ノットネゴシエイト・サマナー   作:Nピーマン

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プリズンブレイク①

 

酷く薄暗く、ジトリと不快な湿った空気と砂埃、乾いた血の臭いが立ち込めるそこは、ただひたすらに灰色に覆われていた。

 

換気という概念など無いのか、窓一つ無く息苦しい無機質なコンクリートの壁に囲われた6畳程の部屋。そこに、椅子へ両腕両足を縛り付けられ、身動きが全く取れない状況下になって何時間経過した事か。

 

ガチャリと。

不意に無機質なコンクリート部屋の唯一の出入り口から入ってきたのは、あの笑顔を貼り付けていた男だった。

 

「おや、目が覚めましたか。お早い事で。」

 

「サービスが悪いからな。寝心地が悪くてつい目が覚めちまったよ。」

 

わざとらしく、伸びるような仕草をする。

俺の軽口に取り巻きの一人が反応して、前に出ようとした所で、男がそれを制する。

 

「つまらない真似はよしなさい。彼は大事な戦力となりうる男です。」

 

取り巻きを下がらせ、男は俺の対面に置いてある椅子に腰をかけた。

 

「いやぁ、すみませんねぇ。部下達はどうも血が昇りやすいタチでして。私が命令する前に手を出しがちなんですよねぇ。」

 

へらへらと笑う男。

 

「だから、助かりましたよ。下手に暴れ回ったりしたら小汚いカラスに付け回されますから。しかし、まぁ、悪魔殺しを平気で行う貴方も所詮は人間だ。意外でしたよ。自分の命より同じ建物に住む人々の命を優先するとは。」

 

あぁ、いえ?褒めているんですよと。

マンションの住民を担保に俺を連れ出した狂人は嗤う。

 

「インターホン越しに営業を断られたときは実にショックでした。思わず号令をかけてしまいそうになる程度には、ね?貴方が非常に理知的で助かりました。あぁ、安心なさい。あのマンションにはもう部下はいませんよ。用があるのは貴方ですし、約束を反故にして暴れられてもメリット、ありませんから。

 

で?その上で聞きますよ?貴方とは良き友人になれそうだし、あまり手荒な真似をするのは私の本意ではないのでねぇ。」

 

 

 

「貴方、ガイア教に興味ありませんか?」

 

「寝言はネーミングセンスの無ぇ会社名を変えてから言え。中〇派もどきが。」

 

 

取り巻きのガイア教徒らしき男から今度こそ手に持った鈍器で殴られる。椅子から転げ落ち、その上で頭や腹を蹴り飛ばされ、執拗に殴り飛ばされる。

 

「はいはい、そこまでですよ。いくら人の枠を超え始めた達人でも、殴り続ければ死んでしまいますよ?貴方達は加減を知らないのですから。」

 

とは言え、と男は続ける。

 

「無駄な足掻きはしない事です。長引けば長引くほどに苦痛を伴う。貴方に後ろ盾が無いのは折り込み済みだ。助けに来る者も期待できない貴方には私達の誘いに首を縦に振るしかない。」

 

「・・・・・。」

 

「やれやれ、またダンマリですか。・・・まぁいいでしょう。時間はたっぷりある。どこまで、その威勢を保てるか見物だ。では、また後程。」

 

 

 

 

迂闊だった。

いつでもCOMPを起動できるようにはしていたが、まさか白昼堂々とマンションの住民全員を人質にする強硬手段に走るとは。自分の命と他人複数の命を天秤にかけられて、流石に自分の命を選択できる度胸は俺には無かった。他人の命にまで責任は持てん。

ジェノサイダーと散々罵られようとも、奴の言う通り、所詮俺も人間だ。

 

さて、これからどうしたものか。

 

スマホは当然なし。捨てられたか、あるいは家の中に放置されたままだろう。

武器もなし。道具なし。全てCOMPの中に収納されている。

念入りにドルミナーまで掛けやがったせいでここが何処かも分からない。

圧倒的不利な状況下にある。

 

この際、一度ガイア教に従った振りでもしておくか?

 

いや、ガイア教に入った途端、Chaos思想にされる洗脳とか何をされるか分からない。従順な振りをする線は止めておくべきだ。

 

と言うよりも、これだけボコスカ殴られたんだ。

暴力に屈したみたいで気に食わないし、なんなら奴らに一発ずつ丁寧にお礼参りしないと気が済まない。

 

ちと、ドタマ来てるんですわ、お?

 

ビキリと。頭に血が昇る感覚と、心なしか頭からの出血が増えたような感覚が。

 

いかんいかん。血が昇り過ぎて出血多量で倒れては事だ。

Be Cool. Be Cool・・・・・・・.

 

俺は冷静を試みながら、手に掛けられている縄に力を入れ続ける。

先程、我を忘れて暴力に興じてくれたガイア教団の奴らのおかげで大分緩みやすくなっている。俺は尽かさず力を込めてぐりぐりと縄を擦り合わせると、徐々に縄が緩み解け始めた。

 

手首の縄が解け、そして足の縄を手で解き、凡そ数時間ぶりに人間としての自由を手に入れた。

 

首をならしながら、口の中の血を吐き出す。

 

 

さて・・・・。

 

 

ぶち殺す。

 

 

部屋のドアを蹴破ると、そこには見張り番のガイア教徒が二名。丁度テーブルに座ってカードゲームを興じている最中であった。

 

 

「な、貴様――」

 

 

何か言う前に俺はガイア教徒の一人の側頭部に蹴りを炸裂させる。

相棒が吹き飛ばされてようやっと手元の武器を取り出すもう一人のガイア教徒。

 

