空と夢と星と青春   作:イメージの裏切り

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止めがたいライン

「ちょっと待って……この先……危険だと思う」

 

 宇治イサリは突然足を止め、一団を制する。

 

「どうかしたのか?」

「向こう側……地盤が緩んでる……回り道した方が安全」

 

 そういえばここらへんは先日結構な雨が降っていたはずだ。そうなると、確かにこの先の土砂が剥き出しになった道は安全ではないかもしれない。

 

「へぇ、ゲヘナは土地勘とか全然ないだろうに、そんなことまで気が付くなんてすごいね」

 

 先生はさっきから感心してはかりだ。すると後ろから蛇沼カオリが顔を近づけてこっそりと話しかけてくる。

 

「実はイサリちゃんって、日頃から山歩きとかしてるんですよ。だからこの手の山道とかの具合には、初見でも結構分かっちゃうんです」

 

 へぇーと、私と先生は感嘆の声を漏らす。

 

「ここから回り道をするとなると、更に20〜30分くらいかかることになると思います。崖が崩れたりすると大事ですので、私としては回り道する方が良いでしょう」

「結構かかるな、どうせ距離的には目と鼻の先なんだし、急いで通り抜けてしまえば良いんじゃないか?ほら、あそこらへんとか地面も乾いててちゃんと進めそうだぞ」

 

 私は宇治イサリの警戒を杞憂だと思って、歩を進めようとする。その刹那!銃声とともに私の足元に強かに打ち付けた弾丸の跡が残る!

 

「な、何をするんだ!!」

 

 振り返って目にしたのは、先程までの陰が差した表情とはうって変わって、鬼のような形相でこちらを睨みつけて銃を構えた宇治イサリの姿だった。

 

「テメェ!!聞こえなかったのか!?この先は危険だ!!迂回しろ!!」

「そ、そんなに悪いことしたか!?別にちょっとくらいいいじゃないか!?」

「何だァ!?この野郎!!もう一度言ってみろ!!」

「ま、まぁまぁイオリさん、ここは一つイサリの顔を立ててやってはくれませんか?回り道しても、そこまで予定時間をオーバーするわけではありませんし、ね?」

 

 円谷ヨウコは間に入って私たち、特に宇治イサリを宥める。身振り口ぶりは慣れた様子だ。恐らく、安全科では珍しいことではないのだろう。

 

「……イサリちゃん、環境とか防災とか、自分の専門には結構プライド高いんすよね。自分の忠告が無視されるのとか、耐えられないタイプっす。たぶん安全科(ウチ)で一番最初にキレちゃうのはイサリちゃんっすね……」

 

 おおぅ、と先生は理解と同情の入り混じった目で見つめる。

 

「分かった、分かったよ、回り道するから、勘弁してくれ!」

 

 私は急いで元いた場所まで引き返す。宇治イサリは怒りを収めたのか、小銃を担ぎ直す。

 

「はぁ……それでも1年の頃よりはマシになりましたよ。今は1発目はちゃんと警告射撃に留めますからね」

 

「ははは、今度からはまずは口で注意した方がいいかな……」

 

「ふぅ……考えておきます……」

 

 宇治イサリは納得半分に返事をする。なかなかに大変な一面を知ってしまった気分だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 大型のタイヤが作った獣道を、スクラップの山を横目に歩いていると、再び中途半端に処分されたと思しきロボットたちが、歪な機械音とともに顔を見せる。

 

「またか、なかなかいい加減なままで運ばれてくるんだな」

「別にここの全て物がプレローマ産というわけではないですけれどね。アレとかミレニアムの校章が付いてますよ」

 

 ちょっと嫌味混じりの一言にも、円谷ヨウコは鋭く切り返す。

 

「2人ともそこまで、対処するよ」

 

 先生の静止にひとまずは耳を傾け、私たちは迫りくる機械たちに向き直る。

 

「てやあぁーーっっ!!」

 

 地上を練り歩くロボットたちの前に素早く距離を詰め、一気に銃弾を撃ち込む。やはり壊れかけの鉄屑だ、衝撃に耐え切れずに次々と地面の上を転がっていく。

 

「イオリ!危ない!!!」

 

 ギギギイーーーッッと数体のロボットが、ガラ空きの私の頭上から飛びかかる。一瞬の隙には体勢を整えきれない。その時、

 

 パァーーン!タン!タァーーン!!

 

 狙いすましたかのように後方から撃ち抜かれ、不届き者たちは綺麗に宙を舞う。

 

「ターゲット、クリア」

 

 当然であるかのように得意気な顔もせず、安全科の三人は銃口から硝煙をたなびかせる。やるな、と目配せすると、小さな会釈で応える。それより前を向け、とでも言いたげだ。

 

(良いだろう、それならこっちも暴れてやる)

 

 私は再び前へ飛び出し、戦闘を続行する。頼もしい後方支援を受けて、私たちは2度目の襲撃を退けた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「おりょ?おりょりょー?」

「カオリ?どうしたの?」

 

 蛇沼カオリは転がった残骸に興味を示す。

 

「先生、あそこのロボット、バッテリーパックが露出してますよ。あんなにパンパンに膨れ上がって、ちょっと突っついてやったら破裂するかもしれませんよ」

「いやちょっと待って、バッテリーの破裂って危ないんじゃないの!?離れなきゃ!」

 

 フラフラと残骸に近寄っていた蛇沼カオリを先生は制止する。すると彼女はこちらを向き直って熱弁を始める。

 

