塊となって大地に倒れ伏した鋼鉄の馴鹿「ルドルフ」「ダンダー」「ブリクセム」、今回の任務の本当のターゲットを前に、安全科の3人は舐めるように調査を行う。
しばらくして、大方の調べが済んだのか、3人は集まって相談した後、1つの箱のような物体を携えて私と先生に話を切り出す。
「お疲れ様でした。とりあえず今回の調査結果の概要だけ、ここで共有しておこうかと思います」
円谷ヨウコは落ち着いた表情で調査結果をまとめはじめた。
「まず最初に、あれらがオーパーツであるか否かという点ですが、結論から言えばオーパーツではありませんでした」
「そうなんだ、動いてるときはいかにもな感じあったけど」
「シンプルに言えば、自律制御システムや他の個体との通信連携システム、無線送電システムの類は搭載されていましたが、それは今の技術で十分再現可能なレベルのものです」
ただ──と話の流れを遮って手に持っていた物体を見せる。
「コイツ、『ルドルフ』に搭載されていた動力は、やや私たちの知識の範疇を超えたものではあります」
「なんだこれ? 電池か?」
それは箱型の本体の上に電極がついた、車のバッテリーと思しき形状をしていた。
「そうです、私たちはコレを知っています。B6型
「発掘電池……」
「見てくれからは想像できないかもしれませんが、これ1つで数十万トンもの貨物を牽引しながらキヴォトスを1周する。それくらいは容易にできる出力があります」
「じゃああれは、そういうことをするためのロボットだったってこと?」
「はい、他の2体も長距離・大規模輸送用に使われていたと聞いています」
「しかしとんでもないブツだな、こんなのがあったらキヴォトスの産業バランスが崩れるぞ」
「それは難しいと思います。なぜならこれは私たちの持つ技術で作ることができないからです。同じものを作れないからこそ『発掘』してくる必要がありますからね」
軽々と答えているが、これは今何かとんでもない秘密を知っているんじゃないかという気がしてならない。
「それにしても、こんなにひょいひょい持ってきちゃってよかったの?こういう大容量バッテリー?って慎重に扱わないと爆発する、みたいな話無かったっけ?」
先生が憂慮する。
「ご安心ください。これの中身は空です。もう取り出せるエネルギーは無いと言って構いません。先ほど『ルドルフ』から熱風が噴出してきましたよね? あの時、この電池に残っていたエネルギーが全て放出されたと考えられます」
円谷ヨウコは電池をコンコンと叩いて見せる。
「おそらく、機体が完全に動作を停止する前に過剰なエネルギーを安全な形で排出するシステムが備わっていたものと思われます。それこそ爆発など起これば周囲に被害が及びますからね」
なるほど確かに、そうなると設計者はずいぶん用意がいいらしい。
「まあ中身の残りようによってはあの規模じゃすまなかったと思うよー、もしかしたらここの全員焼け死んでたかもね」
蛇沼カオリの所感に私と先生は苦笑いする。
「それで……話を戻しましょう。『ルドルフ』がオーパーツか否かという話ですね」
「それもそうだ、オーパーツじゃないっていうのは本当か? この電池を見ると、正直常識の範囲の機械とは思えないんだが」
「それはひとえにオーパーツというものの認識の違いにすぎません。
イマイチ説明になっていない説明に首をかしげると、もっとかみ砕いた言葉が出てくる。
「例えば、およそロボットの類は、バッテリーを搭載し、AIによって制御されているわけですよね。オーパーツはその点、機体を動かすための動力も頭脳も無いはずなのに、自律して動くのです」
「なんだか幽霊みたいだね」
「幽霊……まあそういう例えもあるかもしれませんね」
円谷ヨウコは迷いを見せた後、少し踏み込んだ発言をする。
「プレローマでは、人知を超えた機械は『意思』で動いているとされています。学園の上層部はこの『意思』について知ることを目的としている……らしいです」
学園1つが動くにしてはやや抽象的過ぎるかもしれない問いだ、だがこれに本気で取り組んでいるとしたら、どれだけの計画が動いているのか、予想もつかなかった。
「とにかくそういう意味で『ルドルフ』はオーパーツではありません。この電池は確かにオーバーテクノロジーじみていますが、裏を返せばエネルギーの入れ物以上の機能はありません。極論、アレは外部電源でも動くわけですからね」
なるほどな、と私と先生は理解を示した。
「ひとまず、私たちにできることはここまでです。具体的にあの鉄屑をどう処分するかは、ゲヘナにお任せすることになるでしょう」
「あれ? 持って帰るつもりじゃなかったの?」
