最強の妹   作:タニコウ

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今回で、最終選別は終わりです。



#10 最終選別試験その4

 

「おい、氷華。起きろ」

「んへへ、なに、うたねー?あさげー?」

 

 楽しかった最終選別(稽古)も終わりを迎える日の朝。錆兎はぐーすかと眠りこける氷華を起こそうとするも、微塵も起きる気配がせず、むにゃむにゃと寝言を言いながら寝返りを打つ。

 

「誰だ、うたねーって。と言うか早く起きろ、朝だぞ。今日で最終選別が終わるんだから山を下りるんだろ」

「うーん、にぃ……ごめんなさーい……もーよなかにかたなふらないから……ゆるしてー……」

 

 錆兎は氷華の頬を引っ張って起こそうとする。だが、氷華は顔をしかめるだけで起きない。どうしたものかと錆兎は考えようとした時のことだった。刀を握った義勇が眠っている氷華の元へと歩いていく。そのまま義勇は、氷華の枕元まで来たら刀を振り上げる。

 

「おい、義勇。何故刀を持っている」

「……(殺す気で刀を振れば、殺気で起きるだろうから)殺す」

「馬鹿、待て義勇。早まるな!お前が死ぬぞ!」

 

 錆兎が義勇を止めに掛かるが、まるで死地に向かうかのように覚悟をキメた顔をしながら錆兎の方へ向き、口を開く。

 

「……(俺が死んだら)後は任せる」

「止めろ、義勇!」

「……さらばだ、錆兎」

「止めろー!」

 

 まるで、義勇が死ぬのが決まりきったことのように必死に止める錆兎。だが、覚悟をキメた漢である義勇は氷華に向かって日輪刀を振り下ろそうと、氷華の顔を見て……ぱちくりと大きく開いている氷華の視線と交差した。

 

「……何故、起きている?」

「……あの、あれだけ騒がれれば流石に起きると思いますよ?……それと、おはようございます二人とも」

「お、おう。おはよう、氷華」

「……ああ(、おはよう)」

「うーんっ……。すみません、ちょっと顔を洗ってきます」

「おう」

「……」

 

 起き上がり、腕を組んでグイッと大きく伸びをしてから二人に告げて、見送られながら小川の方へと向かっていった。川の水を両手で皿のようにして掬い、顔に押し当ててぱしゃぱしゃと洗う。

 

「ふぅ……。夢、でしたか……」

 

 犬みたいに顔を振って水気を飛ばす。氷華の脳裏には、彼女が見たであろう嚇灼の髪と瞳を持つ兄とその妻であり姉のような存在との、暖かい家族の団欒が残っていた。それは、既に壊れたものである。

 

「いけませんね、今はあの頃のことを思い出している場合ではないと言うのに」

 

 ぽーっと、小川がせせらいでいるのを眺めながら氷華は呟く。氷華の小さな胸のうちは酷い虚無感と悲壮感で溢れていた。

 

「でも…起きたくなかった…また、会いたいな」

 

 氷華はその胸の中に溜まっていた言葉を吐き出して、すぐにハッとしたような顔をして、思い浮かんだ思考を頭を振って消し去る。そして、パチンと両手で自分の頬を叩いてから立ち上がる。

 

「さて、そろそろ戻らないといけませんね」

 

 錆兎と義勇の元へと歩き出した氷華の顔からは、先ほどまでの泣きそうな子どものような様子は消えていた。二人の姿が見える頃にはいつも通りの顔に戻っていて、二人に声を掛けながら合流する。

 

「ただいま戻りました」

「戻ったか、じゃあそろそろ山を下りるぞ」

「……了解」

「そうですね、行きましょうか」

 

 鞘に入った日輪刀を腰に差して落ちないのを確認してから、三人は山を下りる為に森を駆け抜ける。

 

「そう言えば、他の受験者はどうなったんでしょうか?二人は見ましたか?」

「……見てないな」

「俺もだな。多分、鬼がいると思って夜中に起きて、昼間は寝てたんじゃないか?」

「成る程、あり得そうな話ですね」

 

 三人は雑談を交わしながら下山する。そして、唐突に景色が木々の緑の葉っぱから薄紫色の藤の花へと変わる。藤襲山から下山したのだ。

 