「何言ってるんですか先生!?バッテリーパックの破裂なんてなかなか生では見れませんよ!?教育用のビデオ資料でしか見たことないんですから、貴重な瞬間はこの目に収めるべきですよ!そもそも小型機器のバッテリーはエネルギー密度が高くて危ないんですが、特にあーいう制御を失って熱を溜め込んだ状況は意図的にはなかなか作れません!資料的な価値もとても高いんですから、絶対間近で確認するべきですよ!!」

 

 荒い語気のさなかの僅かな隙を狙って、宇治イサリがとーーぅと飛び出して蛇沼カオリを押し倒す。蛇沼カオリはちょうど上半身を押さえられ、ぐぇーーっとカエルが潰れたようなうめき声をあげる。

 

「カオリはちょっと好奇心が強すぎてですね、あのような事故の場面には吸い寄せられるようにちょっかいを出してしまうんです」

「結構な悪癖だな」

「始末が悪いのはアイツ、状況が悪くなることは半分分かっててやるんですよね。安全科の風上に置けないから止めろとは言っているんですが……」

「お前もなかなか大変だな」

 

 幸か不幸か、件のバッテリーパックからはプシューとガスが抜ける音がする。その後パァンと小さな爆発をしたきり沈黙した。内容液が燃える炎が上がりこそすれ、期待されていたであろう大爆発は見られなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 戦闘が一段落したところで、私たちは少し休憩を取ることにした。別に腰掛けられるようなものもない場所だったが、各々は思い思いの方法で休息をとる。

 

「カオリ……今日は調子に乗りすぎ……もっと引き締めて行動するべき……」

「えーそのことはもう反省したじゃん、それに、別に最悪の事態になってたわけじゃなかったんだから良くない?」

「ここには……非戦闘員もいる……いつもの調子でやったら……怪我人がでる……」

 

 反省会……というほど上品ではない言い合いが始まる。普段は彼女たちの欠点も程々に流されているのかもしれないが、やはり校外での活動、加えて先生の存在が、神経の張り方の差を浮き彫りにしたのだろう。

 

「そんなこと言ったらイサリちゃんだってさっきは相当ヤバかったよー?いきなり撃っちゃったのはマズイって!」

「あの道は……本当に……危険だった……力ずくでも止めるのが……安全科」

「違う違う、イオリちゃんは他の学園の人なんだよ?怪我させたらシンプル国際問題になっちゃうって!」

「道が崩れて大怪我した方が……もっと問題……」

「やり方ってものがあったんじゃないの?って話だよ!?」

 

 2人ともかなり強情だ、言い合いでもお互い一歩も引かない。なまじ難癖などではなく、合理的な批判であるがゆえに、口を挟むのも憚られる有り様だ。

 

「イサリちゃんは段階を飛ばしすぎなの!!」

「カオリは……能天気すぎる……」

「それならイサリちゃんだって――」

「ええぃ!!やめろやめろ!!そこまでだ!!学外に出てきてこんな有り様か!!こんなのが学科長に見せられるとでも思ってるのか!!?」

 

 しびれを切らしたのか円谷ヨウコが割って入る。「学科長」という単語が飛び出た瞬間、2人の表情が凍りつく。するとすぐに2人は舌戦の矛を収め、バツが悪そうに生返事を返す。

 

「はぁ……すみません、お見苦しいところを見せてしまって」

「まぁまぁ、反省は大事だし、ね?」

「お気遣いありがとうございます。お前たち、反省会は任務が終わってからゆっくりやってくれ、どのみち報告書は書くんだからな」

「「了解」」

 

 ははは、と愛想笑いで場を収めると、私はさっきの「学科長」という単語が気になった。

 

「なぁ、お前たちのところの……『学科長』?そんなに怖い人なのか?」

「怖い……まぁ厳しい人ではありますね」

「強いのか?」

「そうですね、正真正銘『プレローマ高専最高戦力』といって差し支えないと思います。私たちが束になっても敵わないでしょう」

「へぇ、ウチの委員長とどっちが強いんだろうな」

 

 言いながら、これがアコちゃんに聞かれたらお説教だな、などと思ってしまった。

 

「『風紀委員長』空崎ヒナ、名前は伺っています。強いか、そうですね……学科長は現場に音もなく現れては、あっという間に事態を解決して去ってしまう、一夜の嵐のような人です。ただ正面切って戦う場面は私たちに任せていらっしゃるので、単純に強いかと言われると、ちょっと分からないですね」

「安全科の学科長って下級生の教育と指導が本職みたいなもんだもんね、まぁその部分だけでもウチの学科長は『鬼』とか言われてるんだけどさ」

 

 いつにもなく乾いた笑い声で蛇沼カオリが口を挟む。

 

「暴走した加工機器を前に狼狽えてたときにフッと現れてさ、『私の助けが必要ですか?』なーんて言うんだよ!カーッコイイね!」

 

 恐ろしげな評判とは反対に、その口ぶりからは尊敬の色が窺える。

 

「さっきお前たちが暴れてたときにも、来てほしかったものだがな」

「えぇーその話まだ引っ張るのー!?もういいってー!」

 

 円谷ヨウコが飛ばした鋭い一撃にひーんと悲鳴をあげる蛇沼カオリの姿に、笑い声がこぼれる。

 

「さて、そろそろ出発しようか」

「ああ」

「そうですね」

 

 先生の号令とともに腰を上げる。目的地まではあと少しだ。私たちは再び、歩みを進める。




お読みいただきありがとうございます。

以外と書けるということが判明したので、今後は2~4日程度で投稿できるように頑張ります。コメント・感想などお待ちしています。
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