月光   作:コンテナ店子@コミケ出ます

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第2話「4/10」

 寝ている状態から意識を取り戻した後も、すぐに体を起こすことが出来ず、頭が訴えかけてくる痛みに目を強く瞑る。それを何とか耐え抜いた数秒後に、両方の腕を途中で大きく折り曲げながら、布団の上で広げていた体勢から体を起こし、わずかな言葉にならない声を出す。続けて自然と未だ布団の中となっていた足をわずかに折り曲げることで持ち上げていた。しかし、その結果としてその場所の痛みを強く感じ、激しく目をつむる。何度か数回激しい呼吸を繰り返すことに。

 

 髪の毛を追従させるかのような形で顔を下に向けている私に対して、私の部屋の中では何も音が聞こえない。しかし、外では人が廊下の上を歩いている足音や、彼らが挨拶をしている声が聞こえている。ただ、距離相応の小ささであるがために、その具体的な内容まで聞き取ることが出来ない上に、規則で大きな声を出すことが義務付けられている挨拶とは異なる声も同様である。

 

 もう一度足の痛みに耐えた後に数回瞬きしている間、開いている時も私の瞼はだいぶその範囲が薄くなっている状態となっていた。髪の毛が大きく垂れていることもあり、前はともかく横部分についてはかなり視界が遮られている状態が続く。

 

 しかし、それ同士の隙間から見えているこの部屋にある物は、布団を仕舞う押し入れや姿見、外との世界をいくつもの十字の格子で仕切っている障子程度しかない。その他には、私の元には届いていない太陽の光で畳の上を照らしている窓程度。しばらく私はただ顔を同じ向きにしたままずっと髪の毛の中でも太陽の光に近い側の色が薄くなっている様子ではなく、自身の影で暗くなっている体を見つめ続けていた。

 

 布団の横へと畳んでおいていた制服へと着替え終えると、自身の様子をじっと見つめ続ける。一度唇を強く引き締めるかのように動かしてから剣を取って体を後ろへと翻して外へと出ると、そこから聞こえていた雑談の声が一瞬で消えていた。

 

 障子を閉めている私に対して彼ら体は前に向けたまま小さな足取りで後ろへと数歩下がり、頭を下げて挨拶していた。しかし、それに対してこっちは顔を横へとゆっくりと動かしながら見つめているだけにし、数秒後に返事をする。それと共に頭を首だけを使って下げる。

 

 その後相手が背中を向けたからなのか、彼らは両者ともに大きな息を口から出しているようでその音が私の方にも聞こえていた。

 

 それ以降は私の足音よりも多少大きい声で彼らが話している音が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 私が食堂に入るや否や、すでに誕生日席に付いている師範も含め周囲で話している人はみなそれを辞め、全員が私の方へと向けて一斉に立ち上がり頭を下げてくる。それに対し、私は足を止めているのは数秒間だけとし、ただ一度だけ両方の手を腰の少し下の辺りで重ねた状態で頭を下げる。

 

 それから自分の所だけ開いていたご膳の前へと座ると、箸を持った状態で両手を合わせてから食事を始める。しかし、正座をした途端に足がまた寝起きの時と同様の痛みをあげ、折り曲げている状態で顔を強く引き締め、続けてそこへと手を当てる。結果として出た喉の音でさえ、私の耳は捉えていた。

 

 こちらが座布団の上へと座ると共に他の門下生や師範も食事を再開したようで、周囲に箸や食器がぶつかる高い音が何度も聞こえている。それ以外では、外で木が揺れている物や鳥が羽ばたいている物くらいの物。それに対し私は今食している食事の様子だけを見ていた。

 

「おっす」

 

 その言葉を一瞬だけ言ったラゼンはこちらの方へと向けて軽く手を出していたが、私も一瞬だけ相手の方へと目を向ける。その間も食べ物をすでに口の中へと含んだ後であったためにそこを動かしたままであったが、飲み込んだ矢先に首を相手に向けると一緒に「おはよう」と一度だけ返事をする。

