唐突に始まる過去話。氷華の特異性とかが分かるんじゃないですかね?
行きよりも早く二日を掛けて氷華達三人が鱗滝の元へと帰った。今回は、行きとは違って鎹鴉の案内があったお陰で迷うことは無かった。
「鱗滝さん、ただいま戻りました!」
「……ただいま戻りました」
「ただいま戻りました、先生」
「お前達……戻ってきたのか……!」
小屋の前で薪割りをしていた鱗滝は見た。自身の愛弟子三人が五体満足どころか傷一つ――いや、傷は大量にある。だがそれも、全て氷華にぶん殴られたり地面に叩き付けられた時に出来た打撲痕や青アザ、軽い擦り傷のみだった。つまり、氷華達三人は藤襲山の鬼では触れることすら出来なかったのだろう。
鱗滝も薄々こうなることは分かっていた。だが、それでも弟子達が無事に帰ってきたと言う事実は、どれ程嬉しいのかは言葉に出来ないだろう。手に持っていた斧を地面に落として、弟子の元に駆け寄り三人諸とも抱き締める。
「よくぞ、戻ってきてくれたッ……!」
涙が天狗の面の端から零れ落ちながら、鱗滝は噛み締めるように言葉を吐き出した。それに返すように義勇と錆兎は勿論、氷華も鱗滝の腕の中で自分の腕を鱗滝の元へと回す。
「鱗滝さん、氷華が兄弟子、姉弟子の仇は取りました。異形の鬼でした」
「異形の鬼がいたのか。そうか…そうか…ありがとう、氷華」
「いえ、私は為すべきことをしただけです。兄弟子、姉弟子の魂は鬼から解放されました。何れ、この山に帰ってくると思います。皆さん、先生のことが大好きなのですから」
「そうか、あの子達が。……お前達、今日はもう休め。明日また話そう」
鱗滝は三人の頭を一通り撫でると、そう言って離れて小屋の中へ入っていった。それを見た氷華は立ち上がって義勇と錆兎へ目を向ける。
「さあ、義勇と錆兎も小屋に入ってて下さい」
「氷華はどうするんだ?」
「私は――」
そこで、氷華は視線を近くの木の枝に止まる自分の鎹鴉である羽泰へ目を向ける。
「ちょっとお話をしたいな、と思いまして」
「そうか、余り遅くなるなよ」
「はい、勿論です」
「義勇、行くぞ」
「……ああ」
離れていく錆兎と義勇を見送り、氷華は羽泰の止まる木へと歩いていく。その足取りは何処か期待するようでもあり、期待が裏切られるのではないかと怯えるかのように不安定だった。
「すみません、羽泰。少しお話ししませんか?」
「ン?氷華、オ喋リカ?」
「そうです、お喋りですね」
「ヤッタァ!私、オ喋リガ好キナノジャ!楽シミ!」
「……ッ、そう、ですね。私も楽しみ、です」
羽泰が話せば話すほど、氷華の顔は泣きそうなまでに歪みそうになる。それを外に出すのを必死に抑えて無表情を取り繕っていると、そんな氷華の様子を見た羽泰が氷華の肩に乗り、顔を傾けながら氷華の顔をその黒曜石によく似た真っ黒な瞳が覗き込む。
「ドウカシタノカァー?氷華、悲シソウ」
「……ッ!分かる、の?」
「ウーン?何カ分カル!」
――氷華、何か無理してる感じがする。私が話を聞いてあげようか?
