異世界スピノ ~恐竜に生まれ変わった私はスローライフを希望する~   作:SIS

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第53話 まとめて説き伏せてあげましょう

 

 

 見知らぬ人々の視線を前に、オルタレーネは僅かな怯みすら見せなかった。すました顔で立ち上がり、見事なカーテシーを決める。どこからどう見ても完璧な淑女だが、私は知っている。

 

 彼女の目。見た事がある。私を庇ってザ・ワンに切り込んだ時の、ガン決まってる目だ。

 

 どこかでカーンとゴングが鳴らされた幻聴が私には聞こえた。

 

「◆●●、オルタレーネ・●◆・★▼●●。●◆●」

 

 何をしでかすつもりなのかハラハラする私の前で、ひらりと地に降り立ったオルタレーネが自己紹介をする。そして穏やかながら有無を言わせぬ勢いで、オルタレーネの論戦が始まった。

 

 私はよくわからなかったのでサルッカスの通訳した所、彼女は「スピノ様が神獣である事はあきらかです。地上の裁定者であり審判者である神獣のやる事にいちいちケチをつけるのが主権国家のやる事ですか?」「そもそもスピノ様とサルッカス様の尽力が無ければあの場に集った兵は鏖になり、対抗策の無いまま近隣の国々はあの怪物に荒らされつくしていたでしょう。我々は神獣の慈悲に感謝するべきであって、政治的暗闘の題材にするのは不敬者のする事です。それとも貴方達は神の差し向けた慈悲に唾を吐くおつもりですか?」「スピノ様が神獣かどうかには議論の余地が残る? もしかして起きたまま寝ていらっしゃる? スピノ様が神権代行として天罰を下した様、あの場にいた皆がしかと見届けておりますが? そうですよね、皆さん?(兵士達の賛同する声)」といった具合に、王国側をメタメタのボコボコに言い伏せたらしい。

 

 圧倒的多数かつ社会的地位のある相手に一歩も譲らず、事実陳列と正論でメッタ撃ちにするだけでなく、信仰問題を巧みに絡めて国家権力に対抗してるのが強すぎる。というか戦友としての協調性を生かして王国側の兵士まで丸め込んでるし。

 

 こういうのをレスバ強者というのだろうか。

 

 もはや国際的な議論の場は、オルタレーネのワンマンショー状態だ。

 

 お偉方からすれば出自のはっきりしない小娘が偉そうに、となりそうなものだが、どういう訳かどっちの政治家も、オルタレーネには異様に頭が低かった(何故かチラチラとこちらに視線を飛ばしていたのがちょっと気になるが)。

 

 そして一度場の流れが彼女に傾いたらあとは早かった。

 

 気が付けば、オルタレーネが私の代弁者として会議をとりまとめ、両陣営の間の話を纏めてしまったのだ。マニプルの司会者はというと、何故か自分から席をオルタレーネに譲り、その隣で補佐している。中立な立場での進行役という役目はどこにいったのだ。

 

 いや、まあ。確かにオルタレーネは言ってみれば派閥:スピノであって、中立といえば中立かもしれないが……。

 

 これで彼女が私の力を背景に無茶を言うなら止めに入るが、基本的に彼女の言論は理性的かつ、平和的だ。あくまでぐだぐだになりつつあった国際的議論を端的にまとめた上で、私に火の粉が飛んで行かないように話しているだけなので、私としても黙って見守るしかない。概ね、私の望みとも合致している。思考を把握されているのでは、と思い当たって、怖すぎるので考えない事にした。

 

 なんかキツネにつままれた感じである。あまりにも手際が良いというか、もしかして彼女、良い所の出どころじゃなくて貴族かなんかの出身なのだろうか?

