でこぼことしているけもの道を進んでいる間、足を深く踏み込むような動きをしながら何度も口から息を吸うことと吐くことを繰り返す。周囲では鳥や動物が木々や茂みの中を右往左往しているようで、それによって草木が擦れ合っている音がする。それの方へと視線を向けると、この場所は木々同士の間に隙間が多いがためにほとんど暗くなっている箇所がなく、木漏れ日が多く見えている。
そして、太陽から降り注ぐ温かい光を味わう。気づけば目を閉じたまま一度その場で深呼吸をしていた。それに伴い、進行方向へと向けて首を見せつけるような形で顎を持ち上げる。しかし、それで私の耳元へと聞こえている音が変わるわけでもない。その結果としてただ周囲の静かさを聞き続けることになる。
わずかな隙間から私の背中側の遠くにある基地の方から大きな掛け声のような物が聞こえ、それと共に目を開ける。それからはその場所の目尻を垂らしているだけにし、それ以外の場所はどこも動かさない。その一方で、周囲の音の様子も私と同じで何か変えることもない。
しばらくそのままいようとしたのだが、突如として吹いた冷たい風の勢いにより、体を大きく前のめりにしながらそれの中でも上半身を抱くかのような動きをする。自身の肘を身体へ、膝同士を突き合わせていた。風が止むまでの数秒間は同じ体勢でいたが、止んだ時に鼻からゆっくりと息を吐き、体をまっすぐにしたのちにその道のりを進み始めた。
その間、私は頭だけをわずかに前のめりにしていたが、それ以外の場所は何も変えないままとする。私が土を踏んでいる間、それに伴って先日降った雨の影響か、未だ湿っていた土の中から水が溢れているのを感じ取る。そして、それは私の靴の先端も濡らしていた。結果として、土が粘り気を持って動いている音も周囲の動物や木々の音の中に混じる。
先ほどと同じように無意識ではあるが自分の足が起きやすい場所を探して進んで行くため、その進み方は蛇のようにすらもならない規則性のない物。石がある場所を避けている結果として、私の足が立てている音が止まることは一切なかった。
いつからか聞こえていた滝が水を落とし続ける音に誘われるように足を動かし続けると、足元が川辺の砂利で支配された場所へと出てくる。未だ汚れが少なく水面が水底まで見えそうなほどに綺麗な青色をしている様子を、それとは離れた林との接点から眺めていた。その場所には気が全く生えていない上に、ほぼほぼ上部から太陽の光が入り込んでいることもあり、その中で影になっている場所は存在しない。そう見えていたが、私が入り込むことでその体による暗がりが出来上がっていた。
一方で、そうしている間にもずっと滝が落っこち続ける音は私が周囲を眺めている間にもずっと等間隔で落ち続けている上に、同じ音だけを立て続けている。そうでなくなったのは、私が砂利を踏みしめながらそっちへと近づき始めたことで、その音が隠れ始めた時のみ。歩みを途中で止めつつ光が入っている箇所が少なく、影に染まっている範囲が少ない森の様子を見ている時や、自身の足元の白や薄めの灰色の石たちを踏みしめているだけにしている間ですら、地面の上に無造作に転がっているそれらがわずかに形や並びを変える音を聞く。
最初はそうしていたつもりだったのだが、顔事向きを変えるような動作で視線を切り立つ崖の方へと向けていた。そちらは薄い色でありながらも確かに足元の砂利とは全く異なる茶色をしているようで、その一部分を植物が薄い葉を並べることで隠しているかのようであった。
一度視線を下へと向けるようにしてから先ほどよりも速度を上げた早歩きで進んでいく。その間常に両方の腕を伸ばしたまま前後に振っていた上に、背中をわずかに猫背にするかのようにして、滝のすぐそばにある大きな岩の上へと移動した。そこで、目を閉じ、首を正面へと見せつけるような角度で顔を空へと向ける。
それに対し周囲では依然としてまれに木々の葉が擦れあうような音がしているものがしているものの、そのほとんどは目の前の滝の物に消えていた。しばらく、自身の瞼の裏側の真っ黒な様子だけを見つめていたが、そのまま自身の体の前にあるボタンを1つずつ外していくことで制服を脱ぎ、それを石の上へと捨てる。続けて、シャツも首を通すことで同様にする。それだけでなく、ズボンもベルトを外すことで重力に従わせることで下の方へと落としていた。下着だけは自身の手で滑り落とした。
その後、両方の手を左右へと広げたまま滝つぼの中へと飛び降りた時には、これもまた私の体で何かをすることもなかったので、頭の方に近い位置から着水。その浮力にだけ従わせることで顔から順に水面へと顔を出した。
膝や胸などの盛り上がった個所だけが水面からはみ出た状態で、髪の毛を大きく左右に広げたままずっと体をわずかに上下にさせつつ浮かび続けていた。その間は顔も含めて体のどこにも力を入れないまま、視界をわずかに開いた瞼の中からわずかに見つめるかのようにしていた。
「朝から生が出るな」
わずかに開けた口から息を吸いながら背中を伸ばす。瞼を開けたのはその動作が終わった後であった。目を見開いたまま相手の方からわずかな掛け声のような物の後に岩の上から降りて私の方へと近づいてくるが、その途端に私はもう一度顔を下へと向けて背中を丸める態勢に戻る。指の甲側を重ね合わせている姿勢に戻った。
「邪魔をするな」
ただそれだけを言いながらも、相手が軽く笑いながらわずかな返事をしている声だけを聴く私。それから向こうが周辺をぶらついている気配と足音を感じるせいで脇を引き締める。さらに指同士を押し付けている力もより強くするかのようにしていた。