・・・あぁ顔見て思い出した。お前、家で襲撃してきた時に、俺に腹パンした挙句ドルミナー掛けてきた奴だよな。要求通り無抵抗だったのになぁ。痛かったなぁ。あれ。

 

「貴様、動くんじゃない!状況が分かっているのか?囚われの身で後ろ盾もないお前には救出の手を誰も差し伸べる事はない。ここで暴れても寿命を縮めるだけだぞ。」

 

だろうな。孤立無援。それが俺の状況だ。

 

「で?だから?」

 

俺は床に転がったガイア教徒の銃を拾い上げる。

M1911。まぁ、ないよりマシか。

 

俺は武器を構えるガイア教徒に銃を向けた。

 

「一人では戦えないと誰が決めた。孤立無援?それが?そもそもCOMPを拾い上げるまで一人で悪魔と相対してきたんだぜ?俺の事をどこまで調べたかは知らんが。」

 

 

「そもそもだ。」

 

 

「俺をお前らは暴力という手段で押さえつけようとした。

だったら当然、逆の事をされる覚悟出来てるんだろ?

 

腹を決めろ。お前らの末路なんて、そんなモンだぞ?」

 

 

俺は向かって来るガイア教徒に向け、銃の引き金を引いた。

 

 

 

 

・・・・・。

 

 

 

 

「逃すなぁ!奴を絶対に捕まえろぉ!!ゲブァ?!」

 

「貴様、よくも同胞を!グペッ!?」

 

銃声を聞きつけたガイアの奴らのドタマを、拾った鉄の棍でかち割りながりながら足を進める。ガイアの奴らが向かってくる逆方向へ進んでいくも、一向に出入り口が見えてこない。

 

窓という窓もない、さながら石の海だ。

お前ら引きこもりかよ。気持ち悪くなんねーのか。こんな日の当たらない場所にいて。

 

反社会的というより社会不適合者か何かだろ絶対。

 

「いたぞー!!」

 

ガイアのクソが叫ぶ。

チィ、一体何人いやがるんだこいつら。ゴキブリの如くわらわらと沸きやがって!

 

「奴も人間だ!いずれ疲労する!このまま押し切れ!!」

 

クソが!雑魚と言えども、これだけの数を相手にし続けるのはしんどい。数だけは一丁前に揃えやがって・・・!

 

モー・ショボー達さえいれば。

こいつら如き、いくら居ようとも・・・!

何もかもが足りねぇ。

クソ、ここで終わりなのか?

 

 

 

 

「ぎゃあ!?」

 

ふと、ガイア教徒の後方から悲鳴が上がった。

 

「き、貴様、何者、がはぁ?!」

 

「まさか、貴様、ぐおぉ!?」

 

血飛沫舞いながらガイア教徒達の隊列が崩れていく。

何だ?俺以外に誰かいるのか?

何が起こっているか分からんがチャンスだ。

 

「な、何事だ!?何が起きている!!このタイミングで襲撃だと!?」

 

「おい、余所見している余裕あんのかよ。」

 

「あ?」

 

恐慌に陥っている間に力を籠める。

ありったけの力を籠めて、籠めて、籠めて、籠めて。

そして、フルスイング。

今までの恨みを籠めた鉄棍を目の前の指揮官気取りのガイア教徒へと放つ。

 

ペキョリと。

まるで、か細い模型が折れるような小気味の良い音とは裏腹に肉が裂け、千切れるような感触。

そして、それを感じ取った時には、その人間だった物は血霧とただの無数の肉片となって、ガイア教徒の隊列に降り注いだ。

 

「ぎゃあああー!!」

 

「ひぃいいい!?」

 

ガイア教徒の指揮官もどきがマガツヒへと還ると場は阿鼻叫喚に包まれる。

悪魔独特の異様な気配がしたから、と思ったがやはり悪魔だったか。

何の悪魔かは知らんがそれなりの悪魔だったのだろう。

一撃で消し飛んだのにかなり衝撃を受けている。

 

ある者はへたり込み、ある者は許しを乞い、ある者はその場から真っ先に逃げた。

 

「ぎゃあ!?」

 

まぁ、逃げた先に、襲撃者とやらがいるから結局逃げられないんだがね。

 

さて。

 

「次に死にたい奴らは手を挙げろ。」

 

 

・・・・・。

 

 

恐慌状態に陥った烏合の衆と化したガイア教徒を鎮圧するのに然程時間はいらなかった。

 

投降したガイア教徒が地面に転がっている中、俺は目の前に立つ、よく知った顔のガイア教団の襲撃者へ話しかける。

 

「1週間ぶりか?こうも巡り合うなんてな。こんな偶然、あるもんなんだな。」

 

そこには、あの異界で会った、黒ずくめのマントを羽織い、刀を帯刀した男が立っていた。

 

「・・・何故、貴方がここに?」

 

中性的な声で疑問を上げる黒ずくめの男。

 

「それはこっちが聞きたいんだよなあ。いきなり誘拐されてこんな趣味の悪い場所まで連れてこられたからな。全く検討つかん。」

 

まぁ、それはそれとして。

状況が落ち着いたから、取り敢えずさ。

 

「悪いけど魔石、傷薬持ってない?」

 

頭から血が止まらんし、肋も折れて息もしづらいし、何なら喀血してるんだよね。ホント、冗談抜きで死にそうなんだ。

 

そう言うと、黒ずくめの男から深い溜め息が吐かれたのだった。

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