死滅回游…ってよォ~~~………   作:あんまん太郎

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雨降って地固まる⇒To be continued...

 

 

 

 疾風のような雷の叫びとともに青白い稲妻が地上で閃いたあと。

 それは、嵐が過ぎ去った後の地平のように、徐々に収束していく。

 

「……へえ」

 

 ぽつと、雨粒が、鹿紫雲の顔に触った。

 雷を吐き出しきった宵闇のような厚い雲から、土砂降りの雨が一気に降り注がれる。そこに交じる、赤色。

 

 雷速の疾風となった鹿紫雲から繰り出された剛撃は、ホワイト・アルバムの氷の鎧を砕き、ギアッチョの腹にめりこんでいた。

 

「貫いたと思ったんだがな」

 

 鹿紫雲の拳撃は、過剰蓄積させた電気と熱による、ホワイト・アルバムの氷解や破壊を狙ったものではない。

 どちらにしても氷は電気を通しにくく、運動エネルギーも超低温の前には止まる。

 

 だからこそ鹿紫雲は、そうなる前に、純粋なパワーで押し切ることを狙った。

 

 力は重さと速さ(最高速度でブチ抜く)

 相対性理論によれば、質量のあるものが光速などの速さに近づけば近づくほど、質量というものは増大する。つまり、圧倒的なスピード(雷速)に乗った体重は、計り知れないパワーを生みだす。

 最終的にホワイト・アルバムに静止させられようと、超低温に到達するまでの破壊力は、それだけでも充分な脅威となるだろう。

 

 しかし、完全に風穴を開けるまでには至らず。

 鹿紫雲の拳は手首のあたりまでギアッチョの腹部に突き刺さったまま、止まっていた。

 

 その理由もまた、至極単純。

 「なるほどな」と、鹿紫雲は指先に伝わってきた血肉の生ぬるさとは別の感覚に目を眇める。

 

「鎧を砕かれたあとは完全に術式(ホワイト・アルバム)を解いて、()()()()()()()()に切り替えたか。ハ、呪力操作が器用だな」

「……ったりめえだろ。氷を生成するだけなら鳥頭でもできんだろーが、低温を操るなんて芸当はよオ……俺だからこそ、できるんだぜ……」

 

 反転術式は頭で回し、呪力は腹で回す。

 戦いの根幹となるこの基本。だからこそ鹿紫雲は一撃必殺で腹を狙ったが、腹で呪力を回すからこそ、そちらに呪力を収束・集結させることも他の部位と比べれば容易い。

 打撃の一部と電撃を氷の鎧(スーツ)の破壊に消費させつつ、あとに残った純粋な呪力と打撃──それを呪力による防御で耐えきったのである。

 

「──だがまあ、それがどうしたって話だ」

 

 鹿紫雲は吐き捨てる。

 

「耐えたつっても、お前ももうガス欠だろ? 死期をちょっとばかし遅めただけだったな」

 

 内臓にまで届いていないとはいえ、鋭い衝撃はギアッチョの身体を突き刺していることは事実。

 血を吐き、満身創痍な体躯がどんどん()()()なっていく感覚を拳越しに感じながら、鹿紫雲はつまらなさそうに呟いて──

 

「あ゛?」

 

 心底気に入らないとでもいうような怒気が籠ったギアッチョと、目が合った。

 眼前に迫った『死』に対し、凄まじいまでの闘志と力──『覚悟』が、漲っている。

 

「誰が……ガス欠だあ? それは、てめーだろ、うがよおッ!!」

 

 ギアッチョは、両手で鹿紫雲の腕を掴んだ。

 

「ッ!?」

 

 すぐさま引き抜こうとした鹿紫雲だが、その手と腹の奥から響く凍気に目を見張る。

 

(こいつ、呪力が回復して……!)

