最強の妹   作:タニコウ

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浅草なんてタイトルを付けておきながら浅草要素ゼロ。


#15 浅草その1

 

「うぅ…頭痛い……何で夜なのに外はあんなに明るいんですかっ」

 

 夜遅くにも関わらず快く出迎えてくれた藤の花の家紋の家にお邪魔した氷華達三人。氷華は、布団を用意して貰うと、すぐに布団を頭から被って蓑虫のようになったのだった。まるで朝日に怯える鬼のように俊敏な動きだった。

 

「つうか、氷華は何が原因でこうなってんだよ」

「全部です。あの大きい蛍の光も、合戦よりも数段多い人達の話し声と存在感も、無駄に強い多種多様な花の香り(香水)も余りに強すぎて鼻どころか舌までぴりぴりして……本当に全部無理なんです。うぅ……思い出しただけで鼻が痒くなってきました……」

 

 錆兎は氷華がくるまる布団の側に胡坐をかいて話し掛ける。そして、そんな錆兎の言葉に返す氷華の声は、よっぽど辛かったのか酷く震えていて、涙声に限りなく近いものだった。

 因みに、氷華が辛く感じているのは(嗅覚)(聴覚)の二つが並んでダントツでキツかった。実際、今は布団で遮断しているから何とかなっているが、外にいた時は、外を歩いている一人一人の足音、呼吸音に話し声、そして臭い。それから、家屋の中の子を叱り付ける親の怒鳴り声、それに対する子どもの泣き声、子どもを寝かし付ける子守唄。遅めの夕食のいい匂いから排泄物の臭い。そして、氷華達が来たのは夜が深まり始めた大人の時間帯。つまり、おせっせの声やら臭いまでもが、氷華にダイレクトで全て混ざりやってきたのだ。

 それは気分も悪くなるし、情報量の多さに頭痛もするだろう。後は、単純に氷華がここまで人が多いことに慣れていないと言うのも大きい。氷華の経験では、せいぜいが戦国時代の鬼殺隊で大規模な討伐作戦の後に行った宴会の400人が最多なのだ。その数倍、数十倍の規模の大きさは氷華の感覚をぶっ壊すには十分だったのだ。

 

「どれくらいで慣れそうだ?」

「……出来ればもう二度と外に出てあの感覚を味わいたくないのですが……元の調子、痣を出せるようになるまで大体三日は掛かるかと、痣が無くてもいいのなら二日後の朝には」

「となると、氷華が戦えるのは三日後か……」

「……(だが、今回の任務は鬼の捜索だ。)氷華の力は必要ないだろう」

 

 錆兎と氷華が話していると、義勇が部屋に入ってきてそのまま話に加わった。だが、錆兎はそんな義勇を見てドン引きした表情を見せる。

 

「義勇……お前何でそんなにおかきを持っているんだ?」

「……貰った」

「それにしてもここまで貰うのか!?」

「…………貰った」

 

 義勇の手には、器にこれでもかとてんこ盛りに盛られたおかきと饅頭、大福に煎餅などのお菓子の山があった。義勇の説明が足りないがために説明をすると、さっきまで義勇はトイレ()にて用を足していた。そして、氷華達がいる部屋へ向かう途中に、この家の主である優しそうなお婆ちゃんに渡されたのだ。

 勿論、夜中に押し掛けた身である義勇は断ったが、経験したことがある人は分かると思うがお婆ちゃんの押しは途轍もなく凄まじいものだ。最初は本当に少しだけだったものがあれよあれよと増えていき、気付いた頃にはこちらが申し訳なくなる程に渡してくるのだ。当然、口下手を極めて鱗滝一門以外とは真面に会話の出来ない義勇が断れる筈もなく、気付いた頃にはてんこ盛りのお菓子の山が出来ていたのだ。

 

「あぁ、剣士様。皆さんでおかきでも如何ですか?」

「……結構だ」

「まぁまぁ、お若いのに謙虚だこと。じゃあ、お饅頭もどうですか?」

「……いや」

「お饅頭はお嫌いでしたか?でしたら、他のお二方にでも召し上がって頂いて下さい。剣士様は大福の方がいいですかね?」

「……あ、いや……その」

「(*^^*)」

「(T^T)……ありがたく受け取ろう」

 

 こんな感じである。

 

「成る程、そんなことがあったんですね」

 

 義勇が冨岡弁で話し終えると、布団の隙間を開けて氷華がお菓子の山を見ていた。それに気付いた錆兎が氷華に少しからかうように話し掛ける。

 

「なんだ、氷華。お前腹でも減ってるのか?」

「いえ、食欲はないのですが、だいふくなるものを初めて聞いたので、どんなものか気になりまして」

「500年前に大福は無かったのか?まぁ、俺も食ったことはないが」

「そうですね、聞いたこともありません。それに見たところ、名前が変わっただけと言うことも無さそうです」

 

