空と夢と星と青春   作:イメージの裏切り

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相互作用

 出発から数時間、私たちはついに目的地となる、一際大きなスクラップヤードに到着した。

 

「やっとだな」

「はい、ですがここからが任務の本番です」

 

 円谷ヨウコは暫し息を整えたあと、安全科の2人に号令をかける。

 

「これより!実況見分を開始する!!対象は第53区画、納品番号26085とする!!始め!!」

 

 3人は前に進み、スクラップの山をかき分けながら書類に何やら書き込んでいる。

 

「イオリの仕事は大丈夫?」

 

 気になったのか先生が声をかけてくる。

 

「ああ、一応は監督ってことになってるけど、こっそり何か持ち出しでもしなけりゃいいって感じだ」

「それなら見てるだけでいいんだね」

「そうだな、楽な仕事で助かるよ」

 

 しばらくの間、私と先生は安全科の3人の作業を眺めて過ごした。

 

 

 


 

 

 

 ギィィーッガガガガガガッ!!

 

 廃材の山を半分は調べたであろう頃、突如明らかに人為的ではない金属音が鳴り響く。私たちの間に一瞬で緊張が走る。安全科の3人はすぐさま身体を翻して、金属の塊から距離をおく。

 

「なっ、なんだ?」

 

 身動ぎした私と先生の側に、安全科の3人は素早く整列して銃を構える。

 

「おそらく、例の代物かと思います」

 

 地響きとともに小さな金属片が山から崩れて転がっていく。

 

「例の代物?オーパーツか!?」

「分かりません、ですが皆さんとは情報を共有しておこうと思います」

 

 小高い瓦礫の山が、耳が割れそうな音とともに崩れていく。

 

「私たちはかつて、古い作業用ロボットのコピー品を8機作って運用していました。しかしそれもやがて旧式化し、倉庫の肥やしになっていました」

「それをスクラップにしたんだね」

 

 山の中から、枝のようなアームと思しき部位が顔を覗かせる。

 

「そうです。その8機のうちの2機、『7番目と8番目のソリ引きトナカイ』(ダンダーとブリクセム)をゲヘナ向けにスクラップとして輸出しました。」

「それがアイツなのか?」

「分かりません、ただ本来は電源のない状態で動くようなものではないはずです」

 

 ドガァァーーン!!!

 

 推測を否定するように、瓦礫が吹き飛ばされ、巨大な脚が姿を現す。

 

「可能性として考えられるのは、その8機のうちの1機が、オリジナルたる『0番目のソリ引きトナカイ』(ルドルフ)であるということです」

「ソイツがオーパーツ――電源なしで自律稼働するような代物ってわけか……」

「はい、そしてそれを誤って廃棄してしまったおそれがあった、というのが今回の調査の背景です」

 

 ガラガラガラガッシャァァァーーーンンン!!!!

 

「どういうものか、分からないの?」

「分かりません!『ルドルフ』は、私たちが入学するずっと前に『発掘』されたそうです。なので……それには……仕様書が存在しないのです!!!」

 

 凄まじい轟音と共に全貌を現した機械は、天を掴むかのような4つの鹿角(アーム)を広げ、大地を揺らすほどに力強い2脚ををもって立ち上がった!!

 

 ギギギイーーーッッ!ガガガガガガガァァァーーーッッッ!!!

 

 それは雄叫び代わりに盛大に金属音を鳴らし、私たちに顔を向ける。

 


 

「先生っ!!指揮を頼む!!」

「任せて!!」

 

 グアアァァーーーッッッ!!!

 

 馴鹿(じゅんろく)は大きく頭を振り動かし、私たちに向けてその巨大な角を叩きつける。私たちはひらりと躱して攻撃体勢を整える。先生は安全科の1人に抱えられ、距離のあるところまで退避していた。

 

「イサリ、ありがとう」

「当然のことです……」

「よーしみんな!!攻撃開始だーーっっ!!」

 

 ズガガガガガガッッッ!!!

 

 4人による集中砲火が浴びせかけられる。しかし馴鹿はそれをものともせず、大脚で反撃を繰り出す。

 

 ドゴォォォンンン!!

 

「クソっ、対して効いてないのか!?」

「そんなことないかな、外表に傷は付いてるし、弱点さえ狙えば有効打にはなると思う!」

 

 土煙の中でも、蛇沼カオリは冷静に分析を返す。

 

「弱点か、まぁこういうヤツの弱点なんてだいたい決まってるんだよ!」

 

 私は飛び上がり、2足歩行ロボットの機械的弱点――膝の関節目がけて銃弾を浴びせる。しかしそれも設計の範疇だったのか、手応えに反して損傷は軽微だった。

 

「おいおい……どうすりゃいいんだ?」

 

 すると私の耳元をヒュッと何かが通り抜ける。それは馴鹿の関節にピタリと貼り付くと、轟音をあげて爆発する!!

 

 ドゴォォォンン!!