「っし、抜けたな。俺達が最初か?」

「みたいですね」

「流石に疲れたな、早く鱗滝さんのところに帰りたい」

「……(一日目以外、ずっと氷華の稽古をしてたから)いい鍛練になったな」

 

 山を抜けた三人は、口々にそんなことを言う。そして、それに反応する人が一人。藤の花園で一人佇む黒髪の青年――産屋敷輝哉が三人を出迎えた。

 

「へぇ?最終選別を鍛練扱いするとは、左近次の子ども達は随分と優秀なんだね。最終選別は簡単だったかい?義勇」

「……当然です(、俺は殆ど何もしていないですから)」

「そうなんだ、義勇は優秀なんだね。これからに期待しているよ」

「……?」

 

 おい、遂にやらかしたな冨岡さんよ。流石の輝哉も、まさかここまであっさり返されるとは思わなかったのか、面食らった顔をしている。だが、それもすぐに笑みに変わった。

 輝哉は笑顔のまま、三人に向かって話し始める。

 

「よく戻ったね、三人とも。他の子ども達が戻ってくるまでは時間が掛かりそうだから、三人だけ早く終わっちゃおうか。槇寿郎、持ってきておくれ」

「承知しました、お館様」

 

 台車のようなものを転がしながら、槇寿郎はやってくる。そして、台車に被せてある布を剥いで、布の下に隠してあった幾つも並んだ鉄の塊を見せる。

 

「猩々緋砂鉄」

「正解だよ、氷華。これは日輪刀の素材になる特殊な玉鋼だ。これから、君たち三人の命を預ける物になるから、自分で選んでみるといいよ」

 

 さあ、どうぞ。と、道を開けた輝哉に氷華達三人は台の前まで歩く。そして、各々が鉄塊をまじまじと眺めながら検分する。観察する内に義勇と錆兎の顔が段々と無に近づいていき、

 

「……分からん」

「俺もだな」

 

 がっくりと項垂れた。そして、錆兎は氷華の方を向いて口を開こうとして、顎が驚愕の余りガバッと開く。

 

「氷華はどう……だ?」

「……そうですね、どれもこれも質が低いです。この中で比較的良質な物はこれとこれ、後はこれですね。他にも、これとこれと……あ、これは最悪ですね、日光の気配が全くありません。二人も見分け方は覚えておいた方がいいですよ、見分け方は太陽をより強く感じるものです。鬼の弱点は飽くまで日光であって、刀ではありません。ですから、鉄の質は大して関係ないんです。まあ、質が良いに越したことはないですが、より強く太陽の力を感じる鉄を選んだ方が良いですよ」

「そ、そうか」

「…………俺には無理だ」

 

 サササッと音が出そうな程俊敏に手を動かして、比較的良質な鉄塊と氷華的に駄目な鉄塊を仕分けていく。一通り、仕分けた後は良質な物から更に厳選していく。そして、氷華の前に最終的に残ったのは3つの鉄塊。

 

「この3つが良い物ですね。私はこれにします」

「じゃあ、俺はこれだな」

「……俺はこれか」

 

 三人は、氷華が仕分けた鉄塊を手に取る。それを見た輝哉は、正に満面の笑みと言わんばかりの笑顔を浮かべて三人に再び声を掛ける。

 

「選んだみたいだね、これからこの玉鋼を使って鬼殺隊が抱える刀鍛冶の人に日輪刀を打って貰うことになる。大体、半月から一月くらいかな?何か刀に要望があるなら聞くけど、何かあるかい?」

 

「俺は普通の刀で良いです。これが一番慣れてるんで」

「……俺もです」

 

 輝哉の言葉に、錆兎と義勇は何かないかと考えるが、結局思い付かなかったらしく、普通の刀で良いと答える。そして、氷華が前世から使っていた日輪刀の特徴を告げようとする。

 

「それでしたら、私は――」

「突きにも使える小烏造りの刀かな?」

「こg……そ、そうですね、それでお願いします」

「うん、伝えておくよ」

「は、はいー……」

 

 だが、先んじて輝哉に言われてしまい、氷華は言葉を止めて形容し難い表情をしながら、冷や汗をだらだらと垂らす。氷華の内面は大体こんな感じである。

 

(いや、もうこれ完全にバレちゃったよ!え、これどうすればいいの!?あ、あうー……ど、どうしよう……誤魔化せるかな?無理だよね、多分……だって、あのお館様のご子息なんだよ……!?無理だ、絶対に無理ぃ!)

