星空からの3つの便り
「スクラップヤードの調査ですか? 」
風紀委員長に呼び出されて告げられたのは、校外からくる一団の監督役をやれという指示だった。その学園の名前はプレローマ工業高等専門学校というらしい。私にはあまり聞き馴染がなかったが、それなりに大きい規模の学園なんだそうだ。
「そう、何でもスクラップとして輸入してきた廃棄ロボット資材の中に、なかなかにやっかいなオーパーツが紛れ込んでいる可能性があるっていうこと」
どうもその学園はその名前の通り工業が盛んらしく、キヴォトスでもそれなりのシェアを占めるくらいには力があるらしい。ミレニアムのような感じなのだろうか?ともかくも、ゲヘナが資材として輸入してきたものの中に、怪しい機械があるらしい。
「放置すると
「なるほど、風紀委員会としては?」
「承認するつもりよ、まああんまり大勢でゾロゾロ歩き回られても困るから、少人数でっていう条件付きでね。それで風紀委員会からも監督役として一人現場に同行させるつもりよ、イオリ、お願いできる?」
「了解です、予定日はいつですか?」
「こっちが承認したらすぐ来るらしいわ、だいたい3日後くらいには来るつもりでいてちょうだい」
「分かりました」
私は風紀委員長に一礼して執務室から退出した。すぐに予定を書き留め、準備すべき事項を考えることにした。学外の人間か――一応自分も職務上他の学園の生徒と行動をともにすることはそれなりにあるが、誰も彼も一筋縄ではいかない人物ばかりだ。今回の人たちは厄介な人たちではないことを祈りながら、通常業務に戻ることにした。
「へぇーそれで待ち合わせ場所に向かってるんだね」
当日の朝、現場に向かっていたところに、先生と鉢合わせた。シャーレに帰るところ、だったそうだが、今回の話をすると付いてくると言い出した。
「先生、私はいいんだが、先生はいいのか?シャーレの仕事とかあるんじゃないのか?」
「大丈夫だよ、ゲヘナでやる仕事は終わったし、今日は移動日にするつもりだったからね」
それはそれでスケジュールとして大丈夫なのだろうか?まあ先生がいくら困ったところで、私の知ったところではないか。それで怒られるのは先生なのだから。
「それにしてもプレローマ高専か…いったいどんな人たちなんだろうね?」
「工業ってつくくらいだからな、工事現場の作業員みたいな感じかもな」
「傭兵バイトの子みたいに上下つなぎの格好かもしれないね」
「それはあるかもな」
うちの委員長曰く、「安全科」という治安維持組織にあたる部署に所属している人物が来るらしい。
「そうなんだ、じゃあイオリとしても安心なんじゃない?」
「ま、まぁ、委員長からは手を貸してあげてほしいって言われてるけどな、もちろん何も起きないのがいいんだが」
先生とまだ見ぬ他校の生徒を想像しながら歩いていると、前方に自動小銃を抱え、ブレザーに身を包んだ一団が目に入った。
「ねぇイオリ、もしかして、あの人たちじゃない?」
「確かにゲヘナでは見ない制服だな」
集まって談笑している三人組は、遠い土地だというのに比較的リラックスして見える。すると、向こうもこちらのことに気がついたようだ。そのうちの1人が私の風紀委員会の腕章を見やると、こちらへ踏み出してくる。残りの二人も後を追って駆け寄ってくる。
「すみません、風紀委員会の銀鏡イオリさん、ですね?」
「ああそうだ、プレローマ工業高等専門学校の生徒だな?」
真っ先に近づいてきたその生徒は、後ろでざっくりとまとめた髪を揺らしながら答える。シャツをパリッと着込んで眼鏡をかけた、真面目そうな印象の人物だ。
「はじめまして、私、プレローマ工業高等専門学校2年、安全科に所属しております、円谷ヨウコと申します。本日はよろしくお願いします。」
「風紀委員会の銀鏡イオリだ、こちらこそよろしく」
「ヨウコちゃーん、私も挨拶していい?」
横から話しかけてきた人物は白衣、のような白いジャケットを着ていた。ギザギザとした歯が口からのぞき、首からはガスマスクをさげていて、ゆるい感じの喋り方とは裏腹に怪しい雰囲気をかもしだしている。
「ああ、二人とも、自己紹介してくれ」
「はーいプレローマ高専2年、同じく安全科の蛇沼カオリでーす!今日はよろしくお願いしまーす!ハイ!次はイサリちゃんの番!」
最後の一人は背中に虫取り網を担いでいた。唯一長袖長ズボンで、じっとりとした目つきで比較的大人しそうな印象のわりに、三人組では一番の重装備をしていた。
「プレローマ高専2年、安全科の宇治イサリです…よろしくお願いします」
「こちらこそ、今日はよろしく」
私は挨拶を交わし、一人一人と握手する。
「ところで、そちらの方は?」
「この人か?この人はシャーレの先生だ。今日の調査に同行することになったんだ、よろしく」
「うん、三人ともはじめまして、今日はよろしくね」
「ああ、あなたが先生でしたか、お噂はかねがね聞いております--」
円谷ヨウコという人物は、先生を見て顔をしかめる。
「ん?どうかしたのか?」
「いえ、シャーレの先生が来るという話は、ちょっと聞いていなかったので……」
「あー気にしないで、今日調べに行くものが、他の所の人に見せても大丈夫だったか確かめてるだけだから。」
「そんなこと?大丈夫だよ、今日見たことはここ以外の誰にも言わないから、安心して」
「うちとしては、簡単に外部に情報が漏れると一大事……絶対に、内密にしてください……」
「う、うん、分かったよ……」
先生は宇治イサリという人物の向けた厳しい視線に気圧されて、口外禁止を約束する。
「うん、よし、大丈夫だ。どのみちゲヘナの風紀委員が同行するんだ、件のモノが知られるのは想定内だ。一人増えるにしてもシャーレの先生なら、如何様にでもなるだろう」
当面の危険はないと判断したのか、その安全科の一人は前に出て先生に握手を求める。
「それでは先生、本日はよろしくお願いします」
「うん、よろしく」
「よーしそれじゃー出発だー!」
「目的地は北北東に8km先です、行きましょう」
私たち五人は目的地のスクラップヤードに向けて歩き出す。初めて会った三人は皆しっかりしていて信頼できそうだ、これならきっと今回の任務もスムーズに達成出来るだろう。
という期待は、このキヴォトスという地では分かりきっていた事とはいえ、敢え無く裏切られることになるのだった。