死滅回游…ってよォ~~~………   作:あんまん太郎

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漁夫の利、ハマグリとシギ

 

 

 ──マンションの一室が、()()()()()()()()()()()()()に耐えられなくなり、吹き飛んだ。

 

 そのまま窓の外に吹き飛んで落ちていく車を足場に、外に躍り出るレジィ。

 滑り落ちるように彼を追いかけるスピードスケーターの影。

 

「どこに逃げようってんだああ!?」

 

「やれやれ、まるで殺し屋みたいな執念だねえ……そらよっ『再契象』!」

 

 レジィは千切り取ったレシートをギアッチョに向けて投げ、術式を発動させる。

 燃えたレシートは、ひと一人を軽く覆えるほどの巨大な漁業網となり、滑り落ちてくるギアッチョの行く手を阻む。

 たとえ網を凍らせたとしても、結局邪魔なものは邪魔なはず。となれば、

 

「ちっ、しゃらくせえ!!」

 

 レジィの思ったとおり、ギアッチョが網の目を脚底のブレードで対処しようと身を捻った──その一瞬の隙、追撃で領収書を放つ。

 

 それは──

 

()()()()()()()()()!」

 

 さらにギアッチョの行く手を阻むように追撃してきたのは、巨大なタンクローリー。

 

 しかし、それだけでは終わらない。

 

「俺の術式で再現したモノってさあ、モノってよりは式神に近いんだよ。だから、簡単な命令くらいなら聞いてくれるんだよね」

 

 術式を開示することで、その命令機構をより強化する。

 

 すると、ギアッチョに向かってくるタンクローリーの給油口が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、満載されたガソリンが波濤のごとく周囲に撒き散らされた!

 

 それに気付いたギアッチョが距離を取る間もなく、ダメ押しとばかりにそこに投げ込まれたのは、爆竹とマッチ。術式であらかじめ顕現させ用意しておいた、火元。

 レジィの術式は、彼が下した命令を終えるまで消えることはない。命令によっては、顕現させてから時間差による実行も可能だ。

 

 レジィの命令によりマッチが擦られ、爆竹に火が灯される。

 それは火花を散らしながら気化したガソリンごと引火し、空中で大爆発を引き起こした。

 

 怒涛のような響きが無人の街を盛大に飛び交い、衝撃による荒々しい熱風が周囲を薙ぎ払う。

 

 レシートから素早く顕現させた防熱シートと防弾チョッキで身を包み、レジィは爆風に乗り上げるようにして受け身をとりながら、難なく地面に着地した。

 

「あーあ、あとで工場やディーラー巡って補充しないとな……」

 

 身につけたレシートに延焼していないことを確認し、煤や埃を払い落としながら、まるで花火でも見守るかのような気楽さで爆炎を見上げる。

 

(現代の術師ひとりに大盤振る舞いすぎるのもいいところだが、こっちは三人もやられてるからな。それに……あの鹿紫雲のように、シンプルだからこそ強力な呪力や術式ってのは、長引かせるほど面倒なんだよね、経験上)

 

 そういう相手は、術式を使わせる暇もなく押し切って倒すのが一番だ。

 上からは乗用車数台。下からは大型車両。さらに爆発によるダメ押し。

 彼にはどれだけの熱と圧がかかっていることか。

 

 そうして空を仰ぎ──目を瞠った。

 

「はー、こりゃ驚いた……()()()()()()()()()()?」

 

 視線の先。

 瓦礫や爆発物の残骸とともに、遅れて地面に降り注いだのは()()()()()

 

 まるで隕石のようなそれは地面に落ちたところで術式が解かれ、それは元に戻る。

 中から現れたのは、あの爆炎と物量から無傷で生還したギアッチョだった。ヒュウ、とレジィが口笛を鳴らす。

 

「君の術式、氷凝呪法のように呪力を氷や冷気に変換して操っているんだとばかりと思ったが……()()()()()()()を冷却し、凍らせるわけか」

「そおだ……俺が操るのは超低温。超低温の前には、()()()()()()()!! まあ、液体はともかく、引火するよりも早く気化したガソリンを凍らせんのは大変だったけどなあ!!」

 

 さらにいえば、冷やされた気体はまず液体となる。そうして周囲の水分と混ざり合いながら、液体から固体へ凍ったガソリンは、実際のところ油のため水と混ざっておらず分離しており、なおかつ比重が水より軽いため表面に浮かんだ状態だ。

