりの休みを満喫していた。

 

「んー、シロコちゃんはきっとトレーニングでしょうし、アヤネちゃんは多分勉強しに図書館でしょうか……」

 

「ノノミちゃんは学校の掃除と教室の整頓をしてくれたよねー。うへ~、みんな真面目だなー」

 

「ホシノは? 今日はどうするの?」

 

「ん? 私? うへ~、私は当然ここでダラダラしてただけだよー」

 

 ホシノは眠そうに目元を擦りながら答える。それを聞いて、ノノミがすかさず口を開いた。

 

「先輩もなにか始めてみてはどうでしょう? アルバイトとか、筋トレとか」

 

「無理無理ー、おじさんは年齢的に無理が効かない体になっちゃったもんでねー」

 

「歳は私とほぼ変わらないですよ?」

 

 ノノミのツッコミをさらりと受け流しながら、ホシノはぐっと伸びをする。その後、ひょいっと立ち上がり、生徒会室の扉に手をかけた。

 

「うへ~。とにかく先生も来たし、他のみんなもそろそろじゃない? それじゃ、私ゃこの辺でドロン」

 

「あら先輩、どちらへ?」

 

「うへ~今日おじさんはオフなんでね。てきとうにサボってるから、なにかあったら連絡ちょーだい、ノノミちゃん」

 

 ホシノは気怠げな笑みを浮かべたまま、手をひらひらと振って生徒会室を出ていく。

 

「ホシノ先輩……またお昼寝しに行くみたいですね」

 

「放っておいてもいいの?」

 

「うーん、まあいいんじゃないでしょうか。会議はアヤネちゃんがしっかり進めてくれますから」

 

 そう言いながら、ホシノが出ていった扉を見送ったあと、ノノミはハクノに目を向けた。

 

「……膝枕、しますか? 先生」

 

「えっ……?」

 

「あはは、冗談ですよ。もうすぐ他のみんなも来るでしょうし。じゃあ、私はみんなの分のお茶を淹れてきますね。先生もなにか飲まれますか?」

 

「え、えっと……烏龍茶を貰えるかな」

 

「はい。今すぐご用意しますので、ちょっと待っててくださいね」

 

 ノノミはハクノを1人残して、給湯室へと歩いていった。部屋に残されたハクノは、脱力した様子で近くの椅子に座り込み、

 

「……おおう……生徒相手に私は一体何を考えて……」

 

 その呟きは、給湯室に向かったノノミには届かない。彼女が戻ってくるまでに平静を取り戻さなければと焦るハクノだが、それは余計に難しい行為であることをまだ理解していなかった。

 

 

 

 ――柴関ラーメン

 

「お待ちどう!」

 

「来たあ!! いただきまーす!」

 

「ひ、ひとりにつき1杯……こんなに贅沢してもいいんですか?」

 

「なぁに、うちのラーメンを食べにわざわざ来てくれたんだ。良いも悪いもあるもんかい」

 

「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 4杯のラーメンを前に、感無量と言った様子で何度も深くお辞儀するハルカ。後先考えずに有り金を仕事に注ぎ込むのに加え、信用を得ようと見栄を張って必要以上に立派なオフィスを借りるアルの悪癖が原因で、賃貸料が経営を圧迫しており、財政が常に綱渡り状態にある便利屋68。

 一つのカップ麺を4人で分け合うこともしばしばの彼女たちにとって、1人1杯ずつのラーメンはまるで夢のような贅沢に感じられた。

 

「ふふっ、御礼の言葉もないわ」

 

「良いってことよ」

 

「それじゃ、ありがたくいただこうかしら」

 

 箸を割り、各々が麺を啜り始める。ずぞぞー……ちゅるるっ! カップ麺などとは比べ物にならない濃厚な旨味と芳醇な香りが口いっぱいに広がると、4人の口から思わず感嘆の声が漏れる。

 

「うーん、美味し~い♪」

 