 

 散々である。実際、氷華のわたわたとした焦り具合を見て、輝哉は笑みを抑えきれていない。詰みである。

 

「さて、じゃあ後はこの子達を紹介しようか。おいで」

 

 輝哉が言うと同時に、氷華達三人の前にカラスが飛んで来る。氷華は咄嗟に腕を出して腕の上に止めさせ、錆兎は肩に乗せた。義勇はいきなり頭の上に乗っかられ思考が停止したが、その直後に頭の上に止まったカラスを掴んで肩の上に乗っける。

 

「鎹鴉だよ。言葉も分かるし、文字も読めるように訓練された鴉でね、鬼殺隊の任務の伝令を伝えたり、子ども達の間で連絡をしたりする時に頼るといい。鎹鴉も君たちの命を預ける仲間なんだから、仲良くして関係を深めるんだよ」

「承知しました、お館様」

 

 輝哉の言葉に返事を返して、氷華は腕の上に乗せた鎹鴉に目を向ける。そして、目礼をしながら口を開く。

 

「天野氷華です、宜しくお願いしますね」

「カァー!ヨロシクジャ!氷華!」

「へぇ、こんな子がいるんですね。言葉喋るのお上手ですね」

 

「錆兎だ、これから頼んだぞ」

「カァー!サビト!覚エタ!オレ、カシコイ!」

「これは凄いな、本当に喋れるのか」

 

「……冨岡義勇だ。(ヨボヨボなカラスだな、飛ぶのは疲れて大変だろうから)休んでてくれて構わない」

「カァー?アリガトナァ…ギュウハ優シイナァ…」

「……俺は牛じゃない、義勇だ」

 

 三人それぞれが自分の鎹鴉と簡単な挨拶を交わす。それを見届けた輝哉が締めに入る。

 

「鎹鴉にも名前はある。後で聞いておくと良いよ。さて、氷華、義勇、錆兎。三人ともお疲れ様。本格的に鬼を狩って貰うのは日輪刀が届いてからになるよ。それまでは英気を養いつつ、心と体、そして技を鍛えて待っていて欲しい」

 

 そう締めた輝哉の言葉に三人は頷いて返す。そして、三人は解散となって、輝哉と輝哉の側で静かに控えていた槇寿郎に見送られて帰路に着いた。

 

「そう言えば、貴方の名前は何て言うんですか?」

「私カァー?私ノ名前ハナァ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――羽泰ジャ!」

「……っ!?う…そ…」

 

 『羽泰(うた)』その名前を聞いて、言葉を失った氷華は目を見開いた。

 





明治コソコソ噂話
「今回の最終選別での討伐数は一番が錆兎の16体で、二番が義勇の8体、そして三番が氷華の1体。氷華的には、錆兎と義勇に同じくらいの経験を積ませたかったみたいだけど、錆兎が見敵即殺で動いていたせいで、義勇の討伐数が減ったっぽい」

氷華には絶対に勝てない者がこの世に二人だけいます。さぁ、誰でしょう。




僕の頭の中にこんなのが湧いてきましたので、お詫びの小話程度に置いておきます。
 
堕姫「もう、首切られたー!助けてよ、お兄ちゃーん」
腹からニュルッ
妓夫太郎「もう、泣くなよなー」
氷華「そんなことできるんですね、私もやってみましょうか…………うわーん!助けてー、お兄ちゃーん!!」
腹からニュルッ
縁壱「妹を泣かせる奴は誰であろうと許さない」
色々あって無限城にて
無惨さま「何故、継国縁壱と天野氷華が復活している!?こうなったら、逃げるしかない!」
鬼舞辻ポップコーン
炭治郎「逃げるな卑怯者!逃げるなァ!!」

爆発オチなんてさいてー。一発ネタにも程があるので本編では絶対に使いません。遊郭編のお話だから、ここに炭治郎と禰豆子が入って、更にカオスになりそう。
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