空と夢と星と青春   作:イメージの裏切り

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隠して向けた刃、三つ

「勘違いだと?私共が?」

「そうだ、お前達は計算違いをしていたんだ」

 

 牛越スバルは私とカイザーの間で妖しく笑いかける。片足を一歩前に出してすらりと脚を伸ばし、半身に構えて顎を引き、髪の色と同じ青白い眼光を向ける。小銃を抱えた右手は腰に添えられ、銃剣を握った左手は前に突き出される。銃弾の雨を切り伏せた刃は傷一つなく、白い蛍光灯の光を反射して輝いている。

 

「まずお前たちが探している『宝』、これはカヤさんの言う通り自らの意識と思想を持ったオーパーツ──私たちプレローマの人間が『意思もつ機械(ウィリング・マシーン)』と呼んでいるものだ。これについては間違いないね?」

 

 カイザーの重役は沈黙を以って肯定する。

 

「そしてそれは意思がある故に、相対する者に従順である保証は無い。だからこそ、こんなにも沢山の兵隊を連れてきた……武力を以って手の内に収めようとね……」

「よく分かってるじゃないですか、そうですよ?それが何か?何が勘違いだと言うんですかね?」

 

 卑屈な言葉を投げかけられるも、スバルはそれだけかと言わんばかりに呆れてため息をつく。

 

「何が勘違いか?決まってるじゃないですか、この程度の力で『意思もつ機械(ウィリング・マシーン)』を支配することなど不可能だということを!」

 

 スバルはまるで何もかもを知っているかのように断じる。

 

()()の力は強大であり、かつ人類には敵対的だ。必要十分な暴力を簡単に推し量ることは無理だ……」

「何が言いたい!?」

「分かりませんか?あの機械を力で捻じ伏せようとする試みをした時点で、お前達の敗北は決まっていた──たったそれだけのこと……」

「一体、何を証拠に……根拠が無い!!」

 

 スバルは鼻で笑う。

 

「根拠?ありますよぉ?こちらには数多の犠牲による記録がある……」

 

 スバルは……安全科は……いやプレローマ(この学園)は……何をどこまで知っているのか……。その可能性に、少しだけ震える。

 

「第二に、お前達はここへ潜り込むために、審査会を抱き込んで安全科の邪魔が入らないようにしたと思っているのかも知れないが……」

 

 銃剣を握る手を少しだけ緩めて、刃先をクルクルと回して弄びながら、宣告を続ける。

 

「……わざわざお前達が姿勢よく並んで入っていく僅かな時間の間だけ、人払いができていたなんて、都合が良すぎる話だ」

 

 スバルの眼差しは、カイザーの計略の甘さと陳腐さを嘲笑うように冷たい。

 

「まさか、審査会の手引きだけで安全科の目を誤魔化すことができていたなんて、思わないよな?当然安全科は知っていた、知っていてわざわざ見逃してあげたのさ。審査会が『カイザーを発掘場に通す』という決定をしたことも、安全科に要請を出したことも、どれも計画(プラン)のうちさ。勿論通して()()()だけ……今頃地上では安全科の皆がお前達をとっ捕まえるためにぞろぞろここへ向かっているはずさ」

「そんな……ハッタリだ!!」

「じゃあ今から引き返して確かめてみるか?牢屋へ引き立てられていく覚悟ができたらの話だが」

「おっ、おのれぇ!!キサマは!!キサマが今どういう状況にいるのか分かっているのか!?」

 

 スバルに煽られてヒートアップしたカイザーの重役が引き連れて来た部隊に攻撃の指示を出そうと手を振り上げる。だがスバルはその安易な決断を咎めるように銃剣を突き付ける。

 

「第三に、お前達は暴力さえ満足に振るえれば、私たちに勝てると思っている。それこそが最も重大で、最も致命的で、最も愚かな勘違いなのさ!!!」

「何ィ!!?」

「冥土の土産に教えてやろう、ここは、この日は全て、私が用意した戦場なのだよ!!」

 

 言い終わるか終わらないかという瞬間に、スバルは私たちの目の前から煙のように姿を消してしまう。その後刹那──

 

 ズガガガガガッ!!

 

 ズダダタダダッ!!

 

 ドガガガガガッ!!

 

 私たちの頭上から銃声が響き渡り、カイザーの軍勢を全てを掃射していく。独り演説していたスバルの姿に注意を奪われた隊員たちは、視界の外から降り注いだ弾丸の嵐をまともに受け、次々と脱落していく。

 

「なっ、何だとぉ!!?」

 

 空間を埋め尽くした轟音に、私も不意に視線を向けてしまう、しかし、薄明かりしかない天井には、(もや)のような影が映るばかりで、この銃撃が増援のものなのか、伏兵の物なのか判別することは叶わなかった。

 

「オイッ!!お前らッ!!しっかりせんか!!」

 

 カイザーの重役は辺りを見回して戦える部下を見定めようとする。しかし、その声に答える息は既に無く、あれ程までに重々しい威圧感を放っていた集団は、沈黙の水底(みなそこ)に沈んでしまった。

 

「オオオオノレェ!!!」

 

 

 

「──余所見(よそみ)をしている場合か?」

 

 

 

 カイザーの重役がこちらに向き直ろうとしたその瞬間、スバルの不敵な一言が私たちの耳朶を擽った。見上げた目線をちらりと前に戻すと、スバルの影が、彼の大きな図体の前にぼやりと佇んでいた。頭一つ分はあろうかという身長差にもかかわらず、敵意が身体中から放たれていたにもかかわらず、スバルの手は、雲の中を分け入るようにスルリと伸びいでていき、上等なスーツの襟元をガッと掴む。

 

「なっ!?」

 

 憐れな驚きの声が漏れかけた瞬間──

 

 

 

 グゥワァァァッッッ!!!