 

 噴煙の間からは、破壊された外殻が窺える。

 

「やりぃ!!私自慢の吸着爆雷!!持ってて良かったぁ!!」

「ナイスだカオリ、やはり所詮は鉄の塊だな。よし……イオリ!!今だ!!」

 

 おうよ!!と応えて再度集中砲火をかける。

 

 ズダダダダタ!!バァン!!

 

 剥き出しになった関節は憐れにも酷い損傷を受け、ボロボロとなった配線や駆動部は今にも崩れ落ちそうな様相だ。

 

「ようし、みんな!!頭を狙うよ!ひっくり返しちゃおう!!」

 

 先生の号令に合わせて攻撃を叩き込む、すると片足を駄目にした馴鹿は衝撃を受けて大きくのけぞった。しかし……

 

 ギィィーッ、ズダァァァーーーンンン!!!

 

 まさかの損傷した脚で大地を踏みしめて踏ん張ったのだ。そしておびただしい火花を上げつつ、耳が割れるほどに巨大な雄叫びをあげる。すると……

 

「何だ?この地響きは?」

「周りのスクラップの山が……崩れてる……」

「みんな!!あれを見て!!」

 

 なんということか、瓦礫の山からもう2頭の鉄の馴鹿が姿を現したのだ!!それらはこれまで相対していた1体よりずっとボロボロだったが、間違いなく同じモデルの機体であり、私たちが立ち向かうべき壁がより大きくそびえたったことを意味していた。

 

「まさか、『7番目と8番目のソリ引きトナカイ』(ダンダーとブリクセム)……参ったな、じゃあ最初からいたアイツが『0番目のソリ引きトナカイ』(ルドルフ)ってことか……」

「『ルドルフ』は……他の8頭を従えることが……出来るってこと……?」

「分からない、だが『ルドルフ』が他の機体の先導を目的として作られていたとすれば、そういうこともあり得ると思う」

 

 新たに姿を現した2体が、ぎこちないながらも大角を振り回す。私たちは枝分かれした角の間をかいくぐって回避する。

 

「クソっ、こんなことやられたらたまったもんじゃない!安全科の3人(アイツら)は大丈夫か?」

 

 辺りを見回すと、彼女たちは肩を寄せ合って相談をしていた。しかしその表情に落ち着きは見られなかった。

 

 

 

 

「どうする?」「どうする?」

 

「なんとも言えん、少なくともこんな大規模な戦闘に発生することは想定外だということは確かだ」

 

「一旦撤退して、人数を整えてからまた来る?」

 

「ダメ……アイツらがどれだけ動けるのか分からないのに……目を離しちゃ……」

 

「一番の安牌は風紀委員会に連絡して、増援を寄越してもらうよう頼むことだな」

 

「じゃあそれまでここで耐えなきゃいけない感じ?シンドいなぁ」

 

「こんなとき……学科長がいてくれれば……」

 

「ええいお前たち!今さら泣き言か!?私たちは学科長から今回の任務を任せてもらったんだぞ!?惨めに引き下がれるとでも思ったのか!?」

 

「でも正直3人で出来る範疇は超えてると思うなー」

 

「明らかに……準備が……足りなかった……」

 

「やめろやめろ!!後悔したってどうしようもないだろうが!!早く最善の手段を講じねば……」

 

 

 

 

 バシッ!!

 

「おい、お前たち、大丈夫か!?」

 

 3人はようやく気付いたかのように顔を上げる。

 

「イオリ……済まない。私たちの備えが足りてないせいで、こんなことになってしまって」

「何言ってるんだ?ここにいるのはお前たちだけじゃないぞ?こういう時のために私がいるんだ、それに今は先生もいる、やってやれないことなんてないさ」

 

 3人はキョトンとした表情で私を見る。先生もおーいと声をあげつつこちらへ走ってくる。

 

 ジャキッ

 

「先生……なぜここに……?私の好意を……無駄にしないでほしい……」

 

 宇治イサリは緊張の糸をますます強く張りながら銃口を向ける。

 

「まぁまぁまぁまぁ、落ち着いて、君たちがさっきまですごい顔をしてたから、心配になってね」

「先生、ここに来たからには、何か策があるんだよな?」

「うん、私にいいアイデアがあるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3頭の馴鹿は、重々しい音をあげながら私たちに狙いを定める。使い潰された脚は、全てを踏み潰して行くには頼りなかったが、か弱い人間を蹴り飛ばすには十分な力がこもっていた。

 

 私たちは、真ん中の1頭(『ルドルフ』)に私と円谷ヨウコ、両脇の2頭(『ダンダーとブリクセム』)にそれぞれ蛇沼カオリと宇治イサリという配置で馴鹿に相対する。

 

「みんな、準備はいい?」

「ああ」「はい」「オッケー」「うん」

 

 私たちは思い思いに返事をして、先生の号令を待つ。

 

「それじゃあ、作戦開始!!」

 

 合図と同時に蛇沼カオリと宇治イサリが前へと飛び出す。そして相手の狙いを逸らすように足元へ潜り込み、銃撃で挑発しながら攪乱を試みる。

 

 ギギギイーーーッッ!ドカァーン!!