 

 しばらくはそれから胡坐をかきながら両方の手を足同士の重なる場所へと置いている相手の様子を見たままにしていた。自然と頬が持ち上がっていたのに気づくと、相手を見ていながらも、口に何も入っていないにもかかわらずその形を整えるため、何度も頬を動かし続けた。

 

「俺の技もちっとは効いてるみたいだな」

 

 気づけば私の太もも辺りの狭い範囲を撫でるように手を左右に動かしていた。その瞬間、今まで何度も動かしていたその場所が一気にへこみながら背中も同じようになり、相手を見る角度が上から見下ろすような物になっていた。

 

「……そうだな」

 

 その声を小さく出していることになったが、それまでに少しとは言えないほどの時間を要していた。それからはいつもより早いのが自分でも食べ終わった後に気づくほどにペースを上げて食事を進めることに。

 

 さらに、食べ終わった際には横にいたラゼンが体をこっちへと近づけて肘で体を突くようにしていたが、それに対しても私は出来る限り脇を閉めたまま両方の手を膝の上に乗せて顔を下に向けていた。

 

 

 

 

 

 わずかな足音を立てながら道場の中へと入ると共に一礼。その瞬間は顔を下に向けているにも関わらず、それでも皆が私の様子へと顔を向けていることに気配で気づく。しかし、その中でも、今も縁側で両手を床に突き、態勢を後ろへと下げているラゼンは違っているようで、私が顔をあげたころに首を曲げてこちらの様子を見ているようであった。

 

 ただ、最初は顔を進行方向と同じ方に向けることで私は視線を逸らし、その間に口を紡ぐような形にしているのと共に頭を下へと向ける。その間、周囲の門下生たちが座禅を組んで瞑想をしている様子や素振りをしている様子の横を通り抜けていた。それに対してもこちらは、ただ何もせずにまっすぐ決めた道を進むだけになる。

 

「今日は、俺と一緒に組手してくれないか」

 

 私は足を半歩だけ前に出した状態のまま歩みを止める。しばらくただ床とラゼンの体が見えている視界をそのまま保つだけにしていた。ただ、瞼が小さく揺れるのを無理やり抑え込むかのように一度瞬きをするが、それは閉じてから開けるまでの間、大きな時間がかかっていた。そこからゆっくりと足を動かしていくことで少しずつ見えている範囲が広がっていくと、門下生が1人、ラゼンの少し後ろの所で壁に寄り掛かりながら丸腰で座っているようであった。

 

「なんなら、俺だってここにいる全員が相手でもいいぜ」

 

 大きな声を出しながら立ち上がるラゼンの様子に対して私は踏み石の上に置かれていた靴を履くと共に体をしゃがませ、それだけでなく、指を使ってかかとを整える。それからも尻を縁側へと置くこともなく、周囲の多くの門下生が持ち上げるような声を出しながらいる様子を背中で味合わされている。

 

「ずいぶん大きく出たなラゼン」

 

「俺はいずれ最強になる男だからな。今からこれくらい出来ねぇと」

 

 どちらも笑い交じりに出している声。それに対して私からはただ靴が砂利を踏みしめている音しか聞こえず、両方の手を体と平行にさせるかのような形でまっすぐに下ろしたまま小さな歩幅でただただまっすぐ前に進む。その間、遠くでは今も彼らの大きな笑い声が聞こえている。

 

 砂利の形がおかしくなっている場所で足のバランスを崩してしまうことで膝が前へと出るような動きをしてしまうが、それと共に私は体勢を崩し、体を前のめりに。それと共に足がまた痛みを私の方へと訴えかけるかのようにしていた。

 

 しかし、それでも歩みを進めるのをやめようとはしない。その結果として、私はいつの間にかまた池のすぐそばまで来ていた。淵を覆う岩の中でも私がいる場所は一番小さなものであったがために、その場所のすれすれの所まで来ていた物の、私がまっすぐに立っていることでその体が映っている面積は水面の中でもだいぶわずかなものになっていた。

