東方飛燕草~雑学と妄想多めの、幻想郷の住民だけのまったり日常もの~   作:ナ月(なつき)

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鈴奈庵虹色教室【マミ鈴】

「本屋のおねえちゃーん」

「おしえてー」

 わらわらと、鈴奈庵のかびた空気を押しのけて、子どもたちが数人入ってきた。

 鈴奈庵は今日も今日とて書物で溢れている。どこから仕入れているのか、異国の文字で書かれたものさえ積まれている。

 それらの本に囲まれた机の前には、店主と客が冷えたウーロン茶で喉を潤していた。

 ひとりは店主、本居小鈴。小柄な背丈に薄紅色の市松模様の服を着ている小柄な少女。

 もうひとりは二ッ岩マミゾウ。淡黄色のシャツを着た、スレンダーな少女。

「あ……」

 客人を前にして、子どもたちは遠慮して、一歩下がる。

 マミゾウは子どもたちに向かって笑顔を浮かべ、ひらひらと手を振った。

「構わん構わん。何を教えて欲しいんじゃ」

 我が物顔でそう催促するマミゾウに、小鈴が割って入る。

「ちょっとちょっと。私に用事があるんだから、私の役を取らないでよ」

「おっと。こりゃすまん。ついつい」

「それで、君たち。何が聞きたいの?」

「君たち……ぷふー」

「そこ、茶化さない」

 普段見れない他人の一面を微笑ましく思ったか、堪え性のないマミゾウが笑い声を吹き出す。小鈴は少し気恥ずかしそうにしながらも、寺子屋の子どもたちの質問を促した。

「おそらは、どうして青いのー?」

 無邪気なその質問を小鈴が受け入れるのは、ひよこの足取り並みの時間を有した。

「そ、空が青い理由?」

「けーね先生に聞いたのー。そしたら、レイリーサンランとか、ハチョーとか、よくわかんなくて、まだ私たちには早いって言うのー」

「う、うーん。そうねぇ。き、君たちにはまだ早いんジャナイカナー」

 小鈴は自信なさげにそうにそう目を逸らすが、子どもたちは引き下がらない。

「ヤダー、ヤダー!」「教えてー、小鈴お姉ちゃーん!」

 ゆさゆさ、とゆすれば落ちる木の実を求めるかのように、小鈴の服を引っ張る子どもたち。小鈴がもごもごと言い淀んで困っていると、マミゾウが、ぷか、と煙草の煙を吐き出しながらこう答える。

「青い光が一番粘り強いから、じゃよ」

「ま、マミゾウさん……っ?」

「おてんとさんから溢れる光は、七つの色になるのを知っておるか?」

 マミゾウの質問に、子どもたちは顔を合わせて答える。

「七つ……?」「虹色のこと?」

「そうじゃ。光は赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七種類ある。太陽からそれぞれ七つの光が届いておるはずなのじゃが、不思議なことに、空には青しか見えない。不思議じゃのう。不思議じゃのう」

「不思議ー!」「どうして、どうしてー!」

 顔を輝かせる子どもたちを見て、マミゾウはにんまりと調子に乗って、眼鏡を光らせる。

「それはの、青以外の六つの色は、途中でヘバっているだけなんじゃよ」

 マミゾウは簡単なもんじゃろうと言わんばかりに、手をひらひらと動かす。

 小鈴は目を丸くしてマミゾウを見た。小鈴は書物をよく読む。空が青い理由はよく理解している。つもりだった。

 しかし、マミゾウは理解した上で、それを噛み砕いて子どもたちに伝える話術があった。

 さすが、自力で博麗大結界を越えてきた大妖怪は伊達ではない。

「ほれ、小童ども。かけっこをすると、足の速い子がおるじゃろう」

「あ、いるよー!」「この子が一番速いのー!」

「そうじゃろう、そうじゃろう。また、短い距離を速く走れる子と、ずっと長い距離を走れる子もおるじゃろう」

「いるかなぁ?」「私すぐ疲れちゃう」

「ふぉっふぉっふぉ。左様。七つの色の中で、青い光が一番、粘り強く、長い距離を走れるんじゃ。だから空は青いんじゃよ」

 ほへー、と子どもたちは感心してマミゾウを見る。

 青は長く走るのが得意だから、空は青い。光にも人間性のようなものがあるのかと、子どもたちは思いを巡らせていた。

「ところで、青と真逆の性質を持つ色があるのじゃが、それが何かわかるかえ?」

「赤ー?」

「ふぉっふぉっ。そうじゃ、そうじゃ。赤は青と逆で、短い距離なら、他の色を押しのけて目立つ性格があっての。ほれ、一日の内に二回、空の色が赤くなる瞬間があるじゃろう」

「夕暮れー!」「帰る時間ー!」

 子どもたちが勢いよく答える。

 本当は日の出と日の入りだったが、マミゾウはニコニコと笑いながら話を合わせる。

「そうじゃ。地平線とおてんとさまがうんと近くなるから、その時間だけは赤く見えるんじゃよ」

「そっかー」

「どうじゃ、わかったかの?」

「わかったー!」「けーね先生に自慢してくるー!」

 お礼を言うだけ言うと、子どもたちは目を輝かせて軽やかな足取りで鈴奈庵を出て行った。

 その様子を、マミゾウは舞い落ちる木の葉のように手をひらひらとさせながら見送った。

「……お株を奪ってしまったかの?」

 呆気に取られていた小鈴に、マミゾウが歯を見せながら笑う。

「いやいや、わ、私だって敗けませんから」

 売られた喧嘩は買うわよ、という意気込みで、小鈴は我が物顔で椅子に座り、煙草をふかしている性質の悪い客を見下ろしていた。

 




「お空はどうして青いの?」って書いたら、おくうって読む人絶対いるよなと思って「おそら」にしました。私えらい。
ちなみに私はマミゾウ推しです。
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