その間も私のすぐそばには滝が落ちる音は確かにしているが、それよりもラゼンが石を転がすように歩いている音の方が全然大きい。しばらく木々が風で揺れる音などの自然の音だけを聞いていたのだが、途中から向こうの方からいきなり私の方へと声かけて来た。
「久しぶりに手合わせしないか」
そう言いながら私と同じ軍服姿のまま両腕を回している他、準備運動をしている様子が私の目に入っていた。それに対して、しばらくの間見ているだけにしていたが、それが終わった後には顎をわずかに自分の方へと寄せながら言葉に一切ならない声を出す。
それに対し、ラゼンはわずかに笑う声を出しながら、自身の手首の辺りに付けられているリストバンドの装置のボタンを押す。それと一緒にそこから何度も機械が擦れ合う音と蒸気が発せられていた。それには私もわずかに息を出しながら瞼を持ち上げてそっちの方を見る。次々と現れた装置が大きく展開されて行き、気づけば持ち主の腕全てを覆ってしまうほどであった。
完成すると一緒にその両方の先端を重ね合わせるかのようにしていて、それで大きな音が私の方へも聞こえる。それからも何度も自身の腕の角度を変えることでそれを私の方へと見つけつけていた。
「どうだよ」
一方で、私は一度だけ瞬きをしてから視線を横へと逸らす。一度口を開けてその場所を結びなおすかのようにしている結果として唇が一度だけ膨らむかのような反応を感じ取るが、それ以外にはそれでわずかな音が口から洩れるだけであった。それからしばらく斜め下の滝つぼの様子を見つめる。そこには水が滝となって落っこち続けていることでたくさんの泡が溢れている様子が私にも確かに見えているが、その奥側に確かに私の様子が反射して見えている。
一方で、視線はそっちへと向け続けているがために、自身の顔の様子を見ることはできない。一方で、ラゼンは私の正面側、滝つぼや川とは離れた場所にいるがために、その様子を水面に反射して映すことはない。その後ろには林があるが、そこは木々同士の間にだいぶ隙間があるようで、結果としてその中で暗くなっている場所はほぼない。
「ラゼン」
一度だけわずかな声を相手の方へと投げかけるが、それはほんの一瞬の出来事。全く抑揚も付けずに、ただ相手を呼ぶだけの声。それと共に一度目を閉じてから顔の向きを変える私に対して、相手はあまりに抜けた返事をしているだけ。その時は私の方に背中を向けるような姿勢をしていたがために、見下ろしている私の方へと振り返っていた。
口を紡いだまま相手を見つめている私に対して相手は今の姿勢を一切変えようとはしない。それどころか互いにじっとしているだけに。鼻をわずかにへこめながら下の唇を上ので押し込むかのようにしている。それから目線を横へと向けようとするも、その方向がラゼンと近い側であったことから、またすぐにもう片方へと向けることにした。
しかし、そっちを見ているのも数秒間。すぐに口を強く締め付けてから一度組んでいた足を立ち上がらせて腕もそれと平行になるかのようにして立ち上がる。
「手合わせするなら本気でやれ」
相手を先ほどまでよりも高い位置から見下ろしながら言ったその言葉は、最初はだいぶ小さくなってしまったがゆえに、滝の大きな音に揉まれそうになり、すぐに一度言い直すかのように大きな声を出す。その間の私は喉を飲み込む動きをさせてはいたが、可能な限り体の中で動かす部位はない。
それから、ほんのわずかに目を見開きながら相手の様子を見つめ続ける。それに対
し、向こうはすぐにまた語尾だけでなく不定期な所で音を伸ばすような声を出しながらいて、それから両方の腕の機械を取り付けたまま私の方へと振り返っていた。
「いいもんだぜ、こういうのも」
私の方へと歯を見せて笑いながら声を出していた物の、それよりも前に腕の重さで態勢を崩してしまっていた。それに対し私は顔を横へと向けながら、わずかに上瞼を降ろした目線で見つめていることしかしない。
一度両足を大きく開いてからもう一度同じ表情を作っているその姿。その瞬間ですらも足がわずかに動いたせいか、足元の石が動いている音が私にも聞こえて来ていた。一方で、こちらは今も先程から座禅を組んでいた場所から場所を変えていないがために、靴がわずかに擦れている音しかしない。そして、それはこの岩の上へと向かうための道を歩いている間も、同様。もうすでに出来上がっていることでほぼほぼ平たく均等になって、私が歩みを進めても音はほとんどしない。
しかし、滝つぼから流れてきているのか、わずかな水が染み出しているようで、それがどんどん色を帯びていくかのようである。一方で、そっちを見ているのは本当に一瞬。すぐに剣を背中へと刺したまま相手の方をまっすぐに見つめた。
今まで外していたサングラスを付け直すことまで終わったころ、ラゼンは「よっしゃ」と一度だけ掛け声を出しながら両腕の機械に電源を入れている。それを私はサングラス越しに見つめていたが、その後ろ側から炎が発せられ、相手の体や軍指定の制服もその色に染まっていく。それをただ見つめるだけにしているが、剣に手を当てたまま腰を落とすのちには、周りの温度も高まっているようで、結果として陽炎が出来上がり、姿が歪んで見えることになっていた。
ラゼンの方から「こっちから行くぜ」と言いながら突撃してくるまでの間、私は相手の表情も構えもわからない姿を見つめる他には何もしなかった。
一度だけため息を吐いてから肩に付いている埃を軽い手の動きで払う。それから相手の横を通って私は軍の基地へと向けて下山することとした。
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