少し前、部下の狼藉の謝罪に上の人間が来た。未だにストーカーをやめないことの方に疑問を持ってほしいと思うが、相手の規模が規模なので最早諦めている。
その男、上司であるアベンチュリンという男は言った。自分の命ほど安いものはない、と。
ステイ、神様ステイ。
後ろでゴゴゴゴと威圧感マシマシにアベンチュリンを見下ろしている神様、そしてその後ろからチョコっと顔を出しているマッスル石ボディに隠れた三つ目の女型の神様。その表情というか雰囲気はマッスルを止めようとアワアワしている。なおこの背後霊擬きの神様たちは目の前の男には見えていない。元一般人は胃が痛い。
おそらく女型の神様はアベンチュリンと関りのある神様、なのだろうか。ちょっと薄いので信仰切れ間近っぽい感じがする。それを分かっているので石頭後方父親面はぞんざいに扱うことをせず、とりあえず同席を赦している。
「いやはや、まさか本当に部下が全員無傷で全滅してるなんてね!これは驚いたよ!」
「頼むからさっさと回収して帰ってくれ。そしてストーカーをやめろ。会社規模のストーカーとか犯罪通り越して暗黒組織だぞ」
「……うん、それは僕も薄々理解してる。でも止まらない部下を抑えきれないんだ…」
「あぁー…」
お互いに諦観のため息をつく。上も上で大量の自制が効かない部下に困っていた。おかしいな、姫子さんに聞いたらダイヤモンドってカンパニーの頭って言ってたんだけどな…。命令違反する部下は何を考えているんだ。ついでに後方父親面はアベンチュリンの言葉を聞いて出張した。あれはまたお叱りに行ったな。ここに他の列車組が居なくてよかった。そうじゃなきゃきっと頭を抱えた丹恒君とか天を仰ぐヴェル叔父とか頭を抱える姫子さんが発生してた。
「それはそれ。…いや、ここに転がる部下の回収はしておくよ。ねえ君、ちょっと僕とゲームをしないか?」
「ゲームという名のバトロワは勘弁願う」
「いやいや!そんな物騒な物じゃないさ!やるのはただのカードゲーム。何をするかは君に任せよう」
「勝ったら?」
「僕の勝ちならカンパニーに来てくれ。切実に。君が勝ったら・・・まぁ、僕の部下は差し向けないということにしよう」
「よし乗った」
「いやちょっと返事早くない?」
ストーカーの件数が減るのならば諸手を上げて喜ぶに決まっている。犯罪してないのに指名手配とかいう意味不明な状況に少しでも光明が差すのならばそれはそれでいいのだ。
もう一つ、返事が早い理由としては──
「でも気を付けてね。多分・・・」
──黒猫の背後霊もとい賭け大好きイカサマ大好き悪戯大好きな神様がご降臨しているのだ。
「あんた、命より大事なものを失う方が確率として高いから」
そして現在。場所を列車に移してアベンチュリンと勝負中である。審判はなぜか召喚されていた忙しい筈のトパーズ殿、そして列車組代表で姫子さんの二人である。その他オーディエンスもいるが9割が悲鳴を上げている。
▽▽▽
───アベンチュリンは額からたらりと汗を流していた。命ほど安いチップはない、そう思っていたのにこれは何だ?