「こんなに美味しいのにお客さんがいないなんて」

 

「場所が悪いんじゃない? 砂漠化が進んでいるせいで人が減ってるでしょ?」

 

「……それもあるが、ちょっと前から退去通知が来ていてな」

 

「退去通知!?」*2

 

 4人は箸を止め、一斉に顔を上げた。口に運んでいた麺を途中で止め、驚愕と疑念が入り混じった表情で互いを見合わせる。突然の情報に対する困惑と不安が、彼女たちの目には色濃く浮かんでいた。

 

「た、退去通知って、どういうことよ? アビドス自治区の建物の保有権は、あの子たちに……」

 

「……何年か前、アビドスの生徒会が借金を返せなくて、建物と土地の所有権が移ったんだ」

 

「なっ、なんですって!?」

 

「じゃあ、今は一体誰の……?」

 

 便利屋の仲間たちが動揺する中、まさかという表情を浮かべたカヨコが静かに呟いた。

 

「……カイザーローン?」

 

 その名前を聞き、他の3人はさらに大きく目を見開き、驚きの色を濃くした。

 

「うーん……そんな名前だったような気もするが……悪いな、はっきり覚えてねえや」

 

 カイザーローン。それは、アルたちにアビドス高等学校襲撃を依頼した雇い主の名であり、様々な事業を展開している企業系列『カイザーグループ』の金融部門に当たる。大将は記憶が曖昧な様子だったが、おそらくはカイザーローンが現在の地主と見て間違いないだろう。その事実に気付いたアルたちは表情を硬くする。

 何故なら、今の情報が事実ならば、自分たちも人々の退去に少なからず関与しているからだ。

 

「……ま、そんなわけで、もうすぐ店を畳むつもりなんだ。サービスするから腹いっぱい食べていってくれよ。なんてったって、君らはアビドスさんとこのお友達だからな」

 

「……!?」

 

 友達という言葉が、アルの脳裏にアビドスの生徒たちとの短くも濃い思い出を呼び起こす。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ」

 

「うふふふっ! いいわ、こんなところで気の合う人たちに会えるなんて。これは想定外だけど、こういう予測できない出来事こそ人生の醍醐味じゃないかしら」

 

「全員その場に伏せなさい! 持っている武器は捨てて!」

 

「よし! 我が道の如く魔境を……その言葉、魂に刻むわ! 私も頑張る!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 同時に、彼女の中で一つの決意が固まった。憧れのお姉様に提示された幾つかの選択肢、どれを選ぶのかは既に決まっていた。もうアルの胸中に迷いはない。あとはただ、自分が信じる道を真っ直ぐ突き進むだけだ。

 

「……まずは、ケジメをつけないとね」

 

「ん?」

 

「アルちゃん?」

 

「なんでもないわ。それより、早くラーメンを食べてしまいましょう」

 

「は、はいっ! 分かりました!」

 

 4人が改めてラーメンを口にすると、舌に広がる深い味わいが心の中の不安や心配を一時的に忘れさせてくれる。ほんのひとときの安らぎが、彼女たちの顔に笑みをもたらした。そして……

 

 ◇ ◇ ◇*3

 

「「「「ごちそうさまでした!」」」」

 

 最後の一滴までスープを飲み干して、4人は手を合わせた。はふぅ、と満足そうに息を漏らし、お腹を摩りながら店を出たところで、ムツキが口を開く。

 

「あー美味しかった。さて、じゃあそろそろ行く?」

 

「……社長、本当に行くの? この戦い、私たちに何の勝ち目もない。正面から戦うなんて……」

 

 便利屋一同はこれからアビドス高等学校にカチコミを決行しようとしていた。折角用意した策を用いずに、ただ正面から小細工無しに攻め入るという愚策も愚策。無謀もいいところ……カヨコはそう思っていたのだが、社員たちの心配をよそに、アルは決意に満ちた表情で力強く頷いた。

