空と夢と星と青春   作:イメージの裏切り

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動き出す駒、四つ

 プレローマ高専、準学士研究棟──

 

「遠いところ、ご足労いただきありがとうございます」

「いやはや、せっかくのチャンスですからな!取り逃がす訳にもいきますまい!」

「我々としても、アレの価値を認めてくださるのなら、願ったり叶ったりでございますよ」

「ハハハ!なんのなんの!我らがカイザーグループに技術提供する先見性たるや!座長君の目は研ぎ澄まされてますなぁ!」

「いえいえ、それほどでも、では順路は予め提供させていただいた通りとなっています。人払いも済ませておりますので、ご安心を」

「いやぁすまないね!じゃあ堂々と行かせてもらおう!」

「ただ、安全科は審査会(こちら)に完全に従うわけではごさいません。ですので、なるべくお早めに済まされますように……」

「分かっているとも、しかし部下が言う事を聞かないなど……座長君はカリスマには乏しいようだね」

「ははは、お恥ずかしい、では旅路の幸運をお祈りしております」

「うむ、ご苦労だったな」

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 プレローマ高専中央区──

 

 私たちを乗せたバンは広場横に併設された駐車場に停まる。スバルは一足先に降車し、後部座席のドアを開けてカヤに降車を促す。それに合わせて私もバンから降りる。

 

 街並みはD.U.と比べると背が低く、大都会という印象は見受けられない。しかし並木は青々と葉を伸ばし、並び立つコンクリートにはヒビ1つ無い。総じて整備管理の行き届いた、満ち足りた街だということが窺える。

 

 どこの自治区に行っても見えるサンクトゥムタワーは、土台の方は既に地平線の果てに消え、私たちは随分遠くまで来てしまったのだな、ということを否が応でも感じさせる。

 

「長旅お疲れ様でした」

「いやいや、スバルも運転お疲れ様」

 

 スバルはカヤの手を引いて車から降ろしていた。車内に置いていたのか、自動小銃をいつの間にか担いでおり、安全科としての職務体勢に入ったようだ。銃口に付けられた銃剣は美しく陽光を反射して煌めいている。

 

「このまま連行?」

「まあそうしてもいいんですが、せっかくですので、街を一周していきませんか?まだ休むには日が高いので」

「いいの?スケジュールとかあるんじゃないの?」

「安全科としては問題ありませんよ。わざわざ来てもらっているのですから、これくらいおもてなししなければ。カヤさんもどうですか?久しぶりに街でも見ていってはどうでしょう」

「は?私にフラフラ歩かせるんですか?安全科も随分脇が甘くなったみたいですね」

 

 確かに移送してきたにしてはのんびりした対応だ、しかしスバルはなんてことないかのように不敵に笑ってみせる。

 

「別に大丈夫ですよ、プレローマ自治区内で安全科から逃げおおせるなんてこと、不可能ですから」

 

 その自信を証明せんとばかりに、スバルはなんとカヤの手錠を外してしまう。

 

「往来を歩くのに手錠に繋がれたままなんていうのも酷でしょう、流石に銃はお渡しできませんが、しばらく自由に歩いてください、カヤさん」

「フッ、そうですね」

 

 カヤも勝手を知っているのか、慌てることなく肩をすくめる。

 

「まあ安心してくださいよ、別に私は逃げも隠れもしませんから」

「では、行きましょうか、先生」

 

 私はようやく彼女たちの態度を飲み込んで、後に続いた。

 

 

 

 

 

 私たちは市街地を並んで歩いていく。最初に街並みに抱いた印象は変わることなく、キレイに整備された清々しい雰囲気を感じさせる。工業都市という前評判に比べても、煙臭さや油臭さといったものはなく、爽やかな光景が続いている。

 

「……まあ、安全科がちゃんと整えてますからね」

「安全科ってなんでもやってるんだね」

「環境工学を専門にしている生徒もいるので……こういう美意識もそれなりに重視されています」

「そうなんだ、前から聞いてた印象だと、こう……工場がズラーッと並んでて、煙がもくもく出てるみたいな感じがあったからさ、意外だなって」

「工場地帯はまた別の所にあります、敷地もかなり使うので……。そっちに行くと、また印象も違うと思われます」

 

 確かにここら辺は工場ではなく、個人の工房が並んでいるような雰囲気だ。校舎も近いはずだから、生徒たちが色々作っているのだろうか。

 

「あっでも職人さんとかもいるっぽいね。やっぱり凄腕の職人がいる町工場みたいなのもあるの?」

「いや、どちらかというとプレローマではそのような職人の方はマイノリティですね。なんだかんだ言って、量産してなんぼみたいな風潮はあるので」

「生産科はあまりオーダーメイドに良い顔しないですからね。部品の類も規格生産品でなんとかしたがる印象があります」

 