 大福が出来たのは江戸時代の初期に流行った鶉餅と言う甘くなくてデカイ大福を、お福さんと言われる未亡人が餡に砂糖を加えて小型化したものが大福の始まりだと言われている。江戸時代のものであるなら、室町後期に生まれた氷華が知らないのは当然だ。

 因みに、氷華も煎餅を知っているが、氷華の知っている煎餅と錆兎と義勇が知っている煎餅は別物だ。現代で良く食べられる錆兎達が知っている方の煎餅の材料はうるち米で作られているが、氷華の知るものは小麦粉を水で練ったものを焼いたものだ。うるち米のものは明治時代から、小麦粉の方は飛鳥時代からあるものなのだとか。

 

「じゃあ、食ってみるか?大福」

「そうですね、折角お出しされたものを食べない訳にもいきませんし、いただきましょうか」

 

 そう言うと、氷華はのそのそと布団の中から這い出てくるが、それもすぐにぴくりと硬直すると布団の中に逆戻りした。氷華は、ぷるぷると腕だけ出すと、開きっぱなしになっている窓を指差す。

 

「お願いします、窓……閉めてください」

「おう」

 

 氷華の懇願に錆兎は頷くと窓を閉めにいく。実は、氷華がなるべく早く感覚を慣らす為に自分で開けたのだが、そのことを突っ込むのは野暮だと錆兎も思ったのだろう。文句は出なかった。

 錆兎が窓を閉めてから数分後に氷華は再びのそのそと這い出てきて、漸く畳に座る。ただ、今は本当に疲弊しているのか、いつもは崩さない正座も崩して女の子座りをしている。そして、氷華は大福を手に取ってまじまじと観察をしてからぱくりと一口。

 

「んっ……甘くておいしいですね、これが大福ですか。一見、お饅頭にも見えますが、生地が違うんですかね?もちもちしてます」

「確かにうまいが、甘過ぎじゃないか?」

「そうですか?これくらいがおいしいと思うのですが、まぁ味覚は人それぞれですから、好みの問題ですよ」

 

 氷華と錆兎が話をしながら大福やらおかきやらを食べていく。義勇?彼はお茶会みたいで楽しいな。と、うきうきしながらお菓子を無言無表情で食べている。たまに、うまいと言う。コミュ障は自分が話題に関わりがない時には、上手く周りの会話に入れないものなのだ。彼は、それを心から楽しんでいるから周りとの認識にも歪みが生じるのだが、それは今は関係のないことだ。

 

「そう言えば、任務なんだが鬼の捜索って何だよ。特徴も何も聞いてないし、鬼を探して何するんだよ」

「そうですねー、私の時代では十人くらいの隊士を送って偵察をすることはありましたが、それも全集中の呼吸が広まるまでの話でしたけど」 

 

 話題変わって任務のお話。氷華、義勇、錆兎は浅草に隠れている鬼を探すと言う任務を与えられている。討伐ではなく、捜索。鬼を斬る鬼殺隊にあるまじき任務である。まぁ、錆兎はこれが初の任務であるから大して気にはしていない。氷華も何も聞いていないのか、錆兎のそんな他愛ない雑談に乗っかった。そして、我らが冨岡義勇は一味違う、彼は知っているのだ。

 

「……これを貰っていた」

「何だこれは?」

「指示書ですかね?にしては、紙が小さい気が……」

 

 そう言って、義勇は一枚の紙を取り出した。それを氷華と錆兎は両脇から覗き込むようにして義勇の手元を見る。そして、義勇が開いた紙にはこう書いてあった。

 

「氷華が知っている鬼、だと?これが探している鬼の特徴か?氷華は何か知ってるのか?と言うか、何故義勇は俺達に何も言わない」

「……忘れてた」

「チッ」

「……やめてくれ、痛い」

「あー、はい。三人ほど思い当たる鬼がいますね」

 

 錆兎が無言で義勇の蟀谷に両拳を当ててグリグリとしている裏で、氷華は記憶を軽く探る。とは言っても、氷華と遭遇して生き残った鬼なんぞ、片手どころか指2本分しかないのだ。思考は一瞬だった。

 氷華が記憶を漁り終えたのを確認した義勇と錆兎は氷華へと視線を向けて、話を促す。

 

「三人と言っても、一人は今も生きているか分かりませんし、一人は高確率で生きているのでしょうが鬼になった姿を見ていないので彼の容姿は分かりません。そして、もう一人は確実に生きているでしょうが、もし奴を探しているのなら今の奴に勝てない私に渡す任務ではないのでほぼ除外と言ってもいいので、前者の二人のどちらかになると思います」

