最強の妹   作:タニコウ

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氷華のもう一つの呼吸を書いてみたんですけど、名前を考えるのってやっぱり滅茶苦茶難しいですね。


#17 浅草その3

 

 路地裏から出た氷華は、少し急ぐように出来るだけ早歩きで、かつ、少し顔色が悪そうな具合を保ちながら、ふらふらと歩みを進める。顔は頻りに何かを探すようにおろおろと見渡しながら、手は不安を顕にするように少しだけ震わせて、目元にはうっすらと涙を浮かべさせる。そんな氷華の姿は、親とはぐれた迷子のような姿であった。そして――

 

「きゃっ……!ご、ごめんなさいっ!」

 

 氷華の肩が道を歩いていた一人の男とぶつかる。その拍子に、氷華の頭に掛けられた狐の面がカランと乾いた音を立てながら、地面へと落ちた。氷華は子どもの口調を意識して、謝罪の言葉を口にした。氷華がゆっくりと顔を上げると、ちょうど振り返った相手と視線が交わる。

 

「いえいえ、お気になさらず。お嬢さんこそ、お怪我はありませんか?これ、落としましたよ?」

「は、はい。ありがとう…ございます。だ、大丈夫です……」

 

 高級感がただよう洋装に身を包んだ、死人かと勘違いするくらいな色白の肌を持ち、海流でうねるわかめの如くパーマがかかりまくった黒髪。そして、一際目を引くのが、まるで鮮血をそのまま映したかのような深紅の瞳をした顔の整った美丈夫。そんな彼から、氷華は自分が落とした面を受け取り、礼を言いながら右の側頭部に着けた。

 まるで、ラブコメのワンシーンかのように出会い、今も見つめ合う氷華とこの男。だが、その中身は鬼の王(鬼舞辻無惨)とそのトラウマその2(天野氷華)。そんな互いの胸のうちは――

 

(は?鬼の始祖が家庭持ち?あり得ないんだけど。数えきれないほどの人を殺しておいて、ふざけてるんですかね。ふざけてるでしょ。ぶち殺してやりましょうか?)

(なんだ、この小娘は。私の一張羅に汚れが付く。今ではなかったら、殺していたぞ)

 

 ――殺意で満たされていた。なお、二人とも表情に出さないため、運命の出会いをしたが如く見つめ合って(睨み付けて)いたのだった。……奥さんを置いてきぼりにして。

 

 

 少し場所と時間を離しまして

 

 先行する氷華のことを追っていた錆兎と義勇。二人は、氷華の気配を頼りに、足を進めること数分ほどで氷華に追い付く。そこには――

 

「あのね、私、さっきまでお兄ちゃん達と一緒にいたんだけど、はぐれちゃってぇ……」

「まぁ、可哀想に。迷子になっちゃったのね?どうしましょうか、()()さん」

「そうですね、この子のお兄さんを探してあげたいのは山々ですが、警察に任せた方が早いでしょう」

 

 ――子どもっぽい話し方でおどおどと不安そうにする氷華と、そんな氷華に付き添うようにした若い女性と、女性の夫らしき高級な洋装に身を包んだ紳士(笑)がいた。

 錆兎は、氷華の行動から夫婦のどちらかが鬼舞辻無惨であると推測して、夫婦を観察する。氷華との鍛練で培った鋭敏な感覚を以てしても、離れた所から感知することが出来なかったが、目の前に来て錆兎は直感した。

 

(この男が、鬼舞辻無惨……!)

 

 錆兎は自分の身体が強張るのを感じた。目の前の月彦(笑)さんを鬼舞辻無惨だと認識したと同時に、何故今まで気付かなかったのか分からないほどの威圧感に錆兎の身体が反射的に身構えるようにして氷華の方へと歩く。

 そんな錆兎とは反対に、鱗滝ファミリーの長男こと義勇は至って平然とした表情を浮かべて、氷華の方へと歩み寄る。表情は迷子になっている体である氷華のことを心配している風 (無表情)にして、少し早歩き(てちてち音を添えて)をして近づいて声を掛ける。

 

「…………探したぞ」

 

