無銘のサムライ   作:全智一皆

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第一話「境界線に立つ」

 

■  ■

「……おう」

 

 目を覚ますと、其処は知らない場所だった。

 なんて、実にありふれた話かもしれないけれど、ひかし実際にその場面に遭遇してみると、意外と驚かないものだなと、ササキという名前の男は思う。

 廃墟だ。目の前には、廃墟と化してしまった都会と思わしき街が広がっている。

 それでいて、見慣れた人間達が混乱している様もよく見える。

 高台と思わしき場所は、どうやらビルの屋上らしい。ササキは廃墟の街、そのビルの屋上で目を覚ました様だ。

 

「あー……めっちゃ見覚えがあるな、これ。完全に《アキバ》だろ」

 

 アキバの街。

 エルダー・テイルと呼ばれる大人気MMORPGゲームに登場する架空の都市であり、ゲームで言うところの「はじまりのまち」とも言える場所。

 日本サーバーが開始された当時からプレイする、所謂「古参」であるササキにとっても、随分と懐かしい場所である。

 どうやら自分を含めたプレイヤー達は、何の因果か奇跡かアキバの街に―――というか、《エルダー・テイル》の世界に転移してしまったらしい。

 

「……いやいや、有り得ねぇだろ。どういうサプライズだよ」

 

 理解して、しかし直ぐに(かぶり)を振って否定する。

 非現実的だ。SF小説ではないの、現実でそのような事が起きるなんて有り得ない。あってはならないだろ、とササキは毒吐く。

 たが、非現実的なコレは残念ながら現実である。ササキのそれは、単純な現実逃避に他ならない。幾ら目を背けても、現実は現実だ。

 高い場所から見れば見る程に、彼らの混乱がより現実味を帯させる。

 此処はゲームの世界なのだ―――と。

 

「まぁ、だからどうしろって訳でもないか。生憎と、俺は頭が回らん」

 

 ササキは一プレイヤーだ。単なる一人のプレイヤー、どれだけ強かろうが一個人に過ぎない。

 古参でこそあるが、それだけだ。特別な力がある訳でもなく、単に古くからやり続けているというだけの存在だ。

 一人で為せる事などたかが知れている。やれる事などほんの僅かで、些事にもならない。

 ギルドを立ち上げる度胸など無い。ギルドに入るつもりも無い。

 ササキはソロのプレイヤーだ。ただ独りでゲームを謳歌する者だ。

 この現実が、ゲームであるならば。ゲームの世界が現実であるならば。

 やる事は、ただ1つだ。幼い頃から夢中になっていたゲームの世界に、事故の様な形とは言え入り込んだのならば。

 

「取り敢えずは―――エルダー・テイルを楽しまなきゃだな」

 

 彼はゲーマーだ。

 心躍らずにはいられない現実が、目の前にあるならば楽しまずにはいられない。

 

「じゃ色々と確認だな。まずはメニューが開けるのかどうかを……お、いけた」

 

 右手で空を描く様に指を走らせれば、見慣れた画面が目の前に広がる。

 自分のステータス、装備品、アイテムなど様々なものを確認する為に必要なシステム―――《メニュー》。

 

 プレイヤーネーム:ササキ

 Lv.90

 種族:人間

 職業:武士(サムライ)/剣聖

 武器装備:太刀《物干し竿》

 頭装備:無し

 体装備:剣聖の羽織

 腕装備:剣聖の篭手

 脚装備:剣聖の袴・草履

 装飾品:剣聖の髪留め

 

 装備品は何ら変わりはない。

 かつてのまま。最後に倒した人型のボスの遺品によって構成された装備のままだ。

 

「HPとかMPもまんまだな。やっぱエルダー・テイルだ、俄然楽しみになってきた」

 

 にやりと笑って、侍は廃ビルから躊躇なく飛び降りた。

 全ては、この世界を楽しむ為に。

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