 

「ええ、行くわ。ここでケジメをつけないことには何も始まらないもの」

 

「さ、流石はアル様! カッコいいです! わ、私も真のアウトローになるために頑張ります!」

 

「……ふふっ。さあ、私と一緒に地獄の底まで付いてくる覚悟はできたかしら?」

 

「くふふっ……!」

 

 ハルカとムツキが戦意を燃やし、意気揚々と出発の準備を整える中、アルは静かに目を閉じた。

 

 ――己の心に従いなさい。汝の為したいように為すがよい、ってね。

 

「(私の望みこそ、私の求めるべきもの。心の命ずるままに……)」

 

 サナの言葉を思い起こし、自らの望みを再確認する。自分が望むのは、何事にも恐れず、何事にも縛られない、ハードボイルドなアウトロー。そう在りたいと願うアルにとって、アビドスとの決戦は決して避けられない争い(Inevitable Struggle)だった。

 

「(何を選ぶにしても、アビドスと決着を付けずには前へ進めない。今の私が選ぶのは――)」

 

 アルが目を開くと、決意の光がその瞳に宿り、全身から凛とした気配が漂い始めた。

 

「ほら、じゃあ行こ! アルちゃん!」

 

「じ、地獄の底までお供します!」

 

「はぁ、何だか損してばっかりだけど……仕方ないね」

 

 出発の準備が整った3人と共に、アルはアビドス高等学校へと向かって歩き出す。その足取りに迷いはない。確固たる信念を持って突き進むアウトローに、もはや恐れるものなどなかった。

 

 

 

 ――アビドス高等学校・生徒会室*4*5

 

「後者より南10km地点付近で敵性反応を確認!」

 

 例によって、定例会議のために生徒会室に集まっていたアビドス生徒会の面々。年長組が各々の用事で留守にしている中、アヤネの報告により、生徒会室は一瞬にして緊張の空気に包まれた。ひどく険しい表情を浮かべたシロコが、静かに、しかし決然とした様子で席を立ち上がる。

 

「敵って……ヘルメット団? それとも……」

 

「こ、この反応は……ヘルメット団ではありません! ……便利屋です! 便利屋68です!」

 

「便利屋!? よりによって、ホシノ先輩がいないこのタイミングで……!!」

 

 便利屋がホシノの不在を知ってこのタイミングを狙ったわけではないだろうが、偶然とは思えない絶妙な状況に、セリカが思わず歯噛みする。便利屋68は決して侮れるような相手ではない。ホシノ不在の今、正面からの戦いは厳しいものになるだろう。

 しかし、それを理由に怖気づくアビドスの生徒たちではない。各自が銃を手に取り、弾倉に弾薬を込め、迅速に出撃の準備を整える。

 

「ホシノ先輩には私から連絡します、出動を!!」

 

「「「はい!/うん!」」」

 

 オペレーターのアヤネを部屋に残し、シロコとノノミ、セリカは生徒会室を飛び出していく。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「便利屋68……!!」

 

 校舎からおおよそ5kmの地点で、アビドス生徒会と便利屋68が睨み合うように対峙する。アビドス側ではセリカを筆頭に、シロコ、ノノミの3人が銃を手に立ちはだかっていた。

 対する便利屋68側も、アルを中心に4人の社員たちが隊列を組むように並んでおり、それぞれが油断なく武器を構えて臨戦態勢を取っている。その中心に立つアルは、不敵な笑みを浮かべがらアビドス生徒会を見据えていた。

 

「これはこれは~、柴関ラーメンのバイトちゃんじゃーん」

 

「あんたたち、また性懲りもなく襲いに来たわけ?」

 

「だったら、どうするの?」

 

「それ相応の対応をします」

 

 一触即発とはまさにこのことだろう。空気は張り詰め、周囲の砂埃すらも動きを止めたかのように感じられる。両者の視線が激しくぶつかり合い、どちらも一歩も引かぬ姿勢を崩さない。息を飲むような緊張感の中で、彼女たちは互いの一挙手一投足に目を光らせていた。