 いつも通りに言葉少なく氷華に話し掛ける義勇の胸中は、酷く荒れていた。姉である蔦子を自身の目の前で殺した鬼。その鬼の首魁にして、全ての悲劇の元凶である鬼舞辻無惨を前にして、何でもないただの仲の良い兄妹を演じなければいけない自分の無力さ。勿論、鬼舞辻無惨に対する怒りだってあるし、ぐつぐつと煮えたぎる殺意もある。

 それらが合わさったものを必死に押し殺そうとしているのか、今の義勇は酷い顔をしていた。まぁ、普通の人から見ればただの無表情ではあるが。しかし、声を掛けられた氷華と近くで見ていた錆兎は、そんな義勇の些細な違いに目敏く気付いたのだ。

 

「あ!義勇お兄ちゃん!錆兎お兄ちゃんも!」

「うちの妹が迷惑を掛けたようで申し訳ない」

「あら、見つかったのね。良かったわ」

「そうですね」

 

 錆兎は何とか気合いを入れて冷静さを取り戻し、氷華の近くにいた夫婦に声を掛ける。夫婦は声を掛けられたことで、錆兎と義勇の方へと向き、奥さんは迷子が見つかったことに喜び、旦那()はそれに同意する。

 

「それでは、私達はこれで。妹さんが無事でよかった」

 

 月彦さんは、そろそろ面倒になってきて、早く終わらせようとそう言った。氷華達もさっさとこんな息苦しい状況から抜けるために話を合わせる。

 

「今回は本当にありがとうございました。ほら、向日葵、お前もお礼言っとけ」

「うん!お兄さんとお姉さんもありがとう!」

「いいのよ、それじゃあまたね」

 

 錆兎が氷華の手を握り、そう言えば、氷華はにぱーっと子どもらしい笑みを見せてお礼を言えば、奥さんはにっこにこしながら氷華の感謝を受け入れて月彦さんと共に浅草の人ごみの中へと消えていった。氷華はばいばーいと元気よく手を振って二人を見送った。

 

 

 

 月彦さんを見送った三人は氷華を真ん中にして、再び路地裏へと戻ってきた。

 

「それで、あの一見優しそうな男が鬼舞辻無惨だった訳なのですが……って、錆兎。何を笑っているんですか」

「いや……ククッ……何でも、ないッ……フッ」

「何ですか!?そんなに私の潜伏技術が足りてませんでしたかっ!?」

 

 路地裏に戻ってすぐに会議擬きを始めようと口を開いた氷華だったが、すぐ横で顔を狐の面で隠した錆兎が笑いを堪えるように震えているのを見て、氷華の演技が可笑しかったのかと聞いてみる。

 

「逆だ、逆。余りにも違和感が無さすぎて……ククッ」

「んなぁっ!?私は妹ではないのですがっ!?」

 

 さっきの氷華はどこからどう見ても幼い妹だろ。と、義勇と錆兎は思ったが言わなかった。氷華は誤魔化すように、こほんと咳を挟んでから話し出す。

 

「取り敢えず、鬼舞辻無惨は現在、人間としてこの浅草に潜んでいることが判明しました。潜伏時の居場所もすぐに羽泰が突き止めて、お館様へと報告が為されるのも時間の問題です」

「……鎹鴉ってそういう使い方をするんだな」

「…………いい手本だ」

「それはどうも」

 

 氷華が予め羽泰に手配していたことで、鬼舞辻無惨の居場所はすぐに産屋敷の元へと届くのであった。だが、氷華達の任務は鬼舞辻無惨の居場所を突き止めることではない。飽くまで、鬼舞辻無惨についてはおまけだ。おまけで済む功績ではないのだが、それは置いておいて。

 

「鬼舞辻の傍へ向かった時に、珠世さんの気配を感じました。今から向かいましょう」

「ん?ああ、そっちが本題だったな。了解だ」

「……」

「では、付いてきて下さい」

 

 そんな会話を交わして、氷華達は路地裏の暗闇へと消えていった。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

「チッ……何故、今になって貴様の顔が脳裏に浮かぶッ!」

 