 

 老朽化した部品のあげる悲鳴には聞く耳をもたずに、足元の人間に向けて脚を振り下ろす。しかし重くも鈍い動きは完全に見切られ、手応えなく足跡を残すのみだった。

 

「よし、上手くいってる!」

「では、私たちも行きましょう」

「ああ」

 

 私と円谷ヨウコは目の前の馴鹿に向けて一直線に走り出す。

 

 グォォォーーッッッ!

 

 雄叫びが全てを吹き飛ばしてしまいそうな程に響き渡るが、私たちの足どりに怯みはない。一転して私たちは攻勢に出る。

 

「ヨウコ!!行くぞ!!」

「来い!!」

 

 私は円谷ヨウコの肩に飛び乗り、2人の息を合わせて跳躍する、そして馴鹿の頭の上から銃撃をお見舞いした。

 

 カァン!カンカァン!!

 

 馴鹿は降りかかる銃弾の雨を、大角を振り回して払う。しかし初撃は上に注意を引き付けるためのものだ。

 

「下がガラ空きだ!!」

 

 円谷ヨウコが無防備な喉元に集中砲火を加える。小気味よい着弾音が鳴り渡るが、やはりまだ丈夫な部分なのか、致命傷にはなってないようだ。

 

 ――だが、そもそも銃撃は本命ではない。

 

 鬱陶しい銃撃に腹を立てたのか、馴鹿はやたらめったらに頭を振り回す。降り立った私と円谷ヨウコのいる場所目がけて、一撃食らわそうと反撃の態勢にでる。

 

「お前たち!準備はいいか!?」

「オッケー!!」「ばっちこい……」

 

 走り回っていた2人は中央近くに陣取り、銃撃で挑発する。2頭の馴鹿は丁度良く動きを止めた標的に向けて攻撃するために歩み出る。

 

「いきますよ、イオリ、ギリギリまで銃撃で気を引きます」

「おうともよ!」

 

 銃弾を浴びながら、『ルドルフ』は頭をもたげ、かち上げをかまさんと突進する。私たちは後退りしながら攻撃を引き付け、後ろで陣取っていた2人のもとまで駆け寄る。そして――

 

「今だ!!」

 

 私たちは息を合わせて一斉に飛び退く。丁度両脇から踏み出した2頭の馴鹿に、『ルドルフ』の攻撃を食らわせる算段だ。

 

「どうだ!?」

 

 ガキィィィンンン!!

 

 鳴り響いたけたたましい衝撃音が作戦の成功を告げる。『ルドルフ』の大角は他の2頭の下顎に深々と突き刺さり、勢いのままに鋼の駆体を持ち上げる。

 

「チャンスだ!みんな!!」

 

「「「「うおぉぉぉーーーっっっ!!!」」」」

 

 ドガアァァァーーーンンン!!!

 

 渾身の一撃を頭に叩き込むと、馴鹿は大きく仰け反ってバランスを崩し、大地に背中から倒れ込む。その状態から立ち上がることは流石に叶わず、3頭共に沈黙した。

 

「やった……」

 

「やったぞーーーっっっ!!!」

 

 私たちはやんややんやと集まって喜び合う。先生も駆け寄ってきて激励してくれた。

 

 ――ギィィーッ

 

 すると後ろから『ルドルフ』の微かな駆動音が聞こえてくる。

 

「チッ……まだ息があるみたいだな、ここでトドメを刺してやる!」

 

 私は再び馴鹿のもとへと跳躍する。

 

「待て!イオリ!危ない!!」

 

 立て続けに円谷ヨウコも飛び上がる。私はその呼びかけに反応して、一瞬振り返る。伸ばされた手は私の制服の襟首を掴み、思いっきり引き寄せる。私は思わず体勢を崩し、円谷ヨウコに体重を預ける。その瞬間――

 

 ゴォォォーーーッッッ!!!

 

 『ルドルフ』の外装が外れ、その内から強烈な熱風が吹き出してくる!すんでのところで回避に成功したものの、私は引き寄せられたままに転落する。

 

「キャッチ!キャッチーー!!どべちっ!」

 

 蛇沼カオリと宇治イサリは抱きとめようと試みるも、用意が足らなかったのか自らの身体でクッションになってしまった。

 

「イテテ……すまない」

 

 私たちはすぐに立ち上がって姿勢を整える。馴鹿の方を見やると、熱風の勢いは収まることなく吹き出していた。 

 

 それからしばらくすると、徐々に熱風は弱まり、再び静寂に包まれた鋼の駆体だけが残った。

 

「あれは一体……?」

「なにはともあれ、詳しく調べなければなりません」

 

 円谷ヨウコは再び他の2人に号令をかける。

 

「これより、実況見分を再開する!!」




お読みいただきありがとうございます。
戦闘、独白、場面転換、いざ書くとなると難しいですね。いい塩梅は徐々に探っていきたいと思います。
次回でこのエピソードは一度〆になります。せっかくなのでオリキャラ3人の設定を次回の末尾に載せることにします。
それでは次回もよろしくお願いします。
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