「氷華が勝てないって、どんな鬼だよ」

 

 氷華が簡単に告げると、氷華以上の存在を知らない錆兎が茶化すように言った。正直、氷華が勝てない奴の存在を信じたくないと言うのもあるのだが。

 

「……鬼の始祖か」

 

 そして、義勇は何となく察したのか正解を言う。そして、氷華が頷いて肯定をする。

 

「はい、そうです。一人目が鬼の始祖たる鬼舞辻無惨ですね。これは、今の私ではどんなに足掻いても、四半刻も持てば十分な程に力の差があります」

「氷華でも三十分も持たないのか……」

「えぇ。ですが、それは飽くまで今の私の実力です。実際に、私は五百年前に一度だけ奴の頸を斬ることに成功しています。とは言え、こうして鬼が今もいるように、鬼舞辻無惨は頸を斬っても死にません。その時は、まんまと逃げられてしまいましたが」

「頸を斬っても死なないだと?」

 

 氷華の言葉に錆兎が問い返す。他にも聞くべきところは多々あったのだが、一番衝撃を受けたのは間違いなくそこだった。そして、聞いてから納得もした。そう言えば、前に鬼の弱点を教わった時に頸の弱点を言わなかったな、こう言うことかと。

 そして、氷華はそのまま次の鬼についてを話そうとする。が、その顔は途轍もなく不快に染まっていた。と言うか、話したくないのだ。

 

「もう一人は、正直思い出すだけでも虫唾が走るので、口にしたら物に当たりそうなので言いませんが、私と同じように顔に炎のような特徴的な痣があるので一目で分かると思います。もし彼を見つけたら私は自分を保てる自信がないので、その時は殴ってでも止めてください」

「お、おう」

 

 氷華は鬼舞辻無惨について語っている時よりも明確に憎悪と殺意を滲ませてそう言った。余りの迫力に錆兎も曖昧な返事を返すことしか出来なかった。

 さっさと次の話題に移る為に氷華が口を開く。

 

「そして、この方が私的には今回の任務の対象である可能性が一番高いと思っています。その方の名前は珠世さんと言う方です。珠世さんは鬼舞辻無惨と戦った後に、自我を取り戻し、以前お話した無惨の呪いから逃れた唯一の鬼です。彼女は、私と兄の前で鬼舞辻無惨の名前を口にしながら、恨みを吐き出して私達鬼殺隊と協力してでも鬼舞辻を倒すと言う約束をしてくださいました」

「鬼が鬼殺隊と協力するのか?」

「はい、当時のお館様にも伝えました。お館様ご自身は賛成してくださったのですが、他の柱が少々面倒でしてお流れになってしまいましてね……。恐らく、今回の任務でその約束を果たすことになるのでは、と思った訳ですね。丁度いいことに、私もこうして現世に蘇った訳ですし」

「……人を食うのか?」

「今は分かりません。私が出会うまでは普通の鬼でしたから人を食っていたと思います。ですが、私達と共に鬼舞辻と戦う約束をした日から二年程、行動を共にしたのですが、その時は飢えを抑えるために私の血を飲んでいましたね」

「……そうか、もし今も食っているのなら斬るぞ」

「えぇ、分かってます」

 

 珠世について話すうちに、氷華も落ち着きを取り戻したのか、錆兎と義勇の言葉にぽんぽんと手早くレスポンスを返していく。結局、ここから雑談へとシフトしていき、三人は夜が明けるまで話をして過ごした。三人が藤の花の家紋の家を出たのは、浅草に到着して二日目の夜になった。

 




戦国コソコソ噂話
「氷華と兄上こと厳勝さんの相性はよろしくない。何でも、初対面の時に氷華が兄上のことをぼこぼこにしちゃって、兄上のプライドをズタズタにしたのだとか。兄上はそれと、氷華が縁壱の近くにいるのが原因で氷華を毛嫌いしていたらしい。氷華も、弱い癖して縁壱に好かれてる兄上が大嫌い。しかも、兄上が鬼になって、お館様の首級を持ってったことで縁壱が鬼殺隊を追われて、それに氷華も付いていったが、いずれ氷華自身が痣の寿命で死ぬことを察していた為に、間接的に縁壱を死ぬまで孤独にした兄上のことを心底憎んでいる。何なら、無惨様よりも嫌ってるまであるらしい。
本当に余談だが、兄上は氷華を少しだけ縁壱と同一視して、越えなければいけない壁として五百年もの間、拗らせているらしい」

原作とは違って、珠世さんは縁壱が炭吉のところに再訪するまでの間だけ、同行していた。因みに、氷華が自分が死んだ後に縁壱の側に一緒にいてくれないかな?と、考えたから。

どうしようかな、無惨様とエンカウントさせるべきか……悩む。
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