「12秒……射撃を始めてから制圧を完了させるまでのタイムです。ふむ……まあ上出来と言って良いのではないですかね?」
相手方の指揮官と思しき人物が、整列した部隊の前で講釈を垂れていました。息も整わないうちに、あちらは講評の時間のようでした。
「下手に戦力を分散させず、敵が確実に来るポイントを集中的に抑える。戦略としてはなかなか良いでしょうね。待機場所も、狙撃対象から隠れた位置に展開できていたことも、褒めて良いでしょう」
最前列中央で聞いている人物──最後にスタングレネードを放った人物がこの作戦を立案したのか、指揮官は彼女に向けて評価を下していました。
「しかし最後の足止めはアドリブでしたね?咄嗟の判断ができていたと言ってあげても良いのですが、あえて、想定が甘かったと言っておきましょうかね」
彼女は非常に緊張した面持ちで講評に耳を傾けており、批判にも真摯に向き合っているようでした。
「作戦上の不備を挙げるとすれば、敵の脱出ルートを1つに絞っていたこと、つまり、資料を奪取してそのまま引き返してくるという想定をしていたことですかね」
「うっ……」
「ヨウコ、あなたはもう気付いていると思いますが、脱出する側にとっては、後ろの
「いえ……特に……ありません」
鋭い指摘は作戦立案者だけでなく、私の戦術眼も貫きました。確かにその見方は妥当そのものです、むしろ
「それに今回はあなたの要請で私が前に出ましたが、それは飛び道具的な手段だということは分かってますね?あの時私がいなかったとして、あなたは敵の突撃にどう対処するつもりでしたか?」
「それは、私が飛びかかって抑え込むつもりでした」
「本当ににそれは有効な方法ですか?整列射撃を捨てるリスクにどれほど見合うでしょうか?せっかく狙撃から隠れていたのに、その優位性を放り投げるのも、いい方法とは言い難いですね」
「うぐぅ……」
後輩らしい人物の反論をバッサリ切り捨てる様子には思わずこちらも背筋が伸びてしまいました。確かに近接制圧技術なら私たちも十分訓練を受けていますし、あの場面では弾幕を展開されたほうが私たちにとっては脅威だったことは確かです。しかしここまで取り付く島もないと、見ている側もいたたまれなくなってしまいます。
「あなたは来年この場所に立つのですよ?それならばこのくらいの想定はできていなければ困ります。安全科として、あらゆる可能性に目を配れなければ、最悪の事態は免れないのですからね?」
「返す言葉がありません……」
しかし苛烈な言葉が飛ぶのは、きっと後輩たちに一人前になってほしいからなのでしょう。私たちの先輩──FOX小隊の皆さんも、私たちを指導する際は……同じ気持ちだったのでしょうか?
「さて、ダメ出しもここらへんにしておきましょうか。反省事項はよく振り返って、次の作戦に活かしてください」
「了解です!」
「では最後に聞いておきますが……次は私抜きでも、出来ますね?」
恐ろしい質問でした。「本番」では言ったことはできるはず……有無を言わせない迫力がありました、しかし──
「いいえ!次回もまた、学科長に教えていただきたいです!」
情けなくも食らいついて教えを乞う姿勢には、輝きがありました。
「ふむ、いいでしょう。ではカオリ、ヨウコ、イサリ、以上3名は協力の上、今回の演習を踏まえて作戦を立案してください、赤を入れてあげますので、作戦設計のセンスを磨いてください。……そうですね、今度の作戦目標は要人警護としましょう。作戦計画書は明日中に提出してください、いいですね」
「はい!」「了解」「です……」
師弟関係はSRTの雰囲気とは違いましたが、それでも1つの理想的な形だと感じました。高い意欲を持ち、それでいて実力も兼ね備える……SRTが廃校になっていなかったら、私たちにも……
「しかし破壊工作に無策とは悲しいですね、私だったら壁を切り刻んで脱出しちゃいますよ」
「それができるのは学科長だけですよ……」
もっとも、あの指揮官もゲヘナの風紀委員長のように、そう簡単に替えが効く人物ではないのでしょう、厳しいのもきっとそれ故ですかね?
