ノットネゴシエイト・サマナー   作:Nピーマン

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プリズンブレイク④

 

人造魔人共が動き出す。

俺は即座に鉄棍を構え相手の攻撃に備えつつライドウへと叫ぶ。

 

「ライドウ、非常に情けない事だが、今の俺は鉄棍を振り回すだけしか能が無い状態だ。今の俺じゃこいつらの肉体を傷つける事すら怪しい。」

 

「あの悪魔を粉々にした技は?」

 

「あれは割と結構時間がかかる。それを待たせてくれるような相手じゃないだろう。」

 

ゴズキが頭上高く棍棒を振り上げ、俺に向けて振り下ろす。

何とか避けるが、床材が周囲に飛び散り研究所が揺れる程の衝撃。

力に振り切られたステータスの悪魔が元なんだろうが、笑えない威力だ。

一撃でも受ければ、俺とてただじゃ済まない。

 

おまけに、

 

『タルカジャ!!』

 

相手のガイアの男が補助魔法をかけて援護に回っている。

元々前線に出るタイプの男には見えなかったが、小賢しい。そして厄介だ。

かと言って、ガイアの男に手を出そうとすれば、すかさずゴズキ、メズキが護衛し攻撃が届かない。

 

なら、ゴズキ、メズキを先にどうにかするしかない。

 

「召喚、ドミニオン!!」

 

ライドウはマントから試験管らしき小さな筒を取り出し、その筒から悪魔を召喚する。え、何それかっこよ。

 

「ハマオン」

 

天秤と聖書を手に持つ中級天使から繰り出されるは強力な破魔の魔法。破魔の結界がゴズキの周囲を取り囲んでいく。

いやいや、ライドウ。こいつら元々人間だぜ?破魔の魔法が通じる訳――

 

 

「グオオオオ・・・!!」

 

「って効くんかい!!」

 

 

破魔の結界に包まれ苦しみだすゴズキに思わず突っ込んでしまう。

 

「この研究所に入る際に、悪魔人間に数体出くわしました。その際、破魔の魔法が良く効いたのでもしかしたらとは思いましたが・・・。」

 

「とんだ欠陥じゃねぇか。」

 

最高傑作にしてはガバガバな耐性じゃねぇかよおい。

 

「ふ、耳が痛い。だが、たかが破魔の魔法で浄化できる程ヤワではありませんよ。それを補って余りある耐久力、人知を超える腕力、人間の知恵が売りなのですから。」

 

・・・確かに、ハマオンの強力な浄化を喰らって身体から煙を出してこそいるがピンピンしている。悪魔と人間の合体の成果なのかは分らんが。

 

 

「ならば、弱点で押し切るまでです。ドミニオン、マハンマ!!」

 

「心得ました。」

 

続けてドミニオンは、破魔の範囲魔法を繰り出す。

破魔の結界陣は人造魔人やガイアの男を包み、浄化の光でその身を焦がす。

 

 

筈だった。

 

 

ニヤリ。

 

 

俺は人造魔人が口元を歪めるのを見過ごさなかった。

 

 

「ライドウ!!ドミニオンを下がらせろ!!」

 

 

「・・・!ドミニオン!!」

 

 

「遅い。やれ。」

 

 

『怪力乱神』『ヒートウェイブ』

 

 

号令を掛けるも空しく、浄化の光を潜り抜けた人造魔人達のあまりにも圧倒的な暴力の具現がドミニオンのみならず俺達にも殺到する。

 

 

ドミニオンはゴズキの怪力乱神をもろに喰らい哀れにもマガツヒへと還り、俺達もヒートウェイブの余波で吹き飛ばされた。

 

何とか受け身を取りながら俺は体勢を整え、鉄棍を構え直す。

 

クソ、どうなっている。奴ら悪魔人間は破魔が弱点じゃなかったのか?ハマオンは間違いなく効いていた筈。なら何故マハンマが通らなかった?

 

奴の言葉を思い出せ。不可解な点は無かったか?