 

 

 

 

 

 ずっと寝たふりをしていた。目をつぶっていた所から体の中でも上半身だけを起こし、今夜は月もないがために周囲が暗闇に支配されている状態で、私はただ眉の内側同士をわずかに下ろしたまま両方の手を布団越しにわずかに肘を折り曲げていている。ただ、今も何も見えていない物の、それでも背中をまっすぐにして暗闇の中をまっすぐに見つめ続けていた。

 

 立ち上がると、枕元に置いていたろうそくに火をつける。その瞬間、炎が燃える低い音を一瞬のみ聞く。すぐに立ち上がると周囲を一瞥した後に足を進め始めるが、裸足のせいもあり畳の上を歩く時も、廊下を歩く時も足音は全く聞こえていない。

 

 一方で、部屋にある姿見に自身の様子が一瞬のみ映る際には、私の顔や寝間着の中でも影となっている黒い箇所がより強調させるような見た目が見えている物の、それに対して何もせずにまっすぐに足を進めるだけにしていた。

 

 目的の場所へたどり着くまで物の数分もしない。足を止めると一緒に開いている側の手で障子を開ける。それの横側と枠がぶつかり合う音がする。それは、他に音がしないこの場所では周囲に反響しているかと勘違いするほどであった。

 

 一方で、その先で布団の中で寝ているまま私の方へと背中を向けている師範。相手の様子を見ることが出来るのは、私の持つろうそくの光が届いているのかいないのかわからない状態ではあるが、光の揺れによってわずかに照らされているかのような瞬間があったからに他ならない。その様子が黒の混じった赤色に染まるかのようであった。

 

 しばらく相手が動かないままいることもあり、私の方からその数畳ほどの部屋の真ん中へと広げられた布団の中へといる場所へと近づく。その瞬間、足を強く踏んだこともあり、廊下の床が一度だけ高い軋む音を立てていた。

 

「裏螺旋流を私に教えろ」

 

 私の未だ障子を開けたままにしているものの、この場所を照らすのは私の持つろうそくのみ。そのせいもあり、師範が朝に顔を洗うために用意している洗面器の水にもその光当たっている。その結果として私の姿はそこに写っていないようであった。

 

 あくまでそれは視界に入っているのみで、中心は師範の様子をまっすぐに見つめているだけにしている。しばらくの間私も相手も動かなかったことで、どこからも音がしない状態が続いていたが、相手の方から一度息を吐きながら体を起こした。しかし、それから先も体を猫背にしているのみでそれ以外には何もしないでいる。

 

 また時間を開けた後に私の方を目だけで見てくる。しかし、私も依然として顔はまっすぐ前に向けたまま視線だけを相手へと落とし続けていた。お互いの間を、自身に近い炎だけが照らしていたが、師範の体の中でも奥側にはその灯りが全く届いていないようで、こちらから見ると暗闇の中に混じり合っているようであった。

 

「あの技は伝承することは出来ない」

 

 その声は私にだけ聞こえるほんのわずかな物であったが、抑揚の一切ない本当に棒読みと言えるような声であった。しかし、それに対してこちらはすぐに師範の上をまたぐような勢いで駆け出し、奥に飾られていた刀を手に取ると、柱を足だけで駆け上がり空中で宙返りをする。そこから相手の上にのしかかりながら首に剣先を突き付けた。

 

 髪の毛が大きく乱れている上に、空中にいる間に鞘で炎を消したため、視界がだいぶ暗くなっていたが、それでも相手の高い呼吸と咳を吐き出している音はこちらの耳と目にも捉えられていた。

 

「いずれその意味を知ることになる」

 

 師範が今も掛け軸へと視線を向けているのに気づく後にそれをめくる。すぐにその壁に出来た空洞の底に人がようやく1人は入れるほどの暗闇があるのが見えていた。

 

 

 

 

 

 数年後、大陸全土を焼く戦争が起こった。私とラゼンはもちろんのこと、多くの門下生も巻き込まれることとなった。

 




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