そんなことを考えていると、その指揮官は振り返って私たちの方へ歩み寄って来ました。
「RABBIT小隊の皆さん、演習お疲れ様でした。私、プレローマ高専3年、安全科の学科長を務めております、牛越スバルといいます。どうぞよろしく」
握手を求めた手を取ってこちらも挨拶を返しました。
「RABBIT小隊小隊長、月雪ミヤコです」
「同じくRABBIT小隊、空井サキだ」
スバル学科長は笑顔で握手をしてきました。
「今回の演習の皆さんの動き、非常に良かったですよ。演習開始から突入まで、非常にスムーズでしたね」
「ありがとうございます」
「一度は突破されてしまったので、こちらも部隊行動はまだまだ鍛えがいがありますね」
「いえ、結果論的ですが、私も最後は止められてしまったので、まだまだです」
社交辞令のような褒め合いの中で、私は1つ、聞いてみたい事がありました。ですがそれを見透かしていたのか、探りを入れてきたのは向こうからでした。
「ところで先ほどの私の指導、聞いてましたよね?」
「えっ、あ、はい……」
「あなたたちは今回の演習をどう総括しますか?」
ただの意見交換なのか実力を見定めようとしているのか、初対面の人物にどこまで言って良いのか、考慮すべきことは多々ありましたが、ひとまず、先の講評に基に意見を述べることにしました。
「……まず、動線の制限と侵入路の誘導が非常に効果的になされていたと思います。あからさまに怪しいポイントを用意して、そこに人員を集中させるのも、建物全体を警邏するよりはずっと有効だと思いました」
「ふむ……いいですねえ、では突入から撤退まではどう見ますか?」
「資料を確保してから同じルートを引き返す、というのは確かに強行作戦が過ぎたなと結論付けられます。小隊には破壊戦術に秀でた隊員もいたのに、有効に指示ができなかったことは、明白な反省点ですね」
そう言うと、スバル学科長はやや慌ててフォローをしました。
「ああいや、さっきのは別にあなたたちにダメ出ししたわけじゃないですよ。建物の一部とはいっても、破壊に出ることはどんな作戦でもできるわけではありませんからね?」
「いえ、正直発想自体が出ていなかったので、とても勉強になりました」
「そうですか……まあ大規模な破壊は作戦を台無しにし得るので、執着しないことです。その隊員さんも破滅を託されるとなれば、思い切りというのが必要になりますからね」
「そこの部分は心配ないと思いますが……」
少なくとも、モエなら喜んで爆破するでしょうね……。
「おーい、みんなお疲れー」
噂をすれば影と言う通り、モエがミユを伴ってやってきました。
「おお!あなたが狙撃手ですか!」
スバル学科長はミユを見るなり目を輝かせました。
「先程の狙撃、非常に良かったですよ!本当に狙撃されそうになったのは久しぶりです!相当良い腕前をお持ちですね!」
「あっ……ど、どうも……」
「ちょっとー!ミユが怖がってるじゃん!」
正直あの狙撃は軽々と回避したように見えましたが、撃たれる側にしか分からないこともあるのでしょう。
「学科長、そろそろ時間です」
「あら、もうそんな時間でしたか、では撤収しましょう。総員、後処理を始めてください」
「了解!」
後片付けが始まって演習も終幕に入りました。私たちも帰還の準備をしようと思ったのですが……。
「さて、RABBIT小隊のみなさん。この後親睦会を用意しているのですが、どうですか?」
「えっ、親睦会……ですか?」
「今からD.U.に戻ると遅すぎるでしょう、せっかくプレローマまではるばるお越しいただいたのですから、食事と宿くらいは提供させてもらいますよ」
「食事!?」「宿!?」
「サキ、モエ、そんなに食いつかないでください」
「はっはっはっ、いいじゃないですか、平時こそ、軍人はゆっくりするべきですよ?」
「はぁ……」
あまり喜び立てると、普段の環境が良くないことが丸分かりなのですが……恥ずかしい……。
「料理長が腕を振るって食事を準備しているのですが、どうですか?ミヤコ小隊長?」
「……では、お言葉に甘えさせてもらいます」
「OK!みなさん!この後は打ち上げです!RABBIT小隊のみなさんを歓待してあげてください!」
イェーイと歓声が安全科のみなさんから上がりました。私が思っていたよりは、ここの人たちは友好的になれるのかな、なんて、期待をしてみました。
「うおぉ……」
テーブル一面に所狭しと置かれた料理に、私たちは言葉を失いました。
「はーいスープもありますからね!いっぱい食べてってください!」