 

 

「馬鹿な、何故破魔魔法が防がれた?」

 

 

防がれた。

ライドウの言葉に、俺は奴の言葉を照らし合わせる。

 

『人間の知恵』。

 

人間ならではの行動もとる事が出来る悪魔人間。

 

であるならば。

 

俺は人造魔人共の手元を見やる。

メズキの手元、足元には塵となった何かが散らばっていた。

 

 

あぁ、合点が行ったよ。

 

それはつまり、そう言う事だ。

 

 

「・・・ライドウ。あまり弱点属性を連発しない方がいいかもしれん。」

 

「何か分かったのですか?」

 

『ふむ、青年も気づいたか。人間の知恵を持つ悪魔人間。つまり、奴らは人間と同じ行動が出来る、という事に他ならぬ。ならば奴らも人間のサマナーと同じく道具を使って然り。』

 

「・・・成程。」

 

ライドウもそこまで聞いて勘付いたようだ。

そう、俺ら人間は悪魔に対抗するためにあらゆる手段を用いる。

武器とそれを扱う武器術、悪魔に効果がある道具。また対属性魔法の道具など。

 

まるで俺達が、人間の特権の如く使っている手段を、奴らが使えるという事だ。

 

あの足元に散らばる塵。

恐らくメズキが、破魔を無効化するテトラジャの石か光障石を使用したのだろう。

そして無効化されている間に技の準備に取り掛かり、俺達が間抜け面を晒している隙に不意打ちを喰らったという訳だ。

 

悪魔が使わない手段を用いる悪魔か。

 

ちぃ、厄介だ。

迂闊に弱点属性を放てば、思わぬ反撃をされかねない。

警戒が必要だ。

 

「ふ、最初の一撃で仕留めるつもりでしたが、腐っても葛葉のサマナーか。貴方も伊達に悪魔殺しをしていない。少しは頭が回るようだ。まぁ、それを知った所で、貴様らに勝機はないがな!『マハラギ』!!」

 

ガイアの男が放つ火炎を俺とライドウは避けつつ、どう攻めた物か思考する。

相手は力に依存した攻撃を放つ人造魔人だ。

秘石などの魔力に依存した攻撃はしないだろう。

するとしてもダメージ的には微々たるものだ。大した脅威にはなり得ない。

懸念すべきは、先程の自身の弱点属性への対抗手段。

恐らく他に魔法を跳ね返す魔反鏡か、あるいは属性を無効化する障石は必ず持ち合わせている。

攻撃を弾かれればさっきみたいな致命的な隙を生む。

 

さっきはドミニオンだけで済んだが、今度もそうとは限らない。

一気に戦列が崩れ去るだろう。

 

ダメージソースはライドウに頼るしか無いのが現状だが、数を撃つのは痛手を喰らう可能性がある。攻撃回数は絞った方が良い。

 

ならば、俺のできる事はただ一つ。

 

奴らからある程度距離を取り、隣立っているライドウに声を掛ける。

 

「ライドウ。スクカジャかラクカジャ使えるか?使えたら俺にかけてくれ。」

 

「・・・構いませんが、何をするつもりです?」

 

怪訝な表情をするライドウに、俺はなんてことない、と前置きを置いた上で

 

「なぁに、身体一つ、あいつらと、がっぷり四つと殴り合いをするだけさ。」

 

そう答えた。

 

「たった一人でですか?無茶だ。奴らを一人で引き受けるなど!」

 

ライドウは声を荒げる。

まぁ無茶、だろうな。だが、ちゃんと勝算はあるぞ?

 

「無茶は百も承知だ。・・・ライドウ。お前はこの状況をひっくり返す術があるんだろう?悪魔殺しの専門家だ。そりゃあいくらでも挽回出来る手段があるわな。」

 

だろう?と俺が聞くとライドウは戸惑いながらもコクリと首を縦に振った。

 

「ですが、それを今の自分が引き出すには時間が掛かります。」

 

『その通り。使うには大量のマガツヒと悪魔の能力との同調が必要不可欠。相応の時間と集中力が必要だ。

 

青年よ。貴様、ライドウが技を放つまでの間に死ぬぞ。』

 

かもなー。だが、ライドウを前線に置き続けてこいつが戦線離脱でもすれば勝算は0に近しくなる。間違いなく、俺だけでは勝てない。だからこその作戦だ。

 

「俺はお荷物になるつもりもないし、死ぬつもりもさらさらない。考えてもみろ。俺は仲魔を迎えるまでの数年間は一人で悪魔を相手取っていたんだぞ?生き残るって事に関しては特別長けていると自負している。」

 

今日までしぶとくこうして生きているしな。

 

だからよ―――

 

「頼んだ、葛葉ライドウ」

 