 カヤもやはりそれなりに内情を知っているのか口を開く。

 

「まあ審査会を理屈でねじ伏せれば何も問題はありません、できればの話ですけど」

「勇んで突撃して撃沈する1年生は風物詩ですね」

「実体験ですか?」

「違います」

 

 スバルとカヤはもう軽口を叩き合える程までに打ち解けているようだ。防衛室時代にもこれくらい気安い間柄の関係があれば、なんて夢想をしてみたりする。

 

「ただやはり生徒と市民の方との感覚の違いは目立ちます。そこからトラブルに発展することはよくあるので……」

「なんとかしたいですよね……」

 

 中から見ていると不足を覚えることは自然なことだ、とはいえ街の初見の印象は活気がありながらもおだやかそうに見える。ところがそんな浅い見方を否定するように口論する怒声が飛び込んでくる。

 

「ふざけてるのか!?ネジ1本に特注が必要だと!?」

「そうだ!コイツらを繋いでおけるネジは規格品のラインナップはネェ!長年のカンがそう叫ンでるぜ!」

「なんだと?こっちは審査会に出すんだぞ!少しでもツッコまれるポイントは減らしたいのに……」

「ハッ!審査会に出すんならもっとイイ設計をするンだな!」

「何おぉ!?言わせておけばぁ!!」

 

 遠目からでもお互いに銃に手をかけて撃ち合いになりそうな勢いだ、まさに一触即発とはこのことだろう。すると──

 

「2人とも銃を降ろしてください。理性的な解決を要求します」

 

 とこからともなく現れた人影が、圧をかけながら警告する。付けている腕章を見るに、安全科の生徒であることはひと目で分かった。

 

「安全科は黙ってください!明らかな粗を残したままじゃ審査会は通らないことくらいあなた達だって分かるでしょう!?」

「ネジ1本でピーピー喚いてるヒヨッコが小細工程度で通るたぁ思わねぇがなぁ!」

「なんだとぉ?」

「やンのかァ?」

「再度警告します。銃を降ろしてください。降ろさない場合は制圧を行います」

 

 するといつの間にかスバルが安全科の生徒の後ろに立って声をかけている。

 

「苦戦しているようですね、私の助けが必要ですか?」

 

 安全科の生徒は振り向くと一瞬ぎょっとした顔をしたものの、すぐに落ち着いて救援を求める。

 

「すみません、お願いします」

「いいでしょう、任せてください」

 

 スバルは満足そうに笑うと、言い争う2人の前に進み出る。

 

「おふたりとも、一旦落ち着いていただけますか?とみにあなた、そちらは審査会に提出する図面のようですね?」

「は、はい、そうです。だからこそコストを抑えて、生産科に文句を言われない計画にしないと!」

「おっとっと、落ち着いてください。生産科はただコストを抑えることを要求している訳ではありませんよ。例え専用の部品があっても、それの必要性をきちんと示せば無闇に減点はしません」

 

 突っ張っていた生徒も、指南を受けると怒りのトーンを落とす。

 

「むしろコストばかり気にして部品に負荷がかかれば、安全上の問題が発生し得ます。そうなると安全科としても、見て見ぬふりはできないのですが、どうでしょうか?」

 

 スバルの説得に職人も後ろでウンウンと同意する。生徒の方は痛いところを突かれたのか歯ぎしりをする。

 

「添削の必要があれば見てあげられますよ、審査会を通すコツもお教えできますが、どうでしょう?」

「うーん……それじゃお願いできますか?」

「いいですよ、ではその図面、一旦お預かりしていいですか?」

「お、お願いします!」

 

 見事な手腕だ、ひとえにあの生徒は「審査会に通らないかもしれない」という焦りが、性急な行動をさせたように窺える。スバルはそれをきちんと見抜いたうえで、手を差し伸べたのだろう。

 

職人さん(あなた)にもプライドがあるかと思いますが、できればあまり挑発しないように、見解の妥当性をきちんと教えてあげていただけませんか?」

「ヒヨッコがピーピー鳴いてるのを黙らせただけだ」

「審査会はあなた方の貢献を理解しています、ですのでほんの少しで構いません、お願いします」

「マァ、そう言われたら仕方ねぇな、スマンかった」

 

 もう1人へのフォローも忘れない。流石3年生と言うべきか、この手の対応には手練れている。

 

「先生、見ましたか?」

 

 カヤが口を開く。瞳孔を見せた真剣な眼差しで、目の前の光景を見つめている。

 

「本来、トラブルの解決に銃は必要ないんです。キヴォトスの全ての人が、理性的で論理的な方法で問題を解決する……そういう風に私はしたかったんです」

「クーデターはしたのに?」

「それは過程に過ぎません。いつまでも手をこまねいているだけなら、悪を為すことも些事だというだけです」

「じゃあカヤは本当にキヴォトスの平和の為に行動しようと思っただけなんだね」

「当然です。そのために掴んだんですから、連邦生徒会長の座を……、私はキヴォトスの平和を、暴力無しに全ての問題を解決できる社会を……実現するはずだったんです」

「それは……理想論ですね」

 