 ガソリンの膜で覆われた氷塊にいた状態であるからこそ表面だけが燃え続け、一方で中心部のギアッチョまで被害は及ばなかったということでもある。

 

(空気を凍らせられるとなると……あのスーツをガスボンベ代わりにして呼吸も維持していたということか? そうでもしないと、普通氷の中で窒息死するだろうし。にしても……ガソリンはおろか酸素や窒素も凍らせるってことは、マイナス219℃を下回る冷却能力を持っているってわけで……分子活動を完全に停止させてるようなもんだから、もはや燃えるもクソもないね)

 

 そもそも分子の振動が停止すれば、たとえ何万度の熱だろうが存在することはできない。そうした熱エネルギーを発生させるかさせまいかの分子運動の主導権の奪い合いにギアッチョは勝ったということでもある。

 

 だが──

 

「君の術式は冷却能力、呪力はそれを動かすためのエネルギー。つまり、冷却を強めれば強めるほど……維持しようとすればするほど、呪力の消費も、術式の摩耗も激しくなる。その結果が……ほら、君の今の()()()()だ」

 

 ギアッチョは本体こそ無傷ではあるが、かなりの呪力を消耗したためか、例の猫耳のようなスーツも維持できず、水となって溶けてしまっていた。

 

(あれだけ低温を操作できるんだ、もともと呪力量は多いだろうから残ってはいるんだろうが……、()()()()()()()()()()しまっては意味がないな)

 

 術式を家電に置き換えれば、呪力は電気。

 家電の機能を最大限発揮しようとすれば大量の電気が消費される。しかし、大量の電気を一気に流せば、家電のほうが耐えられずにオーバーヒートして動かなくなるのは必然。

 

「あ゛!? だったらなんだってんだよ」

「分かってるだろ? 君にはもう打つ手がない。対して、俺は()()にはまだ余裕がある、勝敗は決まったようなもんだ」

 

 意地悪く肩を竦めるレジィに対し、ギアッチョは──依然、変わりなく。

 

 むしろ、その唇に笑みを浮かべてみせた。

 それが追い詰められたことによる笑みではないことを見抜き、レジィは目を眇める。

 

「まだわからないのかあ!? 勝負はゼロに戻っただけだってことによ!!」

「どういう──」

 

 尋ねる前に、鼻を突いた異様な臭いに、レジィはハッと目を見張った。

 この臭いは──

 

「そォだ……()()()()()()ってことはよおお、凍らせたガソリンも()()()()()んだぜええ!!」

 

 液体状態のガソリンは火に直接触れないと引火しないものの、揮発性は高く、そうして気化したガソリンは、小さな火源でも簡単に引火する。だからこそ、レジィもタンクローリーを爆発させる際、火をつけない状態で細心の注意を払っていたのだ。

 

 そしてガソリンの蒸気は、空気よりも重い。霧散することなく、地面に滞留している。

 つまりギアッチョとレジィの周囲の空気は今、非常に燃焼しやすい状況にある。

 

 それが、何を意味するか──

 

(術式を封じられた!)

 

 唇を歪め、ギリ、と奥歯を噛む。

 

 レジィ・スターの術式は、発動において「契約書を呪力で焼き切る」必要がある。

 しかし、あれだけの大きさの氷塊(ガソリン)が元に戻り、水と共に流れてあたりに充満しているこの状況。ちょっとした火種であろうと、レジィも被害は免れない。

 もし手元で爆発でもすれば、張り付けている他の契約書もおじゃんだ。

 

「やっと薄ら笑いが消えたなあ、レシート野郎!!」

「……チンピラ風情が!」

 

 「だが」とレジィは嗤い、拳を構える。

 

「術式を封じたからといって……純粋な体術で俺に敵うと思っているのかい? 俺、君より長生きした分の年季があるけど?」

「あ~? 懐古主義が調子に乗ってんじゃあねえぞォ! んなもん、やってみなくちゃあ分かんねえだろうが! てめえのフィジカルで俺を倒すのが先か、俺のホワイト・アルバムが回復するのが先か……賭けてみるのも悪くねぇなあ!!」

 

 油断なく構えつつ、両者は軽口を叩く。

 まさに一触即発。触れれば弾けるような、そんな危うい均衡は、

 

「──ガアア!!」

 

 唐突な第三者の登場によって崩れ去る。

 

