◆
「そこの角に敵が潜んでいる。数は人4人。悪魔3体。」
「承りました。」
「ちぃ、何故バレた!?」
道中、潜んでいたガイア教徒共を叩き潰していく。
俺は鉄棍で、片方は刀で。
逆に不意を突かれたガイア教徒は、為す術なくそれぞれが血飛沫を上げながら地に伏していく。
お互い残敵いない事を確認してから、得物の血を振り払った。
戦闘終了だ。
「これで五度目の待ち伏せか。ガイアのクソ共め。いい加減鬱陶しくなってきたな。」
「ですが、確実にガイア教徒の数と勢いは減ってきています。この調子で進んで行きましょう。」
「仰せのままに。ご主人殿。」
そう、俺は目の前の黒ずくめの男、葛葉ライドウに仰々しく礼をした。
「・・・自分は飽くまで一時的なパートナーとして貴方を加えたつもりです。主従関係はないし、そのように仰々しくする必要はありませんよ。」
「何、鬼退治ならぬガイア退治のお供をさせて頂いているんだ。お供らしくそれ相応の態度でいるってだけだよ。」
何より、仲魔のいない俺がここのガイア教徒全てを相手取れるかと言ったら非常に難しい。何せ向こうも悪魔を使役してくるのだから。
ヤタガラスって組織の実態はどうあれ、この男が悪魔殺しのスペシャリストである葛葉一族。その中でも特に優秀なデビルサマナーである事には変わりない。
ガイア教団の討伐がライドウの目的なのであれば、目的は一致している。
ならば、味方について貰うため、共に戦って貰うためにもそれ相応の姿勢であるべきだ。
「だからって、敵地のど真ん中で五体投地はやめて頂けますか?」
「あれ?お気に召さなかった?」
「一周回って不愉快です。」
ライドウはそう顔に手を当て、天を仰ぐように呟いた。
「おっかしいなぁ。とある業界だと、あらゆるやらかしを許してもらえたって聞いたんだけど」
「どんな業界ですか・・・。兎に角やめて下さい。」
そっかー。
よっこいしょと、五体投地から身体を起こす。
「大体、敵がいつ襲ってくるか分からない状況下で良く敵地で寝転べますね?」
「まぁ、大体気配で敵の動向とか位置とか分かるしなぁ。」
何なら敵とどの程度距離があるかまで判別出来るし。
「第6感の拡大。愚者からの覚醒で達人に霊格が上がった者に多く見られる現象ですが、ここまで気配を機敏に感じ取れる者も珍しい。一体どんな環境下にいればそうにまでなるのか、気になる所ですね。」
そりゃあ、まぁ・・・。
「物心つく頃から今に至るまで悪魔共にマガツヒ袋、餌として認識されながら今日まで生きてりゃ、そりゃあ生き物の気配に敏感になるさ。」
「ーーーー。」
そこまで言うとライドウは口を噤んでしまった。
あれ、もしかしてマズった?
バッドコミュニケーションを決めてしまったか。暗い内容だから極めて普通に、明るく話したつもりだったが。
やっぱ人付き合いがないから、こう言った話の加減って分からんな。
ま、ま、時間が解決してくれるでしょ。
・・・・。
しばらく足を進めて。
あれっきり俺たちの会話は、最小限だった。
気まずい空気が流れ続け、そろそろ流れを変えなければと思った時だった。
ライドウはこちらを向き、目を伏せながら口を開いた。
「先程は申し訳ありません。聞いた私が浅慮でした。」
如何にも不器用で、真面目そうな男は、そう謝意を表す。
「別に気にしてねーよ。アンタもその程度のことで気に病むな。『あっ、そっか。』でいいんだよ。」
「・・・それはそれで軽すぎでは?貴方にとっては辛い過去の筈です。」
そりゃ決して楽しい思い出じゃないけどなぁ。
「良いんだよ、そんなんで。大体、一々他人の人生なんぞ気にしてたらキリがねぇ。気にすれば過去が変わるなんて事ねぇんだから。」
そんなの軽く流しておけと。
そう軽い口調でそう言っておく。
また、少ししてライドウは口を開く。
「貴方はーー」
「なんだ?」
「余計な口であるとは重々承知ですが、敢えて言います。」
「あの日、あの異界で、ピシャーチャを滅した時、貴方からは並々ならぬ激情を感じました。ただの執着ではないとは思いましたが、先ほどの話を聞いて、私は、あの時、貴方は悪魔達の犠牲者である人々を在りし日の自分に重ねていたと、そう確信しました。」
・・・ふむ。
「面白い考察だな。で、だとしたら、何だ?」
「私は貴方を最初、敵だと思いました。それこそ、新たなガイアの過激分子であると。激情を持ってして悪魔を滅する姿は、正に真の自由を掲げる傍若無人の如くの混沌の悪魔そのもののように。そのようにも思いました。」
ですが、とライドウはこちらに向き直る。
「その中には、確かに人としての尊厳を犯された人々への悲哀、尊厳を犯した悪魔への怒りを合わせ持っていた。そして、今も、ガイアと戦うのはそのためなのでしょう。
それは私達、護国を掲げるヤタガラスの信念に通ずる物がある。
だからこそ、貴方を信用します。私の背を預けるパートナーとして。」
そう、ライドウはまっすぐと、その黒い眼で俺を見つめる。
「買い被り過ぎだ。俺はただの悪魔狩り、デビルサマナーに過ぎん。善性なんぞ、俺に期待する事自体間違っている。だが、ガイアの奴らは何処までも気に食わん。だから今は俺を思う存分使え。仲魔なしの俺に何処まで出来るか分からんがな。」
俺はぶっきらぼうにそう言い捨てるが、
「使いませんよ。貴方は数少ない同胞ですから。」
ライドウはそう誇らしげに言った。
◆
石の海とも言えるガイアの要塞。
そのガイアの最奥に辿り着いたはいい物の、目の前に広がる光景に俺は戸惑いを感じざるを得なかった。
試験管を巨大化したようなフォルムの設置物。
その中に満たされた緑色の培養液。
そしてその培養液に浮かぶ生物のような何か。
これは、一体何だ?
