別名:第二回始まりの呼吸時代の柱による柱稽古
一昨日の夜までは90人だったのに、気付いたら三倍になっていて、ランキングが19位になっていてえげつないプレッシャーを感じている僕です。皆さん、本当にありがとうございます。
さて、無事に藤襲山の鬼達を一匹残らず駆逐した氷華達三人は、藤襲山に流れる小川で陣取り、それぞれがより高みを目指すために立ち会い稽古を行っていた。試験中に。
「いいですか?二人とも。先生が言っていたことを思い出してください。水はどんな形にだってなれます。守りに適した形もあれば、攻撃に適した形にもなれます」
互いに背中を預けて、油断なく構えを取っている義勇と錆兎。そして、義勇と錆兎の周りを風切り音と共に高速移動しながら、氷華が言葉を放ち、山の中へと消える。それを感じ取った二人は顔を引き締めて、刀を構え直す。
「来るぞ、義勇!」
「……分かってる」
――無手 水の呼吸 弐の型 水車
氷華が消えたのとは全く別の方向から現れた氷華は、一足で二人の元へやって来ると、空中で回転しながら踵落としを錆兎に向けて繰り出す。
「さあ!錆兎を守ってみなさい!義勇!」
「全集中 水の呼吸 拾壱の型……」
氷華の踵落としから錆兎を庇うようにして前に躍り出た義勇は、刀を下段で構えて氷華の攻撃に備える。そして、氷華から防御に専念したらどうかと言われ、考えに考え抜いた新しい型を使う。
「……凪」
凪いだ海のように心を落ち着けて攻撃を待ち、氷華の足が自身の間合いに入ると同時に、義勇が刀を振るって攻撃を撃ち落とそうとする。だが、
「反応が遅いですよ、もっと感覚を鋭くさせて攻撃を感知して即座に対応して下さい」
――無手 水の呼吸 肆の型 打ち潮
氷華は、義勇の刀の側面を蹴って空中で身体を捻って手を地面に着く。手を地面に着いたまま、独楽のように回転して義勇の首を蹴りに向かう。
「錆兎、貴方が何もしなければ義勇がやられてしまいますよ」
「分かってる!」
――水の呼吸 参の型 流流舞い
氷華にせっつかれた錆兎が、義勇の目の前に迫った氷華の足に刀を振り下ろす。氷華は、手に力を込めて跳ねることで自身の足の軌道をずらすことで避ける。だが、錆兎は追い討ちを掛けるように氷華に向かって果敢に攻め込む。
――無手 水の呼吸 陸の型 ねじれ渦
「くっそが……!後、少しだと言うのにッ……!」
氷華が空中で身体をギチギチと限界まで捻りを加えて解放したことで発生した衝撃波が錆兎を弾き飛ばす。
――無手 水の呼吸 参の型 流流舞い
衝撃波で体勢を崩した錆兎へ向けて、着地と同時に跳び込むと右の拳を錆兎へ向けて振り下ろす。
――全集中 水の呼吸 拾壱の型 凪
またしても錆兎の前に割り込んだ義勇が、氷華の右拳に自身の刀を割り込ませる。それを氷華が弾き、左手で拳を作って義勇へと振るう。それをまた義勇が弾き、氷華が拳を振るう。流れるような足捌きを使って、様々な方向から錆兎へと殴り掛かるが、それすらも義勇は弾く。
殴る、弾く、殴る、弾く、斬りかかる、避けて蹴る、弾く、斬りかかる。まさに一進一退の攻防だった。義勇が守り、錆兎が攻める。だが、それは氷華が普段よりも手加減をしているからだ。義勇の新しい型は、一丁前に名前こそ付いているが、その名前に見合った強さを得られていない。
「しまっ……!」
「惜しかったですね、ですが今までで一番良かったですよ」
まだ手探りの状態である拾壱の型を使っている義勇が、刀を空振って氷華の拳が頬に突き刺さる。仰け反った義勇と、追撃に向かった氷華の間に割って入った錆兎の腹に氷華の蹴りが突き刺さる。
「さて、一旦ここまでですね。どうですか、義勇。新しい型は何か掴めましたか?」
「……(まだまだだな、上手く攻撃に合わせることが)できない。(時間が掛かるかもしれないが、これからも)がんばる」
「はい、時間はまだまだあるのですから頑張って下さい。即座に正確な防御をするのは難しいと思いますが、応援していますよ」
短文化する義勇の言葉を理解した氷華が返す。そうやって、義勇の言葉を理解できてしまうから将来の義勇がコミュニケーション難になっても、自分だけは話が通じてると思い込み、周りが迷惑するのである。
そこで一度、義勇との会話を区切ると錆兎の方へと話の舵を傾けた。
「錆兎は、義勇みたいに何か新しい型を作ってみたりしないんですか?」
「いや、俺は今ある型を突き詰めようと思う。俺が思うに、生生流転を極めれば爆発的な力を生み出せると思うんだ」
「成る程、生生流転はその性質上長く持続させればさせるだけ、攻撃の威力が上がりますからね。確かに、極めれば強力な武器になるでしょう。こんな感じにやってみてはどうでしょうか?構えて下さい、義勇もです」
氷華は、そう言うと腰に佩いていた日輪刀を抜き放ち構える。それを見た錆兎と義勇は急いで日輪刀を抜いて構える。
――全集中 水の呼吸 拾の型 生生流転……
