空と夢と星と青春   作:イメージの裏切り

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安全の守護者

「それはそうと今回の調査を許可してくださいまして、ありがとうございます」

「そんなことないさ、決めたのは風紀委員長だし」

 

 現場へ向かう道中、他愛もない会話の中にも、社交辞令が飛び交う。

 

「まあ風紀委員会としても、危険は一つでも減らせた方がいいからな」

「そーう言われちゃったらぁ、こっちも真面目にやるしかないね!ヨウコちゃん!」

「カオリ、この中で一番真面目にやらないのはお前じゃないか?」

 

 えー、そんなことないもーんと白衣の少女は口を尖らせる。一行に笑みがこぼれると、先生が口を開く。

 

「そういえば、君たちは『安全科』ってところに所属してるんだよね?どんなことをするの?」

「確かにそうだな、私たちと同じ、治安維持組織だとは聞いたが……」

「プレローマ工業高専はその名の通り、工業的な生産技術に長けた学校です。天を仰ぐほどの生産機器の数々を取り扱うのは日常茶飯事と言っていいでしょう」

「だ・け・ど、そういう機械ってすんごいパワーがあって、キヴォトス人(私たち)の力でも簡単には止められないんだよねぇ」

「その通り、なので取り扱いを間違えた際には、重大な事故に発展する危険が、大いにあります。それこそ、体を潰されたり、引き裂かれてしまうような、命に関わる事態です」

 

 おおぅ、と私と先生はそろって嘆息を漏らす。

 

「そこでそんなことが起きないように参上するのが、私たち安全科でーす!」

「そう、安全な機器の取り扱いマニュアルの策定や、それが守られているかどうかの見回りが、主な任務です」

「いざとなれば……生徒の救出も……やる」

「それじゃあ、君たちはみんなのヒーローなんだね」

 

 相変わらず先生の褒め言葉は軽率だ、それでも素直な称賛に、安全科の3人は背筋を伸ばして、胸を張ってみせる。

 

「まぁ、もちろん荒事となれば銃を抜くこともあります。自分たちの技術にプライドのある生徒などは、些細なことでもトラブルに発展しますから」

「喧嘩してるときは周りが見えなくなるから……危険」

 

 やはりそこは治安維持組織らしい、どことなく虚ろな目つきに、ちょっと親近感が湧く。

 

「でもみんなの安全を守ってるんでしょ?それならやっぱりみんなのヒーローだと思うよ」

「そう、ですかね。ただ、先生が思っていらっしゃるよりは血なまぐさい組織だとは思いますよ」

「そうなの?」

「はい、私たちは生産した物品を学外に輸出することで収入としているのですが、それは言い換えれば、このキヴォトスにある数多の企業が、いわゆる同業他社であるということでもあります」

「先生、そーゆーやつらがどういうことをしてくると思います?産業スパイですよ、産業スパイ」

「おおぅ、それは大変だね」

「私たちはそのような産業スパイなどにも対応しなければなりません。見つけ次第排除です」

 

 そうか、そういう脅威もあるのか、ゲヘナで騒ぎを起こすのは大体生徒だから、彼女たちの日常に張り巡らせている神経は、風紀委員会とはかなり別物なのかもしれない。

 

「そのような意味では、あまり『みんなのヒーロー』という言い方は似つかわしくはありません。私たちが守るのはあくまで『プレローマの安全』なのですから」

 

 円谷ヨウコは、ちょっと申し訳無さそうに肩をすくめて微笑んでみせる。

 

「それでも他の生徒が危険な時は助けに行ったりするんでしょ?それならやっぱりみんなのヒーローだよ。私は、もっと胸を張っていいと思うけどな」

「そ、そうですか?ま、まぁ間違ってはいませんが……」

「ヨウコちゃん、せっかく褒めてくれてるんだから素直になった方がいいよ」

「称賛は……きちんと……受け取るべき」

「分かった分かったよ、先生、ありがとうございます」

 

 わちゃわちゃとじゃれ合っている安全科の3人は、本当に仲が良さそうでちょっと羨ましい。私にもこんな同級生がいれば……まぁ無いものねだりをしても仕方のないことだ。

 

「それはそうとせ・ん・せ・い、私たちが本当に迫りくる危険を防いでるだけだって、思ってます?」

 

 蛇沼カオリはそう言って先生に顔を近づける。

 