 

 翻訳するサルッカスも引いているようだった。

 

『ねえ、旦那。……彼女、なにもん? 俺っち、ちっせぇ奴らの小難しい理屈はよくわかんないですけど、それを踏まえても彼女、手慣れてません?』

 

「グルルルゥ……」

 

 それは。こっちが。聞きたい。

 

 それはともかく、まとまった話はこうらしい(サルッカス訳)。

 

 まず、ウォールランド王国側。王国は悪戯に国境線を武力で脅かした事を連合王国に謝罪し、今後、信頼関係の回復に努める事。また国内が安定し次第、以前のように木材を販売する事。木材販売に割引などは求めないが、本件に関した要件に人員が必要な場合、ウォールランド王国が7割負担する事。

 

 そして連合王国側。王国側は正式にスピノを守護獣に認定し、その行動に責任を取る事。そしてその詳細について直ちに流布し、不確定な情報の氾濫を防止する事。ウォールランド王国には、本件の今後の調査についての人員を負担してもらう代わりに、これ以上の賠償請求は求めない事。

 

 ……こういった感じだ。

 

 概ね、両者ともに得もしないが大きな損もしない、といった感じの折衷案だ。どちらかというと問題をふっかけたのがウォールランド王国側である事を考えると、被害者側である連合王国側が損をしたように見えるが、人員負担を押し付けているのがミソだ。

 

 この世界において、兵力、武力というのは大きな国力そのものである。さらに言えば、この世界に国際世論というものはない。何かあった場合、最終的に自分達を守れるのが自分達だけなのだから、それを他者の為にある程度負担しなければならないというのは、割ときつい代償ともいえる。ウォールランド王国からすると、いくらいくら賠償金を払え、と言われた方が楽だったかもしれない。ましてやザ・ワンとの闘いで、腕利きがごっそり負傷で抜けた後だ。相当厳しいだろう。

 

 それでも彼らが最終的に受け入れたのは、やはり結局の所、近隣国家の安定にもつながる、と言われてしまったからだろう。あくまで人員を貸し出すのは本件の追跡調査に関して……つまり、何故禁則地に封じられたはずのザ・ワンや飛竜が俗世を襲撃したのか。禁則地に関して何が起きているのか。そして今後、こういった事が起きうるのか。それは確かに迅速に調査しなければならない緊急案件であり、国家同士がもめている場合ではないのも事実なのである。兵士の負担は歯がゆいが、どの道協力しなければならないのも事実……良い落とし所ともいえる。

 

 相手の落ち度に付け込んで一方的に押し付けるのではなく、ある程度妥協しつつお互いに納得できるラインを探る……実に政治的な判断といえよう。こういう時、相手を一方的に悪者にしてしまうと歴史的な禍根ができてしまう。それはよくない。

 

 だからオルタレーネのおかげで、この問題は平和に解決したといえるのだが……。

 

 なんか、うん。私の公的な扱いの認定がその横に並んでるの、なんで??

 

 いや嫌じゃないけどさ? これに関しては連合王国側が一方的に損してない? 何で私の行動が国家の元に保証されてるの? あと気のせいかさ、街と王国側の交渉を纏めるよりもこっちに注力してなかったかな、オルタレーネさん? あとなんで街の人はともかくウォールランド王国側もそんな盛り上がってんのこの話。ねえ、この世界の一般人からみて神獣どういう扱いなの!? ここでノリに乗れてない私が空気読めてないみたいなんだけど!?

 

 この時ばかりは、人々の言葉が分からないのがものすごく困った上に怖かった。

 

 サ、サルッカス先生! なんとかしてください!

 

「グ、グルルルゥ……」

 

『いや、そんな困った顔されても……。常識的に考えて、スピノの旦那みたいな超常戦力が、どこにもつながらずにうろちょろしてる方が、ちっせえ奴らには困るんじゃないですかねぇ? 旦那はそのつもりなんでしょうけど、一般的に神獣ってのは正義の味方じゃないんですぜ?』

 

 まさに正論であった。文字通りぐぅの音も出ない。

 

 サルッカスの奴、政治は分からないとか言いながら御尤もな事を言うんだよなぁ……。

 

