ここまでありがとうございました。
近日中にコミケで頒布するハナヤマタの新刊のサンプルをアップし始める予定です。
そちらもよろしくお願いします。
『君の人生になりたい僕の、人生を書きたい』
わずかに呼吸があふれるのを口から感じ取る。道路の上を進み終えた私の視界に入っていたのは、視界の中では捉えきれないほどに広大に広がった海とそれとつながっているかのような砂浜であった。その後者ですらも左右へ伸びているがゆえに、どこまで続くのかわからないほど。
それを見ている私の体はしばらく動けないでいて、海風によって服と髪の毛だけがわずかに揺れる。それとはまったく異なる動きで2本の指をひっかけているだけのボトルの中へと入っている花緑青が揺れていた。
『この物語を、最後まで見届けてほしい』
砂浜と今いるコンクリートとの間には段差がある結果として、その砂が私の方にまで届くことはない。その場に立っている私の視界の中で動いている物は何もない。この場所に来るまで幾度も車や人とすれ違ったが、季節外れの冷たい風が吹いているこの場所では、誰もいないようである。その結果として、砂の上にすらも何も跡も残っていないように見える。
私の確認出来る範囲で今も動いている物の、身に着ける者の他では海の波の動きのみ。目の前にある桟橋ですらぶつかり続ける波がわずかな水滴を溢れさせているもの以外なにも変化があるようには見えない。
一度顎を自分の体へと近づけることで、自身の顔を伏せる。一度鼻から強く息を吸い込み、周囲の冷たい空気を今一度体の中へと入れ込む。今一度自身の手に握られているボトルを力強く握った。一度閉じていた視界を開き直し辺りを一瞥。それでも周囲の誰もいない様子は変わらない。
『君なんだ』
最初の砂浜へと触れるのにあたって靴を脱ぎ、それの結果片方の物が横へと倒れるも、それに対し何をするでもなく、足を差し込んだ。その途端に太陽の温かさを吸った物が私の長く歩いてきて冷えた体に伝わる。その結果としてしばらくの間それだけでも顔を上に向けながら息を繰り返すことになる。
一度唇を強く紡ぎながらゆっくりと歩き出す。顎を引くことでおでこを前へと出すような体勢で歩いている間、そこへと足跡が出来上がるだけでなく、私の足へとほんのわずかだが砂が乗っていたが、すぐに零れ落ちることでまたそれは元の場所へと戻る。そして、私の足取りが非常に小さいがために、結果として、一度出来た跡もある程度は元へと戻ることに。しかし、その音が聞こえることはない。聞こえる物は海から聞こえている波がまえ前うしろに動き続け砂を擦っている場所だけであった。
気づけば、それとはまた異なる繰り返しで呼吸を動かし、胸のふくらみの前後運動はもちろんのこと、唇を擦れる感覚も確かに味わうことに。眉を落としながら、何度も何度も止まりかける足取りを無理やり動かし、そのたびに足が持ち上げる砂の量も増えているかのようではあるが、それも全ては次の足を踏みしめるまでの間にはすべてなくなっていた。
砂を踏みしめていくたびに、まれにそこへと落とされていた色褪せた何かの容器と思われるごみやとがった部分が一切削れていないガラスや流木の破片が残っているのを視界や肌で感じ取る。しかし、それらも先端を私の体へと当てることがあっても、怪我をすることはない。
幾度も足を止めるたびに同じ感覚を味わいながら目を強く瞑る。しかし、思った以上にかかった時間は短いまま、私の足が木製の桟橋が軋む音とそれの冷たい感覚を味わうことになった。
『君だけが僕の思い出なんだ』
その音は私が足をつま先から順に落としていくような動きで進めていくたびに何度も繰り返し聞こえている。しかし、それを何度も聞くたびに、呼吸が苦しくなり、体を崩しそうになるものの膝を折り曲げ重心を下へと移動しつつ、背中も曲げることでそれを抑え込む。
口に両方の手を持っていくことで息を無理やり抑え込もうとするが、それによって原稿にも生暖かい感覚が残るとともに、花緑青を入れたボトルもその表面を曇らせていた。それによって、引き伸ばされるような形で写る自分の姿が一部隠れ、顔の輪郭はわかるものの、その中にあるはずの顔の部分は見えない。