「一番『危ない』のは、実は生徒の方なんですよーぉ」

「そうなの?」

「そうそう、企業の偉い人とか、学外の人と喋ってる中で、うーっかり大事な秘密を漏らしちゃったりするんですよ?そうなったら一大事!秘伝のレシピが取られちゃう!」

「た、確かに……」

「だからぁ、そういう迂闊な生徒は、たとえ生徒会長でも――バァン、ですよ」

 

 そうして指で作ったピストルの銃口を、フッと吹いて見せる。先生は驚きに満ちた目で苦笑を浮かべる。確かにキヴォトスでは銃弾が飛び交うのは日常だが、私も別に万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の奴らにいきなり銃撃を仕掛けることはそうない。彼女たちの任務がどれほどシビアであるかは、見かけからは推し量りきれなかったが、仲の良さとは裏腹に、あまり頼れる人は多くないのではないかと感じた。

 

「そういう理由があるなら、私も気をつけないといけないな。今回の任務のことは、べらべら言いふらさないようにする。だから安心してくれ」

 

 安全科の3人は、暫しお互いを見合わせたあと、笑って答える。

 

「そうしてもらえると助かります。改めてよろしくお願いしますね。イオリさん」

「イオリでいいよ、こちらこそよろしく」

 

 2度目の握手を交わして、私たちは再び任務の途につく。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。小高い地形を切り崩した土砂を積んだ山の麓に、運びやすいように四角くプレスされた鉄屑が、こちらも山のように積まれている。

 

「目的地までは、もうすぐかな?」

「そうですね、あの小山の向こう側のようです」

 

 草木もなく荒れ果てた、小石と砂ばかりの地面を踏めしめて、私たちは歩みを進める。すると、積み上げられたスクラップの一つが、ギギギィィーと重い音を立てて地面に落ちる。

 

「お待ち下さい、みなさん」

 

 何かを感じ取ったのか、円谷ヨウコは辺りを警戒する。

 

「どうかした?」

「先生……あっちを見て……」

 

 どうしたことだろうか、落ちたスクラップがボロボロと崩れ、中から工場整備ロボットがバチバチと火花を散らしながら起き上がる。

 

「どういうことだ!?スクラップにされたはずじゃないのか?」

「恐らくプレスが甘かった、バッテリーが残ったまま処分された、あるいはその両方でしょうね」

 

 次々と辺りのスクラップが崩れ、多くのロボットが姿を現す。半ば暴走しているのか、私たちを敵とみなして襲い掛かってくる。

 

「先生、お下がりください。スクラップが崩れてくる可能性が高いので、なるべく開けたところに退避するようお願いします」

「ありがとう、でもそういうわけにはいかないよ、イオリ!」

「あぁ、任せてくれ!」

 

 ダァン!ダァン!ズダダダダタ!

 

 数は多いが、所詮は壊れかけの機械どもだ、カメラ、脚、機関部、重要な部位を撃ち抜いてやれば、あっという間に沈黙する。

 

「なめるなよ!!」

 

 飛び出してきた小型ロボットを文字通り一蹴し、すぐさま射撃体勢に移る。

 

 ダァンダァンダァン!!ズドォン!!

 

 撃ち抜かれた金属の塊は、ランプの奥の光を失って倒れ込む。

 

「終わったか!?」

 

 その時、スクラップの山の陰からひときわ大きなロボットが、壮絶な金属音を上げつつアームを振り下ろす。

 

「イオリ!危ない!」

 

 私はすぐさま飛び退きアームを躱す。そしてすぐさまアームに飛び乗り、ロボットの機関部に集中射撃を食らわせる。

 

「トドメだ――」

 

 最後に手榴弾を蹴り込み、反動で離脱する。盛大な爆発を背に、さながらヒーローショーのように着地を決めてみる。

 

「イオリ!お疲れ様!」

「ああ、先生は怪我はないか?」

「うん、こっちは大丈夫」

「そうか、三人は大丈夫か?」

 

 私は反対側にいる安全科の方を見やる。するとそこにあったのは、先程まで伺えていた雰囲気とは別物の光景だった。

 

 

 

「チェック、11時に2体、1時に1体、2時に2体」

 

 

 

 3人は1列に並び、正確に同じタイミングで銃弾を打ち込む。動き始めていたロボットは、あっという間に急所を撃ち抜かれ吹き飛ばされる。

 

「チェック、10時に1体、1時に2体」

 

 スクラップから顔を出したロボットさえ、狙いすましたように狙撃される。

 