 

「……1人、姿が見えないわね。小鳥遊ホシノはどこにいるのかしら?」

 

「さあ? きっと今頃、どこかで昼寝でもしてるんじゃないの?」

 

「……ふん」

 

 本来、アビドスの最高戦力である小鳥遊ホシノの不在は喜ばしいはずだが、アルは苦々しい気持ちを拭えなかった。ホシノの不在が、逆に戦意を削ぐような感覚を彼女にもたらしていたからだ。

 

「(……これじゃあ、この勝負にケチがつくじゃない)」

 

 心の中で悪態をつくアルだったが、今の状況では戦う以外に選択肢はない。ホシノの不在を悔やむ時間すら惜しい彼女は、その気持ちを押し込め、頭を振って雑念を振り払い、改めてアビドス生徒会と向き合った――その時。

 

「待って!」

 

 突然、第三者の声が割り込んできた。両陣営の全員が一斉に、声のした方へと顔を向ける。

 

「あなたは……!?」

 

「大きい方のバイトちゃん……?」

 

 アビドスと便利屋の間に割って入ったのは、柴関ラーメンでバイトをしていた女性だった。高身長で胸が大きく、緑がかった薄い水色の髪を膝ほどまで伸ばしている。

 服装はチェックのスカートに入れた白シャツ、タイを緩めてシャツを少し開き、胸の下を通すハーネスベルトにタイを挟み込んでいる。また、胸の左側には拳銃を格納するためのホルスターを付けている。彼女の身に着けた制服と校章は、紛れもなくアビドス高等学校の制服だった。

 

「ホシノちゃんはいないんだよね? それなら、私がアビドス生徒会の一員として戦うよ」

 

「!!」

 

「えっ!?」

 

「ゆ、ユメ先輩!?」

 

「戦って問題を解決しても、それは次の争いの火種になるだけ……今も昔も、その考えは変わらないけど、戦わないと守れないものもあるから……元生徒会長として助けに来たよ、みんな」

 

 彼女の名は梔子ユメ。ホシノとお揃いの盾を左手に、反対の手に固有武器『IRON HORUS』を構えた彼女は、毅然とした態度で後輩たちの前に進み出る。普段の彼女からは想像もつかないような堂々とした立ち振る舞いに、セリカたちは啞然とするばかりだった。

 

「(元生徒会長……!?)」

 

「これで4人と4人……数の上では互角だよね?」

 

「……! ええ、そうね。これで何の憂いもなく戦えるわ。……さあ、始めましょう」

 

「わ、私! 今度こそアル様のお役に立ってみせます! 1人残らず、ぶっ潰しちゃいますっ!」

 

 アルが自信満々に言い放つと、彼女の部下たちもそれに応えるように戦意を露わにする。

 

「それはこっちのセリフよ!」

 

「覚悟はいい?」

 

「お仕置きですよー!」

 

 対するアビドスの生徒たちも負けじと威勢よく言い放ち、各々の銃を構えて戦闘態勢に入る。緊張感がピークに達し、双方の心臓は高鳴り、全身に戦闘の気配が漂う。

 

「さあ、いざ尋常に勝負!! 真のアウトローがどういうものか、見せてあげるわ!!」

 

 斯くして、アビドスと便利屋68による二度目の戦いの火蓋が切って落とされた。

*1
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*2
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*3
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*4
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*5
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TIPS:
梔子ユメ。
アビドス高等学校の卒業生。同学校の生徒会の生徒会長を務めていた。
現在は柴関ラーメンでバイト生活を送っており、OGとしてアビドスの借金返済に協力している。
本来の歴史では2年前にアビドス砂漠で死亡しているのだが、小鳥遊ホシノと、発足当時の無銘生徒会の尽力により生還を果たしている。
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