最強の妹   作:タニコウ

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ここから1章、前回までがくそ長プロローグです。


鬼殺隊入隊後~原作前~
#14 初任務その1


 

「どうですか?変なところとかないですかね?」

 

 そう言って、新しい服装に身を包んだ氷華はその場で軽く一回転する。ふわりと舞い上がる黒のスカートと、黒の詰襟の後ろに描かれた『滅』の文字を隠す白と水色の羽織が翻る。羽織に散りばめられた雪の結晶が水色の、この数ヶ月で肩甲骨の辺りまで伸びた青っぽい黒髪が尾を引いた。

 氷華が止まり、重力に引かれて落ちてきたスカートと羽織が小さくはためき、髪が肩に触れながらさらさらと流れて、その姿の全貌が見える。脚部は膝下ギリギリのスカート、足の露出がないようにと鱗滝が用意した履き口が水色で他が白のニーハイソックス。

 詰襟はきっちりボタンが留められていて胸元の露出などない。……血も涙もない話になるが、そもそも、氷華は過去12年の幽閉生活で栄養失調気味だったせいか露出させるほどの胸がないのだ。血も涙もなければ、胸はAもない。

 

「うむ、似合っておる」

「むふふ……そうですか?もっと誉めてくれてもいいんですよ?」

 

 鱗滝の誉め言葉にドヤ顔と共に薄い胸を張る氷華。鱗滝達は、徐々に氷華の鼻が長くなってきている光景を幻視した。

 

「よ、日本一」

「……可憐な花のようだ」

「えへへー」

 

 鱗滝に乗っかるように錆兎と義勇が氷華のことを誉める。若干、雑な気がするが、それでも氷華は嬉しそうに頬を朱に染めて後頭部を掻く。そして、

 

「私なら、花街一の売れっ子になってしまいますね!」

 

 むん!と腰に手を当てて尊大に反り返る氷華。既に鼻は伸びきり、鱗滝と同じ天狗になっていた。なまじ、ビジュアルがしっかり美少女しているだけに冗談にならない。額に痣こそあるが、痣がない状態を知っている氷華は自由に消すことが出来る。透き通る世界も同様だ。

 

「そうか、儂は何も言わん。ただ、行かせるつもりはないぞ」

「うっ……」

「今のお前では無理だな、やめておけ。良くて小間使い、最悪幼児体型趣味の変人に買われるかだな」

「うぐっ……」

 

 鱗滝と錆兎の言葉で一瞬にして氷華の長い鼻が折れ、氷華は胸に右手を当てて左手を地面に着けて這いつくばる。氷華は最後の望みである義勇へとうっすい胸から手を放して、救いを求めるようにふるふると震わせながら伸ばす。

 

「ぎ、義勇……」

 

 それを見た義勇はふっと、鼻から息を吐き出すと氷華へ向けて口を開く。しかも、何処か鬼気迫る表情を作ったのだ。

 

「笑わせてくれるな!そんな小柄で貧相な体躯で花魁だと?笑止千万!」

 

 ピキッと言う音が小屋に響いた。別に、空気が凍り付いた音ではない。氷華の額に青筋が浮かんだ音だった。氷華は、ぴくぴくと蟀谷を引くつかせながら幽鬼のようにゆらりと立ち上がる。

 

「確かに、調子に乗った私が悪いですよ……」

 

 ゆっくりと俯きながら氷華は壁に立て掛けられた木刀を二本手に取る。そして、義勇の目の前へ一本を放り投げる。カランと乾いた木と木がぶつかる音が静かに響いた。

 

「……拾ってください、義勇。確か、最近拾壱の型の習得に悩んでいるんだとか」

「……ま、待て氷華。……ッ!?」

 

 義勇はゆっくりと近づいてくる氷華から逃れるように後退る。そして、瞬きをした一瞬で氷華は自身の視界から消え、ポンと肩に錆兎と鱗滝のゴツゴツとした手ではなく小さく柔らかい手が置かれる。

 ただ、その肩を握る力は万力よりも強く重く、義勇の喉から小さく悲鳴が漏れる。恐る恐る義勇が壊れかけのロボットのように震えながら振り返る。

 

「私、ちょっと怒ってます。あそこまで言わなくてもいいじゃないですか」

 

 氷華はムッと頬を膨らませて、涙がうっすらと浮かんだ目で上目遣いで睨み付けていた。シチュエーションさえ違ければ、とても可愛らしい庇護欲がそそられるような顔だが、生憎とそんなことを思う余裕が義勇にある筈がなく、ぷるぷると狼を前にした小鹿のように震えることしかできなかった。氷華は、そんな義勇の首根っこを掴むとずるずると引き摺り出す。

 

「行きますよ」

「……さ、錆兎!鱗滝さん!」

 

 義勇が救いを求めるように、傍観している錆兎と鱗滝に向かって手を伸ばす。だが、錆兎と鱗滝は揃って義勇に向かって合掌して、口々にこう言った。

 

「行ってこい、義勇。男だろうが」

「達者でな」

「……そ、そんな」

 

