東方飛燕草~雑学と妄想多めの、幻想郷の住民だけのまったり日常もの~ 作:ナ月(なつき)
【祝・ツパイ出産祝い】
紅魔館。霧の湖に隣接する、紅く大きな西洋風の建物にて。
エントランスホールに集まった面々は、円状のテーブルに置かれた葡萄酒を飲みながら、メインディッシュのご馳走と、ツパイが出産したという報告を待っていた。
葡萄酒をチビチビ飲みながら、霊夢はステージ前に張られた仰々しい大弾幕をどこか憎々しげに睨む。
「なによ、ツパイ出産祝いって。タダ飯食えるから来たけど」
「なんだよ霊夢。ノリ悪いな。チュパカブラの出産だぜ!? くぅ~、私も見たかったな~!」
「チュパカブラって卵生?」
「そりゃお前、ヘソがなかったから、卵生に決まってるだろ」
「ふーん」
「あー、卵の殻とか貰えないかなー」
「メインディッシュはチュパカブラの目玉焼きかしら」
期待に胸を膨らませる魔理沙と、どうでもよさげな霊夢。
どうでもいいことなので他人がチヤホヤされるのは、なんとなく居心地が悪いものだ。
やがてガヤガヤと賑わうホールの照明が暗くなり、喧騒が落ち着く。
「待たせたわね!」
披露宴ようのドレスに身を包んだレミリア・スカーレットが、マイクを片手に楽しそうに降りてくる。
「ツパイの子供の発表よー!」
情緒もなく、シャッとカーテンが開かれ、中から彼女が顔を覗かせた。
それは、紅い尻尾に紅い目をして、なぜかメイドの服を着ている、ちやりだった。
「あ、どうも。チュパカブラだよ」
ぶー、と霊夢は飲みかけていたワインを吹き出した。
「って、そいつ天火人じゃねーか!」
魔理沙は大声でツッコミを入れるも、瀟洒なメイドが現れ、司会の進行は続く。
「私の給仕服がピッタリ入ったので、今は私の服を着させています。生後数秒で目まぐるしい成長ですわ」
「いや、時間間隔おかしいやつに管理させるなよ!」
げほげほとむせる霊夢の背中をさすりながらも、魔理沙はツッコミを絶やさない。
一方で、マイペースな紅魔館当主の話は続く。
「ある日、突然チュパカブラが増えてたのよね」
「ええ、餌を変えようと思ってツパイの部屋を訪れてみたら、なんと、餌受けに二匹もいるじゃないですか」
「話を聞いたとき、驚きと嬉しさが込み上げたわ。私たちの愛とツパイとの間に子が成されるなんて!」
咲夜とレミリアの茶番劇を聞いて、霊夢が叫ぶ。
「んなわけあるかい!」
遠くで妖怪仲間と飲んでいたあうんも駆けつけ、霊夢の口をナプキンで拭く。
「なんか、一部ノリの悪い客がいるわね」
「証拠を見せてあげましょう。ツパイJr.~?」
咲夜がそう促すと、ちやりはちょっと恥ずかしそうにうつむいた後、ぽりぽりと髪の毛を書きながら、鳥かごの中のツパイに向かってこう言う。
「マ、ママ~」
それを聞くや否や、レミリアは鬼の首取ったりとばかりにマイクを握る。
「ほらごらんなさい!!」
「茶番なんだよ!!」
何はともあれ、メインディッシュとして運ばれてきた丸焼きのローストチキンの香りに敗けて、一同は肉の旨味とツッコミを飲み込んだ。
***
フルコースがもてなされ、ツパイ出産祝いから、ツパイJr.の命名に話が変わっていく中、ちやりも挨拶がてら、壇上を下りてみんなと普通にご飯を食べていた。
「ちやり」
「あ、はい。霊夢さん。なんすか」
「あんた、何やってんの」
「いや~、何って、まぁ。事情を話すと……」
「あ、簡潔にお願い」
「へい。散歩中うまいにおいがしたんで屋敷に入って、新鮮な血をすすってたら、近くで花瓶の落ちるガシャンって音がして」
「で?」
「振り返ったらメイドがいて、『産まれた』って……」
「バカじゃないの?」
まるで突拍子もないやり取りに呆れる霊夢は、あうんが切り分けてきた鳥肉を貪りながら、長い嘆息を吐き出す。
特に大事になりそうなことではなかったので、当初の目的通り、食べることに専念することに決めたようだ。
最後に、霊夢はちやりにこう釘を差す。
「飽きたら出てきなさいよ、ここ」
「そっすね。平和ボケする前に出ますわ」
その後、ちやりは「旅に出ます」と書置きを残し、紅魔館を去った。
レミリアと咲夜は涙を流しながら、ツパイJr.の帰りを今も待っているという……。