 まあ、あれだけ険悪な感じで進んでいた会議が、気が付けばオルタレーネのおかげで和気あいあいといった感じに穏やかにまとまったのだから、まあ良いか。

 

 別に私にとって損な結果に終わった訳ではないし。

 

 オルタレーネはというと、会議の終わりにあたって、各代表に握手を求められている。背丈が違うのでちょっと屈みながら親指を絡めて握手を繰り返す様子はなんだか堂に入っているというか、実に政治家っぽく私には見えた。

 

 ちょっと彼女が遠い世界の住人になってしまったような気がする。

 

 いや、もともと色んな意味で違う世界の住人ではあったのだけど。

 

「グルル……」

 

 そんな感じで複雑な気持ちを込めて見つめていると、ふとオルタレーネと目があった。その途端、彼女は整えた政治家としての微笑を崩し、年相応の、少女らしい満面の笑顔を向けて手をふってきた。

 

 私も両手でぱたぱたと手を振り返す。

 

 うん、やっぱ考えすぎだったね!

 

『……いや全く。この二人は……はぁ』

 

 横でサルッカスが何かブツブツいっていたけど、私は残念ながら何をいっていたのか聞き逃したのだった。

 

 

 

 

 さて。

 

 政治的な話が終われば、ハイおしまい、解散、というのは現代の話だ。

 

 どっちかというと中世に近いこの世界では、そんな味気ない事はなく、むしろ人がせっかく集まったんだからと、隙あらば騒ぎたい連中がそのチャンスを逃すはずがない。

 

 ましてや、参加者の多くは何日も馬車に揺られて遠路はるばるやってきたのだ。辛気臭い話が終わって体も軽くなり、肩の荷も落ちたなら、そう、羽目を外したいに決まってる。

 

 つまり。

 

 宴会の時間だ。

 

 会議机がかたずけられ、いくつもの小さなテーブルが運び出されてくる。荷馬車が市民館に横づけし、その荷台からいくつもの樽が降ろされてくる。会議の間中準備をしていたのだろう、市民館の中からは、出来立ての料理のおいしそうな匂いが漂ってきた。

 

 政治家たちは、会場の準備をしている間に一度姿を消す。流石に宴会にフォーマルな格好は似合わない、もうちょっとカジュアルな格好に着替えてくるつもりなのだろう。何やらオルタレーネも、マニプルの街の侍女さんらしき人々に囲まれて市民館に連れ込まれている。苦笑いする彼女だが、嫌、という訳ではないようだ。いってらっしゃいと手をふる。

 

 場が整うと、台車に乗せて次々と料理が運ばれてくる。樽の封が切られ、酒類がグラスに注がれる。今度は護衛の兵士も中庭に集まり、立場に関係なく、全ての人々にグラスが手渡された。

 

 それを見ていると、私の元にもグラスが運ばれてくる。運んできたのは、セルヴェの街からついてきた若い役人の一人だ。私の体格にはあまりにも小さいグラスを爪先で摘まむようにして受け取ると、彼はぺこり、と挨拶をし、隣のサルッカスにもグラスを持って行った。律儀な若者である。

 

 サルッカスは『え? 俺も?』と困惑はするが、別に彼とて場を乱したいわけではない。四足歩行の彼はグラスを掴めないので、鼻先にちょこんと乗せてもらう事にしたようだ。

 

 なんか前世でこういうのあったな。ワニの鼻先に乗る小鳥みたいな。

 

 くしゃみするなよー、と見守っていると、会場からわっ、と声が上がった。

 

 メインゲストが戻ってきたらしい。

 

 戻ってきた政治家の皆さんは、さっきまでとはまた違う意味での一張羅に身を包んでいた。なんかキラキラした感じの派手派手な衣装だ。前世でいうとスパンコールがびっしり、みたいな感じの、ちょっと古い……いや古すぎる流行りというか。大分思ってたのとファッションセンスが違うな、と思いながら見ていると、人垣の中でも一目でわかる、一人だけ頭身が違う少女の姿が目に入った。

 

 

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