 あっさりと見捨てられた義勇は、それでも二人を信じて手を伸ばし続けるが、外に出た途端に氷華によってピシャリと閉められた戸が彼を絶望の淵に叩き落とした。

 

「ぬあぁぁあああっ……!」

 

 こうして、六時間近く絶え間なく情けない悲鳴を漏らし続けた義勇は、風柱の柱稽古でぼっこぼこにされた炭治郎よりも青アザ、内出血で身体中をパンパンに腫らした。そのお陰で、義勇のオリジナルの型である拾壱の型『凪』が少しだけ形になったのだった。

 

 それから二日後、氷華が申し訳なさそうに義勇の顔に鱗滝が調合した軟膏を塗っていると、ついにそれが来た。開け放たれた窓から入ってきた羽泰が氷華の肩に止まり、大きな声を出す。

 

「カァー!天野氷華!鱗滝錆兎!冨岡義勇!鬼狩リトシテノ最初ノ任務ジャーッ!浅草ノ町ニ潜ムゥ、鬼ヲ探スノジャァー!」

「あさくさ……浅草神社の浅草ですかね?錆兎、分かりますか?」

「名前しか知らん。義勇はどうだ?」

「……東京の、人が一杯いる町だ」

 

 羽泰が任務を通達すると、三人の間に緊張が走る。なんてことはなく、氷華が相変わらずの無知っぷりを披露した。孤児である錆兎も、浅草についての知識は薄く、唯一知っている義勇は先日の言葉の勢いは何処へやら、凄まじく薄い語彙力でしか自分の知識を語れない。挙げ句の果てに、氷華が再びこてんと首を傾げる。

 

「とおきょお?」

 

 これである。氷華は日本の首都である東京すら知らない。従って、氷華の知識では武蔵国の浅草神社であり、東京の浅草と本来であればイコールなのだが、東京を知らないが為にそこが繋がらない。だが、こんな混沌としつつある空間にも救世主はいる。

 

「氷華の認識であっておる。東京とは武蔵国。浅草神社がある場所こそが浅草だ」

 

 そう、我らが鱗滝である。鱗滝は氷華から告げられた過去から、氷華が持っている知識が戦国時代で止まっていることに勘づいていたのだ。

 

「成る程、では私が知ってる浅草で合ってますね。五百年が経った今はどんな風に変わっているんでしょうか。ちょっと楽しみですね」

 

 自分の記憶にある古の浅草神社の姿を思い浮かべる氷華。そして、鱗滝の見送りの元、浅草へと向かった三人は。氷華にとって鬼殺隊の任務は基本的に楽なものである。故に、完全に観光気分で浅草へと向かったのだが。

 

「うっ……す、すみません。錆兎、義勇……ひ、ひとに、よいました……うぅっ……」

「おい、まだ町の中にすら入ってないぞ。しっかりしろ、取り敢えずおぶるぞ」

 

 氷華は町に向かう人の波を見ただけで酔ったのだ。既に痣と透き通る世界の使用を控えて、極限までに感覚を鈍らせたのにも関わらず一瞬で酔った。錆兎は氷華に水筒に入った水を渡し、完全にダウンした氷華が水分を取ったのを確認すると背中に背負った。

 

「す、すみません。少し休んだら慣れると思いますので…」

「問題ない。と言うか、氷華お前ちゃんと飯食ってたよな?軽すぎだろ」

「重くないのなら、良かったです……」

 

 そうして錆兎に背負われたまま町に入った氷華だったが、町の前ですら人酔いした氷華が町に入ったら悪化するのは当然だった。案の定、町に入った瞬間にざわざわとした雑踏、チカチカと煩わしい電灯に目を回して錆兎の背中に片耳を押し付け、目をギュッと瞑って五感を限界まで抑えた。

 

「……む、むりです。き、きょうは、ふじのかもんのいえで……や、やすませてもらいましょう……うぷっ」

「お、お前、俺の背中で吐くなよ!?おい義勇!藤の家紋の家ってのは何処だ!?」

「……知らん」

「クッソ、使えねぇなぁッ!」

 

 錆兎は慌てて周りを探す。頼りになる氷華は潰れ、義勇は普通に使えない。

 

「カァーッ!錆兎、向コウジャーッ!」

 

 そんな惨状を見兼ねた羽泰が氷華の頭の上に乗っかって、一点を翼で指し示した。その翼の先に藤の花の家紋の家があるのだろう。錆兎は、内心でこの二人(特に義勇)よりもカラスの方が使えるってどうなってんだ。と、愚痴りながらなるべく背中の氷華を揺らさないように、かつ急いで藤の花の家紋の家へと向かったのだった。氷華達の初任務はぐだぐだな出だしとなった。

 




明治コソコソ噂話
「氷華は戦闘以外のことで煽てられるとメチャクチャ調子に乗る。かるーく誉めただけで有頂天になってやらかす。落ち着いたら反動で羞恥心とかが一斉に襲ってくるんだって」

もう1話だけ上げたら、また別作品の方を書きます。
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