ドドドドドドドオォーーーンンン!!!
榴弾砲隊の訓練はいつも精緻であり、かつ整然としています。それは偏にトリニティの連帯の象徴であり、ティーパーティーの誇りでもあります。
ですが今日の訓練は、ただ鍛錬の為、というわけではありません。
「いやぁー!壮観ですね!やはり砲は素晴らしい!」
本日は客人──砲塔設計の専門家をお招きしたのです。プレローマ高専、機甲科学科長
「流石は歴史に名高きトリニティの部隊!レモン君、カオリ君、君たちもそうは思わないかね?」
とはいえ、人柄については押さえきれてはいませんでした。妙に尊大な態度に大きな声、服装も男物の2つボタンの礼服にマントをたなびかせているとあって、このトリニティの町並みをも押し返してしまいそうな存在感を発揮していました。
「私はいいんですけど、学科長、あんまり変なこと言わないでくださいね」
「安全科としても、外交上不穏当な発言は厳正に対処させてもらいますからね、機甲科長」
部下からの諫めをカラカラと笑って一蹴する機甲科長さんをこれから相手しなければならないと思うと、憂鬱、という程でなくとも、暗澹たる気分になってきます……。
ゴトリ……
「どうぞ、おかけになってください」
ミズキ学科長に着席を促しました。
「お心遣い感謝致します。本日はティーパーティー直々にお招きいただいたとあり、恐悦至極にございます。桐藤ナギサ様」
彼女は恭しく挨拶をして席に着きました。しかしその口調からはいやに気取った、芝居がかった雰囲気をしっかりと感じてしまいました。正直、ミカさんだったら不快感を露わにしていたでしょうね。
「いえ、こちらこそ、招待に応じていただきまして誠にありがとうございます」
ティーパーティーの長い茶会机の両端に座り、最初の一杯が注がれる音が響きました。細かく揺れる水面から優美な香りが広がり、緊張感をほぐしていきます。
「う〜ん、やはり紅茶は
ほほう、機甲科長さんは紅茶の良さを解する方のようですね。話が通じるか不安でしたが……、大丈夫そうですね。
「──まあ後は、鉄と硝煙の風味があれば、完璧ですね」
ズズッ──私も紅茶を一口……。
(何を言っているのでしょうか?この方は……)
鉄?硝煙?どういうことでしょうか?シンプルにこの茶葉がお気に召さなかったのでしょうか?まさかこの場を焼け野原にしてからもう一杯頂こうという腹づもりなのでしょうか?
「学科長、戦車で
「堂々と出されたお茶に文句をつけるのは外交に障りますよ?機甲科長」
「す、すまないすまない。ナギサ様、今の発言に他意はございませんので、どうか聞き流してくださいませ……」
ズズッ──小さく微笑を返してから、もう一口紅茶を含みました。
「さて、本題に移りましょうか。ナギサ様、
カタリ──小さくティーカップを置いて答えました。
「はい、今回あなたがたをお呼びしたのは他でもありません。現在トリニティが保有する主力戦車、クルセイダー巡航戦車の改造を依頼したいのです」
するとミズキ学科長は机に肘をついて手を組み、こちらをまっすぐに見つめてきました。
「クルセイダー巡航戦車は現在、トリニティ各地に配備された機甲戦力の中枢です。優秀な機動力を持ち、広いトリニティで素早い展開を行える点が優れています。しかし火力には難があり、対戦車戦闘には不利を喫してしまいます」
パチン!──私は指を鳴らして続けました。
「そこであなたがたプレローマ機甲科に、火力強化に焦点を当てた近代化改修を依頼したいのです。みなさん、ミズキさんに資料をお渡ししてください」
ミズキさんは資料を受け取ると、深く椅子にもたれかかって資料を読み始めました。尊大さはそのままに、真剣に数字を見つめる表情はまさにプロフェッショナルというべき様相でした。
「ふうむ……、装甲貫徹能力はどれほどをお望みですかな?」
「そうですね、ここは是非、100mmの装甲を突破してもらいたいですね」
その数字にはいろいろな含みがありましたが、火力はあって困らないという考えが根本にありました。これまでに訪れた数々の脅威には、攻撃力はいくらあっても困らない……そんな打算がありました。
ズズッ──もう一口紅茶を啜ると、ミズキさんの鋭い目線が目に入りました。
「100mmの装甲を抜きたいんですか?」
その口ぶりは、どちらかといえば、信じられない発言を聞いたかのような驚きがありました。
「何かおかしいのでしょうか?技術的に難しいのであれば──」
「いえ、そうではありません」
食い気味に否定する声色からは、一抹の軽蔑と不信が見え隠れしました。