そこまで言うと、ライドウは一瞬、横一文字に口を噤み。

そして、

 

「ラクカジャ、スクカジャ!」

 

俺へ向け、防御と回避・命中の魔法を掛けた。

 

「恩に切る。」

 

「武運を。」

 

それだけ言うとライドウは背を向け後方へ下がった。

きっと技の準備に取り掛かったのだろう。

 

さて、葛葉一族。それも葛葉四天王筆頭の当代殿より激励の言葉を承ったんだ。気合い入れなきゃ損って物だ。

 

「相談は済みましたか?無駄だとは思いますがねぇ。」

 

「あぁ。お前らの相手は俺だけで十分って事で話が済んだよ。だから遊んでやるよ、半端者の無法者共。」

 

「減らず口を・・・。やれ!奴を殺せ!!」

 

さぁ、精々持ってくれよ、俺の身体よ。

 

 

 

駆け出す宗一郎の後ろ姿を見送りながら、私は懐にある封魔管の高次元の者への干渉を開始した。

 

「とおかみえみため、とおかみえみため・・・。」

 

先代のその前の先代達より受け継がれた封魔管の中には未だ扱えきれない次元の悪魔が存在している。

サマナーは、自分より高次元の悪魔は従える事は出来ない。霊格が劣れば封魔管から出た悪魔達は、召喚主を侮り要求を聞き入れないばかりか、即座に敵対し、そのままマガツヒとして人を喰らう事もある。

そのため、高次元の悪魔に接触する際は、祈祷の祝詞を唱え、語りかける。

 

「とおかみえみため、とおかみえみため・・・。」

 

しばらく祈祷を唱えると、管より悪魔の声が響き渡ってきた。

 

『何やら喧しいと思いきやお前か、20代目。何のようだ。』

 

重厚で威厳のあるその声と気配に固唾を飲む。

龍王の中でも中位に位置する悪魔。インドの神話におけるナーガ族の王にして神。名を龍王ナーガラジャ。

霊格、強さにおいて未だ到達出来ぬ位階にある者が私の言に応えた。

 

「ナーガラジャよ。今一時でいい。力を貸して下さい。」

 

『力を貸せか。霊格で未だ俺に劣るお前に?

 

ふん、断る。俺を扱えるのは俺が気に入った奴と俺を超える霊格の者のみだ。お前では話にならん。出直しな。

 

・・・と言いたい所だが。ふむ。唐突だが、お前さん、少し雰囲気変わったか?』

 

断固の拒否の意を取られたと思いきや、そんな言葉が飛んできた。

 

「はぁ、雰囲気、ですか?」

 

『あぁ。なんつーか。前に比べて少し堅苦しさが無くなったっつーか。今までは周りに認められたいとかいうか、名前負けしたくないとかそんな雰囲気があったが。今は大分落ち着いたって感じだ。』

 

そうだろうか?自分自身自覚はないが。

だが、変わったと言うのであれば、きっと彼の仕業だろう。

今までの、卑屈に思い悩んでいた自分が馬鹿らしくなる程に。誰の思惑にも乗らず我が道を征く彼にきっと私は魅せられたのだろう。

 

『何かをきっかけに極短期間でそいつの内面がころっと変化しちまう。これだから人間ってのは面白い。

・・・いいだろう、興が乗った。力を貸してやる。代わりに後でお前を変えた奴の話を聞かせろ。いいな?』

 

私は戸惑いながら無論です。と返答するとナーガラジャは口元を緩めたように感じた。

これは、後で長丁場を覚悟せねばならないだろう。

だが、それを心配するには早い。

 

『力を同調させろ。言っておくが流す力は手加減するつもりはない。制御できなくても俺は知らんからな。精々気張れ。』

 

封魔管より、ナーガラジャの強大な力が流れる。

ナーガラジャの冷気の魔力が身体を蝕むが、泣き言は言えない。

これより、体に蓄積されている分と空気に散らばる分をかき集めた膨大なマガツヒとナーガラジャの強力な権能を収束、同調させねばならない。

それ相応に時間がかかる。

 

ひとえに、自分の技量不足に他ならない。

だが自分の技量を嘆いている暇すらない。

今この時も、彼は敵の一切の攻撃を一身に受けているのだから。

 

宗一郎。どうか、死なないで下さい。

 

私はそう祈りながら、手元の刀、赤口葛葉に力を収束させていくのであった。

 

 

 

 

 

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