「料理長、今日は一段と気合が入りますね」
「当たり前ですよ!安全科長!せっかくのお客さんにチンケな糧食なんか食べさせるわけには行きませんからね!この亀口レモン、腕によりをかけましたよ!」
料理長さんは本当に嬉しそうな表情で胸を張ってみせました。
「さあ、みなさんどうぞおあがりになってください!」
「それじゃあ……」
「「「「いただきます!」」」」
食事という「体裁」だけが整った廃棄弁当と違い、温かく広がる汁気と、酸化していないカラリとした油が、久しぶりに私たちの胃と心を満たしていくのを感じました。どれほど幸せそうに食べていたのか、プレローマのみなさんはにっこり微笑んで私たちの方を見ていました。
「やー良かった良かった、美味しそうに食べてくれて。いっくら作っても生産科はレトルトにしちゃうもんなぁ」
「料理長……」
ひとしきり私たちを眺めると、安全科のみなさんも食事に手をつけ始め、料理長さんは次の皿を取りに厨房へ戻っていきました。すると……、
「ねぇねぇ、あなたが隊長さん?」
安全科の、白衣を着た人物に話しかけられました。
「は、はい、そうですが……」
「わたしカオリっていうの!よろしくね!」
「カオリ、不躾だぞ」
「えーっ!?そんなこと言って、ヨウコちゃんずっとタイミング計ってたじゃん!そんなんじゃ懇親会すぐ終わっちゃうよ!」
髪を後ろで一つ括りにした人物が諌めました。しかしそれを意に介せず、カオリさんは話しかけました。
「記録映像見たよ!めっちゃキビキビ指示出しててカッコよかった!」
「き、記録映像?」
「あれ?見てない?参考用に撮ってあるんだけどな?学科長!ちゃんと渡してあげてくださいよ!」
「む?オペレーターの子に渡したんだけどな?」
オペレーター、ということはモエでしょうか?
「ん?私?ああ、確かに貰ってるよ、後で共有しておくね」
「あなたがオペレーター?ウチらの銃の民生品版拾ってきたらしいじゃん!やるねぇ!」
「まぁ私にかかればちょちょいのちょいよ!」
モエとカオリさんの会話は思いの外盛り上がっているようでした。時々、爆破だのなんだの不穏な話題が聞こえますが……。
「まったく、盛り上がるのはいいが、下手なことをペラペラ喋るなよ!」
「おやおや、それならあなたは機密保護にはそれなりに詳しいみたいですね?」
「当たり前だ!SRTの教範には平時のセキュリティから捕虜になったときの権利まで詳しく書いてある。それに従えば何も問題ない」
「へぇ、なかなか頼もしい隊員さんですね」
サキと一つ括りの彼女、ヨウコさんも結構打ち解けているようです。ミユは……、
「……あっ、みんな……喋ってる?……うぅ」
「もしもし、あなた?」
「ひゃいぃ!な、なんですか?」
「あなた最近、藪に入りましたか?」
「えっ、あっ、はい……入りましたが……どうしてそれを?」
「いえ、そういう匂いがしたので、スナイパーだそうですね?」
「あっ、はい……ミユって言います……」
「フフッ、自己紹介どうも、私はイサリと言います。外で潜入するあなたには、良い日焼け止めをあげます、ほら」
「えっ、いいんでしょうか?こんなの貰ってしまって……」
「お気になさらず、私も林野に出るので、仲間意識ってやつです。虫除けもどうですか?狙撃の邪魔にならない無香タイプです」
「あっ、ううぅ……」
どうも同志に捕まってしまったようです。……みなさん楽しそうですね。
「羨ましいですか?」
「スバルさん……」
「うちはあんまり余所と絡まないから、客が来るだけで浮足立っちゃってしまいましてね」
「いえ、とても良いことだと思います」
そんな御世辞はいいですよと、スバル学科長は笑いました。
「それより、なんか聞いておくこととか、あります?」
「え?」
「ああ、不愉快だったらごめんなさい。私は正直雑談のネタに乏しくてね、あれこれ質問を受けたり、指揮官みたいなことしか言えなくて……」
「いえ、そんなことは……」
私は、ふと思い至ったことを思い出しました。
「一つ、聞いてもいいですか?」
「おっ、いいですよ。なんですか?」
「……安全科のみなさんは、いつもあの講評のような感じなのでしょうか?」
「うーん、そうですね、まあうちは正しさを示したかったら論理で示せというのが基本ではありますが……」
スバル学科長は少し昔を思い出してから答えました。
「先輩には食らいついてでも教えをもぎ取れというのは、私がいつも言ってようやく身についたと言っていいでしょうね」
「食らいついてでも」──その言葉の意味するものは……