「私たちの仕事は調査です。もしプレローマが必要だと言うなら別の人手を動かすでしょう」
「そうなんだ」
「なにはともあれ、本日はありがとうございました」
安全科の3人は深々と頭を下げる。
「いや、こちらこそいろいろ勉強になったよ。先生、せっかくだから締めてくれないか」
「ん? そう? じゃあそうだね──」
先生は咳ばらいをして労いの言葉をかける。
「みんな! 任務完了だ!!」
すると宇治イサリが突然口を挟む。
「まだ完了じゃない……ちゃんと帰還するまでが……任務だから……」
「遠足かよ……」
一同に笑い声がこぼれた。
「――ふうん、分かった、今回の報告、確かに確認したわ。3人とも、お疲れ様」
風紀委員長の執務室で今回の任務の報告書が提出された。いつにもまして厳粛な空間だが、安全科の3人は怯むことなく直立している。
「ありがとうございます」
やはり他校の要人相手なのか、3人の表情には緩みがない。昨日ともまた違う緊張した面持ちで、慰労に感謝を返す。
「そういえば、今回の任務、安全科長さんはお目見えじゃなかったのね」
「はい、学科長曰く、経験としても、学外交流としても、2年生が行った方が良いだろう、とのことです」
「ふうん、なるほどね」
「学科長に何かご用事でしょうか?もしよろしければ、この場で伝言をお預かりすることもできますが、いかがでしょうか?」
「ふふ、気にしないで、個人的にどんな人なのか、興味があっただけ」
委員長が興味を示すというのも、なかなかに珍しいことだ。やはり治安維持組織の長ともなれば、それなり以上に注目を集める存在なのだろうか。
「ねぇ、あなたたちは知ってる?安全科長さんが余所でなんて呼ばれてるか」
すみません、寡聞なもので……と円谷ヨウコは本気なのかとぼけているのか曖昧な回答をする。すると委員長は面白がるように「噂話」をする。
「安全科長さんは昔ね、結構幅を利かせた不良だったの。プレローマ自治区を『裏』から締め上げていたそうよ」
「その中でいくつも異名を授かったそうよ、なんて言ったかしらね、そう――『影無き嵐』とか『スカイウォーカー』とか、『赫腕』なんてのも聞いたことあるわね。」
安全科の3人は警戒するような独特の表情で委員長の話を聞いている。
「でもいつからか名前も聞かなくなっていって、久しぶりに聞いてみたら安全科長だって言うのよ。
「風紀委員長、一体、何のご用事でしょうか?」
「ふふ、なんでもないわ。せっかくだから伝言してちょうだい、今度ゲヘナに用事があるときはあなたに会ってみたい、ってね」
「承りました」
「とにかく今回はお疲れ様、向こうの人にもよろしく言って」
「はい、ありがとうございます。では我々はこれで失礼します」
安全科の3人は礼をして退出する。
それにしても委員長は何を知っているのだろうか?私に突き詰められるものではなさそうだ、とは思いながら、頭の片隅に留めておくことにした。
「イオリ、次の任務よ。お願いできる?」
「はい、了解です」
私は、風紀委員として、いつもの1日を始めることにした。
次回予告
ミレニアムサイエンススクールで開催される銃開発コンテスト
そこに参加することになったエンジニア部
部長白石ウタハの知己として、ゲストが招かれた
その人物はプレローマ高専のガンスミス、銃砲科長だった!
彼女の名は神谷ヒトミ
この交流が一体どのような珍銃を生み出すのか?
次回 episode 2 「愛はさだめ、さだめは銃」
鋭意執筆中!
【Student's Profile】
蛇沼カオリ(モチーフ:うみへび座)
プレローマ高専2年生 安全科
年齢 16歳
身長 156cm
誕生日 10月23日(化学の日)
(ヘイローモチーフ:木星状星雲)
趣味 爆破、実験
固有武器 グルーのパラドックス(M1918自動小銃)
円谷ヨウコ(モチーフ:コンパス座)
プレローマ高専2年生 安全科
年齢 16歳
身長 162cm
誕生日 7月22日(円周率 22/7=3.141...)
(ヘイローモチーフ:星雲NGC5315)
趣味 勉強、作戦立案
固有武器 ハインリッヒの法則(M1918自動小銃)
宇治イサリ(モチーフ:はえ座)
プレローマ高専2年生 安全科
年齢 16歳
身長 152cm
誕生日 5月22日(国際生物多様性の日)
(ヘイローモチーフ:S字らせん状星雲 NGC5189)
趣味 林野散策、ビオトープ作り
固有武器 白鳥の首(M1918自動小銃)
お読みいただきありがとうございます。
とりあえず1エピソードオチをつけられたことをうれしく思います。
次回からはミレニアムに舞台を移してお送りします。
またよろしくどうぞ。