自分の腰に差した長剣の先端に手を乗せ、背を低くした男たちが車から降りるなり小走りで目の前の店の前にしゃがみ込む様子を見下ろす。その結果、彼らはサングラス越しな上に夜ではあるのだが、正面の街灯がつけっぱなしになっている上に、片方の肩を預けている店内の奥からもわずかな明かりがさしているために、サングラスとマスクとフードで変装した顔がよく見えていた。
私が一度瞬きした後にまた彼らの方を見ると、向こうは激しく息をしながらその動きと共に互いを見合い、何度も同じような声を出しながら意気込みをしているかのようである。周囲が寝静まっていることもあり、辺り方はほとんど音がしないがために、その声は今もビルの上にいる私の方にですらも小さく聞こえている。
そのような中で、最初にハンマーでたたかれた際には先ほどの会話時とほとんど変わらないような大きさの音で聞こえているが、それが何度か繰り返されたのちに、それが一気に大破。その破片が周囲に一気に散らばっている。それに伴い店に常設されている警報が一気に鳴り、その店の中が赤く光り輝く。
一方で、私が今立っている廃ビルの中は月の灯りだけが頼りとなっているがために、ほとんどが薄暗い状態である結果、そのほとんどを見ることが出来ない。かすかに見えているのは打ち捨てられた大きな瓦礫と化した機材や家具のような物、それらを止めていたと思われるワイヤーのような物。それも大きくほつれてしまい、だらしなく下へと垂れ下がっている。
それらはどこかから漏れている水溜まりに自身の姿と一緒に映りこんでいた。しかし、それらのほとんどは私の物も含めてその色であったりを映すことはなく、暗くなった輪郭だけをうっすらと見せていた。
体を前へと倒すような勢いで頭を前のめりにさせると同時に、窓から飛び降り、廃ビルの外壁を掴みつつ片足の裏も付けることでその場所を一気に下がっていく。それで周囲に大きく砂ぼこりが起こる上に、私の体にも当然それが降りかかる。しかし、それの中でもこちらに大きい物はぶつかるよりも早く地面に着地すると、地面を駆け出して連中がこっちを見ている様子を見るよりも店内に入る。
降りて来た私を見るなり大声を上げながら発砲してくる彼らの中でも一番近くにいたものの足元まですぐに背を低くして潜り込む。その人物は反射神経が遅いせいで接近を今も気づいていないようで、正面に銃を向けている。しかし、それに対して私は体を回転させる動きで軍服のすそと髪の毛を巻き上げながら一気に相手の首を数回切り裂く。
それと共に吹き上がる血しぶきを浴びながら、男が床へと倒れこむ頃には、ショーケースの1つを飛び越え剣で銃を弾き飛ばす。それからポケットの中に入れておいたナイフを投げつけ、最後の1人が持っていたピストルも破壊。腰を抜かしたまま後ろへと下がっていく男が小便を漏らしているが、それで出来た水溜まりを踏みつけつつ近づいて足で胸を踏みつけながら頭に剣を差し込んだ。
続けて、警報にも負けない大声を上げ続ける男の方へといつもの早さで足を進めていくと、その人物の声が言葉ではなく何も意味のない物へと変わっていく。一度だけまた別のショーケースの前を歩く結果、そこへと私の姿が映るも、そのほとんどは警報の色に染まりきっているがために、体や服の色は見ることが出来ない。また、歩みを進めている音も足元がカーペットであるがためにその音がほとんどなくなっている。周囲でするのは警報の高い音と男の叫び声だけであった。
しかし、その内の後者は私が相手の銃を破壊するために使用したナイフを心臓へと投げつけることで止まる。それから先は、今まさに殺した男の様子を立ったまま、わずかに頭を下げながら眉を落としつつ下唇の下にわずかなえくぼを作ることで見つめ続けているだけにしていた。
警報を止めた後にバックルームにあった箒と塵取りを使い、入り口のショーウィンドウ付近に散らばっているガラスの破片を掃除する。その間、私が入り口すぐそばにいるがために殺した男たちの様子を見ることはできない。しかし、視線も道路へと向けているがために、破壊された正面を除けば何も普段と変わりない店内が視界の端の方で見えたままになっていた。そして、それは一旦塵取りに溜まったゴミをゴミ箱へと持っていく際にも変わらない。
私が作業している先以外に視線を向けたのは、道の向こうに止まった車から拍手する音と共に男が声を出してきた時であった。中腰のまま顔だけを相手へと向けると、細身の私の倍は肩幅がありそうな巨漢が、部下を数人引き連れながら両方の腕を広げながらこっちへと近づいて歩いてきていた。一方で、こちらは一旦掃除用具を床の上に置く。そのまま男は私に軽くハグをしてくる。特に何も反応はせず、両方の腕を落としたまま立っていた。
依頼人と軽く挨拶をしたのちに彼らは店の様子を確認する。その中の1人は私が殺した死体を見るなり、たじろいているかのようで、その足の動きと共に口元に両手を当てている。それだけでなく、他の男も足を止めながら眉間にしわを寄せ、視線を逸らしている。目の前の光景を平気で見ているは依頼人本人だけであった。