「ッ、式神!?」

「ああ!? なんでンなところに()()()()がいんだあ!?」

 

 二人の間を断つように飛び込んできたのは、鋭い爪を持った巨大なオオカミ。

 さすがに虚を突かれるギアッチョとレジィ。

 

 その瞬間を見逃すまいと、素早く声が響く。

 

蝦蟇(がま)!」

 

「!」

「んなっ!」

 

 さらに現れたのは、大きなカエル二体。カエルたちはギアッチョとレジィそれぞれを舌で器用に絡めとり、その場に拘束した。

 

 目まぐるしく変わる事態。

 ようやく二人が動けなくなったのを確認するように、瓦礫の陰から黒ずくめの少年が静かに現れる。

 

「動くなよ、抵抗すれば容赦はしない」

 

(突然現れた……? いや、違う、あれは術式。影を媒介に、瓦礫の影の中に潜んでいたのか)

 

 観察するようなレジィの視線をあしらうように、少年は二人の前に立ちはだかった。

 カエルの長い舌による拘束は、ギアッチョはもちろんレジィも呪力を存分に振るえば引きちぎれなくはない。しかし、脱出に成功する前に、目の前のオオカミのような犬が二人に牙を剥くほうが速いだろう。

 

「やれやれ、漁夫の利か……参ったな」

 

 諦めたように溜息を吐いたレジィの言葉を受けて、「漁夫の利だあ!?」とギアッチョが目を剥いた。

 

「クソックソ! ふざけやがって!! そもそも漁夫の利の元になった話ってよお、ハマグリがぱっくりと殻を開けて日向ぼっこをしてたらシギに襲われるっつーとこから始まるが……なあんで貝が呑気に殻開けて日向ぼっこしてんだああ!? んなの自分から加熱調理されてるようなもんだろうがよおお!! 超イラつくぜェ~~~ッ!! つーか自然界をナメてんじゃあねえのかあ~~!? クソッ! クソッ!」

 

「……」

「……俺を見ないでくれる? どう考えても俺のせいじゃないよねこれ」

 

 一人で見当違いの方向へ怒り始めたギアッチョに、緊迫した空気も弛緩せざるを得ない。

 しかしギアッチョは二人に構わずに吠え続ける。

 

「てめーも邪魔してんじゃねえぞ! このレシート野郎から袈裟野郎のこと聞き出せねえだろうがあ!!」

「! 袈裟……お前、過去の術師か! 羂索のことを知っているのか」

 

 胡乱な表情になっていた少年が、ギアッチョの言葉に意識を切り替え、レジィを強く睨みつける。

 四方八方から敵意を向けられながらも、レジィの表情は涼やかだ。

 

「なに君ら、揃ってあいつに個人的な恨みがあるタイプ? ダメだよーあんな奴信じちゃあ」

「御託はいい。知っていることを話してもら──」

 

 リンゴンリンゴン!!

 

 まるで目覚まし時計のようなアラームが、三重奏に鳴り響いてあたりの空気を震わせる。

 三者三様、何事かと、突如隣に現れた式神もといコガネたちを見やった。

 

「うるせえぞ!! 今度はなんだってんだ!」

『仕方ないだろ? 泳者(プレイヤー)による死滅回游への総則(ルール)の追加が行われたんだよ』

「ルールの追加だと?」

 

 少年が目を見張った。

 流暢に喋るギアッチョのコガネを引き継ぐように、少年とレジィのコガネが打って変わって、機械的な大声を出す。

 

泳者(プレイヤー)による死滅回游への総則(ルール)追加が行われました!

・死滅回游〈総則〉:泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)に任意の得点(ポイント)を譲渡することができる』

『ってことだ』

「ああ? ンだこのルール」

 

「……! 虎杖か!」

 

 ギアッチョが目を眇める一方で、合点がいったように少年が呟く。

 そうして再びギアッチョたちをにらみつけ、「要望の追加だ」と冷徹に告げた。

 

「お前らのポイントも渡してもらうぞ」

 

 

 




ロードローラーにしたかったけど、OVA版で失礼。
(ちなみにギアッチョは一応まだ誰も殺してないのでポイントは)ないです。

あと、27巻のPVと広告もろもろ気合い入りすぎてません!?リアル髙羽とリアル羂索イケメン過ぎる。5部の一番くじも来るし色々と情報過多でヤバイヤバイ…
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