「レイズ」
「………レイズ」
「カードオープン。はい、ムラクモの勝ち」
判定が下り、勝敗が決まったその瞬間弾け飛ぶアベンチュリンの衣服。しかもわざわざ腕、腹、背中、と部位ごとに負けるたびに絶妙にきれいで不気味な弾け飛び方をして服だった端切れが列車の中に紙吹雪のように舞うのだ。円形脱毛のように弾け飛んだ服は『そういった店』でしか見ないような有様である。
そう、アベンチュリンにも全裸への道が迫っていた。
奴隷時代、確かにそういった目的で扱われたこともある。服を脱がされる事なんて、その下にある肌色を見られることなんて何ともない。そう、そう思っていたのに。
徐々に消えていく服という名の鎧。意図的に消えていく部位は徐々に際どくなっていきながら肝心の大事な部分「だけ」は守っている。一思いに全部弾け飛ぶ、それは部下からの報告で知っていたし実際に消し飛んだ場面も見た。だがこれは何だ?一思いに殺すこともせず、かといって嘲笑うかのように少しずつ獲物を甚振る獣の如く消えていく現状にアベンチュリンは冷静さを失っていた。ついでに審判で呼ばれたトパーズはアベンチュリンの細さに別の意味で悲鳴を上げそうになっていた。
アベンチュリンの衣装は既に服というより恥部を隠すだけの端切れと変わらない有様へと変貌し、向かい側に座る女は涼しい顔をしてアベンチュリンを相手に全勝している。
──なぜ?なぜ?
アベンチュリンは今までにない現象塗れにショートしそうになっている。
そしてさらに、そこに拍車をかける一言が投下された。
「…あっ。あんたに加護をあげた神様、いい神様だね。───次で下着以外消し飛ぶようにして試合終わらせてくれるって」
「ちょっっっっとまて???????」
「うちの後方父親面が帰ってきそうだからお遊びじゃなくて慈悲で消し飛ばすんだって」
「なんて??????」
「いや、だからうちの後方父親面が激おこで、そこらへんに鉄槌下しそうだからそこから逃れられるようにパンツだけにして逃がしてくれるって言ってるんだよ。あんたの神様が」
「は??????」
疑問符どころではない。アベンチュリンは未だかつてない暴言を暴言ではなく理解不能な魔法のように感じた。地母神の加護を確かに受け持っている。だがそれを誰かに言ったことはない。それどころか地母神の存在自体若干怪しんでいた。確かに加護のおかげで自分だけは幸運に恵まれていたが、全裸一歩手前が幸運な事例など今まで一度もない。寧ろ自分が相手を脱がせる側だった位だ。
それがなんだ。この惨状を前にその地母神が慈悲で下着にしてくれると宣言したという。目の前の女はクリフォトの寵愛を受けていると聞いてはいたがそれ以外は聞いていない。というか他の星神の寵愛も受けてんのか、と絶句した。
何かを察した姫子がカードを両者に配る。そして手元に来たカードを見たアベンチュリンは・・・。
「……ははっ」
もうなんか、全裸よりパンツを残された方がまだましなのかな、と思いながら弾け飛ぶ自らの服だったものを見つめ、一瞬両手を合わせて謝る誰かの姿を幻視した。
列車の中では悲鳴が上がった。
▽▽▽
「…以上が、事の報告です」
定例会議の最後、件の人物の身柄確保の進捗について報告していたトパーズは死んだ目をしながら、心を殺して淡々と報告をした。その報告に今までにない沈黙が流れる。
全裸一歩手前に陥った幹部、またしてもクリフォトによる制裁を食らったダイヤモンド、そしてそのあおりで色々大惨事になったカンパニーの社員と物資。最早引き返せないレベルで手を出してしまったが故に後悔しまくりの幹部が一言どころか呼吸の一つすら感じさせない程に黙っていた。
だがトパーズは一つ、報告をわざとしていないことがある。それは今報告した「列車パンイチアベンチュリン事件」の後からのアベンチュリンの行動である。
今までは自らの命を余裕で無視して賭けをしていたアベンチュリンが、命ではなく「服」を賭けるようになった。顔もスタイルもいい男が、負ければその身をくれてやると言って誘うのだ。それに乗る阿保の集団も集団だが、マシになったようで違う方向にぶっ飛んだ同僚の精神状態を心配しているトパーズはそれどころではない。
トパーズは静かに、報告書の最後に記されたアベンチュリンの現在の状況を握りつぶして黙り込んだ。
『オール(着衣)・オア・ナッシング(全裸)!』
pixivの方だともうちょっと詳細書いてたりしてなかったり
次回「前門の全裸、後門の全裸予備軍」
ぽっとでのアイデア「間に合わなかった世界線の雷の律者がカルデアに召喚されたら」