◆
「でさ、結局あの異界で会った黒ずくめの奴ってなんだったんだろうな?」
「えぇ・・・、いくら何でも気になるの遅くない?」
あれから1週間だよ?と。
モー・ショボーとエンジェルに何かと残念な物を見る目で俺をジトッと見ている。
あの異界での一件以降、俺は新たに手に入れた悪魔召喚プログラムの性能を確かめるため、人を襲う悪魔を狩るという名目で奔走していたのだが。
俺はCOMPの利便性に、傍目を憚らず興奮していた。
何せ今まで四苦八苦していた武器や道具の携帯もCOMPの中へ出し入れ可能だったり、アナライズ機能で相手の強さ、弱点まで分析が出来るんだぜ?
悪魔もCOMP内に収納でき、悪魔同士の入れ替えも自由自在。
正直、利便性に加えて戦略的観点から言ってぶっ壊れの代物だ。
興奮しない訳ないだろう?
そんなこんなで、新しい玩具を買い与えられた子供の如く、寝ている時間以外悪魔狩りに勤しんでいたらいつの間にか1週間が経過し、ふと、悪魔狩りの休憩のタイミングでそんな事を思い出した。
そんな次第である。
「正直、悪魔関連の武装組織の一員か何かだろうなぁとは薄々思ってはいたんだが。よくよく考えてみりゃ俺はそこん所の組織とか、関係性とか無知極まりないんだよな。
という訳でお前ら、知っている事でいいから教えてくれ。」
「えー・・・。面倒臭ーい。」
「メシアの教えを説くのは吝かではないのですが、忌々しいガイア共については気が進みませんね。」
・・・チッ。案の定渋りやがるか。
やはり、仲魔とは言え悪魔。タダで教えを乞うのは調子のいい話だったか。
仕方ない。
俺はCOMPの中からそれを取り出し、それとなく俺のとても愉快な仲魔達に差し出した。
ス・・・(宝玉2個)
「わーい!何でも喋っちゃうよー!」
「今日の私は何でも喋りたい気分です!」
パッと手元の宝玉が無くなった。
この俗物がよぉ・・・!
貴重な宝玉2個もやったんだ。
適当ぶっこいたら承知しねーからな・・・!
一通り、モー・ショボー、エンジェルの話を一通り聞いた後、その内容を紙に描いて纏めてみる。
まずはメシア教。
一神教の唯一神を信奉し、法と秩序を重んじる、いずれ出現する
ここまではただの宗教法人にように思えるが、唯一神のみへの信仰、土着信仰や他宗教への厳しい目。悪魔に対する過激なまでの反応。
少なくともエンジェルの話を聞く限りでは、排他的一神教、絶対的一神教の側面、性質が大きいようにも思える。
エンジェルを末端に、上位の天使達がメシアの上層部にいる事は想像に固くない。
そして、そんな神や天使達の教えを絶対であると重んじる信奉者か。
・・・碌でもなさそうな臭いがする。
出来ればメシアンとは関わりたく無いものだが。
次にガイア教。
唯一神によって貶められた神々の復権と自然との調和を目指す集団。Chaosの陣営の総本山。
当然ながら、唯一神に貶められた悪魔共を崇拝している集団だから、メシアとは敵対している。思想を聞くにネオ・ペイガニズム・・・いや、ペイガニズムは蔑称か。
復興異教主義の集団っぽいが、その実、真の自由を掲げてやりたい放題。
暴力にかまけ、弱者を軽んじる反社会的勢力の側面が大きい。
元々が多神教である日本との親和性も良かったのだろう。
これらのガイア教関連の反社組織は山ほど存在しており、メシアンでもその実態は把握しきれていないそうだ。エンジェルは忌々しくそう語っていた。
どちらにせよ、メシアンと同様で碌でもない。過激派集団という訳だ。
さて、ここまでメシアとガイア。
それぞれの思想、主義を持つ組織が出てきた訳だが。
相容れず、対立しあう二つの勢力。
融通の利かないこれらの組織が同じ国、ましてや同じ土地にいるとなれば衝突は免れない。
ぶつかれば、何も知らない人々への被害は計り知れないだろう。
だが、それを監視・牽制している中立的な存在がある。
それがヤタガラスという組織。
詳細は不明。しかし、日本に古くから存在しているのは確かであり、護国のため、悪魔を使役し、悪魔を殺す術を追求し続けた葛葉一族がその組織内大半を占め、その他の古くから存在している悪魔払いの大家も所属している。
特定の思想・主義がある訳でもなく、目指すは国の安寧と平定。それを崩す者があれば天使であろうと、悪魔であろうと、護国のためであれば殺す。
正に、NEUTRALの権化のような集団だ。
このヤタガラスが睨みを利かせる事で、ガイアとメシア両陣営が表立って争いを起こす事がないそうだが、その影響力は年を追うごとに減少しているとはエンジェルの談。
古めかしい組織が、現代の荒波についていけなくなっているのか。
はたまた何処の界隈にでもある人材不足か。
古い物が淘汰され、新しい物が生まれ続ける世の中か。
世知辛いな。
さて、組織図については何となく分かった。
「・・・で、結局何の話だったっけか。」
「・・・ソーイチロー、ボケてるの?一回脳みそ吸った方がいい?」
ジト目で言うモー・ショボー。
おいおい、別にロボトミー手術はご希望じゃないって。
「しっかりして下さい。あの黒ずくめの、マントを羽織った者についてでしょう。」
・・・あぁ、そう言えばそうだった。
結局、奴らが何者かどうかって話だったな。そういえば。
悪魔の事であれば大抵は忘れないんだが、人の事になると途端に興味が薄れるんだよな。
「・・・ソーイチロー、友達いなさそうだもんね。」
「じゃかあしいわ。」
人の交友関係を詰るんじゃない。
「大丈夫ですよ、ソーイチロー。私達が付いていますから!」
「あー、抜け駆けずるい!一番の仲魔は私なんだからね!私が一番に付いているからね!」
「あぁ、そうかい。ありがとうよ!」
慰めのつもりだろうが、それ大分心の傷に塩を塗りたくっているからな?この悪魔共め。
・・・で、話は脱線したが、あいつらの正体か。
メシア、ガイアの話を反芻した所で、これらの組織の一員である事を否定した。
昨今、弱肉強食主義のガイア教が無辜の人々のために身体を張る事をするか?捕まった人々を弱かったから喰われたとか言い抜かして見殺しにする方がしっくり来る。
ならばメシアか?