 カヤの展望に、スバルがメスを入れる。

 

「今見たような言葉を尽くした解決には、膨大な人手が必要です。プレローマに限ったとしても、安全科の規模に対して全ての喧騒を収めるにはあまりにも手が足りません」

「そんな現実は分かりきっています。ただそれでも、取り組みをやめる理由にはなりません。目指すべき理想の為に、あらゆる手を使うべきなんです。その為に、私は権力を求めた……そのはずだったんです……」

 

 カヤの表情からは自らの挫折を噛み締めるような苦々しさが伝わってくる。スバルはやや申し訳なさそうに言葉を補う。

 

「確かにプレローマは私たち安全科の取り組みによって、かなり平和な日常が実現されています。大規模な略奪や破壊行為はここ数年でも数えるほどしか起きていません。ただそれは、歴代続く努力の成果であって、魔法のように実現された訳ではありません」

「そんなことは分かっています!でも!最初にそれを目指さなければ!辿り着けないじゃないですか!!」

 

 カヤは言葉を振り絞る。初めて聞いた渾身の一言に、私は何も言えなくなってしまう。

 

「……すみません。こんなこと、もう終わったことでしたね。行きましょう……」

 

 カヤはまた瞼を閉じてしまった。私とスバルは、かけるべき言葉を失って、ただ歩き続けることしかできなくなってしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 しばらく歩いていると、かなり人気の無い所に出た。何やら遺構のような、物々しい建物が点在している。大規模な資材の山や、駐車場と思しき広いスペースを見るに、かつては大規模な開発が行われていたことを窺わせる。

 

「ここは?」

「地下発掘場の跡地です。プレローマは昔、発掘事業を主軸にしていた時期があって、非常に多くの人が関わっていたそうです。ここはその地上拠点なのですが、今はすっかり忘れ去られた場所ですね」

 

 スバルの説明を聞きながら、辺り一帯を眺める。木々の類は無いが、雑草は生い茂っており、中心地に近いにもかかわらず整備の手から漏れている様子だ。

 

「ん?ちょっと待って、あの人たちは何?」

 

 遠くに人と見られる影が整列しているのが見える。その人影は続々と建物から地下に入っていく。

 

「む?おかしいですね、地下は一応立ち入り禁止にしているはずなのですが……」

「あのロゴ、見覚えがありますね……」

「カヤ、何か知ってるの?」

「あれは……あぁ思い出しました!あれはカイザー傘下の重化学工業企業、カイザーマニュファクチュアリングのロゴです!」

 

 カイザー……こんな場所でもその名前を聞くことになるとは思わなかった。まさかここまで中心地に近いところで堂々と活動しているとは……。

 

「一体何故だ?あんな大規模な集団、安全科がみすみす見逃すはずはないのに……すみません、先生、後はお願いできますか?私は奴らを追跡しなければなりません」

「それなら私もついていくよ」

「ええ!?地下に行くんですか?」

「大丈夫!カヤとスバルがいるからね!」

 

 スバルとカヤは、え?先生ってこういう方なんですか?私は直接話したことはあまりないんで……などと小声で囁きあいながらも、私の意思に賛意を示してくれた。

 

「ただし、地下では安全第一でお願いします。特に先生、あなたは仮にも賓客なので、危なくなったら必ず退避してください」

「うん、分かったよ」

 

 こうして私たち3人は、カイザーが入っていった後を追って、地下へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 ピロリロリン♪

 

「おっ、チエちゃん良いニュース?」

「ああ、どうやら首尾よく行っているようだ」

 

「これで役者は全員揃ったようだな」

「ねぇチエちゃん、せっかくだから、誰が勝つか賭けてみない?」

「いいぞ、面白そうだな」

「チエちゃんは誰が勝つと思う?」

「もちろん、シャーレの先生だ」

「えぇーつまんな!チエちゃんショボい賭けするねー!」

「言いたきゃ言うがいい、我々は最も勝つ可能性が高いやつに賭けているだけだ」

「それがつまんない賭けなんだけどなー、まいっか」

 

「さて賽は投げられた、それでは我々は、ゲームの行方を見守るとしよう……」




お読みいただきありがとうございます。

悪いやつら登場です。
カヤちゃんの謎の一つにキヴォトスが修羅の国だと知らない、がありますが、そのアンサーとして考えたのが、出身地が平和だから、というものです。
今回の描写にどのくらい説得力があるかは何とも言えませんが、巧いと思っていただければ嬉しいですね。

次回もよろしくお願いします。
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