肘を肘置きに乗せたまま上の瞼をわずかに落とした状態で正面へと視線を向けるのみにしている私の視界に映っている物は、依然としてガラスを正方形に切り分けている金色の窓枠。それらのさらに向こう側の観客が観覧席に座ったまま身を乗り出している他、拳を突き上げる動きや拍手をしているもの。その他にも女や巨漢が立てている金属同士がぶつかり合うような音やいまだに繰り返し出している掛け声が何度も部屋の中で反響しているかのようであった。
しかし、その一方で私は背もたれへと依然として体重を預けながらも尻をそこからは多少スペースを空けるかのように遠ざけたままいる。強いて動いている箇所があるとすれば、呼吸くらいのもの。腹へと乗せている力なく組んだ両方の手でそれを感じ取っていた。
それ以外でこの部屋内で動いているのは、溶け始めたことで位置を変えていたボトルの中の氷が高い音を立てる物のみ。その間ですらも、私は何もせずにステージから入っている光が直接は届かないこの場所でただ座っている。
そうでなくなったのは、先ほど女が付けていたドリルの先端部分が私のいるこの部屋にまで飛び、窓枠に激突することで窓部分が大きく上へと飛び上がったところ。最初は一度だけ瞼をわずかに持ち上げるだけにしていたが、それもすぐに戻す。しかし、その一瞬に窓ガラスに反射することで見えていた、この部屋の赤いカーペットが暗闇の色に染まりつつある様子。
わずかに唇をつぶしつつ、それと時を同じくして歯を強く食いしばっていた。さらに、同じく顎を体側へと近づけることで、自身の顔も同じく角度を遠くの壁と平行にしていたものから床へと近づける。
その間も、女の声がスピーカーから聞こえ続け、長文を読み上げながら語尾を伸ばししていているだけでなく、それを何度も抑揚を変え続けているかのようであった。
両方の手を先導させるかのように最初に動かし、次の瞬間には一度跳ね上がったもののすでに元の位置に戻っている窓ガラスをけ破っていた。その一瞬だけは足を大きく折り曲げるような態勢でいたが、すぐにまっすぐに立ち上がるようなものへと戻す。続けて髪の毛を大きく左右へと広げながらはためかせつつ、両方の腕を折り曲げながらも左右へと伸ばしつつステージへと向けて降りていく。
床へと着した瞬間のみ、その衝撃を両方の足と剣を持った側も含めた手で受け止めつつ両膝立ちの状態でそこへと突いたままとする。そこで瞼の周囲に強いしわを作り、数回呼吸を繰り返したのちに目を開けつつ立ち上がる。振り返るような態勢で女も巨漢もこちらを見ているものに対して、私はわずかに顎を引きながら見つめる。周囲の者たちも沈黙を貫いている結果、周囲で聞こえる音は電子音楽が静かな空間の中に産み落とされているかのようなものだけであった。
「乱入ってわけ? 面白くなってきた」
巨漢よりも先に私へと挑む女。最初はそこまで大きな声を出していなかったものの、途中で先ほどと一切遜色ない大袈裟な抑揚をつけた声を出している。その上、両方の手を腰に当てながら体を前のめりにしている。
それから先は2人の様子を見ていた者たちの方へと顔を向けながら数回その場で飛び跳ねながら自身の腕のうちの片方をまっすぐに上へと伸ばす。その上に細い人差し指を立てていた。
「皆の者! この男はあのㇻゼンの元同僚なのだ! その腕、お手並み拝見と行かせてもらおう!」
一方で、遅れて動き出した巨漢は私の方へと片方の腕を伸ばしながら近づき、それに加えてもう片方の腕は天井へと伸ばし手を開いていた。また、その大胡が私の方へと近づいてきていた。それから視線を大勢の方へとむけながら一周。それに対して、向こう側にいる人間たちはみな大きな声をまた上げなおしている。拍手も大勢のものが常に行っているのを一切隠していない。
一方で、私はただまっすぐに立ち、2人の好き放題やっている様子を眺めるだけにしていた。
「ラゼンの友達だからって手加減しないから!」
相手が足を一歩前に出すため持ち上げた土の音を察知するとともに、腕を前に出す動きが終わるよりも先にそこへと向けて剣を振い、血が私のもとへと飛び散るよりも前に背後へと回り込む。片腕を失った驚きと痛みで出来た隙を突き、続けて背中の機械ごと相手を地面へと蹴飛ばした。音だけで相手が地面へと滑り落ちている様子を確認。