メシアが羽織るのは白と青を基調としたメシア指定の服。そして十字架の金細工、もしくは剣、槍を武器としている。あいつらが着ていたのは黒のマント、そして装備していたのは刀だ。
黒い天使も神話上でも存在しているし、身に着けている物だけで判断するのは愚の骨頂だが、他のメシアンとは異なる格好の、別の意味で目立つ格好のメシアンがいればエンジェルが知っていないのはおかしい。
というか、黒猫連れたメシアンって何だよ。散々魔女狩りで黒猫を狩り尽くした癖によ。
よってメシアンの線も消える。
ならば残りは、
「ヤタガラスか。」
国の機密組織。その一員か。
別の意味で関わりたくない組織ではあるが。
「そう言えば聞いた事があります。ヤタガラスの葛葉一族。その中でも指折りの実力者が代々名を引き継ぎ、強大な悪魔達と対峙し、討伐していると。」
「あ、それ知り合いの子にも聞いた事あるよ。そのサマナーって悪魔と黒猫を連れ回しているんだって。そういえば、あの子も黒猫連れてたなぁ。」
世襲制の、黒猫を連れたサマナーか。
物の見事に一致している。ヤタガラス所属ってのにはほぼ間違いは無さそうだな。
さて、どうすっかマジで。
「フリーランスのサマナーってどう思う?」
今の所、何処の所属でもない俺が、他組織においてどう見えるか。所見を我が愉快な仲魔達に問う。
「どうにでも転びやすい存在。良く言えば引き込みすく、悪く言えば不穏分子。そういう所ですか。」
「うーん。あの現場だったら間違いなくソーイチローは危険因子だね!」
冷静な分析ありがとうよ。
ッチ、場のノリで名前まで名乗っちまったのは失敗だったか。
・・・まぁ、こんな活動をしている以上、各勢力に名前が知られるのは時間の問題だったろうさ。そう考えておくとしよう。
・・・一応、だが。
俺の属性はどちらにも傾いていないよな?
COMPを起動する。
[達人:吉井 宗一郎 Lv.25 耐性:なし 弱点:呪殺 Neutral‐Neutral]
俺はCOMPの表示している内容を見てほっとする。
良かった。今の所、敵対組織について心配する事は無さそうだ。
「「ニュー・・・トラル?」」
おい、首を傾げている愉快な仲魔共。
そんなに俺がNeutralでおかしいか、えぇ?
「だって、あれだけ悪魔を殺していたら、ねぇ?」
「殺戮主義者は間もなくChaosコースですよ?」
「いや、俺一応人を襲うような悪魔を狩っているだけで、悪魔なら誰彼構わず殺している訳じゃないからな?」
人を散々にジェノサイダーとか言っているけど、分別はしているからな?
ていうか、この街、というか東京自体が人を襲う悪魔が多いんだよ!
殺しても殺しても直ぐに何処からともなく沸きやがる。
首都だしマガツヒが国の中で最も集結しやすいからだろうけども。
「ならばメシア教に改宗しましょう!悪しき霊になる前に主の教えに、主の導きに従い、よりよい世界を共に目指しましょう。」とか言っているエンジェルの顔を手で遮っていると、インターホンが鳴る。
来客とは珍しい。
俺の部屋を訪ねてくる親しい知人、いる訳もなしに。
俺はインターホンのカメラ越しに来客の姿を確認する。スーツ姿の男がニコニコ顔で一人立っている。まるで張り付けたような表情だ。目尻を下げており、意図的かそれとも元々薄めなのか目の色は伺えない。
怪しいが、俺は一応応対する。
「どちら様でしょうか?」
『お忙しい所申し訳ありません。私、この辺で営業に回らせて頂いておりますボーデンカンパニーの者なのですが、お話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?』
ニコニコ顔を男は、そう妖しく笑顔を深めてそう言った。