東方飛燕草~雑学と妄想多めの、幻想郷の住民だけのまったり日常もの~ 作:ナ月(なつき)
カタカタカタカタ……。
畜生界、薄暗い作業室でキーボードを打ち鳴らし、CRTモニターの光とにらめっこをしている吉弔八千慧の姿があった。
「あー、クソ。なんでこのバグ取れないのよ」
「大丈夫ですかー、八千慧様。少しお休みになられては」
そんな八千慧を見かねて、孫美天は気を使って声をかける。
「今手を離すと、後でどこまでやったか確認をしなきゃいけないのよ。その手間が面倒だから、終わるまでやるわ」
「手伝います?」
「お前にはまだ、この外の世界の式神の扱いは難しい」
「じゃあ、コーヒーでも入れますね」
外の世界の式神とは、いわゆるコンピューター、パソコンである。
香霖堂にも同じものがあるらしく、どういうわけか幻想郷までメールが届く。
八千慧はこの式神を調伏……すなわちプログラミングして、意のままに扱おうとしているようだ。が、その扱いは、やはりまだ八雲藍などと比べると僅かに見劣りするらしい。藍は式神そのものであるから、同じく式神であるコンピューターとは相性がいいのだ。
「くそー。また藍の手を借りるか」
「あ、また来るんですね。あの尻尾もふもふの人」
「あまりやつの前で尻尾を褒めてやるな。調子に乗るから」
「ご機嫌取れるならいいじゃないですか」
「ふん」
「八千慧様の甲羅も艶が素敵ですよ」
「ついでのように褒められてもねぇ」
話しながらも八千慧はカタカタとキーボードを鳴らしている。
コポコポと魔法のポッドで熱せられた水を、薄紙の上に塗したコーヒー豆の粉を通し、コーヒーを摘出する。幻想郷では滅多に味わえない、高級な香りだ。
「うー、くせぇ。どうぞ、八千慧様」
「そんなゴミを渡すような手つきで進めないでよ。飲む気失せるじゃない」
「くさいし熱いし……何がいいのかわかんないです」
「カフェインが体にいいのよ」
「幽体のくせに……」
「あと糖分も欲しいわね」
コーヒーに砂糖を溶かす八千慧のことを、美天は訝し気に見つめる。
もとより精神で生きている妖怪たちにとって、実体か幽体かなどはあまり関係がないのかもしれない。
「あなたは元はただの猿なんだったかしら?」
「そうですよ。語尾にウキキーとかつけたほうがいいですか?」
「いや、いらないわよ。斉天大聖ってことで頼むわよ」
「はいはい」
八千慧はゆっくりとコーヒーを口に含みながら、ふぅと息を吐き出す。
何だかんだ、一息入れてしまったようだ。
「あなたを傘下に入れてから、ずいぶん経つわね」
「へぇ、その節はどうも、お世話になりまして」
「どうして幽霊を食べようと思ったの?」
美天はヤマンバの聖域の所有権を持っていた幽霊を食らい、一度鬼になっている。
「あれが旨いって知ってたんですよね。なんでだったかなぁ」
「食べたことがあったの?」
「そうですねぇ。そういえば、そうかもしれませんねぇ」
「ふぅん、なるほど、なるほど」
「お、さっすが八千慧様。今のだけで何かわかったんですか?」
「ああ。さては、残夢の魂を食わされたな」
素っ頓狂な八千慧の考察に、美天はカチリと角砂糖のように固まる。
「……はえ?」
「やりかねん。そも魂喰いをした程度で鬼になるのなら、地上は今頃鬼で溢れかえっているだろう。お前が残無の魂を一欠片でも食っていたというのなら、強力な力を持っても納得ができる。そもそも猿神という種族は、贄に魂が捧げられるものだからな」
「……えーっと?」
「残夢がお前に猿神の資質を与え、地獄に堕とし、それを私が救った、ということだ。クク、素敵な搦め手ね」
「そんな回りくどいこと、します?」
「すれば、私はあなたを勧誘し、地上に三つ巴が生まれる。そうでしょう?」
「うわー、腹黒ー」
そこまで思惑を張り巡らせられる残夢の知略に、そして、それを見抜ける八千慧の小悪さに、美天はブラックコーヒーを飲んだかのように苦い顔をする。
「えーっと、どうします、八千慧様」
「何が?」
「私の処遇ですよ。さすがに鬼の魂を食ったとなれば、傍に置いておくわけには……」
「お前はよくやっているわ。引き続き頼むわよ。斉天大聖ってことで」
「はぁ」
美天は色々と考えるところがあった。
自分と残夢の繋がり。出生、魂喰い、禁忌。
それら諸々をすべてひっくるめて、美天は結局、この思考に行き着く。
「ま、八千慧様がいいならいっか」
と。
*あとがき*
新キャラの、慧ノ子ちやり美天をわーっと書きたかったんですよね。
プラス、もしもこいつらが全員、残夢の何かしらを食ってたら……という妄想でした。
公式で語られていない以上、きっと可能性はゼロじゃない。イチでもないけど。
獣王園あそんだ人なら分かると思うんだけど、この三人の初登場時のセリフが、
慧ノ子「我こそは勁牙組の地上隊隊長 慧ノ子だ!」
美天「我が名は、孫美天!幻想郷の天は我にある!」
ちやり「私は天火人ちやり。お前は?」
っていう、この「ドン!ドン!だるーん」っていう温度感、好きなんすよね……