 

 

 

 カイザーの重役の巨体が宙を舞う。瞬きする間もなく頭と足がひっくり返り、なすがままに空中に弧を描く。一本背負い──僅かな油断を見逃すことなく、スバルは勝利の一手を決めたのだった。

 

 

 

 ドガァァァンンン!!

 

 

 

 カイザーの重役は受け身を取る間もなく背中からコンクリートの地面に叩きつけられる。(したた)かに打ち付けられると同時に凄まじい轟音が鳴り響き、頑丈な床材に亀裂が走る。細い隙間から溜まった砂が煙となって舞い上がり、勝者の姿をシルエットにして浮かび上がらせる。

 

「呆気ないな」

 

 徐々に煙が晴れていくと、軽く手をほぐすスバルの姿が見えてきた。ほんの数秒もない時間であったというのに、とても久しぶりに再会したような気がする。

 

「先生、カヤさん、終わりましたよ」

 

 スバルはひらりと跳んでカイザーの重役の体を跨ぐ。青白いポニーテールがふわりと踊る。いつの間にか置かれていた小銃と銃剣を取り上げて、先程まで私たちの隣にいた格好に戻っていく。

 

「スバル……」

「スバルさん……」

「私は満足ですよ。さっき言いましたよね、カイザーの親玉に一発痛い目に遭わせてやらないと気が済まないって、たったそれだけです」

 

 何事でも無かったように余裕ぶった口ぶりだ。だが、カイザーに言い放った「種明かし」はきっと本物なのだろう。まんまと「宝」を手に入れようとした不埒(ふらち)な輩の鼻を明かしてやったのだから。

 

「……」

 

 カヤが暫しの沈黙の後に、私たちの方へと姿勢を正して向き直る。

 

「……あの、2人とも……ありがとうございました……」

 

 恥じらいと自尊心を未だ(さら)け出せないままではあったが、カヤの口から、感謝の言葉が聞こえてきた。

 

「……あの……その……何というか……その……」

 

 少しずつ紡ぎ出される言葉を、私とスバルは黙って待つ。

 

「……私は……その……いろいろしくじって……もう……うっ……その……処刑台に上がるだけだなって……別に……こう……誰に気にかけられることもないなって……その……」

 

 涙を溜めた目を何度も(つぶ)りかけながら、少しずつ思考が零れていく。

 

「……こう……まあ……前からそんな、気にしてもらおうとも思っては無かったというか、そんなの要らないって強がってたというか……その……とにかく……私は独りでもいいって……言うことを聞く部下がいればいいって思ってたので……ええと……その……」

 

 言葉が途切れ途切れに出てくるのはきっと、ずっと内面化していて、気に留めることもしなかったことが、ようやくわだかまりとして姿を見せたからだろう。

 

「……だから……あの……何でしょうか……その……私……嬉しかったんです……こう……掛け値なしに……こう……声をかけてもらって……だから……その……あはは……ちょっと驕りすぎですよね……すみません……」

 

 私とスバルは顔を見合わせて、またカヤに向かって微笑みかける。覇道を歩まんとしていた1人の少女の背中を、2人で支えてあげる。

 

「気にすることはないですよ、カヤさん」

「そうだよ、別に対価なんか無くたって、私はカヤの味方だからね」

 

 

 

「──あはは……。ははははっ……」

 

 言葉を受け止め切れなかったのか、小さな背中が一層丸くなってしまう。自らを抱いていた左腕にも、一際強く力が籠もる。私たちはしばらくの間、カヤが落ち着くまで、待ってあげた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「はあっ、はっ!」

 

 カヤが息を大きくついて背筋を伸ばす。

 

「先生、スバルさん、改めて、ありがとうございました」

 

 感謝の言葉と共に深く頭を下げる。私は頃合いを見て、頭を上げさせる。

 

「大丈夫だよ、カヤ。君がちゃんと元気になれれば、私は満足だからね」

「はぁ……すみません、何度も何度も……」

「いいよ、じゃあ帰ろうか、明日も早いからね」

「はい……」

 

 煌々(こうこう)と空間を照らされていたためか気付かなかったが、光の外はもう真っ暗だ。今から帰ると、もういい時間だろう。

 

「──ん?カイザーの姿が無いですね」

「え?本当?」

 

 振り返ると倒れ伏していたはずのカイザーの重役の姿が無い。

 

「!?2人とも、あそこです!」

 

 カヤが声をあげると、遺構の更に奥へと1人走り去っていく重役の姿が(かす)かに見えた。

 

「クソッ、ここへ来て往生際が悪いですね」

「先生、どうしますか?」

「一応安全科がこちらへ向かってるはずです。任せることもできますが……」

「うん……そうだね……」

 

 こちらの大方の目標は果たされたが、カイザーは逃げを打った訳でもなさそうだ……きっと、切り札──「意思持つ機械(ウィリング・マシーン)」を1人で手に入れようとしているのかもしれない。

 

「追いかけよう!2人とも、大丈夫?」

「了解です!」

「任せてください!」

「よし、じゃあ行こう!」

 

 私たちは、カイザーの後を追って暗闇の中へと向かった。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

毎度のことながら戦闘回は字数が盛れなくて参りますね。でも4000字も書いている事実……

前回はカヤちゃん曇らせ回でしたが、投稿後お気に入りがグッと増えていてちょっと笑ってしまいました。皆さん曇らせ好きですねぇ。一応あともう一回くらいはカヤちゃんには曇ってもらう予定です、お楽しみに。

次回もよろしくお願いします。
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