そこから顔を上げると、目の前にはもう砂浜はもうなく、先端まで木の板がもう数えられるほどしか残ってない、桟橋の途切れる姿。そして、そこからはすべて同じ色の太陽の光に染まりあがった海だけがただ広がっている様子しかない。
『この物語が僕の一生だ』
一度桟橋の先端に座り込む。一度原稿越しにボトルを手に取り、膝の上に手とともにそれを置く。一度深呼吸をした後に大きく猫背気味になりながら両手で持っていた原稿へと目を垂らした。波と共に吹く海風で手に持っている箇所以外の場所が何度も大きく揺れ、そのたびに大きな音を立てているうえに、文字がいる箇所も何度も変化するよう。
前髪が大きく垂れているせいで視界を保つのに苦労するが、それでも自分で書いた文字を一文字ずつ読んでいく。気づけばそれがほんのわずかに声となって溢れてしまっているが、冷たい海風だけが体を撫でていることもあり、だんだんとそれの1つ1つが嗚咽へと変わっていく。
そのたびにより体を大きく自分の側へと丸めるように動かし、原稿から視線を逸らす。続けておでこにそれを当てることで、ここまで歩いてくる間に出来上がったしわの硬さを自分でも味わうことになった。
それが終わった後に自身の顔の前に花緑青のボトルだけを向けた。
『人生の価値は、終わり方だろうから』
何度も激しく、そして細かく口から息を繰り返しだす。それを強く嚙み締めるように歯を食いしばり、自分の額にボトルを強く当てる。それでも歯の隙間からあふれている息が止まる事は無く、気づけばその表面が曇っていた。脇を限界まで締めながら肘も体に当てている上に、目元にも最大までしわを作るかのようにしている。
しかし、それでも私の両方の目の先端から溢れ筋となって出てくるものが止まる事はない。気づけば一度内股気味になった膝から滑り落ちるような形で桟橋の上へと自身の尻と足を落とす。それから、髪の毛も同じようになっていたが、そこだけは海風でわずかに揺れているかのよう。それを感じながら、猫背の姿勢のまま何度も嗚咽を吐き出す。それでも、自身の胸元に原稿とボトルを持っているのは変えない。
嗚咽が絶え間ない呼吸にようやく変わるころ、顔に籠っている力もだいぶ薄れているのを自分でも感じる。両方の股を内股で桟橋の上に乗せたままいる私に対して、辺りで聞こえている音は波がただただずっと同じ音だけを立て続けている物。それは一切乱れることなくずっと変わらない。
水面へと視線を向けると、私の体ほぼ全体がそこに写り込んでいる。波でそこが上下に揺れ続けていても変わらない。目や鼻の形まで確かに確認することが出来る。それは、何度瞬きしても同様。しばらく、目を開けたままわずかに口を開けた状態そこを眺めていた。
気づけば花緑青を手にしたそこにも少しずつ力が抜けていることに気づき、こぼれそうになっていたのを支える。もう一度鼻をすするように息に入れる。頬をわずかに持ち上げているが、それでもそこを涙が一筋ずつ溢れていくことは変わらない。
だんだんと胸が呼吸と共に動いていた速さは自然と遅くなっていく。脇を力も入れずに締めつつも顎を持ち上げ海へと首を露わにして行く。続けて両腕を少しずつ広げ両方を斜め下へと向ける。わずかに開いた目から見えているのは、薄い雲が散見していながらも真っ赤な夕陽。その光に照らされている場所はどこにも影になっている場所はない。見えずとも、桟橋の下ですらも照らされているのを感じる。その間も太陽は、私はもちろんのこと他の場所も同じ色に、全てを赤い色で染めている。
しかし、それでも唇と歯に力を入れ直す。その間も自身の服と髪の毛で吹く風を感じる。それから自身の胸元へと両手を引き寄せた。
思った以上に手は軽かった。
わずかにペンを動かす手が止まった。一度視線を左へと寄せた。それでも背筋を伸ばした姿勢は変えようとはしなかった。
『目を覚まして。見て 寝ぼけ眼の君を何度だって描いているから』
読了ありがとうございました。