「まず言いたいのは、100mmの装甲貫徹能力はクルセイダーの車体にはやや過剰すぎるという点です」
ズズッ──
「
ズズッ──
「軽快な巡航速度は間違いなく強みではあるのですが、ここまで砲火力を上げるとなると、砲塔の全面改修が必要になります。そうなると車体重量が大幅に増加し、足回りの強さが失われます。その方向性は一技術者としては勧めませんね」
ズズッ──
「さらに言えば、砲塔の再設計はコストが非常に嵩みます。そのようなコストを割くのであれば、対戦車戦闘用の携行火器と兵員輸送車を揃えた方が効率的でしょう。気乗りはしませんが、我が学園謹製の対戦車ロケットランチャーの購入をお勧めします。タンクデサント*1兵として、現行のクルセイダーに乗せるのも有効かと思います」
ズズッ──
正直ここまでとは思っていませんでした、前情報ではミズキさんは戦車砲に命をかけるような方と聞いていたので、砲塔改造は二つ返事で了承いただけると思っていました……誤算ですね。
しかしこの程度であれば反論は用意しています。それを弄せば……。
「もう一つ言うことがあるとすれば、これだけの砲火力は一体どのような戦車を想定しているのかということでしょうか?」
ズズッ──
「僕は、まあこんな仕事をしていますので、キヴォトスにあるほぼ全ての戦車の諸元が頭に入っています。その中で100mmの正面装甲を持つ戦車は一つしか思い浮かびません──」
「──ゲヘナの制式重戦車、『虎丸』くらいでしょうか?」
ズズッ──
「砲火力として100mmを抜くのであれば、実質的に
ズズッ──
「もちろん、プレローマとしては断る理由にはなりません。戦火が及ばないのであれば兵器が売れるのは願ったり叶ったりですよ。まあ別にその結果として自治区が火の海になるのは知ったことでは──」
ジャキッ!!
「機甲科長、そこまでです。無闇に他校の首脳を挑発しないでもらいたい」
ズズッ──
ミズキ機甲科長は後ろに控えていた白衣の人物に銃口を向けられ、誤魔化しながら言いました。
「はっはっはっ、ご機嫌を損ねましたら謝罪致します。なにせティーパーティーホスト代理、桐藤ナギサはハト派*3だと聞いておりましたので、少々驚いてしまっただけでございます」
「いえ、こちらも戦車技術には不案内ですので、些か浅薄な要求をしてしまいました。良い勉強をさせていただきました」
空になったカップに二杯目の紅茶を注がせて、私は話を戻そうと試みました。
「しかしながら、主力戦車の改造というのは、今のトリニティ部隊には経験の少ない分野です。制式採用に至らずとも、運用ノウハウを学ぶという点では価値があります」
「すると、あくまで改造の試みは堅持したいと……」
「はい、経済的な面はティーパーティーが負いましょう。是非、砲塔改造の名手に、教えを請いたいのです」
すると、お付きの2人の小さい耳打ちが目に入りました。
「学科長、あまりにも出来すぎた話です。タダで自由に改造させてくれるとは思いません」
「リバースエンジニアリングやらで簡単に技術を流出させるのは、安全科としては見過ごせませんよ」
ミズキさんも大きくカップをあおり、二杯目の紅茶を求めました。そして小さく息を吐き、そうですね、と呟くと──
「僕から言えることは2つです。戦車改造の件は首を縦に振りましょう。しかし砲塔の再設計はしません。それは僕の研究成果の粋でもあるので、やすやすとお教えすることはできません。2つ目は正式な受注契約を結んでいただくことです。改造場としては面白い提案でしたが、僕達も遊びではないので、仕事としてさせていただきたい。どうでしょうか?」
思ったよりは好意的、しかし保守的に出られたといったところでしょうか……、まあ私たちが手に入れられるものを考えれば上等ですかね。
「いいでしょう、ではこちらで書面を用意しますので、改めてもらえますか?」
「承りました。ですが、この件に関しては僕の独断ですので、お見せできるものは、ずっと少ないということを、ご理解してくださいませ」
ミズキ機甲科長はまだ熱い一杯を飲み干すと、マントを翻して席を立ちました。
「ミズキさんにクルセイダーをご案内してください。それと、ヒフミさんを呼んでください」
ぞろぞろと退出する人の群れとまだ湯気が立つ紅茶を眺めながら──
(次は、どうしましょうかね……)
などと考えに耽ってみることにしました。
お読みいただきありがとうございます。
これで当初生やした生徒で未登場なのはあと2人となりました。
生やしすぎ?いや、学園1つ立てるとなるとこのくらいはいるかなって思ったんです。
次回もよろしくお願いします。感想・高評価などお待ちしております。