「成程、これが件の悪魔人間の研究ですか。」
「ライドウ、何か知っているのか?」
つかさず俺はライドウに目の前に広がる物について聞くが、ライドウが答えるより前に後ろから聞こえる、偉くしゃがれたような渋い声がその問いに答えた。
『悪魔人間。悪魔同士の合体である悪魔合体があるように、人間が悪魔の力を継承し、人間の知恵や技術、そして悪魔の力を備え持った生物を生み出す外法。それが目の前の物だ。』
俺は思わず振り向き構える。
声を聞くまで気配すら感じ取れなかった。
一体何処からと周囲を見渡すが、それらしき存在が見られない。
いるのは、一匹の黒猫のみ。
・・・黒猫?
「業斗!」
ライドウが黒猫に駆け寄る。
・・・そう言えばライドウともう一体、黒猫がいたんだっけ。
という事は、さっきのしゃがれダンディな声の主は、こいつか?!
『久しぶりだな、若きサマナーよ。あの異界以来か。我は業斗。そこにいるライドウの目付役よ。』
そう挨拶する黒猫こと業斗。
愛嬌ある黒猫にはおおよそ似合わぬ声だな。おい。
『成程、我の正体が知れても構えを解かぬか。現代のサマナーにしては気骨のある青年よ。』
そう偉く感心した様子の業斗だが。
いや、色々衝撃的過ぎて対応しきれていないだけなんだよなぁ。
「業斗。彼にはここの制圧を手伝ってもらう事になった。」
『ふむ、それは心強い。よろしく頼むぞ、青年。』
いや、よろしく頼むって言うのは構わないんだが。
「結局、ここはどう言った施設なんだ?」
俺の問いにライドウが口を開いた。
「この施設はガイア教の支部の一つであるボーデンカンパニーの研究所です。ボーデンカンパニーは表向きは製薬会社を装っていますが、実際は違法かつ非人道的な生体実験を繰り返し行っている組織である事が関係者のリークによって発覚しました。」
『内容はマガツヒを使用した生物の合成、そして悪魔と人間の合一。
そこに至るまでに、数々の人々を犠牲にしてきた証拠を集めるため、我らは調査のためこの施設に侵入。ライドウは敵の陽動を、我はその隙に研究所の資料室に忍び込み、実験材料にされた者と、とある地域で多発していた行方不明者のリストを照らし合わせていた。
そして、ものの見事に行方不明者と実験体の特徴が合致したよ。
奴ら、無辜の人々を犠牲にしながら研究を継続していたのだ・・・!』
忌々しく語る業斗。
成程、つまりあれだな。
自分達の研究のために、何も関係のない、何も事情も知らない人々を攫い、倫理観も尊厳もクソも無く、命を弄ばれ続けてきたってか。
あぁ、だったらもう。手遅れだ。
行くところまで行っている奴らには、そう言わざる得ない。
反吐が出る。
だが、これで何の憂いもなくなる。
もう、生かして連行するとか云々は考えなくていい。
そんな生ぬるい事抜かしてやれる程、奴らの罪は甘くない。
俺は鉄棍を音を立てながら振り下ろす。
「なら、やる事は一つだろ?」
俺は二人に問う。
「無論。無辜の民に手を出すだけでなく、命を弄ぶとは言語道断。」
『我ら護国の徒が鉄槌を下さん。』
じゃあ、行くとしますか。
鬼退治ならぬ、ガイア教徒の大元を撃滅にさ。