 

 負の感情を抱く際に生まれる呪力(エネルギー)、それを垂れ流さずにコントロールできるのが呪術師。

 呪力の回復は基本的に自然回復。つまり時間経過だが──超低温という呪力消耗が大きい術式の緻密な呪力操作に長けながら、怒りっぽい(非常に繊細な)ギアッチョは、一般的な呪術師と比較して呪力総量の多さ(呪力を受け止める器の大きさ)のみならず、()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

「確かに空気を凍らせンのはもうしんどいけどよお……液体を固体にす(凍らせ)んのは、かなり楽なんだぜェえ~ッ!!」

 

 地面から飛沫を跳ね上げる勢いで降り注ぐ雨。

 濡れる冷たさもうつつに、興奮に声を仰け反らせながら、ギアッチョは僅かに回復させた呪力を練り上げ、術式に漲らせた。そしてそれは──

 

「てめえ、()()()()()()ッ!!」

「それだけじゃあねえ、てめえのおかげで、凍らせられる液体(雨粒)は大量にあるって気づけたんでなあ!」

 

 そうして血にめり込んだ拳と雨に濡れた鹿紫雲の腕が、みるみる凍っていく。

 

「両手も使って受け止めてりゃあ、拳のダメージももっと吸収できたんだろうけどよお……()()()()()()()、取っておいたんだよ!! 『直』は、素早いんだぜ……『ホワイト・アルバム』の『直』ざわりはよおおッ~~!!」

 

 勝負の結果など二の次。

 凄まじいまでの執念と覚悟で動いたギアッチョは、()()()()()()()、自身の()()()()()()()方向へ全力で舵を切った。

 

 一瞬動きが止まった鹿紫雲の隙を突くように、ギアッチョは大きく頭を振りかぶり──そこに、強烈な頭突きが炸裂した。

 

「──~~ッ!!」

 

 拘束された状態で、真正面からの頭突きを躱すことはできない。

 当たった箇所から衝撃が拡散し──視界が白く弾け、自身の脳がシェイクされるような錯覚に、鹿紫雲は陥った。

 

 あらゆる格闘技で顔面への頭突きが禁止されているように、頭蓋骨は人体で一番硬く、脳などが詰まっているため人体で最も重い箇所。そのため頭骨を使った攻撃自体が非常に強力な技なのである。

 しかしギアッチョは喧嘩っ早いところはあっても格闘技はまったくの素人……なのだが。過去には──()()()()()()()()()()()()()に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 異常な身体能力を持つ虎杖悠仁(宿儺の器)ほどではなくとも、素の腕っぷしは強い方なのである。

 呪力も使い果たし、防御もできず真正面から喰らってしまった鹿紫雲の意識が飛びかけて──踏みとどまる。

 

「クソが、調子に……乗んじゃ、ねえッ!」

 

 空いた腕を振るい上げ、ギアッチョを殴る。呪力が空になったとはいえ、その一撃は重い。

 一瞬怯んだギアッチョだが、にやりと笑みを歪めながら、

 

「おもしれえ、どっちの『覚悟』の強さが『上』かよぉ~、確かめてみるかああ~!?」

 

「『覚悟』? ハッ、じゃあ見せてやるよ。ただしてめーのする覚悟は、あの世に旅立つほうの『覚悟』だけどなッ──」

 

 土砂降りの雨の中に響き渡る殴打音。

 それはまさしく泥仕合。

 しかし双方アドレナリンが全開なのか──精神の高揚が肉体的苦痛と疲労を凌駕する勢いで、ギアッチョと鹿紫雲は互いに怯むことなく、動き続けた。

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ああ?」

 

 朦朧と、靄でも隔てて見るような白い視界。

 視点が定まってくると、それが白い天井だと分かる。

 

「ああ、起きた? しぶとくて何より」

 

 長い髪の毛に濃い隈、右目の下に泣きぼくろ。白衣を着たダウナーな女性が、身じろぎしたギアッチョに気が付いたのか、気だるげに顔を覗き込んできた。

 

「な、ん……誰だ……てめえ……」

 

 薬の匂いに混じる煙草の煙に顔をゆがめながら、ギアッチョはなんとか言葉を紡ぐ。

 しばらく眠っていたせいか、叫びすぎたせいか、色々な要因で喉がカラカラに乾いている。

 