氷華の脳裏に過る過去の映像。同じ瞳、同じ声、同じ話し方、同じ名前。そして、彼女と同じように自分の内面を見抜いてくる。どうしても重なって見えてしまうのだ、既にいないはずの姉と慕う者と。
「その、羽泰。私の話を聞いて欲しいな?私が鬼狩りになった理由を」
だからだろうか、氷華の口は自分の意思とは別に動いていた。それに羽泰はカァー!と一鳴きしてから答える。
「勿論ジャ!私、氷華ノコト知リタイ!」
「そうなの?私も羽泰のことをもっと知りたいかな?」
「ソウナノカァー?一緒ジャナ!」
「そうですね。かなり長くなるから話を始めますね。これは……何年前なんでしょうか?とにかく、結構前のことだと思います」
――――――
私には、義理の兄と、その兄の妻である姉みたいな人がいました。私と兄が出会ったのは私が3つの時のことでした。村が飢饉に会い、食べる物も録になかった村で私のような子どもを養う余裕なんてとても無かった。
ですから、私は口減らしとして村を追われたのです。ここで人買いに売られなかったのは、私が心優しい誰かに拾われる本当に僅かな可能性を信じたのか、何時来るか分からない商人を待つ余裕すら無かったからかは分かりません。ですが、確かにこの母親の選択に私は救われました。
『生きてはいる。大丈夫?これ、食えるか?』
路の半ばで行き倒れ、後は死ぬのを待つだけだった私に、本当に小さな拳大の握り飯を差し出しながら声を掛けてくれる、いずれ兄となる少年と出会えたのですから。少年は無表情な人でした。寡黙で何を考えているのか分からない人、でも、そこには確かな優しさが籠ってたんです。
『付いてきたいのなら、来ればいい』
それから、私は少年に付いて回りました。少年は移動する時は常に走っていたので、その時の痩せ細った私が付いて回るのにはかなり苦労しました。
それでも死にたくなくて必死に付いて行けば、付いていくほど足は速く軽くなっていき、気付いた頃には少年の隣を走れる程にはなっていました。今思えば、あの時の少年は彼なりに私を鍛えてくれていたのでしょう。
そして、そんな旅を続けて半年ほど。とある山の麓にある田んぼでのことでした。その少女と出会ったのは。
『一人きりになって寂しいから』
そう言って、田んぼで佇む少女を見て、私は悟りました。ここに集まる私達三人は、皆経緯は違えど一人孤独になってしまったのだと。
『じゃあ俺が一緒に家へ帰ろう』
だから、夕暮れになって言った少年の言葉に続けてこう言ったんです。
『じゃあ、私達は今から家族だね!二人は私のにぃとねぇってことになるね!』
と。少女は唖然とした顔をしていました。少年も声にも顔にも出してはいませんでしたが、驚いていたと思います。
嚇灼の瞳と髪を持った寡黙で優しい兄――縁壱にぃと、綺麗な黒髪で黒曜石のような瞳をした優しくて明るい姉――うたねぇ。この日、私に二人の家族が出来ました。私を間に挟んで、三人で手を繋いで山奥にあるうたねぇの家に帰った時のことは今でも思い出せます。
――――――
「ウタ!私ト同ジ名前ジャナ!」
「そうですね、同じ名前です。それに、瞳の色も良く似ています。声も、話し方も、性格も……何もかもが、羽泰はうたねぇに似ています」
氷華は、昔を思い出すように遠くを見つめながら話していた。そして、羽泰が挟んだ言葉に氷華は記憶の中の姉と重ね合わせながら羽泰を見る。氷華が見ていることに気付いた羽泰は、小さな頭を傾げたもののハッとしたようにして嘴を開く。
「カァー!私ハ『ウタ』ジャナクテ羽泰ジャ!氷華ノ姉ジャナクテ鎹鴉ナノ!」
「痛い、痛いですよ羽泰。分かってます、羽泰がうたねぇとは違うのは」
嘴で噛むように氷華の頬を挟みながら氷華へと告げる。氷華は嘴の痛さからか、それとも別の何かは知らないが、その瞳から涙を浮かべながら羽泰を掴んで止めに掛かる。
「ソレデ、氷華ハ何故鬼殺隊ニ入ッタンダ?」
「それは……」
氷華は俯き、奥歯が砕け唇から血が出るのではないかと思うほどの強さで噛み締めながら、吐き出すように言葉を口にした。
「私が……私のせいでうたねぇが鬼に殺されたから、です」
明治コソコソ噂話
「氷華の呼吸は鱗滝から受け継いだ水の呼吸、縁壱から教わった日の呼吸とそこから派生した雪の呼吸、それともう一つ呼吸があるらしい。日の呼吸は身体に合わなくて使えないけど、型と呼吸の仕方は分かるって感じみたい」
次回、バチクソシリアス過去回
因みに、本当に羽泰とうたは別人です。二次元特有の滅茶苦茶似てる別人です。まあ、片方はカラスですが。