 一方、自身の屋敷へと戻った月彦改め鬼舞辻無惨は、帰宅して早々に自身の書斎へと籠り、荒れていた。衣類の下に隠された、数百年と経っても消えない無数の切り傷を掻き毟る。

 

「忌々しい!奴らは既に死んだ筈なのだ!人間等と言う老いに勝てない矮小な存在である貴様らが、何故今も私の邪魔をするのだ!化け物共がッ!」

 

 鬼舞辻無惨は恐れと共に回想する。鬼舞辻無惨の長い長い1000年にも近い生の中で唯一無二のトラウマである二人の兄妹(化け物)との戦いの記憶を。

 

 

 

 

 それは、五百年近く前のとある夜のこと。

 

 とある野山の竹やぶにて、対峙した二人の人間と二人の鬼。平時であれば、鬼が強者であり、人間は容易く鬼に喰われるだけの存在であった。しかし、

 

「死ね、人間」

 ――日の呼吸 肆の型 灼骨炎陽

 

 二人の鬼の内の一人である鬼の始祖『鬼舞辻無惨』が二人の人間を殺すために、自身の身体から伸ばした触手が嚇灼の髪を持った剣士『継国縁壱』によって一瞬で全てを切り落とされた。

 

「氷華」

「任せてください」

 ――ゴォォオオオ

 

 ――日の呼吸 拾の型 火車

 

 縁壱が全ての触手を切り捨てるのと、彼の背後から陽炎を纏った刀と共に、月光を浴びて青く輝く黒髪を靡かせて無惨へと飛び掛かる氷華。そして、空宙で無惨の右肩から先を切り飛ばした。

 

「クッ……調子に乗るなッ!」

「調子に乗る?私達人間よりも遥かに優れた鬼相手に?それはとんだ笑い種ですね」

 ――ヒュゥゥウウウ

 

 ――雪の呼吸 弐の型 泡雪

 

 無惨は振り向き様に左腕で氷華に襲い掛かるも、爪が切り裂いたところで、氷華の身体は残像のみで既になかった。むしろ、攻撃した側である無惨の左腕が斬られていたのだ。会敵して僅か1秒で落とされた幾多もの触手。3秒と経たずにボトリと地面に落ちる無惨の両腕。

 

(私の身体が反応出来ないだと?あり得ない、化け物どもめ!こんなところで死ぬわけにはいかない!逃げねば!)

 

 余りの一方的な蹂躙に無惨は早急に逃走へとリソースを全部注ぐことに決めたようだ。無惨は、背中を向けて全力で逃げる為に走り出そうとする。だが、

 

 ――日の呼吸 壱の型 円舞

「逃げられると思うな。鬼の始祖」

 

 縁壱が即座に無惨の両脚を切断。脚を失ったことで、無惨は尻餅を付くように重力に引かれて身体が落ちる。

 

 ――ビュォォオオオオオオオ

 

 無惨の耳には縁壱の吐く太陽に燃やされるかのような、耳の奥にこびりつくような不快感に溢れた呼吸音とはまた別の、異様な呼吸音が届いた。まるで、空がそのまま動いているかのように感じる災害。大風(台風)を想起させるその音が聞こえたのと同時に。

 

「馬鹿なッ!?」

「空の呼吸 壱の型 暁薄光・地平斬り」

 

 無惨の首は斬られたのだった。無様にも地べたに這いつくばり、達磨のように手足を削がれ、首すらも切り落とされた。ここまでの時間、僅か5秒の出来事だった。

 

「命を何だと思っているんです?」

「何故、命を踏みつけにする?」

 

 氷華と縁壱が無惨に詰め寄るようにして問い掛ける。だが、無惨は聞かない。聞いていない。

 

(どうやって逃げる?分裂したところで、この化け物共に切り刻まれて終わる。隙をッ!隙を作らなければならないッ!珠世は様子がおかしくて使えない!ならば、この化け物共を何とかしないといけないのか?やるしかない。だが、どうやって……どうやって隙を作る?男も女も隙がない。ならば……賭けに出るしか、ないッ!)