「家入硝子。どこまで知っているか分かんないし説明面倒(めんどい)から搔い摘んで言うけど、君が同行していた伏黒と虎杖が通う学校の医師。で、君たちを反転術式で治した恩人だ。ほら、お礼言っときな」

 

「あぁ~……!? あンがとよ!!」

 

 半ギレながらもしっかりとした感謝と声量に「うるさ」と呟かれつつ、ギアッチョは上半身を起こした。

 怠さはあるが痛みは既になく、見れば突き刺された腹もしっかりと塞がっている。

 

 反転術式とやらはよくわからないが、現代医学だけで完璧に治せるとも思えないので、そういう呪術があるのだろうか。負の感情でもって人に呪いをかけるのが一般的に聞く呪術だというのに、大きな怪我をこうして治すこともできるとは。

 呪いを身近に感じるようになってからまだ数日、分からないことが多すぎてイライラしてきたが、それを言葉に出して発散する前に、ギアッチョは何かに気が付いたように顔を上げた。

 

「“たち”、ってことはよォ……」

 

「ああ……100点保持者(鹿紫雲一)に死なれちゃ困るからね、もちろん治したよ。()()()()()()()()()君らを運び込んだのは虎杖たちだが、一方は凍傷で腕がバッキリ折れてるし、一方は腹に()()()()が突き刺さったままだし、さすがにめちゃくちゃだったらしい。天使の術式(術式を消滅させる術式)を介して結界内からやって来た来栖華からの連絡を受けて、私が出張ってたというわけだ。……戦闘要員じゃないのに、おかげで私も泳者だよまったく」

 

「……にしちゃあ、随分と落ち着いてるなアンタ。いずれ出られるアテがあるってかァ?」

 

 家入が長く尾を引くように、白い煙を吐き出す。

 

「虎杖が鹿紫雲一とちょっと()()をしてね、新しく総則(ルール)を追加したんだよ」

 

「マジかよ。おいコガネェ!」

 

『マジだ。【泳者(プレイヤー)は身代わりとして新規泳者(プレイヤー)結界(コロニー)外から招き、100点を消費することで死滅回游から離脱できる】……ってのが、追加ホヤホヤの総則(ルール)だぜ。……ところでキミ、そう、キミだ。キミの健康状態は……間違いなく『良好』だッ! 見たところタバコを吸えるようだし、今お酒もやってるな? ドラッグはやってるかい? 麻薬やってるならもっと君は最高にディモールト(非常に)いいんだがなあ~』

 

「……なんか、妙に個性が強いな、君のそれ(コガネ)

「あ? 他もこんな感じじゃあねえのかよ」

「そんなことあってたまるか」

 

 ギアッチョのコガネの異質すぎる恰好とAIの範疇を超えた熱っぽい語りに引きながら、「ま、一抜けは私じゃないけどね」と家入は気を取り直す。

 

「とはいえ、他のコロニーに散らばってる生徒も順調みたいだし、何も問題が起きなければいずれ二抜けくらいはできそうかな」

「……」

 

 虎杖が日車という泳者に交渉して追加させた総則も利用することで、特定の泳者を意図的に死滅回游から離脱させることができるということだ。法の抜け穴というものだろうか。

 

 とはいえ、彼らの事情は大して興味はない。

 鹿紫雲との勝敗もどうだっていいが、もともと死ぬつもりは毛頭なかったギアッチョだ。

 すべての目的、彼の行動原理はただひとつ。

 

「まあなんでもいいがよォ……それがケンジャクって野郎とこのクソみてえなゲームをぶっ潰すことに繋がンだろうなあ……」

 

 ブツブツと愚痴りながら身体に問題がないことを確認すると、ギアッチョは横たわっていたベッドから降りた。

 内装を見るあたり、拠点としていたホテルの救護室か何かだろう。色々と情報を知っておきたいのもあり、虎杖たちの元に向かおうとして、家入に呼び止められた。

 

それ(羂索)が君の戦う(呪う)理由?」

「……あ? そりゃそうだろ。つーか戦う理由もなにも、強制だろォが」

 