女だけでなく、周囲の声が一斉に大きく出たことで巨漢も隙を作ってたため、その足元を払ってから背中へと乗り、機械同士のわずかなつなぎ目へと剣を突き立てる。骨へと当たった感覚を感じてから一気に引き抜き、付随した肉と血が一気に噴き出すのを払う。
それから視線を横へとむけつつのたうち回りながら血を流している女を介抱している獣人と目が会う。その瞬間、何度も声を出していた相手は口を中途半端に開けたままわずかにその範囲を変えるだけにしていた。一方で私は相手の様子をただ見下ろすのみ。
しかし、それもわずかな間だけとし、巨漢の血の中から影を通るかのように気配を消そうとしているスライム状の生物が私にとびかかってきていた所でそれを両側から手で抑え込みつつ、背中をわずかに丸めるが、その次の瞬間にはそれを床へと叩きつけてから足を強く叩き落とす。
それで相手が爆発四散しながらも飛び散った数々の破片たちがそれらの中身となっていた物へと集まりつつある。
それらをしばらく眺めていた後に、もう一度獣人の方を見ると他のスタッフと共に女を運んでいるようだが、私の視線に気づいた先に単身こちらへとわずかに近づきようやく戦いを始める気になっていた。
他の者らに女を運ぶよう指示している声が終わったのちは肩の動きによって一切隠せていない呼吸を繰り返す他ないようである。足元を飛んでいたスライムの破片を踏みつぶしながら相手を見下ろす。
しばらくお互いに何もせずにいるようだが、先に相手の方から尻もちをつく。そのまま四肢を床へと突いたまま後ろに下がっていくのを見るや否や、巨漢の体から飛び降りその後を追っていく。私がまっすぐに歩いていることもあり、いとも簡単に互いの距離が近づくも、そのたびに獣人は目の大きさを変え続けていた。
そして、近づく所で自身の剣を上から一気に突き降ろし、腹からだけでなく、口からも血を吐き出している様子を見下ろす。喉を鳴らすような音を出しながら何度も激しく呼吸を繰り返している姿を一瞥した後にもう一度周囲を見渡す。首と目線のみで今も修復を繰り返しながら跳ねて私の元から去って行くスライムの様子と何度も体を上下に動かしながらいる巨漢の様子を眺めていた。
しかし、一度瞬きすることで、このコロシアムの出入り口のうちの片方に両腕を太く見せる影が走る姿が見え、一度だけ鼻から息を出す。獣人を蹴るかのようにすることで私から遠ざけ、それからわずかに息を鼻から吐きながら両方の口の両端を持ち上げる。
瞬きするにも相手が両方のトンファーに取り付けられている装置から漏れている光が薄暗い中でも確かに見えている上に、激しい足音が私の耳にも確かに入る。それだけで頬を膨らませたことで目の中がもう一度広げられるようであった。
剣を上から下へと払うことで、そこに付いていた血を振り払う。それからは、このコロシアムへとようやく表れたラゼンの様子へと意識を向けるだけにしていた。こちらへと向けて容赦なく進むラゼンの様子を見て、私は大きな弧を描くような軌道で道を進み、相手の側面から一撃を仕掛けようとする。
しかし、さすがのラゼンも私の早さに付いてきているようで、寸での所ではあるが、確かに攻撃をトンファ―で受け止めている。わずかにまた頬が膨らむ感覚と共に顔に入っていた力が抜けそうになるも、すぐにそれを正す。
やはりラゼンはその隙を一切許さなかったようで、その瞬間に一気にこっちの得物を地面へと叩き落とす。その瞬間、両方の手を構えながらも一度後ろへと下がった。それから、私はいつでも格闘が出来るよう姿勢を崩さず腰を落としていたが、相手は武器を降ろしたまま両腕も力なく下げるのみ。その様子を見るも、私は声にならない声をわずかに出しながら目の開けている範囲を広げる。
しかし、それでもラゼンは今も息を繰り返す声しか出していないよう。その様子を何秒か見続けた後に、私はもう一度相手の名前を呼ぶ。
しかし、それもラゼンが出した声にかき消されてしまうようであった。
「もうやめろ!」
その声が終わったと共にわずかに背中を伸ばしながら両目を見開く。今この場に残っていた者全てが、私の様子を見ていた。