「私たちが立ち向かわなければならない危機というのは、常に用意ができている時にはやってきません。故に機会を見逃さずに吸収できる知見を吸収する必要がある……そう思っています」
「あの……もし、教わる人がいなかった場合は、どうしますか?」
「いない?そんなことはないのでは?あなたたちも先輩はいらっしゃるでしょう?」
「しかし……」
「今は会いに行けないですか?」
「……っ!知ってるんですか?」
「まあ大方の顛末は先生から聞きました。でもそれは先輩方を頼らない理由にはならないでしょう」
「……」
黙っていると、安全科長は微笑みかけてから言いました。
「いいですか?先輩というのは、いつでも後輩に頼って欲しがっているものですよ」
「そうでしょうか……」
「そうですよ、どんな立場でも後輩というものは可愛いものです。ぜひ、頼ってあげてくださいな」
そんな会話をしていると、不意に食堂の扉が開く音がしました。
「おーっす!楽しんでますかーっ!!」
声の主は長くサラサラの黒髪を片目にかけた人物でした。
「ヒトミ、待ちかねましたよ」
「スバっちゃんゴメンね!ちょっち仕事が長引いて……っておお!」
ヒトミという方は何かを見付けたのか私の席へ駆け寄ってきて、置かれた銃に手を掛けました。
「えっ、ちょっと……」
「うわっ、やっぱり!こーれ私が設計した銃じゃーん!」
「なんだ、見覚えあると思ったらあなたの設計ですか」
「そうだよそうだよ!いやぁ嬉しいねぇ!未だにユーザーいるんだもん!」
「あの……どなたですか?」
「おっとっと、自己紹介がまだだったね、ムギホちゃんも入ってきてよ!」
ヒトミさんが入り口に向かって声をあげると、作業着を上に着た人物が入ってきました。
「はーい、それじゃあSRT学園RABBIT小隊のみなさまこんばんは!私はプレローマ銃砲科長の神谷ヒトミでーす!んでこっちは生産科長の早乙女ムギホちゃんね!」
「ムギホ、それなりに真面目な場なのですから大人しくしてください」
ヒトミさんが拗ねるのを尻目に、ムギホさんが前に出て話し始めました。
「おほん、RABBIT小隊のみなさん、今日ははるばるお疲れ様でした。この場をお借りしてみなさんにご提案があります」
提案……?
「ええ、今回の演習も何かの縁、ぜひ、みなさんの物資支援をさせていただきたいと思います」
「糧食とか弾丸とか?基本的なものしかあげられないけどね♪」
願ったり叶ったりの提案ですが、しかし……
「どういうつもりだ?私たちに恩でも売るつもりか?」
「ええ、もちろん恩売りですよ。SRT復活の暁には、ぜひ私共と優先的に取引していただきたい」
サキが口を挟みましたが相手も引かないようです。それにしても……
「SRT学園のことまで、どうして……?」
「シャーレの先生から、頼まれましてね」
安全科長さんが口を開きました。
「先生から?」
「そうです、補給が満足にできてないから、助けてあげてくれないか、ってね」
「そうですか……」
「もちろん、下心ゼロとはいきません、私たちも商売でやってるので。ですが……」
「1年生が困っていて助け舟を出さないほど、薄情ではないですよ」
――ここの人たちも、変な人たちですね。
「はーい!辛気臭い話はそこまでですよー?みんな大好き、唐揚げの登場でーす!」
「「唐揚げ!?」」
空気を破るように料理長が大皿を抱えて戻ってきました。香ばしい香りに食卓からは歓声があがりました。私は、それにありつく前にちゃんと答えを返すことにしました。
「学科長のみなさん、ご厚意ありがとうございます。ですが、それを受け取るかどうかは、少し考えさせていただけますか?やはりSRTは中立組織ですから、それを第一に考えたいのです」
すると学科長の御三方は笑い合って肯いてくれました。
「オイ!この唐揚げ、レモン汁がかかってるぞ!」
穏やかな雰囲気も束の間、サキの怒声が飛び込みました。
「なんだと!唐揚げにはレモンが当然だろ!?」
「かけたの
「気に入らないなら食わなくていいんだぞ!」
「なんだと!」
「サキ、やめてください……」
演習の後夜祭は、騒がしく更けていきました……。
お読みいただきありがとうございます。
こういうダラダラおしゃべりパートが一番筆が進むということに気付いてしまった……
本当は2回で終わらせるつもりだったんですが、思ったより長くなってしまったので後日談パートをもう1回やります。カヤちゃんも出ますよ。
Twitterに上げたカヤちゃん短編もこっちに上げておくのでお読みくださいませ。
それでは次回もよろしくお願いします。感想、高評価もお待ちしております。