 突然の問いにギアッチョの思考が一瞬止まるが、すぐににべもなく答えた。

 

「でも、もう追加総則もあるんだ。君が無理して戦わなくてもいいんじゃない?」

「ああ~~?!」

 

 どんどん眉間にシワが寄っていくギアッチョ。

 少し考えるようにして、家入は新しい煙草に火をつけ、口にくわえた。

 

「質問を変えるか。君は泳者……いや、呪術師として、この死滅回游で、何を成す?」

「さっきからなんなンだよッ……尋問のつもりかァ?」

 

 苛立ちから語気がどんどん強くなるギアッチョに対し、家入はどこ吹く風だ。

 

「いや? ただの暇つぶし。うちの学長が、似たような感じのことをよく新入生に聞いてたから」

 

 あっけらかんとして言い放つ家入に、「ハア!?」とギアッチョは目を見張る。

 

 そうして、しばし黙っていたギアッチョだが。

 それは迷いだったり、怒りだったりによるものではない。「……そもそもよォ」と、ギアッチョは思い出したように顔を上げ、

 

「……死滅回游…ってよォ~~~…………」

 

 荒っぽく叫ぶでもなく。

 ふと静かに、そう切り出した。

 

「『強制参加のデスゲーム』ってのは、わかる……スゲーよくわかる。まさにバトルロワイアルって感じだしな……だがッ!!」

 

 冷静な語りから始まっていた彼の言葉には、いつものような興奮と熱が籠っていく。

 

「肝心のクリア条件がないってのは、どういう事だああ~~~っ!? なあーんでッ!? 『100点を消費して』できることが『ルールの追加』しかねえーんだよォオオォーーッ!! そんなクソゲー、納得いくかァ~~~? おい? オレはぜーんぜん納得いかねえ……戦って死ぬか、戦わずに死ぬかって、なめてんのかァーーーッ! このオレをッ!! チクショオーーームカつくんだよ! コケにしやがって!! ボケがッ!!」

 

「……」

 

 答えになってない言葉を伴いながら突然激怒し始めたギアッチョに対し、家入は冷静であった。

 続きがまだあると察していたからだ。

 

「アイツ……ケンジャクって野郎はよお!! このクソッタレなこのゲームを裏で仕切って……さも自分が『運命』を握っていて、さも自分がその『頂点』にいますみてえな顔をしてんだろォが!!! 死滅回游も、ケンジャクって野郎にもよォ〜!! 超イラついてンだよこっちは!! だけどなあ、この世がくれた『真実』もある……! それはこの俺に……、全てを静止させる力(ホワイト・アルバム)を授けたこと……それは明らかな『真実』だ……!」

 

 怒気とともに漲る凍気が、ミシリと周囲の空気に亀裂を入れるかのようだ。

 

「だからこそ!! 俺はこの能力で、あいつをボコボコに叩きのめすッ!! 運命の奴隷じゃあねえってことを、証明してやんだよッ!」

 

 そうして家入の返答を待たず、ギアッチョはその勢いのまま荒々しく部屋を出ていってしまった。

 地団太を踏むように忙しく足を踏み鳴らす音が遠ざかっていく。それを聞き届けつつ、家入はようやく「ハハ」と笑った。

 

「いいね、しっかりイカれてんじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かな湖面に小石を放り投げるように。

 道行く人々とは反対側の方角へ踏み出そうとするように。

 

 これは、終わりの始まりにすぎない。

 

 

 奇妙な冒険(死滅回游)の先で、彼が『真実』に到達するのか、否か。

 全てが終わってその後に残るものは……果たして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⇒To be continued...

 









☆このあとは書きたいところを書いたら、番外編として出すって感じです。
なぜなら、五条復活と津美紀=万が確定している以上、五条VS宿儺も確定してるので…普通に続かせるにも流れがほぼ一緒になるのとだらだらになっちゃいそうなので…。あと持続力-Eなんで許してください。

高評価、感想なども皆様ありがとうございました!
またお会いしましょう。
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