東方飛燕草~雑学と妄想多めの、幻想郷の住民だけのまったり日常もの~ 作:ナ月(なつき)
獣王園終了直後のこと
白玉楼の廊下を走り、緑色の服を着た半人半霊の魂魄妖夢が日当たりのいい場所を探して駆けまわる。
「幽々子様ー」
声もかけるが、応答はない。
先ほどまで一緒にお昼ご飯を食べていたのに、後片付けをしていたら、もうどこにもいない。
うーん、と髪をかきながら、妖夢は廊下、台所、食糧庫の扉をバンバン開ける。
「幽々子様―」
「幽々子様ー?」
「ゆーゆーこーさーまー」
そうしてようやく見つけたのが、西行妖の木陰。
しかも白玉楼から見て反対側に背を預けていたので、見つけるのに苦労した。
「さ、探しましたよ、幽々子様……」
「あらー。そんなに? 何か急ぎの用事?」
「地上の所有権をめぐる戦いが終わったので、その報告をですね」
「ああ、終わったの」
地上では、畜生界から来た勁牙組、鬼傑組、剛欲同盟の三大勢力が地上を平定しようと動いていた。
幻想郷は戦場になりそうな気配だったが、なぜか幽々子は妖夢を手配せず、静観を決め込んだのだ。
「ええと、結果が、ですね……」
「異変の原因である残無を、霊夢が懲らしめてめでたしめでたし、でしょう?」
まるで見てきたかのような物言いに、妖夢は目を丸くする。
「ご存じだったんですか?」
「分かっていたことよ。彼女はそういう人だから」
そう言って、幽々子は静かに白玉楼へ戻ろうと木陰を離れた。
その後ろ姿を、妖夢が慌てて追いかける。
「残無って、何者なんですか?」
「……地獄を支配している鬼よ」
「あ、じゃあ閻魔様のお友達的な感じですか?」
「そうね。信頼はしているみたいね」
「その人ひとりで事足りるなんて、ずいぶん腕が立つんですね」
「立つのは腕じゃなくて口なのよ」
剣を振るしか能のない妖夢は、口で剣を振るとはどういうことだと、驚愕に明け暮れる。
「……」
幽々子は重い耽る。
そもそも白玉楼は冥界への待機所のような場所だ。
映姫の計らいで特別に幽々子によって管理されているが、本来は地獄の一角にあるべき場所なのだ。
機能不全に陥っていた旧地獄と違い、今の新しい地獄には、実のところ白玉楼は必要ない。
それでも白玉楼が残り続けているのは、幽々子がこれまで培ってきたものと、そして、残無の声かけがあってこそなのだ。
幽々子は残無に頭が上がらない。
そのことに、幽々子はこう漏らす。
「……鬼畜生風情が」
「え、今なんて仰いました? 幽々子様」
「今日のおゆはんは何? って聞いたのよ」
「え、お昼ご飯食べたばっかりじゃないですか」
呆れた顔で幽々子を見る妖夢を見て、幽々子は、ふっと乾いた笑みを浮かべた。