 見事なのは正確なリロードだ、敵の動態を把握する僅かな時間の間に、マガジンの取り外しから再装填までを、全員が綺麗に決めて見せる。

 

「ターゲット、クリア、安全確保」

 

 静寂に包まれた瓦礫の山を前に、淡々と勝利を宣言する。3人の表情は精悍で、最後まで気を抜いた様子がない。一番ヘラヘラとしていた蛇沼カオリさえ、今の視線は冷徹さを保っている。

 

「先生、周囲一帯の制圧を完了しました。目下のところ、これ以上の危険はありません」

「お、おつかれ……」

 

 きっと風紀委員会と安全科(彼女たち)の間で、戦いというものの認識は大きく違うのだろう。私には、どちらがより優れているのかは判断しきれなかったが、三位一体となって戦いに臨む3人の姿勢は、なかなか真似できないものだと感じた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「しかしさっきはすごかったな、先生の指示なしでそんなに戦えるものなんだな」

 

 あまりにも安直な感想だ、だが少し呆気にとられてしまった私には、そんな感想しか出てこなかった。

 

「そんなことはありません。安全科では全員が同じことをできますよ。むしろ私たちはあんまり一人で大立ち回りしたりはしないので、これ以外のやり方を知らないともいいます」

 

 なるほどな、そういえば委員長も似たような事を言っていたのを思い出した。安全科は「個人」として強いのではなく、「集団」として強いのだと。――風紀委員会もそうなった方がいいんだろうか、日頃の私の体たらくを思い返すとあのとき目にした動きが、私にもできていれば、と、少し羨ましく感じる。

 

「それより、イオリちゃんもすごかったじゃん!結構な数ロボットがいたのに、一人でズガガガガーッて全部片付けちゃうんだもん。イオリちゃんって、相当強いんだね!」

「そ、そうやって褒められると、なんだか恥ずかしいな。別にこんくらいは普通のことだし、何よりあのときは先生の前だったからな」

 

 そう言うと三人は顔を見合わせた後、先生の方を見る。

 

「やはり先生、あなたの存在は、戦闘において重要な役割があるようですね」

 

 三人は、少し真剣な顔をする。

 

「先生、これから先も、小規模な戦闘が発生することかと思います。その際、私たちは先生の指揮下に入った方がよろしいでしょうか?」

「えぇ?きゅ、急にどうしたの?」

「私たちは、戦闘が必要な場合は自分で判断して行動するように教育されています。なので、先程のような状況においては、先生の指示を待つことなく戦闘に移ることになるでしょう。それならば、先生が指示をするとおりに、私たちは先生の手足となって動く用意があります。いかがでしょうか?」

「ちょ、ちょっと待って、別に私はそんなあれこれしろなんて言わないよ」

「しかしながら、先生に付き従ってきた生徒たちは、先生の指示を信じて行動してきたのではないでしょうか?私たちもそうするべきではないでしょうか?これから先も、戦い続けるために」

 

 先生は困った表情を浮かべて暫し考えた後、口を開く。

 

「君たちは、自分たち自身がこのままじゃ危ないって思って行動したんだよね。それなら、敢えて私の思う通りに動いてほしいなんて言わないよ。君たちがやってきた、君たちの信じるやり方で戦ってほしいな」

 

 3人は再び顔を見合わせて緊張の表情を解く。

 

「分かりました。では今後も私たちのやり方で、先生をお守りすることにしましょう」

「うん、よろしくね」

 

 3人と先生の間にあった独特な緊張感、初対面の大人、予想外の同行者、シャーレの要人、その関係で生まれた警戒と距離が、このわずかなやりとりの中で緩んだような気がする。

私にも、彼女たちの理想とする姿勢は、既に完成されているものではなく、彼女たちにとっても道半ばなのではないかと思えた。そう考えると、目指すべき場所へ一緒に向かえる仲間なのではないか――そう感じた。

 

「それじゃあ行こうか」

「はい、そうしましょう」

「イオリ、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。行こう」

 

 ひょんなことから生まれた出会いだったが、私にとって、頼もしい仲間が増えたような瞬間だった。もっとも、そう思えた時間は、そう長く続くことは無かったのだが。




こんばんは、作者です。第1話を投稿した後、ブルアカタグで検索すると山のように新規投稿が出てきてモチベが上がりました。ぜひ、彼女たちの果実が実るまで、お付き合いいただければ幸いです。
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