風を置き去りにして氷華が疾走する。
――全集中 水の呼吸 拾壱の型 凪
氷華と義勇が互いに間合いに入ると同時に、氷華は回転しながら斬り付け水の龍を傍に従える。義勇もまた氷華の回転斬りを受け止め弾く。
「こんな感じですよ、見ていて下さいね、錆兎」
……生生流転 纒――水の呼吸 参の型 流流舞い
氷華は、拾の型を発動させたまま別の型を行使する。拾の型は、力の流れを切らさない限り影響が及び続ける。それを利用して、生生流転と他の型を組み合わせるのは水柱であれば、誰もが当たり前に身に付ける技術。
そして、これはその技術から更に一歩踏み込んだものである。氷華が回転しながら踏み込み斬り付け、何度も何度も流れる水のような足取りで回転して斬り付ける。それを必死に義勇は心を落ち着かせて捌き続ける。
「また失敗か……!」
だが、やはり義勇の新しい型の練度は低く、氷華の攻撃を捌ききれなかった。義勇の眼前に氷華の日輪刀が迫る。
「させるか!」
――水の呼吸 漆の型 雫波紋突き・曲
氷華の刀を横から割り込んだ錆兎の日輪刀の切っ先が妨害し、攻撃を逸らす。
「義勇!落ち着け!俺がお前の背中を守る!」
「まだ終わりではありませんよ」
――水の呼吸 肆の型 打ち潮
逸らされた筈の氷華の刀が、跳ね返ったように翻り再び義勇の目の前に迫る。それを体勢を取り直した義勇がまた捌く。だが、その威力は上がっていた。
「まだ生生流転が途切れていないのか!?」
「力の流れを読みきれば、操るのは簡単です。流れに身を任せ、時に少しだけ力を加えることで主導権を握る。そうすれば、自ずと力は全て自分のものとすることが出来るでしょう。それが、生生流転・纒の真髄です」
逸らされた時に加わる力を受け入れる。そして、適切なタイミングで適切な型を使う。上から下に力が加われば『捌の型 滝壷』や『弐の型 水車』で、横からであれば『壱の型 水面斬り』、斜めからであれば『肆の型 打ち潮』など、水の呼吸の全ての型を使ってありとあらゆる攻撃を受け流し、力を巻き取り、自分の力へと変えて強烈な反撃を繰り出す。
まさに、水の呼吸を極めた者だけが至れる極致。奥義と呼ぶに相応しい技だろう。実際に、氷華もこうして使ってはいるが、氷華ですらたまに失敗する。何せこれは、基礎の身体能力を底上げする全集中・常中とは違い、全力で技を繰り出し続けている中で同時に別の技を使うのと同じなのだ。途轍もない勢いで疲労が蓄積し、気付けば技と技が反発し空振りに終わるなんてこともある。その時には、貯めた力が暴走することだってある。
「ですが、これを完全に習得すれば大きな力になります。錆兎、貴方はこれを扱いきれる自信がありますか?」
峰打ちで地面に倒れ伏した錆兎を見下ろしながら氷華は問うた。それに錆兎は何を今更とばかりに勢い良く立ち上がり、間を開けずに宣言する。
「当たり前だ、俺はやるぞ!強くなると決めたならどんな困難でも立ち向かい、乗り越える!それが、男だ!」
その答えに氷華は目をシバシバと瞬かせてからニッコリと笑うと、日輪刀を構えてこう言った。
「そうですか、でしたらもう一本いきますよ」
「おう!」
――全集中 水の呼吸 拾の型 生生流転
氷華の言葉に威勢良く答えて、錆兎は氷華の元へと生生流転を発動させながら駆け出す。
「生生流転が解けてます!もっと、呼吸に意識を向けて下さい!」
「分かった、こうだな!」
「呼吸に意識が向きすぎです!太刀筋が粗い!」
「むっ……こうか!」
「少しはマシになりましたが、まだまだですね」
「かはっ……」
「……(俺は何をすればいいのだろうか?)」
氷華と錆兎が稽古に熱中している間、義勇は完全に放置されていたのだった。
「……(瞑想でもするか)」
そして、目を閉じて精神を落ち着かせて深く深く潜る。そして、義勇は更に集中する為に、以前氷華に教わったあることを実践する。
「……(確か、反復動作がどうとか言っていたな。……よし、俺も頭の中で数を数えるとしよう。そうだな、羊の数でも数えるか。羊が一匹、羊が二匹、ひつじが、さんびき……ひつじが……)」
Zzz…Zzz…。寝た。
「放置したのは謝りますが、寝ないで下さい」
「……いたっ……俺は悪くない」
そして、氷華に頭を軽く叩かれ起こされるのだった。
これは本当に最終選別の最中なのだろうか?余りにも平和すぎる。鬼が山に一体もいないのだから、当然か。
明治コソコソ噂話
「氷華が極端に現代の知識がないのは、生まれつきの痣のせいで忌み子として12年間離れに幽閉されていたから。何処かで聞いたことある話だね。因みに、氷華の中では氷華が死んでから500年が経っていることを知らない。今が何年かすらも、室町幕府の体制が崩れたことすら分かっていないっぽい」
今回でてきた義勇の凪は、凪ではあるけど、凪ではないです。分かりやすく言うなら、イナズマ○レブンでマジン・○・ハンドって言いながらただのキャッチをしているのと同じです。