 

 無惨はキッと氷華を睨み付けると同時に、九本しかなかった背中の触手を、無理矢理に五倍の四十五本に増やして、ただただ氷華へ向けて振るわせた。限界を超えたその行動に、五つの脳は悲鳴を上げるが、ただ氷華へと向けて攻撃をするようにだけ身体に命令を下す。

 

 ――日の呼吸 参の型 烈日紅鏡

 ――日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光

 

 縁壱が即座に無惨の腰と胸を両断する。そして、氷華もまた迫り来る触手を全て切り落とした。だが――

 

「氷華!」

 

 氷華の着物が腕の部分だけ裂けて、腕から微かな出血。無惨の攻撃が氷華の腕を掠めたのだった。

 

(今しかないッ!)

 

 刹那、無惨の身体が破裂して、千八百の肉片となって散らばったのだった。氷華の負傷により、縁壱の気が氷華へ向いた隙に逃走を図る。

 

「大丈夫です!貴方は鬼の始祖を優先して下さいッ!」

 

 氷華は縁壱に告げると、躊躇いもなく自身の怪我した部分に日輪刀を向けて――

 

「グッ……いっつぅ……」

(即座に自傷をするだと!?どういう精神をすれば、そのような行動が出来るッ!?異常者がッ!)

 

 怪我をした周囲の肉ごと、無惨の血が身体に回る前に纏めて患部を削ぎ落とした。即座に、着物の帯をほどいて、血が溢れ出した部分に当てて端を口で噛みながら、もう片手で帯を固く結んで止血する。

 ここまでが、無惨が爆散してから2秒。目の前では、縁壱が無惨の肉片を八百近く斬っていた。応急手当てを終えた氷華は日輪刀を構えて、縁壱に合流して肉片を斬っていく。氷華が合流したことで、千五百の肉片は1秒と経たずに斬れた。だが、残ったのは斬れない程の小さな破片だけ。

 

「逃げられたか」

「……すみません、私の責です」

「いや、俺も奴が分裂するとは思わなかった」

 

 そんな言葉を背にしながら、無惨は兄妹(化け物達)から逃げ出すことに成功したのだった。珠世と言う鬼を、遠い未来に鬼殺隊側へ寝返らせると言う、致命的なミスを犯しながら。

 

 

 

 時間と場所は戻り、明治の浅草へ。自身の書斎で過去のトラウマフラッシュバックが終わった無惨。だが、余程苛立たしかったのか、過去の傷痕が疼いたのかは分からないが、ガリガリと掻き毟られた彼の身体は鬼であるが故に再生して元通りではある。だが、その高そうな室内着は過去の無惨並みにボロボロだった。

 

「チッ……本当に忌々しい化け物どもが。何時まで鬼の始祖であるこの私が、奴らの亡霊に怯えねばならぬのだッ!」

 

 腹立たし気に舌打ちをすると、無惨は着替えをするために部屋を出た。

 

「…………」

 

 ジーッと彼の荒れ狂う様を眺めていた一羽の漆黒の鴉に気付くことはなく。

 

「カァー!カァー!」

 

 そして、無惨の気配が遠ざかり、静かになったことを確認した鴉は夜の闇へ消えるように、空へ向かって鳴きながら飛んでいった。

 




戦国コソコソ噂話
「氷華に一番適性のある呼吸が空の呼吸。空の呼吸は、日の呼吸を使う縁壱と、月の呼吸を使う厳勝の間を取り成そうと付けた名前らしい。残念ながら、三人それぞれがお互いに拗らせまくったせいで、取り成せるも糞もなかったのだが」

空の呼吸 壱の型 暁薄光・地平斬り……滅茶苦茶速く走って斬る。ただそれだけ。居合いじゃない霹靂一閃と捉えてもいいかも?お兄ちゃん的にも、結構速くて最初のうちは見切りづらかったらしい。数回見たら、見てから回避余裕でしたになったけど

空の呼吸って、最初は天って書いて"そら"にしようかなって思ったんですけど、流石に日の呼吸より強そうな名前過ぎてやめました。天って、神様のことですからね。因みに、強さ的には日の呼吸より下だけど、他の派生の呼吸よりは強いって立ち位置です
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