首の向きを変えることで店の光景を見ているのはほんの数秒間、私も目の開いている範囲を縮めると、すぐにまた先ほどの続きを再開し、割れたガラスを回収し始めた。周囲にただ箒が左右に動き続ける音だけが聞こえるようになる。
「なんだ、全員殺したのか」
軽く笑い声を混じらせるような話し方をしている男は、未だ電気が付いていない店内のカウンター席にある椅子の上に座ると頬杖を突きながらこっちを見ているようだが、その語尾は抑揚をわざとつけるように話しているようであった。
聞いた後は数秒間だけ箒を動かしている手の動作を一旦止める。それからその間のみ、その手に込めている力を抜きつつ視線を地面の上で左右に動かし続けるのみ。しかし、それで見えるのは、散らばったガラスに反射して映る私の姿だけであった。すぐにまた箒でそれらを塵取りの中へと追いやった。
「末端ですらない半グレは殺してもいい。そう言っただろう」
相手の様子を見ずにゴミをゴミ箱の中へと入れ、それらが滑るように入って行ったのを見届けると、足で開けていたその蓋を閉める。それからすぐに髪の毛を翻しながら進んでいる間、周囲の月灯りで青くなった店内の様子を眺めていていたが、その間も店の外に出るための足取りは一切変えない。
「敬意を示しているのさ」
一瞬だけ鼻から息を出す音を立てながら話すその男に対して、私は視線を向けることもなければ足を止めることもない。一方で、店内では死体を片付ける声を依頼人が出していると、それと共に若い衆が数秒後にわずかな返事をしているようであった。
そのまま一切勢いを変えずに店の外にまで行き、外を歩き続ける。その間、私の近くを通る人の姿もなければ車が走る様子もない。しかし、それでもどこからか聞こえるパトカーのサイレンの音はあったが、私が進んできた方とは真逆の方へと進んでいるようで、どんどん音は小さくなっているようであった。
それ以外で聞こえるのは、まれにいるホームレスが寝息を立てている音程度。その横も私は一切足を進めるペースも変えることなく進んで行く。まれに家の中から大きな声や生活の音が聞こえる時もあるも、それに対して私が何かすることもなく、同じ姿勢のまままっすぐ正面に向けて歩いているのみ。自分の家に着くまで何もしないままであった。
部屋に来るなり、ベッドと机にある私がようやく立つことが出来るスペースだけが確保されている場所で、自身が着ていた軍服を脱ぐ。それと一緒に、それを体の向きを変えないまま奥行きの方へと向けた状態で衣装掛けの上に乗せると、上裸のままベッドの上へとなだれ込んだ。この部屋には家具が3つのみ。それを気にせずただ私は自身の頭を倒した状態で横を見ている。しかし、その先には二の腕を横に伸ばしている物と、肘で降り曲がって顔と平行くらいの形で伸びている前腕が見えている。
それ以外で見えている物はしわと薄汚れているシーツの姿、そして私自身が出来上がった影くらいの物。しかし、それを見ているこちらは何かをするわけでもなく、眠るまでの間、ただ顔を横に向けているだけにしている。
影になっていない場所はカーテンが開けっ放しになっているがために、窓から入っている月の色でわずかに青色の光に照らされているようだが、私の視界のうちの左目はその半分以上が自分の顔とベッドに挟まれているせいでその多くを見ることはできない。そこをわずかに動かしているつもりもないのだが、それでも自分の髪の毛が擦れる高い音が聞こえる。
しかし、それですらもこの家の外を車が走っている音がするだけで消えてなくなってしまっていた。私の家の中でそれ以外に聞こえている音は何もない。そのせいか、遠くで聞こえている乗り物や不良の笑い声ですらも何度も反響しているかのようであった。
いつの間にか朝になり、太陽の光が入ってきた。それは直接降り注いでいないにもかかわらず、私の元へも突き刺さるかのような眩しさでやってきていた。そのため、目元へと手の甲側と手首を力なく当てているにもかかわらず、何度もわずかな声と一緒に目の力を入れ直すことになる。
しばらく音を伴う呼吸を繰り返した後にベッドの縁へと座り込み、足を床の上に落としている状態で顔を下へと向ける。そのまま同じ体勢で瞼を閉じない程度で狭くする。風も入らないがために髪の毛もずっと揺れることはない。その体勢で両方の手を指のわずかな範囲だけを組み合わせるかのようにしたまま口を開けているのか閉じているのか自分でもわからないままにしていた。
外から聞こえてくる人が話している声や馬車が進んでいる音や車が進む音などが今も聞こえている。しかし、部屋の中で座っているだけにしているせいかもしれないが、それらの音は小さくはるか遠くで聞こえているかのよう。そして、1つ1つが長く遠くまで伸びていくかのようであった。
読了ありがとうございました。